47話 無限列車
炭治郎が蝶屋敷に来てから一ヶ月が過ぎた。初週こそ炭治郎とカナヲの関係を私が盛大に勘違いして胃の腑を灼いたが、今では心穏やかに過ごせる毎日だ。
漸く炭治郎と想いを通い合わせることが出来て私は幸福の絶頂だった。それに屋敷には姉さんも居るし、前よりもカナヲとは仲良くなれたような気もする。
そんな穏やかな毎日を過ごしながら、私はお館様に命じられた『鬼を殺す毒』の開発に勤しんでいた。
珠世さんとは手紙だけのやり取りだったが、国内外問わず古今東西の薬学の知識を習うことができた。
私はそれを基に藤の花の抽出物から新たな毒を生み出せないか考え得る限りの検証を行った。
「良し。今日こそは」
私は試験管から鬼の血をスポイトで吸い取り、それをシャーレの上に滴下する。そして今度は試作中の藤の花の毒(仮)をその上に一滴ずつ滴下していく。すると・・・
「あ、灰色になったわね。もしかして効いたのかしら」
私はシャーレの中身を顕微鏡で観察する。すると鬼の細胞が全て死滅していた。私の気持ちは浮き立つ。
「やったやった! 遂にできたっ!!」
私は嬉しさの余りその場で飛び跳ねてしまう。狂喜乱舞しそうな衝動を抑えきれず、私は蝶屋敷の廊下を駆け抜け庭先へと一目散に向かう。
「ん? しのぶ?」
案の定、庭先で鍛錬中だった炭治郎を発見する。私は嬉しさの余り縁側を飛び跳ねて、そのままの勢いで炭治郎に飛び掛かる様に抱き着いた。
「やったわ炭治郎っ!!」
「うわっ!? しのぶっ!? 危ないっ!! 一体どうしたっていうんだ!?」
「炭治郎っ! できたわっ! 遂にできたのっ! 鬼を殺せる藤の花の毒がっ!! 私遂にやったわよ炭治郎っ!」
「っ!! ほんとかしのぶ!?」
「うんっ! やっとできたのっ! これで炭治郎の役に立てるわ! 私嬉しいっ!」
木刀を片手に跳び付かれた炭治郎だったが、驚きの反応速度と言うべきか、すぐさま私を受け止めて勢いを殺しその場を独楽のようにくるくると回ってゆっくりと姿勢を制御していた。そしてそのまま回転を止めて私の腰回りを持ち上げるように支えて抱き上げる。
「凄いじゃないか!! しのぶ!! 本当によく頑張ったな? やっぱりしのぶは凄いよ!」
「うんっ! 私凄く頑張ったの! だからもっと褒めて! 炭治郎っ!」
「ああ。何度でも言うよ。しのぶは本当に凄い。本当に良く頑張った。本当に偉いよしのぶは」
炭治郎は私を抱きしめながらそう褒め讃えてくれる。私にとっては今までの人生でこれ程の充足感で満たされたことはなかった。
「これでしのぶは鬼の頸が斬れなくたってどんな鬼とも戦える。きっとこれから先しのぶの手で大勢の人の命が救われる。だってしのぶは日輪刀で頸を刎ねる以外の方法で鬼を倒す術を新たに生み出したんだから。大げさでも何でもない。これは始まりの呼吸の剣士以来の偉業だよ。鬼殺隊が鬼と戦う上で新たな方法を生み出したって言う立派な偉業。それをしのぶは成し遂げたんだ」
「ほんと? ほんとにそうなのかな?」
「ああ。俺が保証するよ。しのぶは鬼殺隊で一番偉い隊士だって。しのぶは鬼殺隊で一番の功労者になれるって。これから先、ずっと傍で俺が見届けるよ。約束する」
「炭治郎っ・・・」
私は炭治郎の言葉が嬉しくて、思わず涙を浮かべてそのまま彼の首周りに手を回して抱きしめ返す。やがて炭治郎は私をゆっくりと地面に降ろして苦笑いを浮かべた。
「ははっ・・・でも流石に跳び付いて来た瞬間はびっくりしたな。それにほら。しのぶの大声で皆が集まって来てしまったし」
「えっ」
私は振り返る。縁側には姉さん、カナヲ、アオイ、なほ、きよ、すみが勢ぞろいしていた。
「いいわね~! いいわね~! 今のしのぶ見てるだけで私の左半身の後遺症治る気がするわ~? やっぱりしのぶは可愛いもの~!」
「しのぶ姉さん。おめでとう。毒遂に完成したんだね。それと炭治郎と末長く幸せになってね。私、いつまでも見守ってるから」
「しのぶ。いくら嬉しいからって廊下を走ったり炭治郎さんに飛び掛かるのは頂けないわよ? 他の人が見たらびっくりするでしょう?」
「しのぶ様素敵です~!」
「憧れちゃいます~!」
「ですです~!」
私は矢継ぎ早に皆から指摘され次第に真っ赤に染め上がる。思わず顔を覆いその場でうずくまる。
「ううっ・・・穴が在ったら入りたい・・・」
「きゃ~! しのぶ~! なんて可愛いのかしら~? 照れてるしのぶも可愛いわぁ~」
「今のしのぶ姉さん。推せる。尊い」
「カナヲ? 貴方は何を言っているの? それ一体誰の真似?」
「え? 悲鳴嶼さん」
「ひ、悲鳴嶼さんっ!!?? 嘘でしょ!? あの人そんなこと言う人だっけ!? 私信じられないんだけど!!??」
「しのぶ様可愛いです~!」
「恋する乙女です~!」
「見てて癒されます~!」
駄目だ。うずくまっても状況は変わらない。寧ろ悪化する一方だ。結局皆に好き放題言われる始末。私は埒が明かないと思いその場をよろよろと立ち上がって屋敷の中に戻ろうとした。
「研究の続きしてくる・・・炭治郎も頑張って・・・」
「あ、ああ。しのぶもな。でもあんまり根詰めすぎるなよ?」
そう炭治郎とやり取りを躱し、私が顔を覆ったまま縁側まで辿り着いた矢先、突如屋敷の入口の方からハキハキとした大きな声が聞こえた。
「竈門少年は居るか!? それとできれば胡蝶も居ると有難い!! お館様から伝言を預かっている!!」
私は声の主に心当たりがあり咄嗟に振り向く。今の声ってもしかして・・・
「おお!! まさか庭に勢ぞろいしてるとは!! 一体何があったんだ!?」
「あ、煉獄君。お久しぶり。元気かしら~?」
「俺は常に元気一杯だ!! そしてカナエも元気そうで何よりだ!! 心なしか肌ツヤも良いように見える!!」
「そうなの~! ねえねえ聞いて? ついさっきしのぶがね? 炭治郎君に跳び付いて~」
「姉さん姉さんっ!! 良いから!! そう言うの言わなくて良いから!! サボってないで早く仕事戻ってっ!!」
「もう~、しのぶったらいつからそんな寂しいこと言う様になったの~? 姉さん悲しいわ~?」
「そろそろ入院中の人達の診察の時間でしょ!? 私煉獄さんに呼ばれてるから行けないのっ! 代わりに姉さんが行ってきて!」
「もう~、仕方ないわね~。じゃあ煉獄君。私たちはお仕事に戻るから二人のことをよろしくね?」
「心得た!! 毎日の隊士達の治療に診察!! 本当に頭が上がらない!! 鬼殺隊を代表して改めて御礼申し上げる!!」
「いえいえ~、気にしなくていいのよ~? 煉獄君も怪我したら言ってね~? ちゃんと手当してあげるから~」
「済まない!! 本当にありがとう!!」
そうして姉さん達はそのまま波が引くように屋敷の中へと戻っていった。庭に残されたのは私と炭治郎、そして煉獄さんだけとなった。
「竈門少年!! 君に俺が担当する任務の引継ぎを行いたい!! 本当は俺が行く予定だったのだが、お館様直々の御命令だ!! この任務の結果次第で君達二人は正式に柱へ昇格となる!! 心して受けてくれ!!」
「っ!! 俺達が柱になれるかの任務・・・それってまさか!!」
「待ってください煉獄さん。つまりその任務、討伐対象の鬼は・・・」
炭治郎も私も察しが付き反射的に聞き返す。煉獄さんはそれを肯定するかのように頷いた。
「うむ!! 君達の予想通りだ!! この任務では十二鬼月と遭遇する可能性が非常に高い!! 既に40名以上の人が行方不明となっており送り込んだ隊士達も全員消息を絶った!! 本来なら柱である俺が行くべき任務だが、お館様直々のご要望だ!! 口惜しいが君達二人に行ってきてもらう!!」
私たちは息を飲む。そして私はおずおずと煉獄さんに質問した。
「場所は? 一体どこに向かえばいいのですか?」
すると煉獄さんは腕を組みながらはっきりと答える。
「無限列車と呼ばれる汽車の中だ!!そこに巣食う鬼、ひいては十二鬼月かもしれない鬼を必ずや討伐し戻ってこい!! お館様のご期待に何としてもお応えするのだ!!」
続く
早速の改変要素です。煉獄さんは無限列車には着いてこなくなりました。
これが吉と出るか凶と出るか。是非本章を読み進めて結末をご確認下さい。ではでは。
カナヲの恋人候補は?
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冨岡義勇
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時透無一郎
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煉獄杏寿郎
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竈門炭治郎※しのぶ付き
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輝利哉君※産屋敷家へ嫁入り確定
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鬼が存在しないこの美しき世界※独り身