「・・・という訳で、禰豆子は今極めて稀な状態にあるんだ。きっと鬼舞辻にとって予想外の何かが起きているのだと思う。私は今までも、そしてこれからも炭治郎と禰豆子のことを容認するつもりだ。そして皆にも認めて欲しいと思っている」
「・・・・・・」
柱一同一列に並び、お館様の前で跪いている光景は正に圧巻の一言。まあ冨岡さんはカナヲに百叩き以上されて包帯グルグル巻きで座ってるだけだが、この際無視するものとする。
私は後ろ手に縛られた炭治郎の肩を押さえて、柱達とは少し離れた位置で跪いて頭を下げていた。
お館様に誰一人異議を唱えようとしないのは、たった今、目の前で禰豆子ちゃんが不死川さんの稀血の誘惑に乗らず、お館様に頭を撫でられ年相応の少女のように泣いていたからだろう。
それでもやはりどうしても言いたいことがあるのか、不死川さんが恐る恐る口を開く。
「お館様。秘匿しなければ他の隊士の連中に示しが付かないんじゃないですか? 鬼殺隊公認で鬼を匿うなど、離反する輩が出て来ても可笑しくないのでは・・・」
「勿論大ぴらに公表するつもりはない。だが秘匿をするつもりもない」
「は? それはどういう・・・」
「近い将来、炭治郎を柱の末席に加える。実力を示し鬼殺隊の為に日夜奮闘する柱の姿を見れば、自ずと皆も認めてくれる。私はそう思っている」
「えっ!!??」
私は思わず大声を上げてしまう。すると私に対し柱の皆さんが視線を向けてくる。私は気恥ずかしい思いをし再び顔を下げる。
「こ、この餓鬼を新たな柱にィ・・・!? 本気で仰ってるのですか!? お館様!!」
「不死川の疑問も当然のことかと!! 柱とは鬼殺隊最高位の剣士!! 十二鬼月と最前線で戦い皆を守る屈強な隊士でなければならない!! 彼にその実力があるのですか!? お館様!!」
「うん。昨晩彼は下弦の伍を単独撃破している。鎹鴉からの報告で確認済みだ。それと義勇の証言もある」
「な、なんと!! それは真ですか!?」
あぁ、成程。結局冨岡さんが駆け付ける前に倒してたんだ。炭治郎一人で。やっぱり炭治郎は凄いなぁ。私と違って一人で十二鬼月倒せちゃうんだから。ん? でも待って。そうなると私の処遇って今後どうなるの?
「そしてしのぶ。君は暫くの間、蝶屋敷で医療活動に従事すると共に、研究途中の『鬼を殺す毒』を完成させなさい。しのぶも鬼を殺す手段さえ確立できれば十二鬼月とだって戦える。それが完成したら炭治郎と二人一組で柱として任務に臨んでもらう。君が炭治郎と二人でこの柱合会議にまた顔を出してくれること、私は楽しみにしているよ?」
続けざまのお館様のその発言に複数名の柱が反応する。最初に声を上げたのは頻繁に蝶屋敷にお茶しに来る同じ女性隊士の甘露寺さんだった。
「えっ!? 二人一組で柱ってどういうことなの、しのぶちゃんっ!! もしかして・・・貴方と炭治郎君って・・・もしかしてそういう関係なの!!??」
「二人一組の柱か。良いですねぇ派手で!! 流石お館様。本当に面白いことをお考えになる。それに胡蝶の奴は随分と派手なもん前々から作ってたんだな。もし完成したら俺にも工面してくれ。クナイとかに塗って使いてぇからよ。」
「成る程!! 確かに異例の措置ではあるが!! 竈門に異議を唱えられないようにするには柱にして実績を積ませるのが一番手っ取り早い!! それに鬼を毒殺する方法を胡蝶が確立して共に戦うなら!! 十二鬼月に後れを取ることもなくなるだろう!! なにせ胡蝶の瞳には常に炎が灯っていた!! 彼女も充分柱になれる素養がある!! それに甘露寺以外の女性隊士の柱が誕生すれば一層柱合会議も華やかになりましょう!! わっはっはっ!!!」
お館様がさらりと前代未聞の柱承認案を提示して来た。えぇ・・・本当に認めてもいいのそれ? 寧ろ異例過ぎて他の人から苦情殺到しない? だったら自分たちも二人一組で柱にしてくれとか異議申し立てが沢山出そうな気がするんだけど。
それと今後私が取り組もうとしてたことをサラリと暴露しないでくれませんかお館様。そもそもなんでお館様はその毒の話知ってるの? その話まだ珠世さんにしかしてないはずなんだけど。もしかして珠世さんってお館様と知り合いだったりする? 私の頭は混乱した。
「二人一組の柱ァ? お館様、自分は納得できません。鬼を一人で狩れない実力の柱など論外。今一度ご再考を」
ほら。不死川さんから早速物申されている。正直私だって、そんな形で柱に認められたい訳じゃないし。お館様もこれで思い直してくれるかな?
「実弥。なら二人をそれぞれ単独で柱に昇格して、合同任務という形で同行させ続けるのはどうだろうか。柱の在籍人数が九名を超えてしまうが、そこにさえ目を瞑ってくれれば然程問題があるとは思えないんだ。どうかな?」
「承知しました。個人の実力が伴っているのなら俺は一向に構いません」
え、いいの? まあでもそうか。兎に角不死川さん的には単独で柱としての実力があれば認めてくれるようね。でもずっと合同任務ってそれ実質同じことなんじゃ・・・
「つう訳でしのぶ、いっそテメェが竈門より先に柱になってさっさと柱の空席埋めやがれ。正直俺は、そこの竈門っていう餓鬼が柱になるとか今でも納得いってねぇ。いっそお前の補佐か継子にしちまえ。そうすりゃ無理に竈門を柱にしなくても一般隊士黙らせられるだろうがァ」
だったら別に私が柱にならなくても良いのでは? 他の皆さんの誰かが継子に取れば早い気がするんだけど。もしかして誰一人炭治郎を引き取りたくない感じなの? 禰豆子ちゃんが居るから? 正直複雑。
「それにアレだァ・・・よくよく考えたらお前を竈門から引き剥がしたら後でカナエになんて言われるか・・・俺が理由って知れたら後でどんな恐ろしい目に遭うか正直わかんねぇしよォ・・・」
ちょっと待ってっ!? なぜそこで姉さん出てくるの!? どういうこと!? もしかして不死川さん裏で姉さんに弱み握られてるの!? 現役柱を従わせるなんて姉さん凄い。いや、今は感心してる場合じゃなくて!!
私が一人慌てふためいていると、悲鳴嶼さんがこちらに向き直る。
「しのぶ。やはり君はカナヲの言う通りだった。誰も思いつかないような柔軟な発想と堅実な創意工夫を重ねる姿勢。それこそが君の一番の武器だ。君が柱として大成することを祈っている」
あ、さり気なく悲鳴嶼さんから労いの言葉が。この人こういうところしっかりしてるわよね。でもカナヲに偏った教育仕込んだの私忘れてないから。あとで姉さんに告げ口しよう。
「炭治郎が柱に就任でき次第、俺は水柱を引退するのでその際失礼する」
「「「は?????」」」
唐突な冨岡さんの爆弾発言に柱一同困惑する。この人、話がひと段落しかけた途端何言い出してくれてんの!!??
「冨岡。貴様は何を言っている。唯でさえ若手が育たず死に過ぎるから柱は空席を度々作っているんだ。お前程度でもいないよりはマシだ。死ぬまで戦え」
伊黒さんが指を差して冨岡さんに釘を刺す。なのに冨岡さんはどこ吹く風だ。
「炭治郎としのぶが両方柱になれば、柱の席は空席どころか規定数を超える。なら俺は柱を辞退する。新しい水柱は二人のどちらかが成ればいい」
「おい冨岡ァ!! お館様が柱の規定数超えても良いってさっき言ってただろうがァ!! テメェ耳糞でも詰まってて話聞こえてなかったのかァ!? ふざけたこと言ってんじゃねぇぞコラァ!!!!」
不死川さんがキレる。この人と冨岡さん。典型的な水と油だからなぁ。まあ冨岡さんと相性良い人なんて、鱗滝さんや真菰さん以外見たことない気がするし。仕方ない。ここは私が緩衝材になろう。
「冨岡さん。なぜそんなことを言うんですか? 不死川さんの言う通り、お館様が良いと仰ってるはずです。何か気掛かりなことでもあるんですか?」
私は横から質問する。このまま伊黒さんや不死川さんが糾弾し続けてたら大事になりかねないからだ。私は助け船を出したつもりだった。だが・・・
「俺はお前達とは違う」
ちょっと待って!? 冨岡さん何言ってんの!? この状況でそんなこと普通言う!? このままだと不死川さんがブチギレちゃうんじゃ・・・
「アァ!? おいテメェ舐めてんのかコラ!!! まさかとは思うが、柱退いてカナヲの真似事でもする気かよ、えぇ!? そんな包帯塗れの姿でどの口がほざきやがるんだ、答えろやァ!!!」
「失礼する」
「おい待てェ、失礼するんじゃねぇ。お前俺達のこと見下してんのかァ!? 待ちやがれっつってんだろうがァ!!!!」
ああ・・・予想通りの展開になってしまった。まずい。すぐに手を打たなければ。私は冨岡さんに近づく。
「えい」
「ぐっ・・・!?」
私は被害を最小限にするために、立ち去ろうとする冨岡さんの足に自身の足を引っかけた。すると満身創痍だった冨岡さんはあっけなく転んだ。暫く痛みに悶絶してるようでその場から動かなくなった。
「不死川さん。うちの兄弟子がご迷惑をおかけしてます。この後蝶屋敷で治療ついでにキツく言っておきますのでご納得していただけませんか?」
「チィ・・・頼むわァ」
不死川さんは後輩を困らせることに抵抗があったのか、あっさりと引き下がった。私は炭治郎の後ろ手の縄を解いて立ち上がるよう促す。
「それでは私達の件はひとまずお咎め無しってことで宜しいんでしょうか? もしそうならこのまま蝶屋敷に向かいたいのですが・・・」
「うん。炭治郎と禰豆子、しのぶの件についてはもう話は済んでるからね。そろそろ柱合会議を始めようか」
「おい冨岡ァ。さっさと立てやコラァ。いつまでもうずくまってんじゃねぇぞォ」
「ぐっ! 不死川っ! やめろっ・・・痛いっ・・・とても痛いっ・・・今日だけは勘弁してくれっ!」
冨岡さんは軽く蹴られる度にカナヲに負わされた打撲が相当痛いのか全身を震わせ情けを乞うていた。正直可哀そうだなと思わなくもない。
「じゃあ炭治郎。禰豆子ちゃんを連れて行きましょ。蝶屋敷に。それと会わせたい人が居るの」
「ん? 会わせたい人? それって誰だしのぶ」
私は炭治郎を見据えて答える。
「私の姉さんよ。ずっと炭治郎のことは姉さんに紹介したかったの。姉さんも貴方にずっと会いたがっていたわ」
続く
次回、実家にご挨拶ならぬ蝶屋敷にご挨拶回です。お楽しみに。
読みたい路線はどっち?
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一部の層(継国兄弟ファン)にぶっ刺さる話
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万人受けしそう(マイルド)な話