胡蝶家の縁壱とお労しい姉上   作:科学大好き人間

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しのぶ視点です。前回と異なり真面目回です。多分。


69話 透き通る世界

「へ~、縁壱さんってこんな顔してたんだ。でも腕が六本もあるなんて本当に人間だったのかな? もしかして無惨とは別の方法で鬼になった人だったんじゃないか?」

 

「炭治郎さん。これは縁壱零式って言う人形です。腕が六本あるのは動きを再現するのに二本じゃ足りないからです。なので縁壱って人はちゃんと人間だったと思いますよ?」

 

 

炭治郎と初夜を過ごして気が付けば朝になっていた。私は気が付いたら力尽きて眠っていた。やがて目が醒めた後、暫くの間炭治郎と顔を合わせるのは憚られた。恥ずかしい。死ぬほど恥ずかしい。昨日の私はどうかしてた。冷静に考えて祝言前に何してるの? しかも女性側からお手付きをするなんて。でもカナヲが居ない今のうちにと思った途端、私は冷静さを失っていたように思う。今後は気を付けることにしよう。

 

そんな人には言えない自身の醜態に私は悶々と悩んでいたが、ふと我に返る。

 

目の前には縁壱零式と呼ばれる始まりの呼吸の剣士を模した絡繰人形。そしてそれに感心する炭治郎。炭治郎が頓珍漢なことを言うのですかさずツッコミを入れる小鉄君。そして・・・

 

 

「ねえ。炭治郎だっけ? いいから早く手合わせしようよ。君が鍛錬に付き合ってくれるって言うからこの絡繰人形のことを諦めたんだ。無駄口叩いてないでさっさとやろうよ」

 

 

そしてもう一人。霞柱の時透無一郎君。彼は禰豆子ちゃんと同じ十四歳でありながらも現役の柱だった。刀を握って僅か二カ月で柱。ここで重要なのが鬼殺隊に入ってからではなく、刀を握ってからと言うことだ。これがどれだけとんでもないことかは、刀を握って八年以上かけて漸く隊士になれた私が一番わかっているつもりだ。彼もカナヲと同様、私から見れば充分理外の存在と言える。ただ・・・

 

 

「良し! じゃあ時透君! 早速手合わせしよう! じゃあ行くぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

ーヒノカミ神楽 炎舞ー

 

 

 

 

 

「・・・これが・・・日の呼吸・・・」

 

「ドンドン行くぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

ーヒノカミ神楽 円舞ー

 

 

ーヒノカミ神楽 碧羅の天ー

 

 

 

 

 

 

 

十字に切るように縦横の斬撃を炭治郎が繰り出すので、時透君はそれを木刀で受ける。そして間髪入れず型の隙をついて時透君は踏み込むが、繋ぎ目のない型の重ね合わせで間髪入れず下段より炭治郎の切り返しが放たれる。時透君は驚いたようで、すぐさま踏み込みを中断し距離を取った。彼は冷静に炭治郎を観察する。

 

 

「面白いね。型と型の発動の間に動作の停止が一切ない。まるで初めから繋ぐことを前提にした型みたい」

 

「ああ! ヒノカミ神楽は元々十二の舞を絶えず繋げるのが前提の舞なんだ! きっとその元になった日の呼吸から既にそうだったんだと思う!」

 

「へぇ・・・」

 

 

炭治郎と時透君の剣撃は拮抗していた。そう互角だったのだ。相手がカナヲだったならきっとこうはならない。私も炭治郎がカナヲに稽古をつけて貰っているところを何度か見させて貰ったことがある。それはいつも一方的だった。炭治郎がどれだけヒノカミ神楽を繋げ剣撃を打ち重ねようとも、カナヲは巌のように微動だにせずそれを受け切り、逆にカナヲはいつも一太刀で炭治郎を打ち伏せて道場の床に彼を転がしていた。

 

才能についてはカナヲも時透君も大した差はないかもしれない。けど決定的に違うのがその土台となる肉体の差だ。カナヲには痣がある。生まれながらの痣が。私と同格だった炭治郎が上弦の弐である猗窩座と互角に渡り合えるようになるだけの、その凄まじい馬力をもたらす為の痣があるのだ。

 

時透君にはそれが無い。故に彼の突出した強みは現段階では才能のみだ。彼に実力で数段劣る私が言うのもなんだけど。

 

ただそこからが驚きだった。どうやら私は時透君のその才能という強みを過小評価し過ぎていたのかもしれない。

 

 

「でも変だね。日の呼吸って言うのは鬼舞辻無惨をあと一歩のところまで追い詰めた呼吸なんでしょ? その割にはこの程度? なんだか俺拍子抜けしたよ」

 

「え? それはまあ・・・俺と縁壱さんじゃ雲泥の差だと思うし」

 

「だからもっと本気でやってみて欲しいな。なにせ君は上弦の弐と互角に打ち合えた位には実力があるんでしょ? だったら敢えて手を抜いてる俺なんかに手間取ってるようじゃダメだよ」

 

「え?」

 

 

そこから時透君の動きの精度が跳ね上がった。緩急が凄まじく静動の差が尋常ではない。私も彼の動きを目で追うのが難しくなった。

 

 

「わっ! わっ!」

 

「何してるの? これ位で驚かないでよ。君は上弦よりも強いんでしょ? だったら俺が少し本気出した程度で押されるはずないと思うんだけど」

 

「うがっ!?」

 

 

時透君の一撃を受け切れなかったのか、炭治郎が姿勢を崩して押し下げられる。それを見て時透君は首を傾げる。

 

 

「ごめん。君思ってたよりずっと弱いよ。この程度の実力で本当に柱に昇格できるの? 君が上弦と戦えたなんて到底信じられないんだけど・・・」

 

 

すると押し下げられた炭治郎は姿勢を正し、呼吸を正し、その気配を真剣なものにした。

 

 

「ごめん時透君。手を抜いたつもりはなかったんだけど、確かに力を出し切れてなかったみたいだ。ここからは俺も全力でやるよ」

 

 

すると今度は炭治郎の気配が変わる。呼吸音が激しくなったと思ったら、突如炭治郎の威圧感が大きく増した。

 

 

「あ、成る程。そう言えば君まだ痣出してなかったね。じゃあ改めて・・・」

 

「いや、時透君。痣だけじゃないよ。折角だからこれも見せる」

 

「え?」

 

 

すると一転し、炭治郎の気配が今度は逆に希薄になった。気配が小さいのではなく、無くなった。目の前に居るはずなのに気配を一切感じなくなった。傍から見ている私視点でもその変化がありありと感じられた。

 

時透君はそれを見て視線を鋭くした。そして間髪入れず炭治郎の間合いへと踏み込んだ。

 

 

 

 

 

 

ー霞の呼吸 弐ノ型 八重霞ー

 

 

 

 

 

炭治郎の脇腹に同薙ぎが入るかに見えた。でも炭治郎はなぜか一瞬で時透君の背後に滑り込んでいた。私には彼がそれをどうやって成し遂げたのか、その動きが一切見えなかった。

 

 

「良い動きだね。時透君。悪くないと思うよ」

 

「っ!!」

 

 

炭治郎がポツリと批評を呟くと同時に、時透は瞬時に振り返り斬りかかった。

 

 

 

 

 

 

ー霞の呼吸 伍ノ型 霞雲の海ー

 

 

 

 

 

 

時透君はさっき以上に凄まじい速度で斬りかかったはずなのに、炭治郎は再度回避したのか既に時透君の背後の位置に居た。自然体で木刀を握っているだけで何か特別なことをしたように思えない。

 

 

「時透君は凄いね。禰豆子と同じ歳でその剣技。流石は柱だよ」

 

「おちょくってるのかな? 仮に柱だとしても現に俺の剣筋は完璧に見切られてる。ねえ、それどうやってるの?」

 

「時透君は・・・やっぱり見ただけで分かるんだね?」

 

「うん。だって俺が技を出そうと思った瞬間を読まれてるし。神通力でも使ってるの? 君には何が見えてるの? 何を見ているの?」

 

「ああ。これは『透き通る世界』と言って、カナヲや上弦の壱も使ってる技なんだ。今の俺には君の身体が透けて視えている」

 

「えっ・・・炭治郎っ!? 貴方いつの間に・・・そもそも透ける視界って技術で再現できるモノだったの? 私てっきりカナヲの超感覚だとばかり・・・!!」

 

 

私は驚愕する。炭治郎いつの間にそんな芸当を。遂に貴方も人外の領域に到達してしまったのね。私は置いてかれてばかりだわ・・・

 

 

「ねえ炭治郎。それって俺も身に着けられるものなの?」

 

「うん。時透君ならできると思う。稽古よりもそっちを優先して教えるよ。じゃあ早速・・・」

 

 

そうして打ち込み稽古から一転し、炭治郎の透き通る世界習得講義が始まった。しかし私は開始早々頭を抱えた。

 

 

「炭治郎・・・そう言えば貴方って教えるのが爆裂に下手だったわね・・・痣の発現方法を教えられないのも納得だわ」

 

「えっ」

 

「炭治郎。ねえ。君真面目に教える気があるの? 『グワーッ』って何? 『スゥー』って何? 感覚的過ぎて良くわからないんだけど」

 

 

炭治郎は私たちの真っ当な指摘に面食らう。やがて肩を落として落ち込んだ。

 

 

「ごめん。俺教えるのが下手で。俺一体どうしたらいいんだろう・・・」

 

 

すると時透君は顎に手を当て逡巡する。やがて何かを思いついたのか不思議な提案をする。

 

 

「じゃあ俺の前で何度か見せてよ。その透き通る世界に入ったりするところを」

 

「え? 見せるだけで良いの? それで伝わるかな?」

 

「君の説明聞くよりは多分伝わるよ。いいから早くやって」

 

「良し! じゃあ見ててくれ! しのぶも何か気づいたら教えてくれ!」

 

「わ、わかったわ・・・」

 

 

そうして半刻程炭治郎は透き通る世界に入ったり元に戻ったりを繰り返す。私はその様子をじっと観察する。

 

明らかに見てて思うのが、呼吸の精度が尋常じゃなく上がっていることだ。無駄を一切削ぎ落してる印象を受ける。さっき炭治郎のお父さんが言ってたという内容についてやや合致する部分があった。『たくさんのことを覚え、吸収した後は、必要でないものを削ぎ落す。その動きに必要なものだけ残して閉じる。頭の中が透明になると、透き通る世界が見え始める』といった内容だ。この発言から察するに、透き通る世界に入る為には自身の感覚を取捨選択して研ぎ澄ませる必要があるようだ。理屈の上では理解できる。しかしこれを理論的に説明するのは炭治郎の教え下手では難しいだろう。私は納得する。

 

 

「うん。少しわかったかも。こんな感じかな?」

 

 

すると時透君は姿勢を正し、急に呼吸を研ぎ澄ませ始める。すると見る見るうちに彼の気配が希薄になった。

 

 

「えっ!? 嘘でしょ!?」

 

「わあっ! 時透君出来てる! 凄い! 凄い!」

 

「ふぅん。こんな感じか。長時間維持するとなると疲れそうだね。酸欠になりそう」

 

 

驚くべきことに、彼は僅か半刻程で透き通る世界の領域に足を踏み入れた。見ただけでその技能を習得する。それはまるでカナヲの技量のようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言えば時透君は始まりの呼吸の剣士の子孫であると、お館様はそう仰っていた。つまり彼は、彼ら彼女らは、この世の理の外側に居る特別な存在なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 




以上でむい君強化イベント完了ですね。これでいつ兄上が来ても平気でしょう。ギリ間に合った(え)。

カナヲの恋人候補は?

  • 冨岡義勇
  • 時透無一郎
  • 煉獄杏寿郎
  • 竈門炭治郎※しのぶ付き
  • 輝利哉君※産屋敷家へ嫁入り確定
  • 鬼が存在しないこの美しき世界※独り身
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