「霞の呼吸か・・・成る程・・・悪くない」
俺は時透君と共に森を駆け回り、黒死牟の周囲を高速で走り抜けていた。時透君は緩急自在な変則的な動きで接近と離脱を繰り返している。黒死牟もその攻めをあしらいつつ何やら感心している。
「無一郎・・・と言ったか・・・今一度問うが・・・鬼になる気はないか?」
「なる訳ないだろ!!」
「そう邪見に扱うな・・・お前は筋が良い・・・流石は我が末裔よ・・・丁度今宵・・・目を掛けていた者に見切りをつけたところなのだ・・・代わりにお前を我が弟子に迎え入れたい」
「死んでも御免だ!! その前に俺がお前の頸を刎ねるっ!!」
ー霞の呼吸 伍ノ型 霞雲の海ー
「霞も悪くはないが・・・お前なら・・・私の月の呼吸を継承できるはずだ・・・何せ私の細胞が残っているのだから・・・」
透き通る世界に入ってるはずの俺達ですら反応が遅れる程の速度で、奴は時透君の背後に回り込み、ゆっくりと手をかざし時透君の肩に手を伸ばそうとしていた。
ー霞の呼吸 弐ノ型 八重霞ー
「上弦の鬼も・・・残り少ない・・・猗窩座は記憶を取り戻してからと言うもの・・・腑抜けてしまったし・・・代わりにお前を・・・あの御方の鬼として使って戴く」
再び黒死牟は時透君の背後に回り込み、ゆっくりと腰に差した刀の柄へと手を伸ばす。
ー月の呼吸 壱ノ型 闇月・宵の宮ー
ー霞の呼吸 漆ノ型 朧ー
「ふむ・・・初見の技なり・・・霞の呼吸の剣士はこのような技を使ったことはない」
「当り前だろ!! 俺が自力で編み出したんだから!!」
「実に良き技・・・流麗で美しい・・・私の細胞の成せる技か」
「いちいち血縁者振るのを止めろっ!! 吐き気がするっ!! 何百年も経ってるんだから俺の中にお前の血も細胞も一欠片だって残されてる訳ないだろっ!!」
「お前のその剣技と技の冴え・・・疑いようがなく私と血が繋がっている証拠・・・どこか癖も似通っているようなそんな気さえする」
「絶対気のせいだ!!」
「やはりお前は鬼になれ・・・無一郎」
ーヒノカミ神楽 輝輝恩光ー
時透君が背後から斬りかかろうとした矢先、黒死牟の身を捻る予兆を透き通る世界で察知した俺は、素早く二人の間に滑り込み一太刀入れてすぐに離脱する。加えて重なるように時透君も薙ぎを放ちながらすぐに離れる。黒死牟はいつの間にか抜刀し俺たち二人の斬撃を防いでいた。その瞬間奴は俺を見て青筋を浮かべる。
「縁壱の足元にも及ばぬ日の呼吸など・・・見るに堪えぬ・・・!! 竈門・・・炭治郎っ!!!」
ー月の呼吸 弐ノ型 珠華の弄月ー
ーヒノカミ神楽 幻日虹ー
即座に黒死牟が俺の背を追う形で突進斬りを放って来るので、俺はギリギリで身を捻り回避に全神経を集中させる。
「逃げ回ることしか能がないのか・・・軟弱千万っ!!!」
ー日の呼吸 円舞 烈日紅鏡 火車ー
「っ!!」
俺ははじき飛ばされるが、僅かに黒死牟から同様の気配が読み取れた。奴はそのまま刀を構えるだけで斬りかかってこない。
「・・・技の精度が・・・上がった・・・だと」
俺は着地した後、すぐに刀を構え直し呼吸を整える。
漸くカナヲが見せてくれた正解の形を、ほんの僅かながら再現することができた。ヒノカミ神楽は本来ただの舞いだ。それをより剣技として研ぎ澄ませ続けると日の呼吸になる。なので、これまでの黒死牟の言い分も正直分かると言うものだ。
「次は十二の型全てを繋ぎます。見てて下さい。縁壱さん」
「っ!! 貴様如き・・・縁壱は目にも留めぬっ!!!!!」
ー月の呼吸 陸ノ型 常世弧月・無間ー
奴は激昂し、先程の型より数段激しい斬撃の弾幕を打ち放ってくる。これを全て回避し捌き続けるのは容易じゃない。俺は更に呼吸の精度を上げる。体温を上げ日輪刀を握りしめる。
ー日の呼吸 幻日虹 灼骨炎陽 烈日紅鏡ー
俺は初手で黒死牟の斬撃の幕を回避する。見たところ月の呼吸は圧倒的な手数が売りだ。真正面から斬り合うのは自殺行為と言っても良い。だからこそ、俺は技の派生後の僅かな隙をついて奴の懐に潜り込む。
「小癪な・・・!!」
黒死牟は技を放った直後だと言うのに、俺の二つの型を的確に捌いた。信じられない反応速度。奴が上弦の鬼だと言うのもあるが、人間時代に培った実戦経験と研鑽の積み重ねがそれを成しているのだろう。ただ力任せに血鬼術をばら撒いてる訳じゃない。俺は一度退避する。
ー日の呼吸 飛輪陽炎 輝輝恩光 碧羅の天 火車 烈日紅鏡 炎舞・・・
「ちょこまかと跳ね回るなっ!!! 鬱陶しいっ!!!」
・・・幻日虹 円舞 斜陽転身 灼骨炎陽 日暈の龍・頭舞い 陽華突ー
「なっ・・・これは・・・!!」
繋・・・がった!! 十二!! もっと速くもっと正確に・・・繰り返せっ!! この十二の巡りを!! 夜明けまでっ!!!
「なぜだ・・・徐々に技の冴えが上がっている・・・肉体は凄まじい勢いで摩耗していると言うのに・・・!!」
ー霞の呼吸 漆ノ型 朧ー
「っ!!」
「炭治郎っ!! 一旦回復の呼吸を!! その間俺が繋ぐからっ!!!」
「と・・・時透・・・君・・・!」
「無一郎・・・邪魔をするな・・・お前には後でいくらでも稽古をつけてやる」
ー月の呼吸 参ノ型 厭忌月・鎖りー
俺は時透君の掛け声で後ろに下がると同時に思いっきり息を吸い込み酸素を補給する。確かに危なかった。もう少しで酸欠になっていたところだ。
俺が二人に視線を戻すと、時透君は黒死牟相手に鍔迫り合いを仕掛けていた。けど体躯がまるで違う。正に子供と大人の背丈ほど差がある。あのままでは地に伏せられるのも時間の問題だ。
「無一郎・・・お前は筋が良い・・・剣の腕も十四の頃とは到底思えぬ・・・おまけに透き通る世界まで見えてるのだから感嘆する他ないだろう・・・しかし・・・」
「ぐぅうううう!!!」
「上背はそのまま膂力へと通ずる・・・それに私は鬼で・・・お前は人間・・・この肉体の力の差は才能だけでは埋められない・・・観念するのだ・・・命までは取らぬ」
「誰が・・・鬼になんてなるものかっ!!」
不味い。今すぐ加勢しに行かなければ。けど俺は酸素の補給で一度呼吸を乱し、透き通る世界が視えなくなっていた。今のまま斬りかかっても俺は一瞬で切り捨てられるだろう。急いで呼吸を整えなければ。
「無一郎・・・なぜ拒むのだ・・・肉体の保存・・・技の保存ができるのだぞ・・・どうしてそれを拒否する・・・愚かな・・・」
「俺は
「そうか・・・お前も・・・縁壱と似たようなことを・・・私の剣の道が童遊び以下と申すか・・・よくもそのような妄言を・・・む?」
俺が漸く呼吸を整え、透き通る世界が見え始める頃になると、黒死牟が何の異変に気付いたのかが俺にも確かに見て取れた。
時透君の心拍数が尋常ではない程上がっている。凄まじい勢いで血液が全身を駆け巡っている。そして彼の頬には霞の雲のような紋様が現れた。
「・・・素晴らしい・・・この土壇場で痣を発現するなど・・・流石は我が末裔・・・」
「がぁあああ!!!!!」
時透君は獣のような唸り声を上げて、片膝をついた体勢から何と再び立ち上がる。間違いなく痣者特有の異常な膂力の表れだ。
「だが悲しいことに・・・仮に痣を発現しようとも・・・この上背の差までは埋められない・・・このままでは死ぬ・・・死んでしまうぞ無一郎・・・鬼になれ・・・鬼になると言え」
「誰が・・・なるもんかぁあああ!!!!!」
もう時透君は限界だ。俺は漸く透き通る世界を維持できるまでに回復し、一目散に全力で駆ける。しかし、僅かに黒死牟の技の発動の方が早かった。
ー月の呼吸 伍ノ型 月魄災渦ー
黒死牟は予備動作など微塵も起こしていなかった為、俺も時透君も反応が遅れた。ただの血鬼術の発動。単純故に反応が遅れる。俺は時透君を間一髪のところで抱えて退避するものの、背中に深い斬撃を浴びてそのまま地面に崩れ去る。
「ぐぅうう・・・炭治郎っ・・・!!」
「良かった・・・時透君が無事で・・・えっ!!??」
俺が顔を上げると、時透君は左手の手首から先を失っていた。彼は痛みに悶絶しながらも帯で腕を縛り即座に止血へと移っていた。
「そ・・・そんな・・・!!」
「大丈夫だよ炭治郎。俺はまだ戦える。それより炭治郎も呼吸で止血して。背中の傷は下手すると致命傷に・・・」
「いや・・・もう勝負は決した・・・」
気が付けば黒死牟がすぐ傍で佇んでいた。時透君は身構える。俺は呼吸で止血するだけで精一杯で透き通る世界に入る余裕もなかった。
「視れば分かる・・・その出血量・・・もう痣の維持もできないだろう・・・体温の維持が既にできなくなっているはずだ」
「た、体温?」
「痣者は・・・心拍と体温を極限まで高めることで・・・その境地に至る・・・お前達は知らなかったようだが・・・詮方なきこと・・・」
黒死牟より衝撃の事実が告げられる。痣の発現条件。それは鬼殺隊において失伝したとされる値千金の情報なのだ。どうにかしてこれを持ち帰り他の柱達に知らせなければ・・・!!
「言ったであろう・・・もう勝負は決した・・・縁壱を模倣しただけの低俗なお前は・・・止血で手一杯・・・無一郎も片腕を失った・・・天地がひっくり返ったところで・・・お前達二人で私を退けることは叶わぬ」
「くっ!!」
時透君は片腕のまま日輪刀を構え立ち上がる。俺も呼吸を乱しながら立ち上がり彼に倣う。それを見て黒死牟は溜息をつく。
「無一郎は下がれ・・・炭治郎も・・・なぜ抗おうとする・・・お前の死は確定したのだ・・・今なら特別に胴と頸を苦しむ間もなく泣き別れにしてやる・・・有難く思うのだ」
「炭治郎は殺させないっ!! 彼は胡蝶さんの大事な旦那さんなんだっ!! 俺が是が非でも守るっ!!」
「俺も諦めない。この命燃え尽きるまで鬼と戦うとお館様に誓ったんだ。一度鬼殺隊を裏切ったお前に俺の気持ちなど分かるはずもない。情けなど不要だっ!!」
「そうか・・・なら望み通りにしてやろう」
黒死牟はゆっくりと刀を掲げる。まるで介錯を今からしてやると言わんばかりに。俺も時透君も身構える。
ー花の呼吸 弐ノ型 御影梅ー
その瞬間、花吹雪の竜巻を幻視した。そして黒死牟が急いで後ずさる。奴は静かに問いかけた。
「またお前か・・・しつこい」
「それはこっちの台詞。こっちだってアンタの醜い顔なんて見たくない。本当に吐き気がする」
俺は目を疑った。目の前には白い外套に短袴の隊服姿で佇む、日の呼吸の真の継承者であるカナヲが現れたのだから。
「大丈夫? 二人とも」
「え・・・あ・・・」
俺が呆けていると、時透君が代わりに簡潔に答える。
「俺は左手を欠損、炭治郎は背中に深い刀傷を負ってる。命に別状はないけど、正直俺達はもう上弦の壱相手じゃ足手まといだね。カナヲ、頼める?」
「うん。任せて。日の出までそう時間もないし、以前奴と戦った時と同じ要領で足止めするから。二人ともその場から動かないで。私が守る」
カナヲがそう宣言すると同時に、黒死牟が肩を震わせてくつくつと笑い声を漏らす。
「愚かな・・・寧ろ探す手間が省けた・・・丁度良い・・・お前ら日の呼吸の継承者は一人も漏れなく私が葬り去ってくれる・・・覚悟するのだ」
「ふぅん。でも余り時間ないと思うけど。貴方こそさっさと帰れば? じゃないと日に灼かれて死ぬと思うし」
「なら短期決戦を申し込むまで・・・手心一切無しだ・・・私の前に出向いて来たことをあの世で後悔しろ」
すると瞬く間に、黒死牟の刀身が六尺以上に伸びる。俺はその挙動に見覚えがあり、一気に血の気が引く。
「あれは・・・あの時の・・・!!」
ー月の呼吸 漆ノ型 厄鏡・月映えー
突如として奴の血鬼術の斬撃が大地を伝い、俺達目掛けて地を這いながら襲い掛かって来た。攻撃範囲も間合いも倍以上に伸びた。黒死牟は俺達相手に微塵も本気を出してなかったのだと痛感させられる。
ー水の呼吸 拾壱ノ型 凪ー
「えっ!?」
「な・・・に・・・」
なんとカナヲは義勇さんの十八番とも言うべき水の呼吸の拾壱ノ型で黒死牟の攻撃を完全に無力化した。結果、俺達はかすり傷一つ負ってはいなかった。
「また木伐採するんだ。いいの? 日が差したら鬼のアンタは死ぬと思うけど」
「黙れ・・・!!」
ー月の呼吸 捌ノ型 月龍輪尾ー
今度は一振りで森一帯を薙ぎ払うかのような凄まじい斬撃と飽和するかのような血鬼術の弾幕が放たれる。しかしカナヲは依然として涼しそうな表情をしていた。
ー花の呼吸 伍ノ型・改 徒の芍薬・
なんとカナヲはその場を一切動かないまま、花の呼吸最大斬撃回数の型を、瞬時に十一回も同時に重ねてしまった。結果、斬撃の強固な壁が出来上がり、黒死牟の攻撃を難なくやり過ごした。
「まだやる? 朝日が昇ったら隠れる所ないと思うけど」
「貴様・・・なぜ日の呼吸を使わぬ・・・その漆黒の日輪刀は唯の飾りか・・・」
「え? だって日の呼吸って跳び回る型が多いでしょ? 他の人守るの不向きだし。ならいっそ他の呼吸使った方がずっと守りやすいと思うから」
「ふざけた小娘だ・・・適性のない呼吸の型で私の月の呼吸を凌ごうとは・・・」
「ねぇ。前々から言おうと思っていたんだけど・・・」
するとカナヲは一拍置いて、突如挑発めいたもの凄く悪い顔をする。俺は思わずドン引きした。
「貴方の月の呼吸って単に血鬼術ばら撒いてるだけでしょ? それが剣技とか本気で言ってる? 随分と面白い冗談言うわね。黒死牟」
その瞬間、ビキリと奴のこめかみに青筋が浮かび上がる。奴からこれ以上ない程の怒気が放たれる。
「ふざけるなっ!! これは私が鬼となり数百年かけて磨き上げた剣技だっ!! 何故そのようなことを宣うっ!?」
「いや、だって、貴方の月の呼吸って血鬼術頼りの型が多いし。そもそも遠距離から一方的に攻撃するのが目的なら、別に矢でも鉄砲でも同じことができる訳で・・・」
「黙れっ!! 侮辱は許さんっ!!」
ー月の呼吸 拾肆ノ型 兇変・天満纎月ー
すると今度は視界を埋め尽くすかのように血鬼術の奔流が台風の様に辺り一帯を薙ぎ払う。これが正真正銘、黒死牟の最高最強の技なのだろう。如何にカナヲとは言え、俺達を庇ってこんな技受けきれるはずが・・・
ー花の呼吸 弐ノ型・改 御影梅・
するとカナヲは身を捻り、尋常ではない速度と回転数で斬撃を放ち始めた。それはまるで、人為的に竜巻を引き起こしたかのような凄まじい光景だった。僅か数秒の間で、黒死牟の放った夥しい量の斬撃は全て切り払われてしまった。透き通る世界が視えてたとしてもその回数は恐らく見切れなかっただろう。俺も時透君もその光景に絶句する。
やがて両者の技のせめぎ合いで、周囲の森一帯は粉微塵となり、粉塵で視界が完全に塞がった。しかしカナヲは、それを気に留めることもせずある一点を静かに見つめていた。
「少しだけやり返そうかな」
そうポツリと呟いて、カナヲはその場から姿を消し去った。
ー花の呼吸 肆ノ型・改 紅花衣・
「がはっ!!??」
すると塵埃の向こう側から、凄まじい回数の衝突音と肉を切り裂く音が聞こえた。やがて塵埃が収まる頃には、カナヲが再び元居た場所までゆっくりと歩いて戻って来た。
「ちょっと手加減し過ぎたかも」
やがて塵埃が風で流されて行き、視界が明瞭になる。俺達が視線を注ぐその先には、頸以外をズタズタに切り刻まれ、片膝をつき肩を上下させる黒死牟が居た。
「ば・・・馬鹿な・・・日の呼吸以外でこれ程の剣技を扱う者が居るなど・・・縁壱程ではないにしても・・・お前は一体・・・」
「何? ひょっとして貴方、日の呼吸が一番優れた呼吸だとでも思っていたの? 馬鹿みたい。あれは縁壱さんが使うから最強なのであって、日の呼吸自体は型を繋ぐ以外に特筆するところのない平凡な呼吸よ。そもそもの話、一撃の重さなら炎、柔軟さなら水、瞬発力なら雷、質量攻撃なら岩、攻撃回数なら風の方がずっと優れてる。それと女性の場合柔軟性とバネの力で花の呼吸使った方がよっぽど威力出るし。貴方って縁壱さんのお兄さんだった癖にそんなこともわかっていなかったの?」
「・・・・・・」
黒死牟は閉口したまま無言を貫く。傷は既に完治していたが、未だ片膝ついたままだった。カナヲの回答を聞いて衝撃を受けているのが見て取れる。
「呆れた。呼吸って言うのはね、それぞれ一長一短があるの。そして体質に合った呼吸は人それぞれ違う。だから皆あれこれ工夫して好きな呼吸使ってるの。貴方は日の呼吸ばかり特別視し過ぎよ。貴方みたいに思い込みが激しい人がお兄さんで縁壱さんもさぞかし苦労されたでしょうね」
「だ・・・黙れ・・・」
黒死牟は苦しそうにそう言い返す。カナヲもその様子を見て押し黙る。
「お前に・・・何がわかる・・・!! 縁壱のことは・・・私が一番良く理解している・・・何せ幼少の頃より傍で見続けて来たのだから・・・!! アイツはこの世の理の外側に居る・・・神々の寵愛を受けし太陽の如き存在なのだっ!! 誰もが焦がれて手を伸ばし・・・もがき苦しむ他に道が無い程の・・・正真正銘の天才だった!!」
「だから?」
「だから私は鬼になったのだ!! 縁壱を超える為!! そしていつか私の剣技で最強の奴に成り代わって見せようと!! その為に気の遠くなるような期間・・・ひたすら鍛錬に時間を費やしこれ以上ない程に技を磨き上げて・・・!!」
「で? その磨き上げた先が血鬼術ばら撒くだけの飽和攻撃な訳? 縁壱さんを超える為の手段がそれなんだ。貴方本当にそれで良かったの?」
「は・・・? な・・・何を言って・・・」
重ねて動揺する黒死牟にカナヲはため息をついて言い返す。
「縁壱さんに剣技で勝ちたいのなら、もっと基本をしっかり積み重ねた方が良かったと思う。まずは肉体の強化。次に正しい呼吸と正しい動きの実践。そしてその反復。それもただ繰り返すだけじゃなくて、自分の問題があるところを逐一確認してずっと修正し続けるの。そもそも貴方の月の呼吸って、相手に近づかず一方的に数の暴力で削り切ることを想定して練り上げてる気がするんだけど。それって自分より格上の相手と戦う為の戦術としては正しいのかもしれないけど、仮にそれで勝てるようになって本当に相手に剣技で上回ったことになるの? 私にはそう思えないんだけど」
「・・・そ・・・それは・・・」
「そもそもの話、ただ縁壱さんに戦いで勝つことだけが目的なら、兵隊たちに鉄砲持たせて数に物を言わせて一方的に襲ったって良いんだし、いっそ寝込みや食事にこっそり毒盛ったって良いんだし、なんなら家族を人質取って自害を要求したっていい訳でしょ? でもそうじゃなくて、純粋に剣技で勝ちたかったのなら、縁壱さんと同じ土俵で腕を磨いていかないと駄目だと思う。この数百年の間、貴方って一度もそういう考えには思い至らなかったの?」
「・・・・・・」
なんだろう。黒死牟から凄まじい後悔の匂いがする。カナヲの指摘に打ちのめされているのがわかる。
「ほら、もう夜明けよ。さっさと帰りなさい。私、流石にアンタに止めを刺せる程強くないから(大嘘)。背を討つつもりもないし、早く目の前から消えて。私、しのぶ姉さんが無事か早く確認しに行きたいし」
いつの間にか空の先が白み始めていた。じきに朝日が昇るだろう。黒死牟は力無く呟いた。
「・・・鳴女・・・」
ベベンッ
すると奴の背後に突如襖が現れる。どうやら奴らには空間転移の血鬼術を使う鬼が居るらしい。
「何とでも・・・言うがいい・・・どの道最期まで生きている者が・・・真の強者なのだ・・・貴様の妄言など・・・聞き入れる必要はない・・・次会った時はなりふり構わず殺してやる・・・」
そう言って黒死牟は異空間へと帰っていった。うっすら見えたが、中には上下左右が滅茶苦茶な途方もない空間が広がっていた。襖が閉まると、やがて空間に溶けるかのように痕跡が消え去っていく。
「ふう。漸く帰ってくれた。それじゃあ二人とも。悪いけど私、しのぶ姉さんの方に向かうから。正直甘露寺さんって抜けてるところがあって、ちゃんとしのぶ姉さんを助けてくれてるか心配なの。急いで様子を確認しに行かなくちゃ。じゃあまた後で」
そうしてカナヲは刀鍛冶の里まで引き返していった。俺はその様子を見て肩の力が抜ける。あんなに強いのに、カナヲはどこまで行ってもしのぶにベッタリの妹なんだなと改めてそう思う。そう言った部分に思わず愛着が湧いてしまう。
そうして完全に夜が明けた。その日、禰豆子が太陽を克服したとの知らせが、鬼殺隊全体に知れ渡った。
続く
オリジナル要素あったので以下技解説:
花の呼吸 伍ノ型・改 徒の芍薬・
→花の呼吸最大斬撃回数の九連撃を同時に十一回重ねる技。防御に使えば突破不能の壁となり攻撃に使えば相手は一瞬で放射状の肉片になる。
花の呼吸 弐ノ型・改 御影梅・
→花の呼吸の回転切りを極限まで強化した技。秒間約1000回の回転切りを放つので時間を掛ける程相手は細かい塵になる。
花の呼吸 肆ノ型・改 紅花衣・
→花の呼吸で捻るような四連撃を十二回繰り返す技。剣筋が自在で変則的な四十八連撃。カナヲ基準で加減がしやすい。
※尚、日の呼吸を使えば、カナヲは更に火力が出せます。
以上で兄上戦終了となります。兄上のお労しいところが沢山書けて満足です。次回、しのぶ達の描写をして刀鍛冶の里編は終了となります。
カナヲの恋人候補は?
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冨岡義勇
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時透無一郎
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煉獄杏寿郎
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竈門炭治郎※しのぶ付き
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輝利哉君※産屋敷家へ嫁入り確定
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鬼が存在しないこの美しき世界※独り身