「正直驚いてます。冨岡さんがここまでしぶとい人だったなんて。こんなに手こずったのは悲鳴嶼さんとの本気の手合わせ以来です」
「はあ・・・はあ・・・がはっ・・・」
「特にその・・・『凪』でしたっけ? 最も歴史の古い水の呼吸の流派に新たな型として冨岡さんが追加したそれ。正直ここまで硬い防御技とは思いもしませんでした。上弦の壱の血鬼術を防げるのも納得です」
私の目の前では全身滅多打ちにされ血塗れになった冨岡さんが立っていた。肩で息をしながら必死に足止めしている姿は正直痛ましい。そしてその様子を、カナヲが静かに見つめている。
「まさか・・・ほぼ同時に百発以上の峰打ちを叩き込んだのに・・・それを何度も受けきるとは思いもしませんでした。まあそれでも・・・峰打ちを千まで増やしていったら流石の冨岡さんも受け切れないようでしたけど」
「はあ・・・はあ・・・まだ・・・まだだ・・・!!」
「もう充分です。冨岡さん。私はこれ以上貴方を痛めつけたくありません」
どうして? どうしてカナヲは甘んじて冨岡さんの足止めを受けているの? 速度で振り切り、さっさと炭治郎を追おうと思えば追えるのに。
私の疑問とは裏腹に、カナヲはずっと冨岡さんを観察している。まるで、冨岡さんの全身から何かしらの確信を得ようとしているみたいに。
「はあ・・・はあ・・・ごほっ・・・はあ・・・」
するとカナヲは日輪刀をしまう。そして突如として冨岡さんの手当てを始めた。
「はあ・・・はあ・・・ぐっ! なぜだ・・・!」
「言ったはずです。もう充分だと」
カナヲはそう呟く。私はその意図が分からなかった。やがてカナヲは手当てをしながら答え合わせのように解説する。
「透き通る世界・・・と仮に呼びます。その視界で冨岡さんを隅なく観察しました。最初、私はしのぶ姉さん含め、二人が鬼の血鬼術で操られているとばかり思っていた。けどそうじゃなかった」
冨岡さんは膝を着いたまま手当てを受ける。カナヲは続ける。
「体内に寄生している蟲のような生き物もいない。身体に何かしらの細工を施された形跡もない。血の巡りに不自然な干渉の様子もない。脳の働きも正常。催眠による操作の可能性も低い。まあ・・・日の光を浴びても尚対象を操り続ける血鬼術なんて・・・そうないとは思いますが・・・」
「はあ・・・はあ・・・そうか・・・」
「カナヲ・・・なんでわざわざこんな回りくどいことを・・・」
すると私の問いに反応し、カナヲが視線を移す。
「悲鳴嶼さんからの教えです。人から聞いた話だけを鵜呑みにせず、自身の目で直に観察し得られた情報から真偽を見定めなければならない、と。でなければいつか、裏切られたり取り返しのつかない判断違いを起こすだろう、と」
私は絶句する。
悲鳴嶼さん。貴方はカナヲになんていう教育を施したの。まさかカナヲが血鬼術による干渉の影響がないかを調べるためだけにこんなことを平気でするようになってるなんて。
でも悲鳴嶼さんは過去育てていた孤児達に裏切られて鬼に襲われた経歴がある。もしかしたら私が鬼殺隊のことを知るずっと前からこのような事例を何度も目にして居たのかもしれない。
とは言え、これでは余りにも冨岡さんが不憫過ぎる。正直上弦の鬼と戦う以上に酷い目手傷を負わされたとしか私には思えない。
「じゃあ次はさっきの黄色い子と猪の被り物の子を見定めないと。あっちはもしかしたら本当に血鬼術で操られているかもしれないし・・・」
「やめてっ!! カナヲもうやめてあげてっ!! あの子たちに冨岡さんと同じことをしたら心も体も再起不能になっちゃう!! だからやめてあげてっ!!」
「・・・じゃあどうすればいいの? しのぶ姉さん。」
私は地に臥したまま考える。カナヲは人から聞いただけの情報は信じないよう、悲鳴嶼さんに教育されている。でもまさか私の言う事もここまで頑なに信じてくれないなんて。一体どうすればいいの?
「はあ・・・はあ・・・カナヲ・・・お館様には・・・禰豆子の話は既に通してある・・・」
「えっ?」
不意に冨岡さんがそう呟く。するとカナヲは目を丸くしやがて固まる。脳内で思考を必死にまとめ上げてる様子だった。やがて結論が出たのか口を開く。
「それって・・・言ってましたっけ? 私、それ聞いてたら多分こんな真似してなかったと思います」
「・・・お館様の言う事は信じるのか? 自分の目で確かめてなかったとしてもか?」
「? だってお館様ですよね? 信じるも何も、お館様の言う事が間違ってることってあるんですか?」
私たちは閉口する。私も冨岡さんも互いに顔を見合わせる。私は恐る恐るカナヲに質問する。
「えっと・・・カナヲ・・・それって悲鳴嶼さんにそう言われたからそう思うの?」
「? うん。そうだよ、しのぶ姉さん。お館様の言う事は絶対って教えられたからそれで・・・」
悲鳴嶼さん・・・貴方はカナヲになんて教育を・・・
でも柱の人達って基本お館様の言う事聞いてるし、あながち間違ってはないのかも。
でも・・・う~ん・・・んんん・・・
「カナヲ・・・大事なのはちゃんと自分で判断することよ? 貴方は自分の心の声をちゃんと聴けてる?」
「? うん。今回も現にそれで冨岡さんを滅多打ちに・・・」
「でもそれって悲鳴島嶼さんの言う事に従っただけよね? 悲鳴嶼さんが教えてくれたことに対し一度自分で考えるってことはしたことある?」
「う~ん・・・ないかも」
「そっかぁ・・・ないかぁ」
私はうなだれる。この子。なんて純粋なの。でも今にして思えば小さい頃からそうだった気がする。カナヲは私が手を引く際、異を唱えることなんて一度もなかったし、私の提案に対して頷く以外の反応をしたことなんて一度もなかった。今の今まで失念していた。
「うん・・・まあ・・・今後少しずつ自分で考えるようにしよっか・・・カナヲ」
「うん。わかった。しのぶ姉さん」
ある意味恐ろしい子だわ。この子は多分、お館様が命令すればどんな命令にも従う。純粋過ぎる故に強力な暴力装置になり得る。これからは私たちがもっと一緒に居て自分で考える癖をつけさせてあげないと。
「それとカナヲ・・・私さっきからうまく呼吸できないんだけど・・・これってどうやって直せばいいの?」
「あ、ごめんなさい。すぐ元に戻すね、しのぶ姉さん」
そして私は成されるがまま、カナヲにうつ伏せから仰向けの状態にひっくり返されて、腹部のある一点を指で押される。
「っ!! かはっ!?」
「はい。もう大丈夫だと思う。すぐ元に戻さなくてごめんなさい。しのぶ姉さん」
「こほこほっ! カナヲ、これって・・・」
「えっと・・・血の巡りや空気の巡りを阻害してたの。透き通る世界が視えると身体の造りとかも視えるから・・・それで・・・」
「そ、そうなんだ・・・」
うん。実の妹ながらとても怖いことをやっていたようだ。これ、下手すると全集中の呼吸使えなくなるわよね。なんて恐ろしい・・・
「それじゃあしのぶ姉さん。これからどうしよっか」
「そうね・・・とりあえず炭治郎と禰豆子ちゃんのことはやっぱりお館様に判断を・・・」
「伝令!! 伝令!! カァアア!! 炭治郎及ビ鬼ノ禰豆子!! 本部へ連行中!!」
突如、上空から鎹鴉の声が聞こえる。あの鎹鴉。私たちのじゃない。じゃあ一体誰の・・・
「しのぶ。そして冨岡。まさかお前たちが鬼を庇うような真似をするとは・・・私は心底驚いてしまった」
私も冨岡さんも大急ぎで振り返る。その場には数名の隠を引き連れた悲鳴嶼さんの姿があった。
「ひ、悲鳴嶼さんっ!!??」
「しのぶ。お前も重要参考人として本部に連れて行く。そして冨岡、お前もだ。まあお前は柱としての出席だが・・・」
「・・・わかった」
「どうして・・・悲鳴嶼さんが・・・」
するとカナヲが私の疑問に答える。
「お館様から複数名の鎹鴉を派遣し周辺の柱全員に那田蜘蛛山の様子を伝達するよう仰せつかってたの。多分冨岡さんが入山した時にやってくれたんだと思う。上弦の鬼が出たからそのための措置らしくて・・・」
「冨岡さん。自分で鎹鴉送ってたのに今の今まで忘れてたんですか?」
「・・・・・・ああ」
「まあ・・・いいでしょう・・・それで悲鳴嶼さんが駆け付けてこられたと」
「最初、カナヲが冨岡と交戦になったと、鎹鴉から報告を受けた時は心底驚いた。加えて、その理由がしのぶと任務を同行していた竈門炭治郎の連れる鬼が原因だったとも聞いた。私は即座にお館様に報告を飛ばした。そしてその返事に従い竈門兄妹を拘束したとの報告が、今の伝令なのだろう。思ったよりもかなり迅速だったように思える」
「・・・・・・」
すると悲鳴嶼さんは私に歩み寄る。
「既に竈門兄妹は他の駆け付けた柱数名に拘束された。本人含め常中が使える隊士が三名居たそうだが、柱相手では抵抗も意味をなさなかったようだ」
そうして悲鳴嶼さんは溜息をついて最後に苦々しく付け加える。
「しのぶ。お前も観念して柱合裁判に出席するのだ。正直どこまで庇ってやれるかはわからぬが・・・これはお前の選んだ道だ。お前自身の手で乗り越えるのだ」
続く
原作と柱合会議までの導入の仕方がだいぶ異なると思いますが、本作では兄上が突如乱入してきた弊害だと思って下さい。こうなったのも全て兄上が悪い。
???「何故私のせいにされるのかわからぬ・・・愚かな・・・」
読みたい路線はどっち?
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一部の層(継国兄弟ファン)にぶっ刺さる話
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万人受けしそう(マイルド)な話