「聞いて下さい!! 俺は禰豆子を人間に戻すために剣士になったんです!! 禰豆子が鬼になったのは二年以上前のことで!! その間禰豆子は人間を喰ったりしてない!!」
「炭治郎・・・」
「はあ・・・はあ・・・えっ!! しのぶっ!?」
私が連れてこられた時には既に柱合裁判が始まっていたのか、炭治郎の弁明が枯山水庭園の真ん中で行われていた。その周囲を取り囲むように、私の見知った顔ぶれが揃っている。
(不死川さんが居ないわね。どこに居るのかしら)
やがて私の後ろから追い抜き、柱達の集まりに悲鳴嶼さんが合流した。
「どこまで聞き出した?」
「話が同じところをグルグル回ってるせいで中々進んでねぇな。今さっきの弁明に似た話を何度もしてる。まあ人を喰ってないこと。これからも喰わないこと。それをド派手に証明しないことには話は進まねぇわな」
「そうか。しのぶのことについては何か言ってなかったか?」
「いいや!! 彼は頑なに胡蝶のことを喋ろうとしなかった!! 恐らく彼女の身を案じ庇っているのだろう!! だが安心しろ少年!! 胡蝶は既に蝶屋敷で数多の実績を積んでいる!! 斬首までされることはないだろう!!」
「しのぶちゃんが斬首だなんて。そんなの想像するだけで胸が痛むわ。苦しいわ」
「あ、あの雲の形、鳥だ」
「そんなことより冨岡はどうするのだ。どう処分する。どう責任を取らせる。カナヲから百叩きの刑を受けたようだが、まさかあれだけでお咎めなしではないだろうな?」
度々思うことだけど、柱の面々って皆個性的よね。これだけバラバラの主張をしてるのに、よくお館様は毎度柱合会議で意見をまとめられるものだわ。
「冨岡の処遇はお館様に下してもらう。しのぶも同様だ。二人はそれぞれ任務や役割がある。私たちの判断だけで処罰を下すことはできない」
「オイオイ悲鳴嶼さんよォ、しのぶが一枚噛んでるからって今回の件だけ甘過ぎやしねぇですかィ?」
すると庭の端から不死川さんが禰豆子ちゃんの木箱を片手に持って顔を出した。私は凄く嫌な予感がした。
「不死川。勝手なことをするな」
「いつもならもっと厳しいでしょうに、悲鳴嶼さんよォ。鬼を滅してこその鬼殺隊。なのにそこの馬鹿隊員は妹だからって鬼を連れ歩いてたんだからよォ。即刻処分でいいだろうがァ!!」
「それはお館様が判断することだ。何のための柱合裁判だと思っている。不死川」
「裁判の必要なんてないでしょうが!! 鬼を庇うなど明らかな隊律違反。俺達だけで対処可能。鬼もろとも斬首。それ以外に何があります? なあ? お前もそう思うだろォ、煉獄よォ」
「うむ!! 不死川の言う通りだ!! 即刻鬼は斬首にすべきだ!!」
「つう訳で悲鳴嶼さんよォ、いくら貴方でも我儘はよくねぇんじゃねぇですかィ。しのぶはまだわかりますよ。散々俺達鬼殺隊員の治療に精出してくれてんですから。だが竈門兄妹、テメェらは駄目だァ!!」
「なっ!!??」
不死川さんの余りの剣幕に炭治郎が驚く。不死川さんは続ける。
「鬼になったのは二年以上前でェ!? その間鬼は人間を喰ったりしてないだァ!? そんなことはなァ・・・有り得ねぇんだよ馬鹿がァ!!!!!」
すると私の嫌な予感は見事的中した。不死川さんは木箱を日輪刀で串刺しにした。箱の角より禰豆子ちゃんの鮮血が滴り落ちる。
「や、やめろぉおお!!!」
炭治郎が後ろ手に縄で縛られた状態で不死川さんに突進しようとするので、初動で私が彼の頭を掴んで庭に組み伏せる。
「がっ!! しのぶっ!! どうしてなんだ!!??」
「炭治郎。落ち着きなさい。私からも弁明するから」
すると柱達の関心が一気に私に集中する。私は周囲をぐるりと見渡し宣言する。
「お館様には既に二年以上も前に禰豆子ちゃんのことは報告してあります。なので二年以上もの間、お館様は私達が禰豆子ちゃんを庇い立てし匿っていたことをご存じです」
「・・・っ!」
数人の息を飲む気配がする。だが、殆どの者が既に察しがついていたかのように表情を曇らせる。
「なので本日、お館様より禰豆子ちゃんの存在を容認している理由を説明するはずです。そして、炭治郎を処罰しないで今後も鬼殺隊で戦わせる意義についても・・・」
「アァ!? しのぶ・・・テメェ・・・鬼を連れて歩くような馬鹿隊士をお館様が今後も容認するって言うのかァ!? ふざけたこと言い出すんじゃねぇよ!!!」
「ふざけていません。少なくとも彼は鬼舞辻無惨の人相を押さえた貴重な参考人です。そしてその遭遇地についてもです。私が証人になります」
「っ!!??」
炭治郎の処罰に反対する者、賛成する者問わず、皆が皆その事実に驚愕する。唯一人、予めこの事実を把握する悲鳴嶼さん一人を除いて。
「ちょっと待てェ・・・悲鳴嶼さん・・・アンタ最初から知ってたんですかィ?」
「ああ。しのぶより既に報告は受けている。お館様にも報告済みだ」
「悲鳴嶼。それは派手に聞き捨てならねぇな。なんでそんな重要情報をアンタ一人でお館様と地味に共有し合ってんだ? 即座に柱全員に知らせるべきだと思うが・・・」
「お館様より口止めをされていた。それ以上は言えぬ」
「マジかよ・・・情報封鎖にも限度ってもんがあるだろう・・・元忍びの俺でもそこまでしねぇっつーの」
驚く不死川さんと確認を取る宇随さん。それに対し悲鳴嶼さんは飄々と質問を躱す。
「加えて鬼舞辻無惨は竈門に追手を差し向けている。恐らくお館様はそれを理由に彼を処罰したくないのだろう。なぜなら千年もの間、無惨は我々がその姿すら知ることができなかった鬼。奴のしっぽを掴んで離したくないと思われる」
柱一同静まり返る。しかしそれに異を唱えたのが不死川さんだった。
「わかりませんよ悲鳴嶼さん・・・人間ならば生かしてもいいですが鬼は駄目です!! 承知できない・・・!!」
「不死川・・・」
「なら、お館様が来る前に俺が証明してみせます!! 鬼という生き物の醜さを!!」
「やめろ不死川」
悲鳴嶼さんの制止も聞かず、やはり不死川さんはその手を日輪刀で斬り裂いてしまう。鮮血が枯山水の庭に滴り落ちる。
「な・・・何をしているんだ・・・!!」
炭治郎が信じられないとばかりに目を見開いている。私は眉を寄せ、炭治郎に解説する。
「稀血よ。炭治郎も鼓屋敷の清君の件で知ったでしょう? 不死川さんはその中でも特に希少な稀血なの。それこそ、鬼が酩酊し理性を失うほどに・・・」
「なっ!? だったら辞めさせないと・・・!!」
「駄目よ。禰豆子ちゃんを信じなさい。これはあの子にとっても乗り越えないといけない試練なの」
「どうしてだしのぶ!? 無理矢理禰豆子を酔わせて鬼の本能を引き出そうとするなんてどうかしてるっ!!」
「それでも尚人としての理性で鬼の本能を抑え込むことをここで証明しなくちゃいけないの。折角不死川さんが乗り気なんだから、寧ろ今ここで辞めさせる訳にはいかないのよ」
私が炭治郎を必死に抑えていると、不死川さんは屋敷に上がり、日陰に禰豆子ちゃんの木箱を転がして更に数度串刺しにする。
「や、やめろぉおお!!!」
「不死川!! やり過ぎだ!!」
「悲鳴嶼さんは黙ってて下さいよォ!! 鬼を傷つけて消耗させないと確認できないでしょうがァ!!」
すると木箱より禰豆子ちゃんが現れる。彼女は竹の猿ぐつわから涎を滴らせ、目を見開いて不死川さんの傷口を凝視している。
「そらァ!! 食らいつけェ!!」
「禰豆子!! 俺だけじゃない!! お前を信じるしのぶや義勇さん!! 鱗滝さんや真菰さんの為に耐えるんだ!! 禰豆子ならできる!! 禰豆子っ!!!!」
その炭治郎の叫びにハッとする禰豆子ちゃん。不意に炭治郎を、そして私を見る。私は禰豆子ちゃんの目を見て頷く。禰豆子ちゃんは一瞬固まっていたが、やがて必死に目を瞑ってそっぽを向いた。
「なっ!!??」
「し、不死川の稀血をっ・・・!!」
その光景を見て、柱全員が驚愕する。鬼にとっての最大の御馳走、それも稀血の中の稀血である不死川さんの血に飛びつかなかった事実に対して。
「どうしたのかな?」
私はその澄んだ声音に反応し、屋敷の奥を見た。既に襖は開けられており、そこから二人の御子に支えられ、鬼殺隊当主であるお館様がゆっくりと歩き進んでいた。
「お、お館様っ!!?? 危険です!! 下がってください!!!」
不死川さんは禰豆子ちゃんに近づくお館様を見てこれ以上ないくらい動揺する。しかしお館様は目も視えない中、にこやかに笑い、禰豆子ちゃんに近づき、頭を撫でた。
「禰豆子。君は大切な人たちの為に、自身の鬼の本能と戦い、それをねじ伏せることができる強い意志と理性を持っている。君は鬼にされてしまったけど、他の鬼なんかとは違う特別な子だ。なぜなら君は、鬼の身で在りながら人の心を失わないでいるのだから。禰豆子は本当に凄い子だ」
禰豆子ちゃんはそのお館様の声と言葉を聞き固まる。そして大粒の涙を止めどもなく流し始めた。
「・・・・・・」
柱達は皆それ以上何も言わなかった。炭治郎も同様だ。
そして私はただ、これまで鬼の身に変わってからも必死に堪えて、人の心を持って生きて来た禰豆子ちゃんが、鬼殺隊当主であるお館様に皆の前で認められるという、その事実に言いようのない感動を覚えていた。
続く
悲鳴嶼さんが味方サイドなのは強い。強すぎる。不死川をある程度牽制できるのがでかい。稀血の下りは禰豆子の安全性を証明する上で必須なので無理には止めてませんけどね。それと禰豆子をお館様がよしよしヾ(・ω・`)する描写は常々書きたいと思ってましたのでこのような流れになりました。お粗末っ!!
読みたい路線はどっち?
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一部の層(継国兄弟ファン)にぶっ刺さる話
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万人受けしそう(マイルド)な話