胡蝶家の縁壱とお労しい姉上   作:科学大好き人間

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しのぶ視点です。そろそろ来ます。ほんと迷惑な御人ですよ。


34話 上弦の壱

「えぇえっ!? 蜘蛛っ!!?? 蜘蛛になんの俺っ!!?? 嘘でしょっ!!!! 死に方酷すぎないっ!!??」

 

「ハハハッ! 怖いか? すぐにそんな感情もなくなる。蜘蛛になったらそんな知能もなくなるからな?」

 

「ぎゃぁあああ!! イィイヤァアアア!!! ギャーーーーー!!!」

 

「善逸!! 落ち着いて! 貴方がしっかりしてくれないと鬼に止めが刺せないの! だからっ!」

 

 

善逸は酷く狼狽してしまった。どうしよう。全然私の声が届いていない。私一人じゃ鬼の頸斬れないのに。

 

 

「いいこと教えてやるよ。最初に手足から痛みと痺れが出てくる。じきに眩暈と吐き気が加わる。途中激痛が来て身体が縮みだし失神する。目覚めた時には・・・くふふっ!」

 

「アーーーーーー!! アーーーーーー!! イヤァーーーーーー!!!!」

 

「善逸!! 大丈夫!! ならない!! ならないから!! 私が打った薬がきっと鬼の毒分解するから!! 日が昇るまで持ち堪えれば日光で完全に分解されるから!! だから私の話を聞いてっ!!!」

 

「ばうっ・・・」

 

 

ああ、そんな。善逸が気絶してしまった。どうしよう。私一人じゃ鬼と戦えないのに。こうなったら村田さんに協力を仰いで何とか・・・

 

 

「誰かーーーーーー!!!!」

 

「やっぱり。弱い鬼狩りだったわね。このまま繭の中で骨も残さず溶かして食べてあげる」

 

「え・・・そんな・・・村田さんっ!!」

 

 

しまった。私が善逸に構ってる間に村田さんが繭の中に閉じ込められてしまった。しかも中には溶解液があるらしい。どうしよう。私が、私がなんとかしないと・・・!! でも・・・

 

 

「くふふっ! 残すはお前一人だなぁ。女の鬼狩り」

 

「ふふっ。アンタも弱そうね。身体だって小さいし、そんな成りで鬼の固い頸とか刎ねられるのかしら?」

 

「・・・・・・」

 

 

終わった・・・私が不甲斐ないせいで・・・善逸も村田さんも犠牲になってしまう・・・私が鬼の頸を斬れてれば一人でも戦えるのに・・・一人じゃ何もできないのに私なんで鬼狩りになったんだろう・・・

 

 

『大丈夫だよしのぶ。俺達ならやれる。力を合わせればどんな鬼とも戦える。俺はしのぶが隣に居てくれるだけで百人力だよ?』

 

 

不意に私の大好きな男の子の顔と声が頭を過った。私は思わず涙をポロポロと溢してしまう。

 

 

「炭治郎・・・私・・・私・・・」

 

「ハハハッ! なんだコイツ! 一人になった途端泣き始めたぞ!? くふふっ! この程度が鬼狩り。どんな奴らかと思って見に来たらとんだ弱虫共だな」

 

「ふふっ。情けない。もうアンタしか戦える奴残ってないって言うのに。仲間がいなくちゃ何もできないのね。でもいいわ。繭にしまい込んでデロデロに溶かして食べてあげる」

 

「おい! 俺の得物って言ったじゃねえか! 横取りは許さねぇぞ!!」

 

「五月蠅いわね! そんなのいつも早い者勝ちじゃない!」

 

 

ああ。情けない。カナヲの後を追い掛けたくて、分不相応な道を目指して、それで炭治郎に力を貸してもらって漸く最終選別合格させてもらったのに。結局は形だけの紛い物の鬼殺隊士にしかなれなかったんだ、私。

 

私に最初からそんな大層なことできる程、才能も器量もなかったんだ。私はカナヲの足元にも及ばない。そして姉さんにも。炭治郎が居なくちゃ・・・私・・・私・・・!

 

 

「けっ! じゃあ俺が先に溶かして食ってやるよ! 斑毒痰(ふどくたん)!!!」

 

「あっ! 狡いっ!!」

 

 

突如、私に紫の毒の液体が迫る。まずい。避けないと。でも涙で前が見えない。どうしよう。せめて勘だけでも避け切って・・・え?

 

私は何者かに手を思いっきり引っ張られ、投げ飛ばされる。一瞬何が起きたのかわからなかった。

 

急いで起き上がり、涙を拭う。すると目の前には、居合の構えを取る善逸の姿があった。

 

 

「ごめん。しのぶちゃん。一人で戦わせちゃって。せめて炭治郎が居ない間は俺が代わりの刃になるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃・六連ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬目の前に閃光がほとばしったような錯覚を覚えた。そして僅かに遅れて雷のような音。辛うじて見えたのは周囲を縦横無尽に飛び回る善逸の姿。

 

そして善逸が最後の納刀の鍔鳴りを響かせた後、二体の鬼の頸が宙に舞った。

 

 

「なっ!!??」

 

「えっ!? はぁああ!!??」

 

 

鬼達も何が何だかわかっていなかった。やがてそいつらは地面に転がって、そのまま黒い塵になって消えた。

 

 

「ふがっ!!」

 

 

善逸から変な声がすると同時に鼻提灯が割れる音がした。あ、やっぱり寝てたんだ。善逸ってなんで寝てると私より練度の高い常中が使えるのよ。意味わかんない。

 

 

「えぇええ!!?? 鬼死んでる!! これって全部しのぶちゃんがやったの!!?? 強過ぎでしょ!!!!」

 

「はあ・・・嫌味かしら・・・ムカつく」

 

「えっ! どうしたのしのぶちゃん! 今凄く怒ってる!? あれ? 落ち込んでるの・・・?」

 

 

私は悟ってしまった。今のままでは誰かに助けてもらわねば任務なんて到底遂行できない。これまでもずっと炭治郎のおかげで鬼と戦えてた訳だし。今だって善逸が居なければ私は殺されていた。

 

この任務が終わったら、早急に珠世さんに手紙を出そう。あれからだいぶ経ってるし、そろそろ鬼を殺す毒の作り方を指南して貰わないと私、炭治郎の足手纏いになっちゃう。私はそう判断し溜息をつく。

 

 

「ありがとう善逸。貴方が居なかったら私殺されてたわ」

 

「えぇっ!? しのぶちゃんが鬼倒したんじゃないの!?」

 

「馬鹿なこと言わないで。鬼の頸も斬れない私がどうやって鬼に止めを刺せば良いって言うのよ」

 

「え~と、つまり?」

 

「アンタがやったの」

 

「えぇっ!!!! 嘘でしょ!!?? 俺さっきまで気絶してたはずなんだけど!!!!」

 

「アンタは意識失うと夢遊病者か知らないけどそのまま戦い始めるのよ。はっきり言って、その時だけは善逸の方が私より強いわ。なんでアンタ自身が把握していないのよ」

 

「いやいや!! アレ全部俺の都合の良い夢だと思ってたんだけど!!!! アレ全部俺がほんとにやってんの!!??」

 

「だからそうだと言ってるじゃない。嫌味のつもりかしら? 鬼の頸も斬れない私に対して随分と酷な冗談を言うものね?」

 

「あ、いや・・・そんなつもりじゃ・・・」

 

「もう。別に怒ってないわよ。寧ろ感謝してるの。何度も言うけどアンタのおかげで助かったわ。ありがとう善逸」

 

「そ・・・そうなんだ・・・どういたしまして」

 

「じゃあそろそろ炭治郎のあと追うわよ? 私あっちが心配で・・・」

 

「誰かーーーーーー!!!!」

 

「「あ・・・」」

 

 

 

私はすっかり村田さんのことを忘れていた。炭治郎のことで頭が一杯になっていた。

 

すぐに私は善逸に繭を切り裂くよう促す。しかし、どういう訳か今の善逸の実力じゃどう頑張っても切り裂くことができないでいた。私はそんな善逸に視線を注ぐ。

 

 

「善逸? ふざけてる?」

 

「いやいや!!!! 俺本気でやってるって!! この繭なんで斬れないの!? はっきり言って硬すぎでしょ!!??」

 

「はあ・・・しょうがないわね」

 

 

私は瞬きする間に繭に六度の突きを放つ。その瞬間。あちこちの糸がほつれ出し、村田さんが繭から解放された。

 

 

「えぇええ!!?? しのぶちゃん何今の!!?? そんな突き技軽く打てるのになんで鬼の頸斬れないの!!??」

 

「善逸? 何度も言うけどそれ嫌味かしら?」

 

「ち、違うって!!!! どう考えてもしのぶちゃんの方が凄いことしてるから純粋になんで出来ないのかなって・・・」

 

「それは私の筋肉の造りのせいよ。私は突いたり押したりする筋肉は多いけど、振ったり引いたりする筋肉が少ないの。だから突き技は威力出せるけど斬る技は威力出ないの。どう? 納得できた?」

 

「うーん。そんなことあるんだね。難儀と言うかその・・・」

 

「わかってるわよ。私が一番苦労してるんだから。でも仕方ないの。それでやむにやまず藤の花の抽出物とか苦肉の策で戦ってる訳で・・・」

 

「ご・・・ごめんしのぶ・・・話の途中で悪いけど・・・暫く俺の方に視線を移さないでくれ・・・服全部溶けた・・・」

 

「あら。本当だわ。村田さん。お身体の方は無事ですか?」

 

「ああ。鬼が死んで毒の酸が消えたからな。でも隊服は完全に溶けちゃって・・・しのぶは背負ってる鞄に替えの服とか持ってない?」

 

「すみません。持ってないです」

 

「あれ? しのぶちゃん最終選別の時に隊服二着もらわなかったっけ? 確か予備でもってたような・・・」

 

「っ!!!! 善逸!!!! 今すぐその記憶は脳内から抹消しなさい!! じゃないと日輪刀で突き刺すわよ!!!!」

 

「えぇええ!!?? そんなに怒る!!?? なんで!!?? わかった!! わかったからぁあ!! 忘れる!! 忘れますから!! だから日輪刀こっちに向けないでぇええ!!!!」

 

「あの~・・・ほんとに予備ない?」

 

「はい。ありません。申し訳ないですが・・・」

 

「そっか。じゃあ気乗りしないけど、殉職した子から隊服脱がして着るしかないかな。う~、ほんとに申し訳なくなってくるよ。死んだ仲間の尊厳踏みにじってるみたいで・・・」

 

「まあ、この際仕方ありませんね。私はあっち向いてるんで早めに着替えてください」

 

 

そうして村田さんはそそくさと殉職した後輩の人の隊服を脱がせて身に着ける。非常時なので仕方はないが。とは言え罪悪感を抱く気持ちは分かる気がする。必ず皆さんの遺体は持ち帰って後日弔いを・・・

 

 

「先程の・・・雷鳴の音だが・・・雷の呼吸の使い手か・・・そこのお前・・・名は何と言う・・・」

 

「・・・え・・・誰・・・?」

 

 

不意に声がした。私達三人は振り向く。その場には存在感が希薄な鬼が居た。私たちは唖然とした。なぜか警戒することができなかった。鬼気とか微塵も感じなかったから。けどその事実とは裏腹に、鬼の眼には『上弦』『壱』と刻まれていた。

 

 

「あれ程の・・・大気が震える音・・・かつての・・・戦国の鳴柱と遜色ない響きだった・・・お前は・・・現代の鳴柱か?」

 

 

は・・・嘘でしょ・・・上弦の壱って・・・なんの悪い冗談よ・・・

 

これは夢? 夢なの? だとしたらなんて性質の悪い悪夢・・・

 

なんで・・・なんでなの・・・なんでこんなところに上弦の壱なんて来るのよ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の頭はすぐに真っ白になった。

 

ああ。そうか。善逸が藤の花の家紋の家で言ってたことは、このことだったのね。「任務から無事に帰ってきたら炭治郎に告白する」だなんて、不穏なこと言うんじゃなかった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 




しのぶの死亡フラグが回収されてしまいました。でも兄上だってフラグ立ててますからね。気になる人は32話の兄上の最後の独り言をご御覧下さい。

読みたい路線はどっち?

  • 一部の層(継国兄弟ファン)にぶっ刺さる話
  • 万人受けしそう(マイルド)な話
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