76話 柱稽古
「あーあァ。羨ましいことだぜェ。なんで俺は上弦に遭遇しないのかねぇ」
「こればかりはな。遭わないものはとんとない。甘露寺、その後身体の方はどうだ?」
「あっ うんっ ありがとう伊黒さん! 私、随分良くなったよ!」
「時透も、左手を失ったのは災難だったが単独で良く上弦を討伐した。見事と言う他あるまい」
「お気遣いどうも伊黒さん。まあ俺は引退でしょうけどね。代わりに炭治郎が柱昇格することになって本当に良かったです」
ここは産屋敷邸。刀鍛冶の里へ上弦が襲来したあの日から、既に五日程経過した。私たちは緊急柱合会議の名目で招集され、今この場に集っていた。
伊黒さん達の話の後、数珠を鳴らした悲鳴嶼さんが私に労いの言葉を掛けてくる。
「しのぶ。君も上弦の鬼を見事討伐した。それに加えて里での正しき行動。私は君を改めて柱として認める。自分の正しい行動を誇るといい・・・」
「悲鳴嶼さん。それは違います。決断したのは禰豆子ちゃんであって私ではありません。それに今回の一件、寧ろ柱として至らない部分も多かったです。なのでそう簡単に認めて貰っても困ります」
悲鳴嶼さんは一瞬私の返しに閉口したが、やがて笑みを溢して返答した。
「そうか。ではこれからの働きにも期待するとしよう。但し何を言おうとも私は君を認める。姉のカナエも君を誇りに思っていることだろう」
「そうですか。なら嬉しい限りですね」
私たちのやり取りがひと段落したところで、上座側の襖が開く。私たちが視線を移すと、御内儀のあまね様とご子息の輝利哉様、そしてその後ろに続く形でカナヲが入室した。
「大変お待たせ致しました。本日の柱合会議、産屋敷輝哉の代理を、産屋敷あまねが務めさせていただきます。そして当主の輝哉が病状の悪化により、今後皆様の前に出ることが不可能となったことを心よりお詫び申し上げます」
即座に姿勢を正し、悲鳴嶼さんが返答する。柱一同それに倣う。
「お館様が一日でも長くその命の灯を燃やしてくださることを祈り申し上げる。あまね様もお心強く持たれますよう・・・」
続いて、この度の柱合会議に移る前に、炭治郎の柱就任式が簡略的に執り行われる。お館様が臥せってるため、日輪刀の授与は次期当主の輝利哉様の手で行われる。
「炭治郎。父上も君には大いに期待されている。今を思えば、君達兄妹のおかげでここまで鬼舞辻無惨との戦局が動き出したと言っても過言ではない。どうか鬼殺隊の新たな柱として私達を支えて欲しい。よろしく頼むよ?」
「はいっ!! お館様っ!! 俺は貴方の為なら命だって惜しくはありませんっ!! これからも全力で戦いますっ!!!」
「アハハ・・・まあ私はまだ次期当主の身だけどね。でもゆくゆくはそのつもりでよろしく頼むよ。炭治郎」
「はいっ!! お館様っ!!」
炭治郎。貴方話聞いてた? まあ熱意は人一倍あるみたいだから失礼には当たらないとは思うけど。実に炭治郎らしいなと私は思った。
「では現状の父上の見解について、母上より皆様にお伝えして頂きます」
炭治郎の柱就任式が終わるや否や、すぐに御内儀のあまね様より今後の鬼殺隊の方針について周知がなされる。
禰豆子ちゃんが太陽を克服したことで鬼舞辻無惨との総力戦が近づいていること。そしてそれに対し柱の戦力強化は急務とされ、痣の発現方法、透き通る世界の習得方法、これらの方法についての指南が求められた。するとすぐに時透君が回答する。
「黒死牟が言ってました。『痣者は心拍と体温を極限まで高めることでその境地に至る』と。常に痣を発現しているカナヲの体温と脈を調べればすぐにでもその具体的条件が明らかになると思います」
それを聞いてあまね様はご息女のかなた様に一声かけて体温計を持ってこさせる。その間、脈については私がその場で測った。私はすぐにカナヲの異常性を再認識する。
「最低でも心拍数が二百を超えています・・・そして体温計の示す温度は四十度以上・・・こんな状態で本来動ける筈が・・・!!」
「おいィ、しのぶ。お前、カナヲと姉妹だってのに今まで気づかなかったのかァ? そもそも蝶屋敷での診察で一度位体温測ったことあるんじゃ・・・」
「すみません不死川さん。カナヲの平熱が常人より高いことは薄々把握してましたが、まさかこれ程とは思いもしなくて。それにカナヲは鬼殺隊に入って一度も怪我をしたことが無く診察したことは一度も・・・」
あれ、これってもしかして、痣の発現条件が今まで判明しなかったの、ひょっとして私のせいなんじゃ・・・
「すみません。私の落ち度です。私がもっと早くに気づいて居れば・・・」
私が落ち込みかけた矢先、宇随さんがすかさず擁護に回る。
「カナヲの派手にヤベェ心音に前々から気づいてたのは俺も同じだ。だからしのぶが気に病む必要はねぇ。俺もカナヲ特有の異常体質だって割り切って他の連中に相談なんてしてなかったしな」
私はそれを聞いて少しだけ安堵した。一拍置いて、時透君が全体に提案をする。
「逆に、痣発現の条件がわかれば、意図的に発現しないで済ませることもできますよね? 俺や炭治郎、カナヲに甘露寺さんはもう手遅れだけど、他の人は歳が二十五近かったり超えてたりするから寧ろ発現しないよう注意すべきだと思います」
その提案を聞き、悲鳴嶼さんが数珠を鳴らして異を唱える。
「時透。柱の中に今更自身の命を顧みる者が居ると思うのか? 私は必要であれば今すぐ痣を発現しても構わない」
「そんなことしたら悲鳴嶼さんすぐに死んじゃうかもしれないでしょ? やめてよ本当に。悲鳴嶼さんは痣なんかに頼らなくてもカナヲを除いてぶっちぎりで鬼殺隊最強なんだから命を粗末にしないで下さい。鬼殺隊の損失です」
「南無・・・」
悲鳴嶼さん。今この場で痣発現することに意味なんてないのでは? 少々気持ちが前のめりになり過ぎてるような気も・・・
「そんなことより悲鳴嶼さんには是非『透き通る世界』の方を習得して欲しいです。多分悲鳴嶼さんならそう時間を掛けずにモノにできると思う。何せ俺でも炭治郎の手本を見ただけで再現できたんだから」
「わかった。早速やってみよう」
悲鳴嶼さん流石ね。見よう見まねで透き通る世界を身に着けられる自信あるんだ。私なんて炭治郎から教わってだいぶ経つのに未だ使えこなせていないのに。この人達天才過ぎる・・・
「時透の言う通り、私に限らずこの場にいる全員が『透き通る世界』の習得を試みた方が良いだろう。痣と違い寿命を失う等の懸念事項はないのだから」
「いいですねェ悲鳴島嶼さん。じゃあ早速この後俺に稽古つけて下さいよォ。柱同士の戦力増強訓練、『柱稽古』と行きましょうやァ」
「不死川。それについてだが私に一つ提案がある。その柱稽古とやらだが、柱に限定せず鬼殺隊全体の戦力底上げの為に取り組むべきだ。日中は隊士達の合同強化訓練を柱で監督し、夜間に我等柱同士で稽古を行うのだ。鬼の出現がピタリと止んだ今の期間しかこの施策はできない」
続いて柱稽古の具体的内容について議題をしようとの流れとなり、御内儀のあまね様と次期当主の輝利哉様はご退室なされる。すると終始無言を貫いていた冨岡さんが突如その場を立ち上がった。
「あまね殿も退室されたので失礼する」
「おい待てェ。失礼するんじゃねぇ。丁度今から柱稽古の取り組みについて話を進めるところだろうがァ」
「皆で話し合うといい。俺には関係ない」
冨岡さん。唐突に何言い出してくれてんの? いくら同門の私や炭治郎でもこれは擁護できないわよ。前々から思ってたけどこの人協調性無さ過ぎるんじゃないの? これは不死川さんじゃなくても普通にキレるわよ。
「義勇さん。なんでそんなこと言い出すんですか? 折角みんなで一致団結して無惨との戦いに備えようとしているのに。何か納得できないことでもあるんですか?」
すかさず炭治郎が冨岡さんを引き留める。炭治郎の意見には聞く耳があるのか冨岡さんは振り返る。
「炭治郎。なぜお前は水柱を継がなかった」
「え? でも水柱なら義勇さんがいるじゃないですか。それに俺は義勇さん程水の呼吸を使えこなせないですし・・・」
「俺は水柱じゃない」
「「「???」」」
その瞬間、皆が絶句する。この場にいる誰一人、冨岡さんの言葉の意味を理解できないで居た。当然私もその一人だった。
この人本当に何言ってんの!? 本当に口にする言葉全てが意味不明なんだけどっ!! 炭治郎、何か言ってやりなさいよっ!!
私は目で訴える。すぐに炭治郎は冨岡さんに問いを投げかけた。
「どうしてそんなことを言うんですか? 義勇さんは紛れもなく正真正銘立派な水柱です。それにさっきから怒ってるような匂いもしますし・・・」
「俺はお前達とは違う。それと俺はお前が水の呼吸を極めなかったことを怒っている。話は終わりだ。失礼する」
「おい冨岡ァ!!!! なんだその言い草はァ!! 弟弟子に向かってなんだその冷てぇ態度はァ!!」
遂に不死川さんが立ち上がった。凄い剣幕だ。
「前にも同じこと言ってたなァ冨岡・・・俺たちのこと見下してんのかァ? アアッ!?」
義勇さんは不死川さんを無視してそのまま退室しようとする。遂に不死川さんが我慢の限界に達するので私と炭治郎でそれを必死に止める。
「不死川さん落ち着いてっ!!」
「不死川さん!! 少し待って下さい!! 義勇さんから何だか辛そうな匂いもするんです!! きっと何か事情が・・・」
「うるせぇ!! 鬼殺隊に居る奴らはなァ!! 皆辛い思いして入隊してんだろうがァ!! 竈門も兄弟子から散々な扱いされてなんでそんな平気そうなツラしていやがるんだっ!! 胸糞悪ィだろうがァ!!」
するとその瞬間、煉獄さんも立ち上がる。誰も予想だにしない出来事だったので全員が驚いた。
「済まない。俺の柱稽古も一旦保留にしてはくれまいか。皆の士気を下げるような真似をして本当に申し訳ないと思っている」
冨岡さんならいざ知れず、あの煉獄さんからも柱稽古の参加を見合わせる発言が出た。その場にいる全員が動揺する。
「煉獄。何が不満だと言うのだ」
すぐに悲鳴嶼さんが理由を尋ねる。煉獄さんは表情を歪め絞り出すかのように返答した。
「これを機に父上と話をつけさせてくれ。鬼殺隊が一丸となり最終決戦に臨むとなった今この時であっても、未だ煉獄家では身内での不和が解消できてはいないのだ。柱稽古でそのような醜態を他の隊士達に見せる訳にはいかない。俺は父上を説得するまで、柱稽古への参加を保留とさせて貰う」
続く
辞退者はまさかの煉獄さんでした。本作は酒柱さんがヒキニートしてるので仕方ないですね。それに父親の醜態を一般隊士達に見られるのは・・・お労しや(煉獄の)兄上。
それと周知です。柱稽古編から週1土曜更新になります。申し訳ありません。投稿頻度は落ちますが、残り十数話で決着つくと思うので是非完結まで読んで貰えたら嬉しいです。
今日も休日出勤でぴえん。
カナヲの恋人候補は?
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冨岡義勇
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時透無一郎
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煉獄杏寿郎
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竈門炭治郎※しのぶ付き
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輝利哉君※産屋敷家へ嫁入り確定
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鬼が存在しないこの美しき世界※独り身