「しのぶ姉さん、平気? 怪我はない?」
「大丈夫。どこも怪我してないわ。貴方のおかげよ、カナヲ。上弦から守ってくれて本当にありがとう」
「良かった。しのぶ姉さんさえ無事なら、私はもう何もいらない」
すると、カナヲが私に抱き着いて来る。上弦すら追い払える膂力を放つとは思えないような優しい力で、そっと私を抱きしめる。私もそんなカナヲが愛らしくて、暫くの間抱きしめ返す。
「カナヲ。済まない。炭治郎や猪頭を助けに行ってたら遅れてしまった。日の出までに間に合わず本当に申し訳ない」
「大丈夫です。冨岡さん。でもそうですね。本音を言えば今日中にアイツは斬っておきたかったです。今後相手にするのが嫌なので」
「・・・済まない・・・」
「あの~、ずっと気になってるんだけどぉ~・・・」
すると不意に、脇から善逸がおずおずと声を掛ける。
「この滅茶苦茶可愛い子誰? しのぶちゃんのこと姉さんって呼んでる気がするんだけどぉ・・・」
「私の妹よ」
「えぇええ!!?? 妹っ!!?? この子しのぶちゃんの妹なのっ!!?? 綺麗過ぎない!!??」
「だって。カナヲ。容姿褒められて嬉しい?」
「全然。下心ありそうだし」
「いきなり酷くないっ!? でも君、間違いなくしのぶちゃんの妹だわ!! キツイとことかそっくり!!!」
「へぇ~、善逸ったら私のことそんな風に思ってたんだ。折角蜘蛛の毒分解する薬打ってあげたのに。なら今度は別の薬打とうかしら」
「やめてっ!!! お願いしのぶちゃんっ!! あの薬!! あの薬だけは本当に勘弁して!!!! 俺もう堪えられる気がしないからぁ~!!!」
「へぇ~、前は堪えられてたんだ。じゃあもっと量増やそうかしら」
「ごめんなさい!! 靴でも何でも舐めます!! だから許してぇ~!!!!」
「そんなことより俺と戦え!! しのぶの妹!!」
善逸が土下座したと思ったら今度は伊之助が脇から顔を出してきた。貴方達、ほんと好奇心旺盛ね。
「? 君誰? なんで猪の被り物なんてしてるの? 折角整った顔立ちしてるのに」
「な、何っ!? お前、俺の素顔見たことあんのか!?」
「カナヲ。伊之助の顔ってそんなに整ってるの?」
「うん。しのぶ姉さん。この子女の子みたいな顔してる。多分お母さんが凄く美人だったんだと思う」
「へ~、ちょっと気になるかも。伊之助、見せて」
「うるせぇ! そんなことより俺と勝負だ!! 上弦に勝ったお前に俺が勝つ!! そうすれば一番強いのは俺って寸法だっ!! 勝負勝負ゥ!!」
「伊之助君? 今日はどんなお薬がいいかしら?」
「ハイ・・・モウイドミマセン」
「っ! 凄い・・・流石はしのぶ姉さん・・・!!」
「この子は教育してるから注射器見せると私の言葉には従うの。もし何か困ったら言いなさい」
「うんっ! ありがとうっ! しのぶ姉さんっ!」
「なあしのぶ。なんで君の妹は上弦を追い払える程に強いんだ?」
善逸、伊之助と続いて、やはり炭治郎も声を掛けて来た。至る所が斬られている炭治郎を見て、私はとても心配になった。
「炭治郎。怪我は平気なの? 確か下弦の伍と戦ったって冨岡さんから聞いたんだけど・・・」
「うん、大怪我はしてないよ。もう少しで負けそうになったけど、家の神楽を呼吸に応用したら勝てたんだ。まあ、おかげでなぜか全身の筋が痛くて骨も軋んでるんだけど・・・」
「っ!! 大変じゃない!! 急いで蝶屋敷に戻りましょう? あそこならどんな治療もできるし、長期間入院もできるから! 私が連れてってあげる!」
「ありがとうしのぶ。ならお言葉に甘えて・・・」
キンッ・・・と突如鍔鳴りの音がした。私はハッとする。カナヲは炭治郎を、いや、炭治郎の背負う木箱を真っすぐ見据えていた。
「炭治郎・・・だっけ?」
「ああ、俺は竈門炭治郎だ。君はカナヲだよな。どうしたんだ?」
「どうしたはこっちの台詞なんだけど。もしかして皆気づいてないの? なんで炭治郎の木箱の中に鬼が居るの?」
その一言で、その場の空気が一瞬で凍り付く。カナヲはゆっくりと日輪刀を引き抜いた。
「ま、待って! カナヲ・・・お願いだから話を聞いて?」
「その前に始末させて。大丈夫。すぐに終わるから」
「炭治郎逃げろっ!!」
「え? わっ!!」
日輪刀の鍔迫り合いでその瞬間火花が散る。冨岡さんが炭治郎の前に飛び出し、間一髪でカナヲの刃を受け止めたからだ。
「・・・何してるんですか冨岡さん・・・」
「ぐっ・・・カナヲ・・・頼む・・・話を聞くんだ・・・お前の姉の頼みなんだぞ?」
「・・・しのぶ姉さん・・・これ一体どういうこと? なんで冨岡さんは鬼を庇ったの?」
するとカナヲは、今度は真っすぐ私を見据える。射貫かれたような心地だった。私は必死に弁明する。
「あのね、カナヲ。炭治郎が背負ってるのは妹なの。彼の妹で・・・」
「だから?」
カナヲに有無も言わさず返される。私の背筋に冷たいものが走った。
「妹だから何? 鬼なんでしょ? この人は鬼を連れて歩いている。立派な隊律違反。ひとまずお館様の下に連行して裁いてもらわないと。今までなんの罪もない人を大勢喰わせてるかもしれないし・・・」
「大丈夫!! そんなことない!! そんなことないから!! 禰豆子ちゃんは今まで一度も人を食べたりしてないから!!」
私が懸命にカナヲの左肩を掴んで必死に説得する。カナヲは目を見開いて信じられないものを見たような表情をしている。
「しのぶ姉さん。今、なんて言ったの?」
「え・・・」
「今まで・・・一度も・・・今までって何? どういうこと? いつから知ってたの? いつからこの鬼のこと把握してたの・・・!?」
「・・・カナヲ・・・ごめんなさい・・・それは・・・」
カナヲは左手で自身の左肩に置かれる私の手に触れる。それは僅かながらに震えていた。
「鬼を庇うなんて立派な隊律違反・・・それも相当の期間匿っていたのなら・・・どれ程の厳罰が下されることか・・・しのぶ姉さんどうして? どうして私に・・・私たちに・・・カナエ姉さんにすら話してくれなかったの・・・!?」
「カナヲ・・・ごめん・・・本当にごめんなさい・・・」
私はカナヲの目を見てられなくて思わず視線を下げてしまう。するとカナヲは震える声で続ける。加えて冨岡さんの日輪刀がやや押し込まれる。
「炭治郎は確か鱗滝っていう人の弟子でしょ? そして炭治郎だけじゃなく、姉さんも冨岡さんも同門の弟子って以前聞いた。じゃあ黒幕は鱗滝って人? まさか鬼舞辻と裏で繋がって・・・」
「それは違う!! 鱗滝さんはそんな人じゃない!!」
冨岡さんは反射的にそう叫んでいた。それと同時に更にカナヲの日輪刀が押し込まれる。冨岡さんは両手、カナヲは片手なのに微塵も押し返せない。
「は? 何が違うって言うの? だって鬼を無断で匿ったんでしょ? なら目的は限られて来る。例えば・・・鬼舞辻の間者として鬼殺隊内部に潜り込ませるとか・・・」
「禰豆子は無惨の手下じゃない!! そんなの言いがかりだ!!」
すると冨岡さんの更に後ろから炭治郎が抗議する。するとカナヲは目を見開いて炭治郎に憎悪の視線を向ける。
「炭治郎・・・全ては貴方のせいよ・・・貴方が妹だからって鬼を匿って連れ歩いてるせいよっ!! そのせいでしのぶ姉さんは隊律違反を犯すことになった!! 貴方さえ・・・貴方さえ最初から居なければっ!!」
「カナヲやめて!! 炭治郎をそんな風に言わないでっ!!」
「大丈夫・・・しのぶ姉さんはこいつに騙されただけ・・・冨岡さんも。そうだ。そうお館様には私の口から報告する。そうすれば・・・二人は処罰されることないはず。そうよ。なんだ、簡単なことじゃない・・・!!」
「お願いやめてカナヲッ!! どうか冷静になって!! 禰豆子ちゃんは特別な鬼なのっ!! それに・・・うっ!?」
私は腹部を指でカナヲに突かれる。それだけで私は呼吸がうまくできなくなり、すぐにその場に倒れ込んだ。
「っ!? 胡蝶っ!!!」
「カナヲ・・・どうして・・・」
「しのぶ姉さんはそこで見てて。私が今すぐ元凶を取り除くから。しのぶ姉さんを誑かした最低な男。竈門炭治郎っ!!!! 私はお前を絶対に許さないっ!!!!!」
「炭治郎っ!! 俺が時間を稼ぐ!! 黄色い頭と猪頭は炭治郎を連れて遠くに逃げろっ!! 死に物狂いで走れっ!!!」
「炭治郎っ!! 早く逃げよっ!! あの子ヤバすぎるよっ!!!」
「権八郎!! ぼさっとすんな!! 自分より強い奴を相手にしたら逃げるのは山の鉄則だろうがっ!!」
そうして善逸、伊之助は炭治郎を連れて大急ぎで走り出す。その様子を一瞥し、カナヲは再び冨岡さんに視線を戻す。
「冨岡さん。貴方一人で私を喰い止める気ですか? それがどれ程大変なことか・・・わかってます? 私がその気になれば・・・鬼舞辻ですら一瞬で千の倍近く切り刻むことが出来る・・・実力差は明確のはずです・・・!!」
「それでも俺は・・・炭治郎を守るっ!! 炭治郎を殺したければ・・・まずはこの俺から倒せっ!!!」
ああ。どうして。どうしてこんなことに。折角上弦の壱から全員生還できると思ったのに。
続く
強敵が味方になる展開とかジャンプだと王道中の王道ですが、逆に最強の味方が最恐の強敵になる展開も絶望感極まってて結構好きです(え)。
さて、無惨すら殺せる最強の剣士の凶刃を、しのぶ達はどう乗り越えるのか。続きは次回となります。乞うご期待。
読みたい路線はどっち?
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一部の層(継国兄弟ファン)にぶっ刺さる話
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万人受けしそう(マイルド)な話