「ひいっ、ひっ!」
一つの影がどかどかと醜い走りで何かから逃げていた。
その姿は上半身の身に限って人間に見えるが、下半身は蠍の様な節足動物と毒針の様な尻尾を併せ持っていた。
その上半身もよく見れば頭に角が生えており、背中にコウモリの様な羽も生えているキメラと言って差支えのない珍妙な生体であった。
それもそのはず、この怪物は『悪魔』と呼ばれる存在であり、普通の人間とは比べ物にならないほどの力を有している。
その気になれば上半身だけで人間を簡単にくびり殺せるだろう。
だが、今の
恥もプライドもなく逃げ惑う姿は本当に悪魔なのかと疑わざるを得ないだろう。
だが、彼女にも逃げる理由があった。
とある事情で転生悪魔となった彼女は仲間と共に密かに人間狩りを楽しんでいた。
人の肉を喰らい、成長するような悪魔だったからだ。
だが、それも今日限りだった。
「に、逃げないとっ、ぎゃっ!?」
猛スピードで逃げていたため突如現れた透明な風に顔面からぶつかる。
巨体で勢いよくぶつかったため痛みは相当なものだ。
それでも脳内にアドレナリンが大量分泌されているせいか即座に動き出そうとして横を向き。
「……………………ぁ」
月明かりの影となっている追跡者が目に入ってしまった。
突如現れたかと思ったら仲間をあっという間に細胞のかけらも残らず消し去った存在。
あのような技を持つのは現在魔王になっているグレモリーの系列の者かと思ったが、どうもそうではない。
転生悪魔になったことで嗅覚も人間のものから遥かに優れたせいで悪魔と人間の判別がつくようになった今だからこそ分かる。
自分を追いかけていたのは人間の皮を被った悪魔なのだと。
噂で聞いたことがある。
緑のマントを身につけた悪魔のような人間がいると。
あらゆる勢力から力を奪い、それを己がモノにして力を振りかざす存在だと。
ただの噂と思っていたが、噂は噂である。
現実の方がもっと恐ろしいものだった。
「や、やめ、殺さないで…………」
快楽に酔いしれて殺戮を行い続けていた彼女は頭を地につけて許しを請う。
許されるはずがないと分かっていても、一縷の希望があるかもしれないと必死だったのだ。
一向に返事がないと恐る恐る頭を上げた彼女が目にしたのは、緑のオーラを纏ったエネルギーを今から発射しようとする誰かだった。
もう助からない、そう思った彼女は現実となった噂の存在の名前を口にした。
「悪魔博士…………」
それが最後の言葉となり、彼女は緑のエネルギーに飲み込まれてこの世から消滅した。
残されたのは未だ空から見下ろす存在である。
緑のマントに鉄仮面、多くの魔術や道具を扱う彼はひとつ口に出した。
「私はDr.ドゥームだ」*1
私だ、Dr.ドゥームだ。
何かの縁でこの世界に転生してしまった転生者という事情があるが、私はDr.ドゥームなんだ。
決して悪魔博士ではない。何か副音声で聞こえても悪魔博士ではないのだ。
前世の記憶を持って産まれたから幼少期はやり辛かったが、いわゆる転生特典というやつのせいか前世よりも賢くなっていた。
そのまま大学に進学し様々な研究をしていたのだが、派閥争いの関係で私は落第、退学せざるを得なくなってしまった。
その時、私は悪魔がこの世界に実在するということを知ってしまい、調べていった結果、この世界は『ハイスクールD×D』ということに気づいてしまった。
私の記憶が正しければMARVEL顔負けの人外魔境、聖四文字がかつての大戦でばら撒いた『神器』が無ければ常に命の危険が付きまとう。
いや、『神器』自体が迫害の元となるものもあったな。
あまりにも不完全なものばかりで誰も見知らぬところで世界の危機が多発するような地獄だ。
それを知ってしまった私は力を蓄えなければならないと修行に赴き、一時はヒマラヤ山脈で遭難したが、隠れて魔術を研究している一団に救出されたことで全てが加速していった。
だから誰が悪魔博士だ、私はDr.ドゥームだ。
その一団のトップとなり研究を続け、様々な勢力にスパイを送り込みながら私は成長していった。
まずは悪魔の力を使い私を蹴落とした者へ復讐を行った。
相手の社会的信用を落とし私の信用を取り戻したことで学会で表の顔をつくりつつ、日夜天使や悪魔、そのほかの人外と戦いを繰り広げている。
今夜の騒動は些細な事であり、本来なら部下に任せるはずの話であった。
だが、此度は違う。
近いうちに天使、堕天使、悪魔の会合があるという情報が私に入ってきたのだ。
物語はそこから加速的に動き出す。三大勢力、
全くもって不愉快だ、何も知らぬ人の運命を人でない者が弄り倒そうなどと言語道断。
裏で人類の支配者面をしている者共を追い出し、私が人類の支配者になる。
大層な夢を掲げるが、実際にこの夢は叶えないといけないだろう。
何せ、悪魔も天使も出生率が低いという理由で人間を奪い取っている、その人生も奪い従え搾取する。
それをしていいのは人間同士だけ、つまり私だけだ。
「思い知るといい、このDr.ドゥームこそ世界を支配するのだ」*2
私が、全ての頂点に立つ。
転生者であるDr.ドゥーム(偽)は吹き出しの通り喋っているのに皆からは注釈のように聞こえています。そのことについて何も気づけない謎の呪いに罹っているので気にしないでください。
感想と評価を頂けたら続くかもしれません。