「この・・・匂い・・・!!」
「待って・・・炭治郎これ・・・絶対戦っちゃいけない奴だよ・・・!!」
「有り得ねぇ・・・こんなバケモンが山に居んのか・・・!!」
山の頂上を目指し、ひたすら登り続ける通称村田班。丁度中腹に差し掛かる途中で、突如炭治郎達の様子が不穏なものになる。
「どうしたの? 三人共」
「はあ・・・はあ・・・」
「うっ・・・オエッ!!」
「ウ・・・ウウウ・・・」
どう考えても異常な反応だった。炭治郎は喉を胸を押さえて過呼吸気味になり、善逸は突如耳を押さえ嘔吐し、伊之助は寒気がするのか肌を必死にさすっている。尋常ではない。
「おい!! 平気なのか!? 一体どうしたって言うんだ!?」
「村田さん。彼らは嗅覚、聴覚、肌感覚が人並み外れて優れているんです。なので索敵にはうってつけなのですが、これ程の体調不良を引き起こしているのは見たことがありません。もしかしたらこの山に潜んでいるのは・・・」
「・・・上弦の鬼か?」
村田さんは固唾を飲む。私も思わず顎に垂れる汗を拭う。まさかこの任務。そんなにとんでもない鬼が相手だったなんて。私達はどうしたら・・・
「兎に角!! 鎹鴉を至急飛ばす!! お館様に上弦が相手でも問題ない人選で柱の隊士を送って貰えるよう文を出す!! 速攻でしたためるから待っていろ!!」
すると村田さんはその場で書き物を取り出し筆を執る。その間、私は体勢すら維持できなくなった三人の介抱に回る。
「皆・・・大丈夫?」
「はあ・・・はあ・・・なんだろう・・・今は匂いがしない。一瞬だけだった。どうして・・・」
「今は音聞こえなくなったけど、俺二度とあんなヤバイ音聞きたくないよ~、うぅ・・・」
「鳥肌が未だに収まらねぇ・・・逆に今は微塵も存在感を感じねぇ・・・寧ろ身の毛がよだつぜ」
上弦。ここ百年で顔ぶれが一体も変わらない鬼。異次元の強さを持つ最強の鬼達。柱を何人も亡き者にした鬼舞辻直属の精鋭。その存在を一瞬感じ取るだけで三人はこうなってしまうのね。カナヲが童磨を倒したことが本当に奇跡に思える。
「良し!! 文は飛ばした!! 俺たちはすぐさま下山する!!」
「えっ!? 何を言ってるんですか村田さんっ! 十二鬼月、それも上弦が居るならまたとない機会・・・せめて一目だけでも奴を確認して情報をっ・・・!!」
「馬鹿っ!! 炭治郎いい加減にしなさい!! 死んだら元も子もないでしょうっ!?」
「でもっ!! 禰豆子の為に俺は無惨の血の濃い鬼に会わなくちゃいけないっ!! そいつが今近くに居るんだ!! 例え今日死ぬことになったとしてもどうにかして奴から血を・・・!!」
パァアンッ!
山に乾いた音が響く。私が炭治郎の頬を思いっきり平手打ちしたからだ。
「ふざけないでっ!! 二度と私の前で死ぬとかそんなこと言わないでっ!! 次同じこと言ったら絶対に許さないっ!!」
私は思わず涙を潤ませて炭治郎を一喝する。炭治郎は目を見開いて放心している。
「炭治郎・・・死んだ命は回帰しないの・・・二度と戻らないの・・・!! お願いだからそんなこと口が裂けても言わないで・・・!!」
思わず懇願しながら泣き出してしまいそうになる。でもこんな非常事態でそんな真似してる暇なんてない。私は嗚咽を必死に我慢する。
やがて炭治郎は肩を下げて俯く。
「ごめん・・・俺どうかしてた・・・禰豆子だって俺が死んだら独りぼっちになってしまう・・・そうだよな・・・命は大事にすべきだ」
炭治郎は眉を寄せたまま悲しそうに微笑む。
「ありがとな、しのぶ。俺を止めてくれて。しのぶが居なかったら俺一人で飛び出してたかもしれないから」
「もうっ・・・本当に余計な心配ばかりさせないで・・・私だって心臓が持たないわよ・・・」
私達が落ち着いた様子を村田さんは静かに見守っていたのだろう。やがて私たちが振り向くとため息を付いて言い聞かせるように私たちに語り掛けて来た。
「良し。じゃあ合意は取れたな? 俺達は即座に下山する。山の麓に降り、暫くの間、柱の到着を待つ。そして柱に引継ぎを行ったら最寄りの藤の花の家紋の家まで移動しそのまま待機。それでいいな?」
「はい」
「ええ」
「うう・・・早く逃げようよぉおお・・・」
「・・・今日ばかりは文逸の言う通りだぜ・・・」
私達は意思統一ができたのち、反転、そのまま山を下る。もう少しで山を降りられる。そう思ったのだが・・・
「な、何よこれ・・・!!」
目の前では隊士達が同士討ちをしていた。お互いに「やめろっ!!」「身体が勝手にっ!!」「逃げてっ!! 殺してしまうっ!!」と言い合っていた。正に地獄絵図だった。
「ぐっ!! この匂い・・・なんだ?・・・刺激臭に近い匂いがする!!」
「刺激臭?」
私は炭治郎の言葉が気になり周囲の空気を嗅ぐ。確かに特別な嗅覚がない私でもやや喉の奥が痛くなるような変な匂いを感じた。
「む、村田さん!? お願い!! 私達に近づかないで!! 今の私達何者かに操られてるの!!」
そう叫ぶのは本隊を率いてた尾崎さんだった。彼女は泣きながら周囲の隊士達を悉く日輪刀で斬り捨てている。なんて惨い。
「炭治郎。尾崎さんは操られていると言っていた。つまりこれは血鬼術。何かしらタネがあるはず。戦闘中の観察力や考察力も鬼殺隊士には大切って以前言ったわよね? 急いでそれを探すの」
「でもどうやって見つけるんだ!?」
「善逸。貴方耳良いでしょ? 周囲から何か音しない?」
「そ、そう言えば、ずっとカサカサ変な音してて、まるで蜘蛛が這いずるような音が・・・!」
「刺激臭に蜘蛛の音ね。粗方予想付いたかも。皆周辺をくまなく観察して! 近くに蜘蛛居ない? 多分そいつらが糸とか使って人の身体動かしてるんだと思う!」
「キモッ!! 足元や木に蜘蛛だらけじゃねぇか!! ようし! こいつら全員虱潰しに殺せばいいんだな!? やってやるぜっ!!」
「違う伊之助! 蜘蛛で操られてるのはそうだけど、きっとこの蜘蛛を更に裏で操っている鬼が居るはず! アンタの肌感覚で探せたりしない? 多分刺激臭と蜘蛛の音で炭治郎と善逸は探せないと思うから!」
「いいぜ! いいぜ! この親分伊之助様に任せておきなっ!!」
すると伊之助は対の日輪刀を地面に突き刺し、跪いて両手を左右に広げた。
ー獣の呼吸 漆ノ型 空間識覚ー
伊之助が集中してる。多分全身の肌感覚で山に居る生き物をくまなく識別してるんだわ。これなら・・・!
「見つけたぜ!! そこかァ!!」
「炭治郎は伊之助について行って!! 蜘蛛の糸を斬るくらいなら腕力の乏しい私でもできるから!!」
「わかった!! 本体の鬼を倒したら合流しよう!!」
そうして炭治郎は伊之助の後を追う。私はその場に居る全ての隊士の糸を斬るべくその場を数度蹴る。
ー水の呼吸 玖ノ型 水流飛沫・乱ー
私はその場を高速で駆け回り、隊士達に括りつけられている糸を片っ端から斬っていく。瞬く間に全員が糸が切れた人形のようにその場へと倒れ込む。
「す、すごいよしのぶ! 君、そんなに速く動けたのかい!?」
「油断しないで下さい村田さん!! 伊之助と炭治郎が本体の鬼を斬るまで何度でも糸を括られるはずです!! 警戒を!!」
そうして暫くの間、糸を斬っては再び括られ、斬っては括られを繰り返す。だがそう時を置かず、周囲の蜘蛛は散らばる様に退散し、隊士達が操られることはなくなった。
「良し。本体は倒せたみたいね。良かった」
「うっ! 痛い!」
すると突如、善逸から痛みを訴える声が上がる。私は大急ぎで彼に駆け寄った。
「どこ!? どこを刺されたの!?」
「え? 親指の付け根だけど、でも痛かったのは一瞬で今は全然平気・・・ってえぇえ!!??」
私は有無を言わさず善逸の腕を掴み、刺されたであろう患部を観察する。僅かに紫色の斑点が出来ていた。恐らく鬼の毒!!
「善逸!! 注射器刺すわよ!!」
「えぇええ!!?? 今っ!!?? なんで!!?? 俺、しのぶちゃんの勘に障るようなことした!!??」
「そうじゃない!! 解毒よ!! 恐らく蜘蛛の毒!! 鬼の血鬼術は一つじゃなかったんだわ!! 本体を倒しても残った蜘蛛が自律して噛みついてくるのかもしれない!!」
私はすぐに善逸の蜘蛛に噛まれたであろう部分に注射器を刺す。
「痛い!! もっと優しくして!!」
「ごめん!! 薬打つ方が優先!!」
そしてシリンジ丸々一本分の藤の花から生成した解毒薬を注入し終わる。なんの毒かはわからないけれど、藤の花の抽出物は全般に鬼の毒を中和する。完全に解毒できなくても、夜明けまでには症状の進行を遅らせられるはず・・・!!
「マジかよ。俺が放った蜘蛛に気づくなんてよぉ」
私は声のした方向に振り向く。そこには巨大な人面蜘蛛が木の上から逆さに糸を伝ってぶら下がっていた。
「でかっ!? でっか!! でかいわ!!! でかすぎでしょ!!?? あんな蜘蛛いんの!!??」
「お前・・・!! 炭治郎と伊之助が斬ったんじゃ・・・!!」
「ああ? 誰が斬られたって!? 俺の頸はこの通りちゃんと繋がってるぜぇ? くふふっ!」
「だって周囲の操り糸を括る蜘蛛はもう退散して・・・」
「あ~、それは俺じゃねぇ。母さんの蜘蛛だな。俺は毒専門なんだ。糸で括って殺すような回りくどいことはしねぇぜ? くふふっ!」
「母さん・・・ですって!!??」
なんてこと。鬼に家族が居るなんて。しかもこの口ぶり。こいつら数匹で徒党を組んでる。どうして。珠世さんが言うには鬼は同族嫌悪の呪いがあるはずなのに・・・!!
「ま、母さんを始末した鬼狩りも今頃父さんが相手してるだろうぜ? 俺はお前らを獲物に決めた。蜘蛛になる毒打ち込んで俺様の手足にしてやるぜぇ! くふふっ!」
「くっ!」
仕方ない。すぐにコイツ仕留めて炭治郎の居る場所まで駆け付けなければ。
「独り占めは狡いんじゃない? ならせめて私はそっちの弱そうなサラサラ黒髪男を頂こうかしら?」
「えっ!? 俺っ!?」
そんな。三体目の鬼まで姿を現わした。この山には何匹鬼が居るっていうのよ。炭治郎。お願い。どうか私が駆け付けるまで死なないで。
続く
二手に分かれる際の人選の判断基準は原作踏襲が理由です。原作のしのぶさんも善逸や村田さんの方に合流してたので。ただ経験の浅い本作のしのぶは果たして鬼達を退けられるのか否か。次回に続く。
読みたい路線はどっち?
-
一部の層(継国兄弟ファン)にぶっ刺さる話
-
万人受けしそう(マイルド)な話