「カナエ様ー! ご結婚おめでとうございますー!」
「「おめでとうございますー!」」
「おめでとうございます。カナエ様。どうか不死川様と末長くお幸せに」
「おめでとう。カナエ姉さん。白無垢姿とっても綺麗だよ? カナエ姉さんが幸せそうで私も嬉しい」
「うっ! ひっく! うぇええええん!! 姉さぁん! 姉さぁああああん!!」
遂に待ちに待った姉さんの祝言の日。私達は吉原遊郭での上弦討伐任務を終えて、誰一人欠けることなくこうして姉さんの晴れ姿を拝んでいるところだった。
「こらしのぶ。そんなに号泣することないじゃない。姉さんはしのぶの笑った顔が好きだなあ」
「しのぶ。泣き過ぎだぞお前ェ。そんなんで本当に姉離れできんのかァ・・・」
新郎新婦を困らせる私はすぐさま蝶屋敷の面々に引き下げられた。甚だ心外だ。私はただ姉さんの幸せを誰よりも願っているだけなのに。
本当なら蝶屋敷の道場を一日貸切って、私が主導で準備に準備を重ねて盛大にお祝いしたかったところなのだが、先週宇随さんが道場を派手に吹き飛ばしたせいで急遽不死川さんの御屋敷の広間で二人の祝言を執り行うことになった。私は行き場の失ったこの想いを周囲にまき散らしていた。
とは言え、今この場には私や蝶屋敷で働く面々だけでなく、姉さん所縁の方々、柱の面々も大勢集まって、心から二人の門出を祝っている。
皆が皆、二人を笑顔で祝福していたが、私は遂に感極まり過ぎて、感情の制御がこれ以上ない程できなくなり、いつしか子供返りしたかのように盛大に大号泣していたのである。
「うぇええええん!! やだぁあああ!! 姉さん行っちゃやぁあああ!! ずっと蝶屋敷に居てってばぁああああ!!」
「ちょっ!? こらしのぶったら! 何お祝いの席でアホなこと言ってるの!? 流石のカナエ様も困ってるじゃない!」
「しのぶ姉さん。落ち着いて。別に一生会えなくなる訳じゃないんだから。だから一緒にカナエ姉さんのお祝いしよう。ね?」
「やだぁあああ!! ずっと姉さんと一緒に居るのぉおおお!! 私も風柱邸に住むぅううううう!!! うわぁあああん!!!」
「しのぶ様ー! どうか正気に戻って下さいー!」
「お気を確かにー!」
「赤ちゃん返りしないで下さーい!」
周囲の人達が全員ドン引きしてるのに脇目も振らず喧しく泣き喚き続ける私だったが、蝶屋敷の面々が必死に宥めることで徐々に冷静さを取り戻す。やがて一通りの祝辞が終わる頃には、私は正座したまま部屋の角で顔を隠しうずくまるようになった。
「うぅ・・・穴が在ったら入りたい・・・」
「全く。しのぶ、貴方今いくつよ? 十六にもなって姉離れ出来ていないなんて古今東西貴方だけよ。いい歳していつまでもお姉さんにベッタリで恥ずかしいとは思わないの?」
「はい・・・恥ずかしいです・・・」
「今後一切のことは不死川様に任せて貴方は今日でキッパリ姉離れすること。良いわね?」
「はい・・・姉離れします・・・」
私の横でそうお説教をするアオイ。何一つ反論できる内容が無いため言い返せない私だった。
「しのぶ姉さん。大丈夫。カナエ姉さんの代わりに私はずっと蝶屋敷に居るから。だからしのぶ姉さんも寂しくないでしょう?」
「うぅ・・・それでもカナヲじゃ姉さんの代わりにはなれないわ・・・」
「え・・・そんな・・・私の存在価値って・・・」
「え・・・カナヲ!? ちょっと! アンタ何真に受けてるの? もうっ! しのぶったらいい加減にしなさいよっ! 貴方だって立派なカナヲのお姉さんでしょ!? 妹のカナヲが泣きそうになってるわよっ!?」
「はっ! 確かに! アオイの言う通りだわ! ごめんなさいカナヲ!」
「う・・・私・・・居る意味ないんだ・・・しのぶ姉さんにとって要らない子だったんだ・・・うっ・・・うっ・・・」
「ち、違うから! そんなことないからっ! 私だってカナヲが傍に居てくれて嬉しいわっ! ほらっ! この通りだから元気出して!?」
私は大慌てでカナヲ抱きしめ必死に宥める。半泣きのカナヲだったがどうやら落ち着いてくれたようだった。私は安堵した。
「十六にもなって何やってんだあいつら。派手に気持ち悪い姉妹だな」
「天元様・・・それは流石に言い過ぎです」
「まあお気持ちは分からなくもないですけど・・・」
「折角の祝いの場ですしここは多めに見てあげましょう ね?」
別の一画で集まる宇随一家から忌憚なき意見を指摘されてしまう。不味い。このままでは胡蝶姉妹は全員気持ち悪い奴ら認定されてしまう。これ以上私のせいで姉さんの顔に泥を塗る訳には行かないわ。
「そ、それじゃあ! 気を取り直して私、もう一度不死川さんに挨拶してくるわね! 今後姉さんを宜しくお願いしますって頼み込んで・・・!」
「しのぶ。もうこれ以上恥の上塗りは止めなさい。もうアンタは部屋の隅っこで一日中大人しくして居ればいいのよ。それがカナエ様の為よ」
「うっ! そ、そんな・・・!!」
アオイにそう苦言を呈され、私は愕然としてしまう。そんな。もう私下手に動き回っちゃいけないってこと? でも確かにこれ以上姉さんの祝いの場をひっかき回す訳にもいかないし・・・
「しのぶ。今少し良いか?」
すると、どこからともなく現れた炭治郎が私に声を掛けてくる。私は一瞬肩をびくつかせる。
「えっ! た、炭治郎!?」
「アオイさん。それとカナヲ。少しの間だけしのぶを借りても良いかな?」
「炭治郎さん。良い所に声を掛けてくださいました。どうぞお好きに連れてって下さい。私共の代わりにしのぶの御世話役を買って出て頂けてとても嬉しく思います。くれぐれも手綱を緩めぬように」
「私、問題児扱いされてる!?」
「はあ。だってこれ以上しのぶに好き放題されると折角のカナエ様の祝いの場が台無しになってしまうでしょ? なら寧ろ炭治郎さんに手綱握っておいてもらった方がよっぽど皆の為よ。ほら、折角だから連れて行って貰いなさいよ」
「うっ・・・わかったわ・・・」
そうして私は渋々了承し、炭治郎に手を引かれて屋敷の庭先に出る。他の大勢の人たちは祝いの席についたまま、新郎新婦の挨拶周りを受けている最中なので、暫く庭の方に他の人達が出てくることはないだろう。自然と私達は二人きりになった。
「ご、ごめんなさいね。炭治郎」
「ん? どうして謝るんだ?」
「だって・・・私が変なことしでかさないか気を回してくれたんでしょう?」
「いや。別にそういう訳じゃないよ。ただしのぶと二人きりで話をしたかっただけだから」
「え・・・」
炭治郎は困ったように笑っている。その横顔に私は不思議と釘付けになっていた。
「なあしのぶ。祝言を挙げたカナエさん、とっても幸せそうだったな」
「そ・・・そうね・・・」
不意に炭治郎は姉さんの話をし始めた。
「やっぱり白無垢着て、皆から祝福されて、愛する人と結ばれて、女性ならそういったことに憧れたりするものだよな」
「まあ・・・それは・・・そうだけど・・・」
炭治郎は後ろ姿で何かを思案してる様子だった。私はそんな炭治郎を見つめる。私は次の彼の言葉を静かに待ち続けた。
「なあしのぶ。俺って痣が出てるから、そんなに長く生きれないと思うんだ」
「え? それは・・・勿論知ってるわよ。お館様が言ってたもの」
確かにこのまま何もしなければ、炭治郎はあと十年以内に寿命が尽きて死んでしまう。考えたくもないが、それは紛れも無い事実だろう。
でもだからこそ、私は今後珠世さんと一緒に痣者の寿命を延ばす治療法を確立するつもりだ。できるかできないかじゃない。やらねばならない。炭治郎と一緒に生きていくと誓った私には、それはもはや確定事項だった。
「なあ、しのぶ。それでもしのぶは、これから先も俺の傍に居てくれるか?」
「えっ」
炭治郎は振り返る。彼の顔は真剣そのものだった。
「もし、しのぶがこれからも俺の傍に居てくれるなら、俺は誰よりもしのぶを幸せにして見せる。俺はしのぶと出会えて本当に良かったって思ってるし、しのぶにもそう思って貰えるよう、精一杯これからも必死に生きて見せるよ」
「た、炭治郎・・・」
すると炭治郎は羽織の懐に手を入れて、ある物を取り出す。私はそれを見て面食らう。
「今日、カナエさんの姿を見て俺は思ったんだ。俺もしのぶを、今日のカナエさんに負けない位に幸せにしてやりたいって。そう強く思ったんだ。そして痣者である俺は、他の人達と違って大事な決断を先延ばしにできない。だからしのぶ。性急過ぎるかもしれないけど、今日これを受け取ってくれないか?」
すると、炭治郎は藤の花の紋様が掘られた上等な櫛を私に差し出してくる。私はその光景を目の当たりにし、炭治郎の意図を漸く理解した。
「これは俺の嘘偽りない素直な気持ちのつもりだ。しのぶ。俺と
私はその瞬間、雷に打たれたかのような衝動に打ち震える。反射的に胸がキュウと締め付けられる。感激の余り鼓動が早くなる。
「えっ! えっ!? 炭治郎っ!? 本当っ!? 貴方は本当にそれで良いの!?」
炭治郎は無言でうなずいた。私は心臓をバクバクさせながら念を押すように再度確認を取る。
「炭治郎。でも私、姉さんみたいにお淑やかじゃないし、すぐ感情的になるし、炭治郎のことを振り回すことも多いだろうし。そんな面倒くさい女なのに炭治郎は本当に良いの?」
私は自分で言っていて悲しくなる。私、炭治郎に相応しい女に微塵もなれていないわ。とても嬉しいはずなのに、とても不甲斐なく思う。私が一人悩んでいると、炭治郎は私の戸惑いの問いに対し、微塵も揺るがず答えてくれる。
「何度でも言うよ。俺はしのぶが良いんだ。俺と
「た、炭治郎・・・!!」
私は肩をびくつかせて打ち震える。とうとう私は堪えきれず涙を流し始め、そのまま衝動的に彼へと抱き着いた。
「炭治郎っ・・・炭治郎っ!! 私も・・・炭治郎と
ずっと傍に居るわ炭治郎っ・・・私こそ貴方が生まれて来て良かったって心から思える位幸せにして見せるっ!! だからこれからもずっと一緒に居てっ! お願い・・・炭治郎っ・・・」
「ああ・・・勿論だよ・・・しのぶ」
そうして私たちは、そのまま互いに互いを抱きしめ合い、力強く抱擁を続けた。ただひたすらに、二人の体温を分かち合う時間を過ごした。
私は彼と共に生きていく。これからの時を。私は炭治郎の想いを、命を、幸せを、しっかりと受け止めて守り通し彼と共に歩み続ける。そう心に誓うのだった。
続く
良い最終回だった・・・・・・と言うのは冗談です。もう20話位は続きます。
以上で遊郭編完結です。次回から刀鍛冶の里編に移行します。これまで同様オリジナル展開を多分に含みますが何卒楽しんで下さいませ。それでは。
カナヲの恋人候補は?
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冨岡義勇
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時透無一郎
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煉獄杏寿郎
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竈門炭治郎※しのぶ付き
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輝利哉君※産屋敷家へ嫁入り確定
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鬼が存在しないこの美しき世界※独り身