「時透君は凄いな。まさかたった数日で透き通る世界を殆どものにしてしまうんだから。まるでカナヲみたいだ」
「そうね。でも炭治郎だって凄いわよ。結局最後まで彼は貴方との勝負で終ぞ一本も取れなかったんだから。やっぱり痣者とそうで無い者とでは違うのね。炭治郎はやっぱり凄い。流石は私の炭治郎ね」
「・・・なあ。しのぶ。さっきから気になってたんだけど・・・」
「?」
私は炭治郎と部屋で過ごしていた。気が付けばここに滞在して七日目。あっという間だった。こうして彼と二人きりで過ごせる時間なんて蝶屋敷に戻ったら滅多に作れないだろう。私は無性にそれが名残惜しくてこうして彼にひっつくように傍に寄り、彼の腕に抱き着くような形で余暇を過ごしていた。
「近くないか? そんな四六時中くっつかなくても・・・」
「良いじゃない別に。今は二人きりなんだし。私は少しでも長く炭治郎とこうして居たいの。それに腕に抱き着く位普通よ? だって私達、もう少しで
「うん。まあそれはわかるんだけど。それより気になったのが今のしのぶの格好なんだ」
「ん? この隊服が何?」
「いや、どうしてそっちをずっと着てるんだろうと思って」
「え? だって炭治郎が似合ってるって褒めてくれたからじゃない。それでよ?」
私は現在旅館の浴衣でも通常の炭治郎と同じ隊服姿でもなかった。今現在着用しているのは、かつて私がマッチで油をかけて燃やそうとした、ゲスメガネ支給の例の短袴の隊服だった。
「しのぶ。年頃の女性が人前で露出の多い装いをするのは良くないと思うぞ?」
「大丈夫。この隊服姿を見せるのは炭治郎だけよ。他の人になんて絶対見せないわ。だから平気よ」
「いや、全然平気じゃないと思う。下手すると甘露寺さんの隊服より丈短いし。特に太腿なんて丸見えで・・・」
「うふふ。炭治郎になら見られても別に良いわよ」
そうして私は彼に重心を預けそのまま床に押し倒す。そしてそのまま馬乗りになる。
「夕餉までまだ時間があるわよね? 折角だから今日はこの格好のままでしましょ?」
「まっ、待ってくれしのぶ!! いくら何でも最近ふしだら過ぎないか!? ここ数日ずっとじゃないか!! 俺はしのぶと清い交際の果てに晴れて
「何言ってるの炭治郎。少し順番が前後するだけよ。大丈夫。私なら万が一身重の身になっても蝶屋敷の仕事だけで充分鬼殺隊に貢献できるわ。だから気にしなくて良いからね?」
「いや!! そう言うことを言ってるんじゃなくて!! しのぶ!! 兎に角待ってくれ!! 他の人が来たらどうするんだ!?」
「平気よ。鉄珍様だって旅館の方々には気を遣わせてるって言ってたし、それ位の配慮はしてくれるはずだわ。だから・・・ね?」
「いや本当に不味い!! 禰豆子だって俺たちの騒ぎで起きてしまったし!!」
「むー?」
不意に私は部屋の角に視線を移す。禰豆子ちゃんが目を醒ましたのか、彼女は箱から顔を覗かせて無垢な瞳でこちらを見ていた。私は気にせず炭治郎に視線を移す。
「初日に甘露寺さんが禰豆子ちゃんの面倒をしっかり見ていなかったせいで既に一度は見られてるんだから、もう何度見られたって一緒だわ。だから私、気にしてないもの」
「俺が気にする!! 無性に気にするって!! せめて二人きりの時にしてくれ!!」
するとその瞬間襖が開く。流石の私もその瞬間は肩をびくつかせる。
「あ、ごめん。邪魔したかな?」
「時透君。何の用?」
私はそのまま炭治郎から離れ姿勢を正して座り直し内心ため息をつく。折角炭治郎とこの隊服で楽しめると思ってたのに。
「鉄穴森って言う刀鍛冶知らない?」
「鉄穴森さんなら鋼鐵塚さんと一緒じゃないかしら。炭治郎が壊した絡繰人形の支柱の刀を鋼鐵塚さんが研磨するらしくて、その付き添いをしてるって聞いたけど・・・」
「そう。鋼鐵塚はどこ?」
すると炭治郎がすぐさまバビッと挙手をし、時透君に提案する。
「一緒に探そうか?」
あ、炭治郎。私から逃げる口実作ろうとしてる。時透君、お願いだから断って。私は目で訴える。
「・・・・・・なんでそんなに人に構うの? 君には君のやるべきことがあるんじゃないの? 近日奥さんになるであろう胡蝶さんの相手とか」
うん。流石時透君。何も考えてないようで良く見てるし察しも良いし気が利くわね。炭治郎とは大違い。ついでにそのまま炭治郎を説き伏せてくれたら尚嬉しい。
「人のためにすることは結局、巡り巡って自分のためにもなっているものだし、俺も行こうと思ってたから丁度良いんだよ(震え声)」
炭治郎はそう切り返す。私は思わず感心してしまう。
上手いわね。炭治郎の日頃の善性を知って居れば何も不自然なことは言っていない。でも時透君気づいて。彼はただ私と距離を取りたいだけだと思うの。どうにか気を回して炭治郎を説き伏せて。
「えっ? 何? 今何て言ったの? 今、今・・・」
ちょっと待って。時透君。急にどうしたって言うのよ。さっきまで悟り切っていたような顔してたじゃない。適当に炭治郎あしらっていたじゃない。急に動揺し始めて一体彼に何が起こったって言うのよ。
「へ? 丁度良いよって・・・イデッ!!」
すると何故か禰豆子ちゃんが炭治郎に突進して急遽抱き着く。
「どうした禰豆子? ナデナデして欲しいのか?」
「むー! むー!」
「その子何だか変な生き物だな」
「えっ? 変かな!?」
「うん。凄く変だよ。何だろう。うまく言えない。僕は前にもその子に会ってる? 前にもそうだったのかな。なんだろう」
話の流れが一転してしまった。どうしよう。今すぐ部屋から出てってと言い辛い。
それから暫くの間、彼らは向かい合うようにして腕を組んで考え事をしているようだったが、不意に炭治郎が外の異変に気付く。
「んっ? 誰か来てる?」
「そうだね」
もう。一体誰よ。次から次へと。折角炭治郎と二人きりで過ごそうって思ってたのに。もしかして旅館の方かしら。まだ夕餉には早いはずなんだけど・・・
しかし襖が開いた瞬間、私たちは呆気に取られた。
「ヒィイイイイイイ・・・!!」
そこに居たのは鬼だった。
嘘でしょ!? 目視するまで私達誰一人気づかなかったなんて!!
浮ついた私の頭が一気に冷えて冷静になる。私は即座に部屋の隅に立てかけていた修繕済みの日輪刀に手を伸ばした。
ー霞の呼吸 肆ノ型 移流斬りー
一番早く抜刀し斬りかかったのが時透君だった。素晴らしい反応速度。現状この中だと彼が一番と言っても差し支えない。
「ヒィイイ!!!」
しかし鬼は天井に引っ付いて時透君の横薙ぎ一閃を躱していた。この回避速度からして間違いなく上弦。私は内心舌打ちする。
どうしていつもいつも私の前には上弦が来るのよっ!! 漸く水入らずで炭治郎と気兼ねなく過ごせると思ってたのに!! もういい加減にして欲しいっ!!
ー蟲の呼吸 蜂牙ノ舞 真靡きー
私は自身の最速の突き技を天井目掛けて放つ。しかしこの突き技も躱される。
嘘でしょっ!? こいつ少なくとも猗窩座よりは序列下の鬼のはずなのに!! まさかこれを躱すなんて・・・!!
ーヒノカミ神楽 炎舞ー
すると炭治郎が間髪入れず床に転がった鬼の頸を刎ねた。やっぱり炭治郎は私と組んでただけあって合わせるのが上手いわね。兎に角拍子抜けだけどこれで鬼は討伐できたはず。しかしそうはならないのが上弦の鬼という存在だった。
「分裂っ!!??」
炭治郎は面食らい思わずそう声を上げた。信じらんない。上弦の鬼ってどいつもこいつも頸を刎ねても死なない訳? 童磨は一瞬で死んだのに本当に腹が立つ!!
「片方は私が!!」
元の身体から再生した方に私が向かうと、時透君はそれとほぼ同時に頭から再生した方に向かう。
頸を刎ねても死なない鬼なら毒で殺してあげるわよ。珠世さんとの合同研究も進んで以前とは別次元の毒が作れてるし、上弦だろうが何だろうが毒殺して・・・
ドンッ!!!!!
私はその瞬間意識を手放しそうになる。
落雷!!?? 嘘でしょ!? 上弦って自然現象すら味方につけられるの!!??
しかし私は一瞬で思考を回す。いや違う。これは血鬼術だわ。なら意識を失う前にできることはある。私は最後の力を振り絞って袖から注射器を取り出し自身の首に打ち込んだ。
「しのぶ!!?? 時透君!!!!」
時透君も片方の鬼の血鬼術をもろに受けて遠くまで吹き飛ばされてしまったらしい。私はそれを最後に知覚してそのまま意識を手放した。
「しのぶっ!! しのぶっ!!!! おいっ!! しっかりしろっ!!! しのぶっ!!!!!」
「・・・・・・かはっ!!」
不意に私の意識は浮上する。どうやら咄嗟に打ち込んだ血鬼止めが役に立ったらしい。私と珠世さんの合作だ。実戦で使うのは初めてだったけど上手く機能して本当に良かった。
「ゴホゴホッ!!」
「しのぶ無事かっ!?」
「ええ・・・何・・・とか・・・」
私は炭治郎に抱かれて上体だけ起こされてるような体勢だった。あの一瞬で炭治郎は私を救助し、そのまま上弦鬼から距離を取っていたらしい。流石炭治郎だわ。
「カカカッ! 楽しいのう! 豆粒が遠くまでよく飛んだ。なぁ積怒?」
「何も楽しくはない・・・私はただひたすらに腹立たしい!! 可楽・・・お前と混ざっていたことも!!」
状況を整理しよう。上弦の目には『参』と刻まれている。恐らく猗窩座の一つ下の序列の上弦鬼。そして奴らは頸を斬っても死なない。遊郭で倒した兄妹鬼のように。
けど嬉しいことに勝算はある。相手の手の内は既に晒した。片方は雷を錫杖から放ち、片方は団扇で仰ぐことで暴風を巻き起こす血鬼術を使う。
そしてそれらはどちらも一撃で私達を殺傷する威力を持ちえない。精々下弦の壱程度の力を一体一体が持っていると考えてもいい。
なら勝てる。以前私が藤の花の抽出物で戦ってた時と逆のことを炭治郎とすればいい。炭治郎が隙を作り、私が毒でとどめを刺す。
それに禰豆子ちゃんも居るし、多分屋根の上に玄弥君らしき人影が見えたから彼も潜伏してると思う。この戦力差なら勝てる。私だってもう間もなく身体の痺れは取れて動け始められるはずだしそうしたら・・・
ベベンッ
「は?」
不意に琵琶のような音がしたと思ったら目の前に奥側から光を放つ襖が現れる。そしてそれが開き、中から考える限り最悪の男が現れた。
「半天狗・・・先ほどお前が吹き飛ばした柱に・・・玉壺がどうやら即殺されたようだ・・・よって奴の埋め合わせは私がするとしよう・・・」
その男は上背六尺を優に超す長身の侍の姿をした六つ目の鬼だった。奴は炭治郎を見て静かに呟く。
「身の丈に合わぬ縁壱と同じ呼吸と耳飾り・・・漸く会えたぞ・・・よく今まで生きてこれたものだ・・・貴様のような軟弱千万の有象無象が・・・竈門・・・炭治郎っ・・・!!」
その鬼は上弦の壱、私達も良く知る男、黒死牟だった。
続く
隙あらば兄上を投下していくスタイル。どういう訳か兄上が登場するだけでモチベ上がるんですよね。即ち筆者の都合です。
カナヲの恋人候補は?
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