「いやなんで!? なんで俺も伊之助も引っ張り出されてる訳!? 十二鬼月が出る任務なんでしょこれ!! 俺絶対死ぬじゃん!! 死ぬ死ぬ早く帰らせてぇえ!!!」
「ガハハハッ!! 十二鬼月が出てくるとは面白れぇ!! 腹が減るぜっ!!」
「腕が鳴るの間違いでしょ? ほんとにアンタ達はもう・・・」
私たちは現在汽車の中で駅弁を食べながら言葉を交わしていた。この場には私と炭治郎、善逸、伊之助、それと箱の中で眠っているけど禰豆子ちゃんが居た。最早おなじみの面子だった。
「だいたいさぁ!! なんで炎柱の煉獄さんって人来ない訳!? 本来ならあの人の任務だった訳でしょコレ!! どうせなら俺なんか置き去りにしてあの人が出張って来ればいいのに!! アアアアア!! もう嫌ァアアア!!!」
「善逸。他の人の迷惑だから大声出すのやめなさい。伊之助を見習って。彼はちゃんとできてるでしょ?」
「うめぇ!! なんだこの飯!! 滅茶苦茶うめぇ!!」
「これって静かにしてるって言えんの?」
「アンタよりはマシよ。いいから黙って弁当食べなさい」
「いや!! 鬼が出るって聞いてるのにおちおち弁当なんて食べてられないよ!! なんで柱一人も来ないんだよ!! 上の人達サボってんの!? もう怖い!! 帰りたいっ!!!」
「善逸。仕方がないだろう? 煉獄さんが言うにはこれは俺としのぶの柱昇格試験を兼ねた任務だって言う話だし。他の柱までいたら戦力過剰で俺たちの実力を測ることができないってことみたいだから」
「いいじゃん戦力過剰で!! もし強い鬼出たらどうすんの!? 前の那田蜘蛛山みたいに上弦とか来たら俺達全員殺されちゃうじゃん!! 俺あんな化け物と遭遇するの懲り懲りなんだけど!!」
「うるせぇ文逸!! 上弦だろうが何だろうがぶっ倒せばいいだろうがっ!!」
「お前は上弦の壱と遭遇してないからそんなことが言えんのっ!!!! アレマジで化け物だから!! 視線が合っただけで殺されると思ったわ!! ああ!! やだやだやだやだ!! 帰りたいィイイイ!!」
私は溜息をつき無言で善逸の弁当に無色透明の粉をまぶす。
「いや待ってしのぶちゃん!! なにさり気なく俺の弁当に薬物振りかけてくれてんの!?」
「善逸五月蠅い。いいからそれ食べて早く眠りにつきなさい」
「なんかサラリと怖いこと言ってる!? しのぶちゃん何してくれてんの!? 食べ物にそんな劇物ふり掛けないでよ!! これ捨てるしかなくなったじゃん!!」
「なんだ文逸喰わねぇのか!? だったら俺が貰うぜ!! この弁当滅茶苦茶うめぇからなっ!!」
「やめろ伊之助!! やめろ!! 悪いことは言わない!! お前これだけは食べるのやめとけって!! 絶対後で後悔するって!!」
「はぁああ!!?? ふざけんな文逸!! 食い意地張ってんじゃねぇぞ!! 今お前これ喰わねぇっつっただろうがっ!!」
「お願いしのぶちゃん!! 伊之助が服毒自殺しようとしてるから止めてあげて!! こんな死に方するなんてあんまりだよ!?」
「大丈夫。それただの岩塩だから。このお弁当少し塩見が薄いから寧ろ丁度良いと思うわ」
「えっ」
「うめぇ!! さっき食った飯よりもうめぇ!! しのぶ!! ありったけそれよこせ!! 全部かけて俺が平らげるぜっ!!」
「適量ってもんがあるでしょ? ほら貸しなさい。丁度良い量振りかけてあげるから」
「ガハハハッ!! これならいくらでも食えるぜ!!」
そんな茶番劇を騒がしく続けてるうちに周囲の乗客が全員寝息を立てていることに気づく。私は近づいて来る車掌に一層警戒心を吊り上げた。
「切符・・・拝見・・・します」
「皆。車掌さんが来たぞ。早く切符を出してくれ」
「炭治郎。待って。私に全員分渡して。それを一度に切ってもらうから。その後も貴方達は警戒を緩めないで」
「え、しのぶ、それは一体どういう・・・えっ!?」
切符に斬り込みをつけられた途端、私の意識はそこで途絶えた。最後に炭治郎の驚く顔が見えた。
「うん。やっぱり血鬼術だったわね。あの子たち私の二の舞三の舞になってないといいけど」
気が付けば私は幼い頃過ごした旧胡蝶家の屋敷の中に居た。しかし奇妙なことに今私が着ているものは隊服でも昔来ていたお気に入りの着物でもない。
どういう訳かまっさらな白無垢だった。これは一体・・・
「あら? しのぶ。もう準備できてるみたいね? じゃあ早く彼にその晴れ姿見せてあげなさい?」
「姉さん。どういうこと? これは夢?」
「もう! 今更何言ってるのしのぶは! 今日は待ちに待った念願の日でしょ? 姉さん本当に嬉しくって! さあさあ早くこっちにいらっしゃい」
私は姉さんに手を引かれ、屋敷の広間へと牽引される。ふすまを開けるとそこには驚くべき光景が広がっていた。
「わあ! しのぶ! とっても綺麗だよ! その白無垢凄く似合ってる! 俺はしのぶと今日一緒になれて本当に幸せだよ!!」
「え・・・た・・・炭治郎っ!?」
なんとそこには紋付袴の炭治郎が待機していた。私は目を見開く。何これ。一体全体どういうこと?
「うふふっ! しのぶったら夢みたいって顔してる~! さあさ、いつまでも呆けてないで早く炭治郎君の隣に座りなさい。今日は二人の祝言よ! 私達総出で盛大にお祝いするわっ!」
「え・・・嘘・・・炭治郎・・・これって・・・」
「おいで。しのぶ」
気が付いたら私はこれが夢だという認識を忘れ去っていた。警戒心を微塵も解いてなかったはずなのに。いや、恐らくきっと頭の片隅では気づいてた。これは鬼が用意した都合の良い夢なんだって。
でも私は抗えなかった。こんな夢。卑怯じゃない。望んで止まない光景が今目の前にある。失ったはずの家族の幸せも、最愛の人との祝うべき人生の門出も。全部全部用意されてしまっている。
もう私はこれが夢だろうが何だろうがこの時はどうでもよくなってしまっていた。
「どうしたしのぶ? なんで泣いてるんだ?」
「うっ・・・うっ・・・」
粛々と私達二人の祝言が執り行われていく。私はその間感涙にむせび泣いていた。ここでは鬼に殺されたはずの私たちの家族も皆生きている。そして私達二人を祝福してくれる。
姉さんだって童磨にやられた後遺症もない。隣には不死川さんも居て、何やら世辞を述べている。竈門一家、胡蝶一家に加えて、他にも柱の皆さんや蝶屋敷の皆までも居る。なんて都合の良い夢なんだ。
「今日から私、しのぶさんのこと、しのぶお姉ちゃんって呼ぶねっ! 本当におめでとうっ! しのぶお姉ちゃんっ!」
「ね・・・禰豆子ちゃん・・・」
鬼に変えられてしまった禰豆子ちゃんすら元の可愛らしい人の姿で私のことを祝福してくれる。私は思わずお姉ちゃんと呼ばれたことに感動してしまう。
それにしても炭治郎が言ってた通りだわ。禰豆子ちゃんてこんなに綺麗な子だったのね。きっと将来立派な男性と夫婦になるに違いないわ。
「そ、それでね、しのぶお姉ちゃん。実は相談があるの。実はこの前、善逸さんに求婚されて。私どうしようか悩んでて・・・」
「悪いことは言わないわ。その話すぐに断りなさい。あんな騒がしいだけの屑、禰豆子ちゃんに相応しくないから」
「そ、そうなんだ。わ、わかった。申し訳ないけど善逸さんにはさり気なく断っておくね。相談に乗ってくれてありがとうっ! しのぶお姉ちゃんっ!」
よりにもよって・・・なんで善逸が禰豆子ちゃんと夫婦になろうなどとしているのか。甚だしい思い上がり。
「どうしたしのぶ? そんな怖い顔して。善逸はそんなに駄目なのか?」
「駄目に決まってるでしょ。アイツ女にだらしない上に直ぐ泣くし男として頼りないわ。せめて炭治郎と同じ位根の良い立派な男の人と一緒になるべきよ。じゃなきゃ禰豆子ちゃんが可哀そうじゃない」
「そうか。でもしのぶがそう言うならそうなんだな。善逸には悪いけど今度俺からも禰豆子は渡せないってはっきり伝えておくよ」
善逸。貴方が根はまともな子であることは知ってるけど、それでも禰豆子ちゃんみたいに優して気立ての良い子は貴方にとって高嶺の花よ。今後は手が届くなどと努々思わないことね。
やがて式も概ね終了し、私と炭治郎以外の人達は帰ってしまう。気がつけば外は夜だった。何これ。いつの間にか白無垢が消えて代わりに寝巻に変わってるし。
「おいで。しのぶ」
ふと周り見渡す。私たち二人が居るのは寝所だった。私と炭治郎はお布団を隣同士にくっつけて並べて、いつの間にか向かい合っていた。そして優しく甘い声で炭治郎が私に囁く。
「た、炭治郎・・・でも私・・・」
「ん? どうしたんだしのぶ。俺とじゃ嫌か?」
「っ! い、嫌じゃないけど・・・でもっ!」
炭治郎はしびれを切らしたのか距離を詰めて優しく私の髪を撫でる。思わず私の頬が朱色に染まる。
「とっても綺麗だよ。しのぶ」
「うっ・・・」
「俺はしのぶと夫婦になれてこの世の誰よりも幸せだと思ってる」
「た、炭治郎・・・でも私・・・」
「どうしても嫌なら言ってくれ。途中で辞めるから」
「え・・・えっ! 待ってっ! 炭治郎っ!! 私まだ心の準備がっ!!」
炭治郎は私をゆっくりと優しくお布団の上に横にさせて私に覆い被さろうとする。私の心臓が早鐘のように鳴る。
「しのぶ。愛してるよ」
「ううっ・・・」
「この世で一番に君を愛している。本当だ。しのぶに誓うよ」
「た、炭治郎・・・」
「しのぶはどうかな? 俺のことを愛してくれてるか?」
「も、勿論よ。愛してるわ。だけど・・・」
私は抗いがたい誘惑に思わず屈してしまいそうになる。炭治郎の口づけが私に落とされそうになる瞬間、私は炭治郎を押しのけ上体を起こした。私の呼吸が思わず乱れる。
「しのぶ・・・どうして・・・」
「ごめんなさい。炭治郎。私だって炭治郎とずっとこうして居たい。いつか夫婦になって愛を囁き合って愛し合って子どもを産んで二人で家族をつくって幸せに生きていきたい。でも・・・」
私はその場を立ち上がり炭治郎を見下ろす。
「私は現実で炭治郎とそうなりたいの。家族を殺されて、鬼と戦い続けなくちゃいけなかったとしても、私は現実で炭治郎と一緒になりたい。それが嘘偽りのない私の本音だから・・・」
「そうか。うん。そうだよな。しのぶなら絶対そう言うと思ってたよ。俺は信じていた」
すると私も炭治郎も全身から桃色の炎が立ち上る。私は一瞬慌てるも炭治郎がそれを制する。
「大丈夫。これは禰豆子の血鬼術だ。恐らく鬼が仕掛けたこの茶番の夢を解いてくれてるんだろう。じきに目が醒める」
「炭治郎。今の貴方は幻じゃないの?」
「今君の前に居るのは、しのぶが思い描く俺自身の姿だ。これは鬼が意図的に作り出したものじゃない。けどそうだな。それでも最後に一つだけ言い残しておきたいことがある」
禰豆子ちゃんの炎が一層全身を包み、視界が閉ざされそうになる瞬間、炭治郎は笑みを浮かべて私に語り掛ける。
「勝つぞ。しのぶ。必ず鬼を倒して無事に生還するんだ。この夢の続きは帰った後にしよう。いつかきっと叶うはずだから」
「炭治郎・・・うんっ! 絶対生きて帰りましょうっ! 私、炭治郎と一緒に生きる為ならなんだってするから! 上弦だろうが何だろうが絶対返り討ちにしてみせるっ! 私達ならきっとできるわっ!」
そうして、目の前の視界が完全に閉ざされた。意識が徐々に浮上していく。
「むー! むー!」
「・・・ね・・・禰豆子ちゃん・・・」
私が目を開けるとそこは異空間のような光景が広がっていた。まるで鬼の腹の中だ。
私はすぐさま日輪刀を引き抜いた。鉄珍様が鍛えてくれた私だけの新しい特別な刀。私の編み出した新たな呼吸用の鞘と一対の日輪刀だ。これで炭治郎を必ず守って見せる。
続く
次回、遂にしのぶが蟲の呼吸を使い始めます。ここまでが本当に長かった。それにしても魘夢の血鬼術ってリア充じゃないと破れないですよね。現実にうんざりしてる人にはクリティカル過ぎる。まるで無限月読。
余談ですが何でも魘夢は度々病気の人に完治した夢を見せた後、現実に引き戻して絶望させて遊んでたようです。控えめに言って糞野郎。狛治さんだったらブチギレて殴り殺す事必至でしょうね。
カナヲの恋人候補は?
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冨岡義勇
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