胡蝶家の縁壱とお労しい姉上   作:科学大好き人間

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しのぶ視点です。しのぶVS珠世です ※物理的にバトる訳ではありません


59話 痣だって病気みたいなもの

「本日はお招き頂きありがとうございます。無理を承知で押し掛けてしまい申し訳ございません。珠世さん」

 

「いえ。こちらこそ柱就任後の忙しい中、私たちの下に足を運んで下さりありがとうございます。お元気そうで何よりです。しのぶさん」

 

 

私は文通で珠世さんの拠点の住所を聞き出して、巡回任務の傍らで彼女の新しい洋館に立ち寄っていた。

 

珠世さんは洋式の机の前で椅子を引いて私を座るよう促す。少し間を置いて、愈史郎が紅茶を用意して部屋に現れた。

 

 

「これ高いんだぞ。有難く飲めよ。しのぶ」

 

「ありがとう。愈史郎。頂くわ」

 

 

すると愈史郎は扉の前まで下がって待機する。彼も事情を知って居るのか傍で私たちの話を見守るようだ。特段口を出すつもりもなさそう。

 

私は紅茶に早速口をつけ、軽い挨拶を交わした後本題に移る。

 

 

「今日は炭治郎の痣の件でお伺いしました」

 

「はい。聞き及んでいます。まさか縁壱さんの痣のようなものにそんな疾患があったなんて」

 

 

珠世さんは始まりの呼吸の剣士、継国縁壱のことを知って居るようだった。なんでも彼女が鬼舞辻無惨の呪縛から解放される契機になったのが、正しく彼との邂逅によるものだったらしい。

 

 

「痣は寿命の前借り。それ故に発現した者に凄まじい力を与えるのですね。彼の剣技が神がかって見えたのもその為でしょうか。本当に凄まじい御業でした」

 

「当時のことを覚えてらっしゃるのですね」

 

「ええ。一日も忘れたことはありません。彼が居なければ今こうして貴方達と会い鬼舞辻を滅ぼすための研究も出来ていなかったでしょう。感謝してもし切れません」

 

「その縁壱さんという人は二十五以降も生きてたんですよね?」

 

「え? そうなのですか? 私は鬼舞辻から解放して下さったあの日以降一度もお会いしてないのでそれはわかりませんが・・・」

 

「お館様は彼のことを『例外』と言っていました。恐らく生まれつき痣のある者は寿命の制約を受けないのでしょう。前借りして後天的に発現したのとは事情が違うので」

 

「成る程。先天性と後天性の痣で寿命への影響が違うのですね。充分に考えられます」

 

「炭治郎は後天的に痣を発現させました。上弦の壱、黒死牟も後天的に痣者となり、共に戦う柱達が痣でバタバタと事切れて亡くなる様を見て、早死にすることに怖気づいて鬼になったと言ってました」

 

「しのぶさんは会ったのですね。その者と」

 

「はい。私と境遇が似ていると嘯(うそぶ)くとんでもない鬼でした。今思い返すだけで腹が立ちます」

 

「そうですか。それで炭治郎さんを鬼にすることを思いついたのですね? しのぶさんは」

 

「・・・はい。どうか今一度ご再考を・・・」

 

「お断りします」

 

「っ!!」

 

 

私が頭を下げて頼み込んだ途端、珠世さんは明確にそれを拒否した。一瞬で私の頭に血が昇る。

 

 

「どうしてですか!! 珠世さんは以前言っていましたよね!? 余命幾ばくも無い患者の方には鬼化の処置をするって!! 別に今すぐ鬼にして欲しいなんて言ってません!! 炭治郎が寿命を迎えるその直前に・・・!!」

 

「炭治郎さんは患者ではありません。私の手で彼から人としての人生を取り上げることはできない」

 

「痣だって病気みたいなものでしょう!? 黒死牟もお館様も言っていた!! 痣者が現れると共鳴するかのように周囲に痣者が現れるって!! 正に感染症のようなものじゃないですか!!」

 

「それは炭治郎さんの血を調べてみないとわかりません。本当にそれが病と断定できる代物なのか否か」

 

「わかりました。なら今度炭治郎の血を採血して持ってきます。そしたら彼を鬼にしてくれるんですよね?」

 

「・・・しのぶさん・・・それは・・・」

 

「どうして珠世さんも炭治郎も認めてくれないの!? どうして死ぬってわかっているのに拒否するの!? どうしてっ!!」

 

 

私はつい感情的になり大声を上げる。愈史郎の動く気配がするが、それを珠世さんが手で制す。

 

 

「やはり・・・炭治郎さんは鬼にはならないとそう仰っているのですね?」

 

「・・・はい・・・」

 

「ならやはり彼を鬼にすることはできません。確かに私は不治の病に侵され、それでも生きたいと願った患者には鬼化の処置を施します。そしてそれは私と患者間での同意が伴ってのものです。そこに居る愈史郎のように」

 

「・・・・・・」

 

 

私は無言で愈史郎に振り返る。彼は腕を組んで鼻を鳴らしていた。

 

 

「ふん。言っておくが俺は一度たりとも珠世様に鬼にして頂けたことを後悔などしていない。事前に充分な説明を受けて納得の上で鬼になったのだ。だが・・その・・・お前の言う炭治郎の場合は違うだろ?」

 

 

私は言い返せなくなる。そうだ。言われなくたってわかってる。これは私の我儘であると。炭治郎は短命で生きることを受け入れている。現実を直視できず苦悩しているのは私だけなんだって。

 

 

「しのぶさん。私はどんな事情があろうと本人が望まぬ鬼化は決して致しません。それではあの生き汚い男と一緒になってしまいます。己の目的の為に利用し弄び快楽の為に他者の人生を狂わせるなど、私にはそんな非道な真似はできません」

 

「・・・珠世さんは・・・そんな人じゃ・・・」

 

「私は鬼になった後自暴自棄になって何人も喰い殺して来ました。それなのに今はこうして人の人生を壊したくないと願い病人や怪我人の治療に没頭するのはある意味私のエゴなのかもしれません。ですがこれが、私にとって人であることの最後の砦なのです。ご期待に沿えず申し訳ありません」

 

「・・・・・・」

 

 

私は、炭治郎の行く末が十年以内の死であると確定した事実に、この世の終わりのような顔をしていたと思う。それを痛ましそうに珠世さんは見つめる。

 

 

「どうしても・・・駄目なのですか・・・」

 

「・・・はい・・・」

 

「最愛の人と少しでも長く一緒に居たいと思う事すら・・・私には許されないのでしょうか・・・」

 

「しのぶさん・・・それは・・・」

 

 

私はポロポロと涙を溢す。声が震える。

 

 

「私・・・やっと炭治郎と想いを通じ合わせて・・・これから先ずっと一緒に生きていけると思ってたのに・・・二人で歳を重ねてしわくちゃのお爺さんお婆さんになるまで一緒に生きられると思ってたのに・・・炭治郎さえ居てくれたらもう何も要らないのに・・・そんなささやかな願いすら許されないって言うの?」

 

 

私は嗚咽を漏らす。机に手を着いて突っ伏すように項垂れる。

 

 

「こんなことなら・・・鬼狩りになんてなるんじゃなかった・・・こんな辛い思いをするくらいなら・・・初めから炭治郎と出会わなければ良かった・・・うっ・・・うっ・・・」

 

 

すると珠世さんは席を立ち、私の隣に移動して肩に手を置いた。

 

 

「しのぶさん。そんなことを言ってはいけません。そこまで言ってしまえば炭治郎さんの気持ちすら踏みにじることになってしまいます」

 

 

私はその瞬間、嗚咽を引っ込める。その瞬間、どうしようもない葛藤が胸中で沸き起こる。

 

 

「ならどうすれば良いって言うんですか・・・」

 

 

私は涙を拭うことをせず顔を上げて珠世さんを見上げる。

 

 

「だったら私はどうすれば良いって言うんですか!! 貴方は炭治郎のことを救ってくれない!! 私にはどうすることもできない!! じゃあいっそ鬼舞辻無惨に魂でも売って炭治郎を鬼にして貰えってことですか!?

 それこそ炭治郎が承知するはずがない!! 私も炭治郎も既に柱なんです!! そんな鬼殺隊を裏切るような真似!! 死んでもできませんよっ!!

 なら後は彼の命の灯が潰えるのを黙って見ていろってことですか!? そんなの・・・私には辛過ぎて耐えられない!!!!!」

 

「しのぶさん。諦めてはいけません」

 

「は!? 何を!! 何を諦めるなって言うんですか!? 説得を受け入れてくれない珠世さんの気が変わるのを辛抱強く待てとでも!? 炭治郎が心変わりするのを待てとでも言うんですか!? 他ならぬ貴方自身が!!??」

 

「おいしのぶ!! いくらお前でもそれ以上の珠世様への無礼は許さんぞ!! いい加減に・・・!!」

 

「愈史郎」

 

 

すると珠世さんは静かに愈史郎さんを制止した。彼は酷く驚くような顔をしていた。

 

 

「どうしてですか珠世様!! 今のしのぶはどう見ても冷静に物事を判断できるような状態ではありません!! 多少強引にでも言い伏せて止めるべきです!!」

 

「そうですね。だからこそ、私たちは苦悩を抱えた彼女が納得する道を差し示してあげねばなりません」

 

「珠世様・・・一体何を・・・」

 

 

すると彼女は私に目線を合わせる。珠世さんの目は真剣そのものだった。

 

 

「しのぶさん」

 

「な、なんですか・・・」

 

 

私は涙を拭う。それをゆっくりと待って、珠世さんはある提案を口にした。

 

 

「この世で治せない病などありません。鬼も痣も病気として考えるなら、等しく治療法が存在するはずです」

 

「え・・・」

 

「まだ十年あります。その猶予で私としのぶさん、二人掛かりで痣者の寿命を延ばす治療法を確立させましょう。大丈夫です。私達二人が心血を注いで取り組めばきっと叶います。だから諦めてはいけません」

 

 

珠世さんはそう優しく諭すように言って聞かせる。私は目を丸くする。

 

 

「でもそんな・・・痣は呪いの可能性だって・・・」

 

「そんなもの調べてみなければわかりません。しのぶさんが仰ったんですよ? 痣だって病気みたいなものだろうと。私も同意見です。痣者と接することで痣者が増えるならそれは正しく感染症そのもの。ならきっと原因を特定し有効な方法が試せるはずです。一縷の望みですが、私達二人で取り組んで見ませんか?」

 

「珠世さん・・・」

 

 

私は再び涙を溢しそうになる。でもこれは悲しい涙じゃない。珠世さんがここまで親身になって私たちのことを考えてくれた事実に、私は言いようのない頼もしさを感じてつい感激してしまったのだ。

 

私は珠世さんに抱き着いた。

 

 

「ううっ! お願いです珠世さん!! 私・・・まだまだ炭治郎と一緒に生きたいんですっ!! だからどうかお願いします!! 私に力を貸してください!! 私にできることなら何でもします!!!」

 

「ええ。勿論ですよ」

 

 

私はそのまま暫くの間、珠世さんの胸の中で泣き続けていた。十六にもなって幼子と変わらぬように。それを愈史郎さんは思うところはありつつも渋々受け入れている様子だった。

 

やがてそのまま夜が更けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すみません珠世さん。何だか私、子供みたいに泣いて甘えるような真似までしてたみたいで・・・」

 

「良いんですよ。私も嬉しかった。まるで我が子を抱きしめているような気持ちでしたから。また泣きたくなったらおいでなさい。いつでも慰めてあげますから」

 

「うっ! そ、それは・・・恥かしいんで止めておきます! 私、こう見えてもういい歳した十六ですし・・・」

 

「あら? いいんですよ? 寧ろ甘えに来てくれた方が私も嬉しい。私のことは母親代わりだと思っていつでも頼りに来て下さい。それに・・・」

 

 

珠世さんは嬉しそうに頬に手を当てる。

 

 

「炭治郎さんとの惚気も是非聞かせに来てね? 恋の相談なんてもう何百年も聞けていなかったもの。文通とは言え度々相談してくれて私嬉しかったわ。これからも遠慮しなくていいのよ?」

 

「だ、大丈夫です!! あれはその・・・つい勢いで書いてしまっただけなので!! 忘れてください!! それじゃさよなら!!」

 

「はいはい。またね、しのぶ」

 

「気をつけて帰れよ。あと次はちゃんと珠世様への手土産を持参しろ。手ぶらで頼み事とかお前は少々図々しいんだよ」

 

 

そうして私は大慌てで珠世さんの洋館を立ち去った。急いで戻らないと。蝶屋敷の皆が心配するだろうし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

炭治郎。私頑張るからね。うまくいくかわからないけれど、必ず貴方が長生きできるよう、痣の寿命を延ばす治療法を珠世さんと共に確立して見せるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 




しのぶも漸く今後の展望が定まって落ち着きましたね。これで今後はとち狂ったことは言わないと思います(多分)。
さて、次回から遊郭編です。乞うご期待。

カナヲの恋人候補は?

  • 冨岡義勇
  • 時透無一郎
  • 煉獄杏寿郎
  • 竈門炭治郎※しのぶ付き
  • 輝利哉君※産屋敷家へ嫁入り確定
  • 鬼が存在しないこの美しき世界※独り身
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