皆さんは世の中のちびっ子達に遊郭、遊女、花魁の説明を求められたらどう答えますか? 実に難解極まれり。
「じゃあ作戦の内訳をまとめるぞ? 京極屋にカナヲ、荻本屋に神崎と嘴平、ときと屋にしのぶと我妻を潜入させる。それぞれの店に俺の嫁の雛鶴、まきを、須磨が先んじて潜入してるから、お前らは基本手引きに従って鬼を探せ。見つかり次第俺かカナヲかしのぶの誰かしらに知らせろ。ここまでで何か質問とかあるか?」
宇随さんが簡潔に任務の概要を説明し終わる。私もカナヲもアオイも特に質問はなかった。だが不意に善逸が不満げな声を上げた。
「なんでオッサンみたいな意味不明な化粧した奴が嫁三人も居んだよ。世の中不公平過ぎんだろ」
その瞬間、善逸の腹部に何度目かわからぬ拳が振り抜かれる。善逸は悶絶する。
「他に何か質問ある奴居るか?」
「痛い・・・アバラ折れちゃう・・・俺も炭治郎みたいに蝶屋敷に残りたい・・・」
「善逸が嫌なら残れば?」
「うぅ~。行くよぉ。嫌だけど行くってぇ。炭治郎にしのぶちゃんのこと頼まれてるし。てか俺が残るとあいつアバラ骨押さえながらでも任務について来ようとするじゃん。しのぶちゃんもあんまり炭治郎に心配かけんなよ。可哀そうじゃんか」
「・・・・・・」
善逸の反論を聞いて私は閉口する。炭治郎は既に病室に戻ったが、彼は最後まで任務についてこようと食い下がっていた。でも私が断固拒否し宇随さんが理路整然と宥めて渋々彼は納得した。怪我が治り切っていない自分自身では足手纏いになると。だから炭治郎は去り際、善逸に懇願するように頼み込んだのだ。
『頼む善逸。俺の代わりに・・・しのぶをどうか守ってくれ。お前にしか頼めない』
炭治郎はそう言い残して道場を去っていった。正直彼に心配をかけて心が痛む。本当は私だってこんな任務引き受けたくない。でもカナヲとアオイを送り込んで私だけ行かない訳には行かないし、余り任務を長引かせると来週の姉さんの祝言に間に合わなくなってしまう。是が非でも姉さんを祝うために、速攻でこの任務を終わらせて帰れるよう私は力添えする腹積もりだった。
「うし。明日の昼には現地に最寄りの藤の花の家紋の家に集合だ。今日は兎に角、身支度して休め。その代わり、明日からは頼むぜ?」
そうして任務の打ち合わせを終了し、全員その場を解散した。
そして翌日・・・
私は最近花魁になったばかりの須磨さんの禿になっていた。手筈通り宇随さんにときと屋へと売り飛ばされた後、根回しが済んでいたのか流れるように私は須磨さんの仕事部屋で合流した。
この辺の手際の良さが、かつて彼女たちがくノ一として闇の世界の住人であったことを実感させられる。
「貴方がしのぶちゃんですね! わあ凄い! 貴方も天元様と同じ鬼殺隊の柱なんて! こんなに小っちゃくて可愛いのに見かけによらず凄腕の剣士なんですね?」
「えっと・・・まあはい・・・鬼の頸が斬れないので凄腕の剣士かは分かりませんが・・・柱です・・・一応」
寧ろ見かけによらないのは貴方の方ではと思わず口にしそうになった。須磨さんは底抜けに明るくどこか抜けていて年上だけど愛嬌のある可愛げな女性だった。
しかも潜入してからどれくらい活動してるのかわからないけれど既に花魁。他の宇随さんの奥様方はまだ花魁ではないと聞いていたので、そう言う意味では彼女も突出した何かを修めたくノ一なのだろう。私は内心舌を巻く。
「そうだ! 善子ちゃんでしたっけ? 基本はあの子にお店内の索敵を任せるんですよね?」
「はい。彼は耳が良いので。私達が探し回るより安全で効率が良いと宇随さんはそう判断したそうです」
「あ! ダメですよしのぶちゃん! 『彼』じゃなくて『彼女』でしょ? ここでは善子ちゃんは女の子なんだから呼び方は注意して下さいね? うっかり他の人に聞かれると不味いですし!」
善逸も面倒な役目を押し付けられたものだわ。宇随さんに適当な化粧まで施されて私と一緒に売られたばかりか、私のような花魁の禿という好待遇で潜入したわけでもなく、一芸妓としての立場で放り込まれた訳だから。
でも彼の聴覚はこの手の任務では非常に強力な武器だ。ここは思う存分善逸の長所を活用するとしよう。そんな訳で私は須磨さんと情報交換を続ける。
「因みにこのお店で何か不信なことはありませんでしたか? 例えば遊女が人知れず行方を眩ませたりとか・・・」
「あ~、足抜けのことですか? 確かに時々ありますね~」
「あ、足抜け?」
「遊女が借金を返し切らないでお店から逃げ出すことですよ? まあ定期的にそういう子はどの店でも出てると思いますけどね?」
「詳しく聞かせてください」
私は須磨さんから聞き取りを行う。足抜け。突如として遊女が姿を眩ますそれは、実に鬼にとって都合の良い隠れ蓑だった。もし裏で喰い殺されても奴らの手で簡単に誤魔化せる。私はその内容を聞いて一層警戒心を吊り上げた。
「このお店でも定期的に出ますか? 足抜けする人というのは・・・」
「はい。居ますよ? でも数ヶ月に一回位みたいです。ここのお店は比較的遊女同士の仲も良くて女将さんも意地悪い人じゃないし楼主の人もそんなに酷い人じゃないから少ない方だと思います。もう一人の花魁でもある鯉夏さんもとても優しいですし」
「もう一人の花魁・・・」
「あ! 良かったら会ってみます? 今日はもう無理だと思うけど、明日の空いてる時間だったら・・・」
「はい。是非お願いします」
女将、楼主、花魁。この辺りは特に怪しい。
通常の遊女に鬼が化けてたとしても然程融通は利かない立場だろう。人を狩るには不便に違いない。
でもお店である程度の地位を築いている者ならば? 証拠改竄やアリバイ工作も比較的容易だろう。足抜けと見せかけ定期的に鬼として人を狩るのも都合が良い。
容疑者は他にも居るだろうけど、だからこそ順番に一つ一つ可能性を潰していかなければ。
「さて。じゃあ初日ということもあるし、私から色々と教えてあげますね? 女将さんからもアレコレ仕込んでやれって言われてるし。形だけでも進めないと・・・」
「え、仕込む? 一体何を・・・」
すると須磨さんは雰囲気を一転させ、もう一つの顔を覗かせる。彼女の声色にやや甘い熱が籠る。
「しのぶちゃん。今の貴方は遊女なんですよ? それも花魁の芸を見て盗み、お店の利益の為により大成することを期待されている禿なんです。任務中は貴方にお客を取らせるつもりはないですけれど、でもやっぱり最低限の知識や技能は覚えて貰わないと。心の準備は良いですか?」
「えっ・・・」
すると須磨さんは私に距離を詰める。彼女が目と鼻の先まで顔を近づけることで、花魁の使用する上等な匂い袋の香りが鼻腔を突く。
「須磨さん・・・一体何を・・・」
「何って花魁直々の実践稽古ですよ? しのぶちゃんもある程度基礎的なことは覚えておかないと。いざ女将さんや他の遊女の人とお喋りする時に思わずボロがでちゃうと思いますし」
すると須磨さんはあろうことか着物越しとは言え私の身体の至る部分に手を伸ばし、そのまま慣れた手つきで撫で始めた。
「へ???」
「うふふ。可愛らしい反応ですね~?」
「は??? ちょっと!! 須磨さんっ!! 何してるんですか!!」
「う~ん。折角のお試し遊女期間という事で、少しだけそれっぽいこと教えてあげようっと思ったんですけど~・・・」
「いいですからそういうのっ! 興味ありません!! それに私をナデナデして良いのは姉さんだけですっ!」
「え? 本当に? 随分としのぶちゃんってば無欲なんですねぇ」
「え・・・」
私が須磨さんを引き剥がした直後、須磨さんは不意にそう呟く。
「もし興味があれば私がくノ一や遊女期間中に磨き上げてきた殿方を骨抜きにする技を教えて差し上げるつもりだったんですけどね? でも将来結婚して旦那様と濃密に過ごすとかそう言った憧れもないのであれば確かにこれは無用の長物で・・・」
「ま、待って下さいっ!!」
私はすぐさま自身の主張を翻す。
「須磨さん。発言を撤回させて下さい。是非ともその技をお教えいただけないでしょうか?」
私の急な変わり身に、須磨さんは思わずといった形でポカンとしている。私はもじもじしながら必死に弁明する。
「そ、その・・・実は私、既にお付き合いしている人が居るんです。将来その人と結婚することも視野に入れておりまして。だからその・・・」
すると一転し、須磨さんは何だか微笑ましい物を見るような目つきで私を見つめる。
「あらあら。しのぶちゃんも隅に置けないですね~? でも私すっごく安心しました。てっきりしのぶちゃんみたいに柱になる女性は皆結婚とかそういう俗っぽいことに微塵も興味ないものだとばかり思っていましたから」
「い、いえ! やはりそこは、その・・・女である以上どうしても考えてしまうと言いますか、意中の相手とはやはり仲睦まじく過ごしたいと言いますか・・・願望が、その・・・」
「うんうん。良いですよ~? しのぶちゃんがそこまで乗り気であるなら折角なので教えてあげちゃいます! 未来の旦那様と夫婦円満になれるよう是非頑張って覚えましょうね~?」
「は、はい! ご指導ご鞭撻のほど何卒宜しくお願い致します!!」
そうして営業時間を迎えるまでの間、私は経験豊富な須磨さんから、夫婦円満たる秘訣は何たるかを粛々と習い学ぶのだった。
続く
当初花魁稽古の描写を書こうとしていましたが思い直して断念しました。普通に考えてR指定的にアウトですし。結果的にしのぶの貞操は守られた(おい)。
カナヲの恋人候補は?
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冨岡義勇
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時透無一郎
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煉獄杏寿郎
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竈門炭治郎※しのぶ付き
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輝利哉君※産屋敷家へ嫁入り確定
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鬼が存在しないこの美しき世界※独り身