さんけつのオリリィ物語〈トレインズ編/Buds of Dystopia〉   作:3次元に見放された決闘者(略:さんけつ)

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第4話 3人いれば(1) ~鍵がないのはお約束~

【グリ子side】

志乃(しの)ちゃん、飲み終わったペットボトルは中を洗っておいてね」

「は~い」

 麻莉歌(まりか)が研究所に来てから、研究所での生活は豊かになった。彼女は私と同じく、生活費節約のために平日は志乃の部屋に泊まっている。

 麻莉歌の家事スキルはかなり高く(志乃と私が低すぎるのもあるけど)、掃除・洗濯・食事の準備を買って出てくれた。おかげで、ゴミ屋敷一歩手前だった志乃の部屋も、ちょっと汚い程度に回復した。

 実は志乃が使っていた社宅は片づければ普通に広めで、3人で使っても余裕で生活できている。

「グリ子ちゃん、読んだ本は本棚に戻してね」

「……えぇ」

 今までは本棚が見つからなかったから、ついその(あた)りに積んじゃうわね。

「そう言えば……グリ子の名前が書かれた箱があったけど、これ何?」

 志乃は『グリ子』とだけ書かれた小さい箱を持ってきた。

「中身はなにかしら?」

「ん~とね……これって、手錠?」

 なんでそんな物が……あっ、アルケミートレースの参考にしようと思って、刹那さんに頼んでおいたんだったわね……私もそろそろ強くならないと。

「お~、私、本物の手錠とか初めて見たよ」

「見たことあったらダメなんじゃないかな」

 2人が手錠を取り出していろんな角度から観察し始める。

「美人すぎる罪で逮捕する~」

「わぁ~」

「……壊さないでよ」

「「……あ!?」」

 あ!? ってなによ。なにか嫌な予感が……

 2人の方を見ると、志乃の右手と麻莉歌の左手が手錠で繋がれていた。

 

【麻莉歌side】

「まったく、今度は何をしたんだ? 志乃」

「なんで、話を聞く前に私が原因だって決めつけてるの!?」

 繋がった手錠をどうにかするために、私、志乃ちゃん、グリ子ちゃんは、手錠を手配した刹那さんのもとを訪れた。

「違うのか?」

「違わ…ないけど」

 少し悔しそうに反論する志乃ちゃん。

 私も何も考えずに遊びに付き合っちゃったんだけどね。

「グリ子が頼んだ手錠を触ってたらこうなっちゃって…って言うか、なんで鍵がないの?」

「発注ミスだな……依頼するときに値段しか見てなかったから、鍵のついてない不良品をつかまされたんだ」

 しまったなー(・・・・・・)と天を仰ぐ刹那さん。

 もうちょっと深刻に考えてほしいんだけどな。

「グリ子、なんでこんな本格的なものを頼んだの?」

「おもちゃを真似ても、中途半端な強度になりそうだったから。戦闘に使うんだったら、ちゃんとした造りのものが良いでしょ。念のために」

 私の質問にグリ子ちゃんが淡々と答える。グリ子ちゃんは、さっきから手錠をガチャガチャ触っては構造を確認している。

「しかたないけど、ぶっ壊そうか」

「駄目よ。ちゃんとトレースできるまで壊さないで」

「出撃の時はどうするの? これじゃあ、戦いづらくて仕方ないよ」

結束が強い(・・・・・)ならいいじゃない」

 志乃ちゃんと強い絆で……良いかも。

 2人が口論をする隣で、この状況を少しだけ楽しんでいる私がいた。

 

【志乃side】

「困っちゃうよねぇ~」

「その割には、のん気に肉まん食べてるわね」

 刹那さんによると、手錠の鍵が用意できるまで3日ほどかかるとのことだった。さすがに3日間もこのままでは困るので、私、麻莉歌、グリ子は、手錠の製作元に鍵をもらいに行くことにした。

 3日間着替えられないのは嫌すぎるよ。他にも色々あるけど。

「グリ子だって、輪っかを作って遊んでるじゃん」

 今は手錠の制作会社へ行く電車を待って、駅前の広場でおやつを食べている。

「これは、その手錠をトレースする練習をしてるのよ」

「……志乃、何をしているんだ?」

「あれ? シン様。ごきげんよう」

「「………??」」

 いつの間にか、呆れたような困惑したような表情で呀河乃(あがの)シン様がこちらを見ていた。そう言えば、ここは百合ヶ丘にも割と近い。

 シン様は、今は百合ヶ丘女学院に籍を置いているリリィだけど、もともとは青乃沼実業女学院の生徒で、一部では「越後(えちご)赤眼龍(せきがんりゅう)」なんて呼ばれてる。って、前にグリ子が言ってたっけ……なんでそんなこと知ってるんだろ?

「ん? 二人ともどうしたの?」

 麻莉歌とグリ子が無反応なので気にしてみると、二人とも私を凝視していた。

「えっと……なんて言うか」

「アンタの口から、ごきげんよう(・・・・・・)なんて上品な言葉が出てきて若干引いてるのよ」

 酷っ! あっそうか、麻莉歌とグリ子は百合ヶ丘に行ったことがないから、百合ヶ丘の文化に馴染みがないのか。

「……志乃、何か悪いことをしたのか?」

 シン様まで! ……もしかして、知り合いに会うたびに呆れられたり心配されたりするのかな。

 

【麻莉歌side】

「実際にあるんだな、漫画みたいなことが……せとかには見つからないようにしろよ。きっと説明する前に発狂するぞ」

 シン様と会った後、私たちはシン様を交えて談笑することになった。シン様も電車を待っているとのことで、いい時間つぶしになると言っていた。

 シン様、綺麗な人だなぁ。お化粧をガッツリしてるわけじゃないけど、スタイルが良いからとっても魅力的……それに……

「どうかしたか?」

「い、いえ何も」

 見てたのバレちゃった。恥ずかしい。

「その、素敵な服だなぁって思って」

「そうか? 部屋にあったものをテキトーに合わせただけなんだが……そうだ、今度の休みに服でも買いに行くか?」

「良いんですか? ぜひ行きたいです……二人も一緒に行く?」

「私、オシャレとか分かんないから……」

 志乃ちゃんの顔を覗くと、少し気恥ずかしそうに頬を掻いていた。

「おもちゃ屋さんにも寄れるよ」

「行く行く! 前の日に宿題終わらせておくね」

「私はパス」

 グリ子ちゃんが、こっちを見ずに話に入ってくる。

「グリ子ちゃん、新しいソックス買わなくて良いの? 生地が薄くなってきてたよ」

「……じゃあ行く……あっ」

 私が話しかけると、アルケミートレースで造っていた手錠が霧散した。

 声をかけない方がよかったみたいだね。

「それはそうと、手錠は隠したらどうなんだ。近くを通る人がみんな二度見してるぞ」

「グリ子がスキルの練習をするからって……グリ子?」

 志乃ちゃんが話しかけると、グリ子ちゃんは手元の通信端末を見ていた。

 さっき手錠が壊れたのは、端末のバイブレーションに気を取られたからかな?

「来たわよ」

「電車来たの? まだ10分くらいはあるような」

「いえ…休日出勤の時間よ」

 グリ子ちゃんが向けてきた端末には「EMERGENCY(エマージェンシー)」の表示が赤々と警報を出していた。

 

【グリ子side】

 研究所からの通信要請でHUGE(ヒュージ)の出現を察知した私たち3人とシン様は、現場である廃工場に到着した。

「2人は下がっていろ!」

 私たちに指示を飛ばし、シン様がHUGE(ヒュージ)のいる方へ進んでいく。

「私たちも戦います。こうすれば大丈夫!」

「……アンタらねぇ」

 志乃と麻莉歌は手が手錠で繋がっている。どうしたものかと悩んでいると、志乃が麻莉歌を抱きかかえていた。

 そのドヤ顔は止めなさい、ぶん殴りたくなるわ。

「しっかり捕まってて、麻莉歌」

「う、うん」

 行っちゃった。

 現れたHUGE(ヒュージ)はスモール級3体。深追いしないように私が援護しながら戦えば、なんとかなるか……志乃も戦闘素人ではないから無茶はしない

「震えて眠れえええぇぇぇ!!」

 はずよね……

「帰ったら宿題追加ね……待ちなさい」

 

(2)に続く

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