「やっほー、鱗滝さん帰って来たよー。元気にしてたー?」
「真菰・・・お前・・・! け、怪我はないのか・・・!? 最終選別を無事に乗り越えて・・・っ!」
私が鱗滝さんの下で厄介になり始めてから丁度七日経った。度々話に挙がってた真菰さんという方が帰って来た。その時鱗滝さんは真菰さんを優しく抱きしめ、天狗の面の端より何粒もの涙を流していた。
「え・・・鱗滝さん泣いてる? 大丈夫だよ。ほら、私どこも怪我なんてしてないし。あ、でも・・・」
「っ! どこか痛むのか!?」
鱗滝さんは抱きしめるのを止め、真菰さんの肩に手を置いたまま問い詰める。その剣幕に真菰さんも圧倒されていた。
「もー、鱗滝さんは心配し過ぎだよ? 一回手が伸びる鬼に両手足を掴まれて跡とか残っちゃったけど、ほらこの通り。全然痛くないし」
「まさか例の鬼か!? 真菰よく無事に奴を倒して・・・!!」
「あー、違う違う。違うよ、鱗滝さん。私は成す術なかったから。もう少しで四肢をもがれそうになった時に別の女の子が助けてくれたんだ~」
私はその女の子に心当たりしかなく、鱗滝さんの後ろから思わず声を上げる。
「それってカナヲですか? 真菰さん」
「あ! もしかしてしのぶちゃん? わあ、小っちゃくて可愛い! よしよし、姉弟子である私が一杯ナデナデしてあげるね~?」
「は? ちょっと!? やめてください!!」
すると私の存在に気付いたのか、真菰さんが突如私に近づき身体のあちらこちらを撫でる。
「あっ・・・ひっ・・もうっ! いい加減にしてっ! 私をナデナデして良いのは姉さんだけよっ!」
「わぁ、速いね」
私は全集中の呼吸を使ってその場を退避する。危なかった。思わず変な声が出そうになり私は内心冷や汗を流していた。
「あれ? 鱗滝さん。しのぶちゃんってもう全集中の呼吸使えるの?」
「ああ、しのぶは物覚えが早い」
「わあ! 凄い! じゃあ次の最終選別受ける頃には岩も切れるんじゃないかな? しのぶちゃん優秀だね~」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「え・・・あれ・・・」
私も鱗滝さんも黙り込むので真菰さんはあっけに取られる。あまり気乗りしない形で鱗滝さんがそれに応じる。
「しのぶは・・・生まれつき上半身の筋肉が付きにくいようでな・・・果たして岩を斬れるようになるかどうか・・・」
「あ、そうなんだ。でもしのぶちゃんまだ幼いし、背丈が伸びきる頃にはきっと大丈夫じゃないかな。多分」
「そうか。そうだな。確かにしのぶは物覚えが異常に早く教えたことはすぐにものにする。一方、身体の成長だけは流石に一朝一夕にはいかん。当面の課題は身体づくりを第一優先としよう」
「はい。当初よりそのつもりです」
私は鱗滝さんの示した方針に対して頷く。
全集中の呼吸はこの七日間で習得できた。水の呼吸の型もカナヲに何度か事前に見せてもらってたこともあり鱗滝さんの下ですぐに覚えた。
しかしあくまでもそれは形だけだ。肝心な身体の仕上がりは素程進捗はない。たった一週間しか経っていないのだから当然とも言えるのだが・・・
「じゃあ日輪刀が届くまでの間、私もしのぶちゃんの鍛錬に付き合うね。鱗滝さんとは違う視点で何か助言できるかもしれないし」
「真菰、それは助かる。正直しのぶは今まで引き取った教え子とは違い、優秀ではあるが危うくもある。儂が見ていない間、あまり無理をさせないよう気を配ってくれ」
「? わかったよ」
数日限定ではあるが、姉弟子の真菰さんが私のお目付け役になった。有難い反面やりにくくもあった。
私はこの一週間、こっそり無茶な鍛錬をして鱗滝さんにバレて何度も止められていた。
腕の筋肉をつけたくて無断で真剣を持ち出し素振りを数百回繰り返したり、手頃な岩を見つけて押し動かそうとしたなど例を挙げればキリがない。この一週間ですっかり私は鱗滝さんから見て問題児扱いされるようになった。
加えて夜間は独学で山より調達した草花から薬を調合したりなどその手の研鑽も絶え間なく行った。睡眠不足は鍛錬の敵だと鱗滝さんに度々怒られた。でも正直私は日に日に焦る気持ちが募っていた。
「しのぶちゃんは頑張り屋さんなんだねぇ。でも身体壊したら本末転倒だよ? まだ八歳なんだから無理せず気楽にやろうよ」
「気楽・・・ですか・・・」
私と真菰さんは場所を移動し、狭霧山近くのとある場所で立ち話をしていた。目の前には真っ二つにされたしめ縄が巻かれていたであろう大岩が鎮座していた。
「真菰さんはどうやってこの岩を割ったんですか?」
私は目の前の大岩を見てそう尋ねる。すると真菰さんは苦笑いを浮かべる。
「うーん・・・今のしのぶちゃんには言いにくいなぁ・・・」
「なんですか。勿体ぶらずに教えてくださいよ。私一日でも早く岩を割って最終選別に参加したいんです」
真菰さんはうーんと唸っていたが、やがて渋々返答した。
「死ぬほど鍛える。結局それ以外に方法が無いんだよね」
「わかりました。では今日から鍛錬を倍に増やします」
「そうしないために鱗滝さんからしのぶちゃんを見張るよう頼まれてるんだけどなぁ」
私が早速その場を去ろうとした瞬間、真菰さんに肩を掴まれ止められた。真菰さんは成りは私と変わらぬ細身なのに、腕力が全然違う。一体どうやったらこんな力をものにできるというのか。
「では教えてください。今私を押さえつけているこの膂力の出し方を」
「全集中の呼吸を使ってるだけなんだけどなぁ」
「私はそれが使えてもこれ程の力が出せません。一体どんな裏技があるんですか?」
「鍛錬を重ねた時間じゃないかなぁ。しのぶちゃんも数年鍛錬を続けたらこれくらいにはなると思うよ?」
「・・・そんなに待てませんよ・・・」
私はその話を聞いて一層焦りを募らせる。少なくとも姉さんよりは早く隊士にならないと。姉さんが任務に就く前に私が隊士になっておかないと話にならない。
私は真菰さんの腕を引き剥がそうと乱暴にならないように少しずつ力を掛けて外そうとする。けど結局真菰さんの腕は離れなかった。
「これが・・・今の私の現状ということですね・・・私は一日でも早く鬼殺の剣士になりたい」
「お姉さんの為?」
「はい」
「うーん・・・もし私がお姉さんだったら・・・しのぶちゃんにそこまで自身を追い込んで欲しくないなぁ」
「どうしてですか?」
私は僅かに眉を寄せる。突き動かせない現実に鬱憤が溜まり、取り繕うことが難しくなって来る。
「だって、自分の可愛い妹がそんなに自分の身体を痛めつけるように鍛えてたら胸が痛むよ。焦っちゃ駄目だよ、しのぶちゃん。そもそも最終選別に参加する子達は皆最低でも十歳を超えてるよ? せめてあと二年は地道に我慢しようよ」
「・・・・・・」
私は力が抜けて真菰さんの腕から手を離す。わかっていた。私の身体は小さい。生まれつきというのもあるけど、まだ八つの幼子なのだと。一方姉さんは十四。この差はそうそう埋められない。
だけどそれすらも超越し埋めて凌駕しているのがカナヲなのだ。私はそのカナヲに追いつかなくちゃいけない。腕力では勝てなくても、姉さんを守るというその一点においては譲れない。
「二年・・・ですね。じゃあ二年は、鱗滝さんの下で地道に鍛錬を積みます。でもそれでもし芽が出なかったらその時は・・・」
「どうするの?」
私は逡巡する。もし二年経っても大岩が切れなかったら。考えたくもないその仮定を揺るぎない現実で突き付けられたとしたら。その時は・・・
「その時は・・・多少無茶な鍛錬でも許可貰います。鱗滝さんに相談した上でですが」
「・・・まあ・・・鱗滝さんが良いって言うなら平気かな? しのぶちゃんが自壊するような鍛錬の仕方は許さないと思うし」
そこまで結論が出て、真菰さんは私の肩から手を離す。そして提案する。
「じゃあ鱗滝さんに教えられたこと、二人ですり合わせしよっか。間違って覚えてるところあったら直さないといけないからね」
「はい。先達の知恵お借りします」
「もう、先達って。私まだ十三だよ? しのぶちゃんのお姉さんよりは年下なんだし。もっと気楽に接してほしいなぁ」
そうして、鱗滝さんから与えられる鍛錬の合間時間で、私は真菰さんより無駄な動きや変な癖を直すために助言を受けるのだった。
続く
【イベント発生】
???「口惜しい思いで懊悩していた」
【しのぶのお労しさが1上がった!】
諸説あるかと思いますが、本作では真菰を錆兎&義勇の一個下として描写します。なので恐らくですが本作の真菰は煉獄(杏寿郎)と同じ年齢です。なので鱗滝さんにほぼ同時期に育てられた錆兎&義勇&真菰は面識のある団子三兄妹みたいなものと思って下さい。尚錆兎は既に・・・
読みたい路線はどっち?
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一部の層(継国兄弟ファン)にぶっ刺さる話
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万人受けしそう(マイルド)な話