「禰豆子ちゃん。温泉どうかしら。気持ちいい?」
「むー♪ むー♪」
私たちは刀鍛冶の里にある露天風呂を堪能していた。現在夕刻時ということもあり、木々の日陰が伸びて鬼の禰豆子ちゃんも気兼ねなく温泉を満喫することが出来るようになっていた。
私は小さな禰豆子ちゃんを甲斐甲斐しくお世話しながら心地よく過ごす。暫くそうやってくつろいでいると、温泉の中心に立てられた衝立の向こう側から何やら話し声が聞こえてきた。
「おめでとう。炭治郎。しのぶと末長く幸せにな」
「ありがとう玄弥。そう言えば最近お兄さんとはどうだ? 以前大喧嘩したって聞いたけど・・・」
「ああ。あの件に関しては本当にしのぶに頭が上がんねえよ。毎日って訳じゃねぇけど、兄貴の屋敷に寄って二人で世間話とかもできるようになったしさ。以前だったら考えられねぇよ」
「そうか。本当に良かったな玄弥。しのぶに感謝しなきゃだな」
「ああ。もう足向けて寝れねぇな。まあ既にしのぶは柱にも成ってるし元から失礼は働けねぇんだけどよ。それよりお前だって近日中に柱昇格だろ? そうなるとやっぱりお前にも敬語とか使わないといけなくなんのかな?」
「いやいや、俺は良いよ。そもそも俺達同期だろ? 堅苦しいのは遠慮させてくれないか?」
「わかった。じゃあ気兼ねなくそうするわ。しかしお前ら二人とも本当に凄ぇよ。入隊して半年程度で柱って。こんだけ昇格早いのって霞柱の時透って人と恋柱の甘露寺さん位だろ? 兄貴も最近の後輩達は優秀ってぼやいてたしよ」
「お兄さんが? へ~、なんだか想像つかないな。俺は以前『育手の目が節穴だ』とか、『隊士達の実力が信じられない位落ちている』とか、そういう悪態を寧ろ聞いてたんだけど・・・」
「それは一般隊士達の話じゃねぇか? 寧ろ柱に成った後輩達のことは絶賛してたぜ? まあ兄貴は滅多に人褒めねぇから信じられないのも分かるけどよ」
「そっか。じゃあ俺達期待されてるんだな」
「そりゃあ滅茶苦茶期待されてんだろ。じゃなきゃ祝言挙げてから一週間近くも任務休んだりしねぇって。あの兄貴がだぞ? 柱の人数が昔よりも増えてるから兄貴も安心して休暇取れたんだろうな」
「確か柱って最大九席までなんだよな? でも埋まったのは戦国時代以来一度も無いってお館様が・・・」
「だろ? だから今代はマジでやべぇんだって。ひょっとしたら数年経たず鬼舞辻無惨を倒せちまうかもな。上弦だって立て続けに二体も倒せた訳だしよ」
「それについてはどちらもカナヲが一枚噛んではいるけどな。何でも近年は上弦討伐の対応が変わったらしいんだ。以前は柱が一名ずつで巡回して遭遇することが多かったから生き残ることすら難しかったみたいだけど、今では上弦より強いカナヲが居るから柱は上弦が居そうならカナヲを連れて行けるんだ。カナエさんも宇随さんもそれで上弦討伐出来てる訳だから」
「逆にお前らは災難だったな。無限列車の任務でカナヲ連れてってたらお前も左目潰れるようなことなかったろ?」
「まあこれは仕方ないよ。それに俺はそのおかげで強くなれた訳だし。痣も出て今では他の柱の人達に劣らない位戦える身体になった。まあ寿命は縮んでしのぶには滅茶苦茶怒られたけど・・・」
「はぁあ!? マジかよ!? 痣出ると寿命縮まんのかよ!?」
「え? 玄弥は聞いていないのか?」
「聞いてねぇわ! 俺一般隊士だぞ!? そう言う大事な情報全然降りてこねぇんだって!! つかそんな大事な話同期の俺にまでずっと内緒にしてたのかよ!? ふざけんなよコラ!!」
「わあっ!」
唐突に玄弥君が怒りだす。まあ気持ちはわかるけど。炭治郎って自分のこと顧みないところあるし、私が怒っても響かないことも多いからこの際玄弥君にも注意してもらおう。
「お前マジで自分のこと大事にしろよな! わかってんのか!? お前近いうちにしのぶと
「ご・・・ごめん・・・」
それから長々と玄弥君の説教が続きやがて治まる。すると彼は衝立越しに今度は私に尋ねてきた。
「しのぶ。お前もっとコイツにきつく言った方が良いぞ? お前嫁になるんだからその権利位あるはずだろ?」
「うん。もう何度もきつく言ったわ。今では炭治郎も充分そのことを理解してくれてるから私これからは何も言わないことにしたの。だから大丈夫よ」
「か~! 随分と丸くなったもんだな! 以前のしのぶなら注射器何本も打ち込んで薬漬けにして相手に
「玄弥君ごめんなさい・・・それ私の黒歴史だからそれ以上は言わないで・・・」
「おお・・・なんだか悪ぃ・・・」
微妙な空気になり暫く無言が続く。やがて堪え切れなくなったのか炭治郎が新たな話題を巻き起こした。
「そう言えば甘露寺さんがお前に道すがら無視されたって傷ついてたぞ! 玄弥! どうして挨拶しなかったんだ!」
「ちょっ! ええっ!? ここでその話ぶり返すか!? しゃあねぇだろアレは! 炭治郎だってあの人の姿見ただろ!? 男なら面食らうわ!!」
「ん? 甘露寺さんの姿? えっと、どんな姿してたっけ?」
「そりゃあの大層で立派なあれを揺らしてるあれだよ!! 普通ビビるだろうが!! お前はしのぶと普段一緒に居て免疫あるかもしれねぇが俺は微塵もねぇんだっての!! 察しろや!!」
「ん? しのぶも同じ姿をか? 玄弥は一体何の話をして・・・」
「はあ!? そりゃあ当然胸の・・・」
「玄弥くーん? それ以上言うなら今後口にする物には気をつけなさい?」
私が敢えて声高らかにそう言うと彼は委縮する気配を醸し出した。
「おいしのぶ! お前丸くなったんじゃなかったのかよ!?」
「注射器は打たないけどそれ以外は止めてないわよ? どんなお薬がいいかしら~?」
「やっぱりお前変わってねぇわ! 炭治郎! しのぶを嫁に取っても尻に敷かれんなよ!? 忠告だけはしておくからな?」
そうして玄弥君は慌てて浴場から上がり湯上り用の手拭いで水気を拭いてそそくさと立ち去っていった。やがてお風呂に残されたのは私と禰豆子ちゃん、そして炭治郎の三人だけになった。
「なあしのぶ。俺達もそろそろ上がるか?」
「待って。炭治郎。もう少しだけ居させて?」
「わかった。じゃあ俺は先に・・・」
「そうじゃなくて!」
私は湯の中を移動し、衝立から顔を出す。炭治郎はその様子を見て面食らっていた。
「ちょっ!? しのぶ!? いきなりどうした? 色々と見えるだろう!?」
「・・・別にいいじゃない・・・」
私はそのまま湯の中に浸かったまま炭治郎に近づいて行く。炭治郎はみるみるうちに茹蛸のように真っ赤になった。
「し・・・しのぶ・・・どうして・・・」
「だって私達、もうじき
私も炭治郎と同じ位真っ赤に染まる中、そのまま彼の隣にくっつく様にすり寄った。炭治郎はカチコチに固まっている。
「でもしのぶ・・・俺達まだ・・・」
「家族になったら一緒にお風呂入る位普通のことじゃない。禰豆子ちゃんもそう思わない?」
「むー!」
「え!? 禰豆子!?」
するとピッタリくっつく私達の間から、お湯の中を潜っていたであろう禰豆子ちゃんが顔を出す。そうして嬉しそうに私たちの間に挟まりスリスリ頭を擦り付けている。
「むー♪ むー♪」
「ね、禰豆子・・・」
「ほら。私たちの間柄は禰豆子ちゃん公認なんだからもう遠慮は要らないわよね? だから少しの間だけで良いからこうして居ましょ。炭治郎」
そして私は炭治郎の肩に自身の頭を傾けて乗せる。彼はそのままじっと動かずに固まっていた。
しかし時間が経つに連れ、彼の緊張も和らいでいくのが分かった。彼は安堵の表情を浮かべて不意に呟く。
「うん。こういうのも良いな。凄く心が安らぐよ」
「でしょ? だからのぼせるまではこうして居ましょうね?」
やがて周囲が黄昏時になる。この時の空は、朱色と藍色が混ざるようなとても綺麗な色で染め上がっていた。じき夜になる。
続く
これで日が落ちた瞬間「ベベン」で兄上降臨したらお互い別の意味で面食らうでしょうね。
炭治郎&しのぶ「上弦の壱!? どうして今こんなところに!?」
兄上「お前達・・・何をしている・・・私と戦うのではなかったのか・・・戦いを忘れ男女で湯浴みに興じるなど・・・軟弱千万・・・!!」
ギャグ路線なら有り得たでしょうか。いやないな・・・
カナヲの恋人候補は?
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冨岡義勇
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時透無一郎
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煉獄杏寿郎
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竈門炭治郎※しのぶ付き
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輝利哉君※産屋敷家へ嫁入り確定
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鬼が存在しないこの美しき世界※独り身