「むー!!」
「っ!!?? 禰豆子ちゃんっ!!!!」
私と禰豆子ちゃん、それと玄弥君は、分身体の方を甘露寺さんに任せ、半天狗の本体を夜が明けるまで追い回していた。
やがて追いついた私が半天狗を串刺しにし、遂に仕留めるかに思えたその瞬間、朝日は昇った。半天狗だけでなく、禰豆子ちゃんも同様に陽に灼かれて全身火だるまになってしまった。
私は反射的に半天狗の本体を串刺しにするのをやめて、すぐに禰豆子ちゃんの下へ引き返した。ただその結果、とんでもない二択を突き付けられる事態となった。
(本体が死んでないっ!! おまけに逃げ遅れた里の人達に向かっていく!! でも禰豆子ちゃんをこのままにしておくわけには・・・!!)
私は蝶の羽織を禰豆子ちゃんに被せて包む。でも生地が薄いのか、禰豆子ちゃんから立ち上る炎が完全に消えてくれない。
朝日の淡い光でこれなのだ。陽が昇り切ったら間違いなく禰豆子ちゃんは陽光に灼かれて死んでしまう。私は禰豆子ちゃんを覆う様に抱きしめて葛藤する。
(玄弥君はまだ崖を降りてる最中・・・でも彼に禰豆子ちゃんを託したところでここは開けた草原地帯・・・陽を避けるようなものは何もない・・・このままでは里の人達が上弦の鬼に喰い殺されてしまう・・・私はどうしたらいいのっ!?)
私は過呼吸気味になる。柱として、鬼に襲われる人達を今すぐ助けに行かなければならないことは、頭では重々理解している。でもそうすればその間に禰豆子ちゃんは陽に灼かれて確実にこの世を去るだろう。私がついて居ながら禰豆子ちゃんを死なせたと聞いて炭治郎は一体何を思うのか。その時の光景を想像するだけで私は気が狂いそうになる。
(駄目・・・!! できない・・・決断できない・・・!! 私に禰豆子ちゃんを見捨てることなんて・・・!!)
私は苦渋に顔を歪めてその場から動けないでいた。しかし次の瞬間、私は禰豆子ちゃんに不意に蹴り飛ばされる。私の身体は宙を舞う。
「むー!!」
禰豆子ちゃんは上弦の鬼へ向けて指を差していた。そして目で訴える。
「禰豆子ちゃん・・・!!」
私は着地した後、わき目も振らずに走り出した。呼吸を整え只々鬼を狩ることのみに意識を集中した。
こうなったら速攻で鬼を殺して禰豆子ちゃんの下まで引き返す。それしかない。姉さんがくれた蝶の羽織がそれまで禰豆子ちゃんを守り通してくれると信じて。
私は一足飛びで追いつく距離まで近づくと、そのまま全力で大地を蹴り抜いた。
ー蟲の呼吸 蜂牙ノ舞 真靡きー
「ぐがぁっ!!??」
私は上背六尺程になった半天狗の本体の胸を背中から串刺しにした。透き通る世界で僅かに見えた。本体の中に更に小さい本体が居る。恐らくこっちが真の本体。
私は半天狗をうつ伏せに押し倒す。そして背に跨ったまま、心臓があるはずの箇所をこれでもかと滅多刺しにする。可能な限りの短時間でありったけの毒を打ち込んだ。
「とっととくたばれ糞野郎ぉおおおっ!!!!!!」
「ギャァアアアアアアアアアッ!!!!」
やがて奴は力尽きたのか身動きしなくなり陽光に灼かれて完全に塵へと還った。私はそれを確認し、すぐさま禰豆子ちゃんの方へと振り返る。しかしその瞬間、私は信じられぬものを見た。
「・・・え・・・」
なんと禰豆子ちゃんが朝日を浴びながらも、私に向かってゆっくりと歩いて近づいて来る。私はその光景を見て目を見開くばかりだった。
「おっ、お、おはようっ!」
「禰豆子・・・ちゃん・・・大丈夫・・・なの・・・? まさか・・・太陽を克服して・・・!!」
「だ、だいじょうぶ。もう・・・へいきっ!」
「っ!! 禰豆子ちゃんっ!!」
私は傍まで歩み寄って来た禰豆子ちゃんに思わず抱き着き大粒の涙を溢す。
「ああっ! 良かったっ! 本当に良かったっ! 私、禰豆子ちゃんが死んでしまったらどうしようかと思って!! 炭治郎に頼むって言われたのに・・・辛い思いさせて本当にごめんなさいっ!!」
「よ、よかった、よかった、ねぇ。し、しのっ、しのぶ、おねえ、ちゃんっ!」
「っ!!」
私は肩を跳ねさせる。なんと禰豆子ちゃんが私をお姉ちゃん呼びしたのだ。禰豆子ちゃんが無事だったことと、私をお姉ちゃん認定してくれたこと、その二つの事実で遂に感極まってしまい、私は堪えきれなくなり大号泣してしまった。
「うわぁああんっ!! 禰豆子ちゃぁああんっ!! 本当に・・・本当に良かったよぉおおおっ!!!」
「よかったねぇ。し、しのぶ、おねえちゃんっ!」
私は暫く禰豆子ちゃんに抱き着いたまま延々と泣き続けていた。そしてどれだけの時間が過ぎただろう。気が付けば私達の傍に日輪刀を携えた一つの影が佇んでいた。
「は? 誰が誰のお姉ちゃんよ。ふざけないで」
気が付くと傍にカナヲが立っていた。何故だかとても冷たい視線を禰豆子ちゃんに向けている気がする。
「あっ! カナヲ! 炭治郎は無事なのっ!?」
私はすぐさま炭治郎の安否を確認する。しかしカナヲは不満げに問い詰めてくるばかりだった。
「そんなことよりしのぶ姉さん。これって一体全体どういうことなの? しのぶ姉さんのこと、禰豆子ちゃんがおねえちゃん呼びしてるんだけど。言っておくけど後にも先にもしのぶ姉さんのことをおねえちゃん呼びして良いのは私だけよ。炭治郎の妹だからってふざけないで。私、認めないから」
するとカナヲは何故か禰豆子ちゃんに食って掛かる。しかし禰豆子ちゃんはどこ吹く風だった。
「カ、カナヲ、ちゃんっ! お、おはようっ!」
「五月蠅い。いつまで馴れ馴れしくしのぶ姉さんに抱き着いてるんじゃないわよ。さっさと離れなさいよ。頸斬り落とすわよ」
「ちょっ!? カナヲっ!? 貴方、何言ってるの? いいからその日輪刀振りかざすの止めなさいっ!!」
私は炭治郎の安否を尋ねたかったのだが、カナヲが物騒な目つきで禰豆子ちゃんにそう詰め寄るので、それどころではなくなってしまった。カナヲったら、そんなに禰豆子ちゃんが私をおねえちゃん呼びしてるのが許せなかったのかしら。
「ひどい・・・しのぶ姉さん・・・私誰よりもしのぶ姉さんのこと心配してたのに・・・」
「ご、ごめんなさいね、カナヲ。ほら、見ての通り私は傷一つないから。だから安心して? それと炭治郎は無事なの?」
「・・・・・・」
「・・・え・・・待って・・・どうして黙っているの・・・?」
何故かカナヲは閉口していた。私はその様子を見て嫌な想像をした。
「え・・・嘘・・・嘘でしょ・・・!? だってカナヲが助けに向かったって甘露寺さんが・・・!!」
私が徐々に呼気を荒くし取り乱しそうになるのを見て、カナヲは目を丸くし遂に口を開いた。
「ああ。炭治郎なら大丈夫。心配しなくて平気。そんなことよりしのぶ姉さん。つい気になったんだけどその格好・・・」
カナヲは炭治郎の安否を何事もないかのようにサラリと答える。そして私の格好のことを指摘する。
「なんで甘露寺さんみたいな格好してるの? ねえ、なんで?」
「はっ!」
私は自身の現在の隊服姿を思い出して一気に青ざめる。しまった。今の私はゲスメガネが用意した例の露出の多い隊服だった。カナヲにそれを指摘された途端、一気に気恥ずかしい思いをした。私は必死に弁明する。
「ち、違うのっ! これは好きで着てる訳じゃ・・・!」
「え? そうなの? じゃあなんで着てるの?」
「それは・・・えっと・・・本当は昨夜炭治郎と過ごそうと思って・・・」
私はそこまで口にして言い淀んだ。流石にその続きをカナヲに言うのは憚られる。しかしカナヲはそれを聞いて只々怪訝そうにしてる。
「え? 炭治郎? どういうこと? もしかして炭治郎の趣味なの? ふーん・・・」
するとカナヲは私の胸元を凝視してくる。私は反射的に両手で隠す。
「ちょ・・・カナヲ? 何見てるの?」
「いや、その格好のしのぶ姉さんも推せるなと思って。今のしのぶ姉さんも可愛いと思う。どうせならそれ、普段着にしない?」
「は??? 嘘でしょ!? この格好で蝶屋敷をウロウロしろって言うの!? 他の隊士達に見られるから嫌よ!!」
「え? そうなの? でも炭治郎には見せたんでしょ? 他の人は嫌なの?」
「い、嫌に決まってるでしょ!? もうっ!! 金輪際この隊服着ないからっ!! この話はこれでお終いっ!!」
「そう・・・なんか残念・・・」
何故だかカナヲはしょんぼりしている。
冗談じゃないわよ。こんな露出の多い隊服、普段着になんて出来る訳ないでしょ。
私はすぐに禰豆子ちゃんから蝶の羽織をひったくってそのまま胸部と大腿部を覆い隠す。
「兎に角、炭治郎が無事で良かったわ。禰豆子ちゃんも太陽に灼かれて死なずに済んだし本当に良かった。上弦の鬼も倒せたしすぐに里に戻りましょう?」
「うん。戻ろう。しのぶ姉さん」
「もどろうねぇ」
そうして私たちは里の跡地へと引き返していった。
ー移動中ー
「それにしてもしのぶ姉さん。昔に比べてだいぶ大きくなったね」
フヨフヨッ
「ちょっ!? カナヲっ!! 急に触るの禁止っ!!」
「凄い・・・水風船みたい・・・もちもちでぷるぷる・・・」
「もちもち、だねっ! しのぶ、おねえちゃんっ!」
「は? 調子に乗らないで禰豆子ちゃん。しのぶ姉さんは私だけの姉さんよ。ふざけたこと言ってると頸落とすわよ」
「二人ともやめてっ! もういやっ!!」
「・・・炭治郎・・・早く合流してくれぇ・・・」
尚、この後先に合流したのは恋柱の方だった。結果、玄弥の苦悩はもう暫く続いた。
続く
さて、何はともあれ次回から柱稽古編開始となります。玄弥は強く生きてくれ。
カナヲの恋人候補は?
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冨岡義勇
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時透無一郎
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煉獄杏寿郎
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竈門炭治郎※しのぶ付き
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輝利哉君※産屋敷家へ嫁入り確定
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鬼が存在しないこの美しき世界※独り身