さんけつのオリリィ物語〈トレインズ編/Buds of Dystopia〉   作:3次元に見放された決闘者(略:さんけつ)

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第4話 3人いれば(2) ~素質よりも、使命よりも、~

麻莉歌(まりか)side】

「……一旦戻るよ」

志乃(しの)ちゃん?」

 HUGE(ヒュージ)の一体に接近してキックの連打で(ひる)ませたあと、志乃ちゃんは(きびす)を返して戦闘区域外まで跳躍する。

 私を抱いたままじゃ深追いは出来ないみたい。

「2人とも大丈夫?」

 グリ子ちゃんも近づいてきて、3人で近くの公園まで移動する。

「もう仕方ないから鎖を……! 麻莉歌、顔が真っ青よ」

「え?」

 グリ子ちゃんが、両手で私の顔を自分の方に向ける。

 私の……顔?

「さっきHUGE(ヒュージ)に近づいたとき、体も凄く震えてたし、呼吸も荒くなってたよ」

 志乃ちゃん、それで直ぐに引き返してくれたんだね。

 ……私の手、まだ少し震えてる…今は落ち着いてきたけど、息苦しさがまだ残ってる……胃液が逆流しそうなほどの喉の渇きが気持ち悪い。

 ……とても戦っていられるような状態じゃない。

「……わ、私、HUGE(ヒュージ)を目の前にすると……こっ、怖くて」

 志乃ちゃんの胸に顔を埋める。怖いからだけじゃない、まともに戦えない自分が情けなくて。

 研究所での練習だと大丈夫だったのに……なんで……なんで私だけ戦えないの?

 

「ごめんなさい、私の所為(せい)で二人にも迷惑をかけちゃって」

 少し休憩したら、気持ちも落ち着いてきた。

「……麻莉歌、それは貴女(あなた)の所為じゃないの」

 グリ子ちゃんが、私の肩に手を置く。

「麻莉歌がGEHENA(ゲヘナ)で受けた実験は、精神的ストレスや恐怖心を意図的に被験者に与えてスキラー数値を上げるというものだった……

実験中に使われていた薬物には恐怖心を向上させるものもあって、「HUGE(ヒュージ)に対する恐怖心は上がっている」というデータもあったわ……

貴女のその感情は、貴女の心が弱いとか、臆病者だからというわけじゃないの」

顔を上げてグリ子ちゃんを見ると、冷静だけど、とても暖かい目が私を見つめてる。

「ごめんなさい。もともと居た研究所のことは、あんまり思い出したくないだろうと思って黙ってたの」

「……ううん、ありがとう……私、リリィを辞めた方が良いのかな?」

「……麻莉歌はどうしたいの?」

 志乃ちゃんが逆に私に聞いてきた。そう言えば、戦線離脱してからずっと手を握ってくれてる。

「麻莉歌がどうするべきか。じゃなくて、麻莉歌がどうしたいかの方が大事だよ」

 ……私……私が、本当にしたいこと……

「私はリリィで居たいよ。HUGE(ヒュージ)は怖いけど、HUGE(ヒュージ)に襲われる人たちを放っておきたくない……

孤児院にもね、HUGE(ヒュージ)に両親が殺された子とか、大怪我をして今も入院してる子がいて……私は、どんな風にその子たちに寄り添えばいいか全然わからなくて……

それがたまらなく切なくて、やるせなくて……

でも、そんな子たちを一人でも増やしたくない」

 本音を打ち明けられた安心感からか、理想を実現できない落胆からか、目頭が熱くなる。

「麻莉歌」

 志乃ちゃんが、私の流した涙をハンカチでぬぐうと、自分の顔を私の顔に近づける。

「絶対に守るから」

 志乃ちゃんの吐露(とろ)した言葉は、子守歌のように私を優しさで包んでくれた。

 

【グリ子side】

「お前たち、無事か?」

 3人で後方支援に回ろうかと相談していると、シン様が合流してきた。

「シン様、HUGE(ヒュージ)はどうしたんですか?」

「ハァ、ハァ……応援が来たから少し下がらせてもらった……ラージ級のHUGE(ヒュージ)も湧いてきたから、私ももう一度行く」

 志乃の質問に、息を切らしながら答えるシン様。

 私たちも結構長い間休憩してたと思うけど、初めに見たスモール級3体以外にも出現したのね……こうなったら、私たちも戦線に復帰した方が良さそうね。

「志乃、麻莉歌。鎖はもう壊しても良いわよ」

「良いの?」

「実は、鎖のトレースはマスターしたの。ほら」

 いそいそと麻莉歌を抱こうとする志乃に、アルケミートレースで作製した赤銅(しゃくどう)色の鎖を見せる。

 その抱っこ戦法は止めなさい。危ないから、色々と。

「よ~~し……震えて眠れ!」

 鈍い金属音が響く。麻莉歌を下ろした志乃が、拳を手錠の鎖に叩きつけていた。

 やるとは思ったけど、そんなので鎖を壊せるわけないじゃない。普段HUGE(ヒュージ)をぶっ倒してるから忘れてるかもしれないけど、私たちの攻撃はHUGE(ヒュージ)に効果的なだけで、腕力なんかは人並みなのよ。

「無理か……シン様、お願いします」

「よし、鎖をこっちに向けろ」

 言うが早いか、志乃がピンと鎖を張ると、シン様がCHARM(チャーム)のシューティングモードでそれを狙う。

「ストーーーーップ!」

「……どうしたの?」

 私の制止にキョトンと首をかしげる志乃。シン様も不思議そうに見つめてくる。

「危ないでしょ! どう考えても」

「だってこうした方が」

「「カッコいいから」」

 ハモるんじゃないわよ、まったく。シン様も疲労が溜まって、おかしなテンションになってるのかしら。

「ぷっ……すまんな、つい冗談に乗っただけだ」

 ……シン様、意外とノリがいい所があるのね。

「ちゃんと鎖用のカッターを持ってきたわよ」

「……ねぇ、鎖くらい始めに切っちゃっても良かったんじゃない?」

 私が鎖を切ると、切れた鎖の先を見つめながら志乃が聞いてきた。

「私のアルケミートレースは、自分が見た実物を優先してトレースする傾向にあるから、破損があるとトレースが上手くできないの。まぁ、練習次第だと思うけど」

「……面白がってただけだったりして」

「そんなことないわよ」

 ……ちょっとあるけど

「これからどうするの?」

 麻莉歌がCHARM(チャーム)を杖にして立ち上がる。

 ずいぶん顔色も良くなってきたわね。

「私に考えがあるんだけど、乗ってくれるかしら?」

 

【志乃side】

 グリ子が提案してきたのは、私たち3人のフォーメーション。

 私が前衛で接近戦、麻莉歌は後衛の最後方で狙撃、グリ子が中衛よりやや下がり他メンバー(主に麻莉歌)のサポートをするという、3人が一直線に並ぶフォーメーション。

「……イケると思う」

「けど、私、志乃ちゃんにも当てちゃうかも」

 私はフォーメーションに賛同するが、麻莉歌は自信なさげに下を向く。

 フォーメーションとか、さり気に憧れてたから楽しみなんだけどなぁ。

「大丈夫よ、アンタの射撃の腕は平均より高いし、志乃との距離を考えて打てば」

「任せろ、私もサポートする」

 グリ子は自信満々に主張し、シン様もCHARM(チャーム)を肩に担ぐ。

 

 4人で戦闘区域に戻ると、私とシン様は2人から離れて前線へ向かった。

「……ちゃんと出来てるよ。麻莉歌」

 私からは麻莉歌の姿は確認できないが、麻莉歌の撃ったCHARM(チャーム)弾がHUGE(ヒュージ)に直撃しているのが見えた。流石に正規CHARM(チャーム)を使ってるから、私やグリ子と比べると攻撃力がある。

 ……貴女は私よりも、よっぽどリリィらしいリリィだよ。

 

【麻莉歌side】

 自分でも怖いくらい上手くいってる。

 私の撃つCHARM(チャーム)弾は、一撃でHUGE(ヒュージ)を倒すほどの威力はないけど、HUGE(ヒュージ)(すき)を作ることで、志乃ちゃんの攻撃を援護している。

「麻莉歌。しつこいようだけど、グロッキーになりそうだったら早めに言うのよ」

 さっきは中衛に居るって言ってたけど、グリ子ちゃんは私のそばに居てくれる。

「このくらいの距離なら大丈夫みたい」

 さっきみたいな目の前じゃなければ、吐き気も震えも出てこない。

「射程内のHUGE(ヒュージ)、あれが最後みたいよ……決めちゃいなさい」

「うん!」

 私の視線の先に、志乃ちゃんのジョルトブローで動きの止まったHUGE(ヒュージ)が見える。

「……どうか常世(とこよ)では良い夢を」

 私の放った最後の一撃はHUGE(ヒュージ)の頭部を吹き飛ばし、息の根を止めた。

「グリ子ちゃん」

「なに?」

「本当は、私がHUGE(ヒュージ)と戦うのは反対だった?」

 自信がなくなったとかじゃないよ。ただ、志乃ちゃんは優しいから、私の意思を尊重してくれたけど、HUGE(ヒュージ)が怖くて戦い方が限定されるリリィなんて、居ても迷惑なんじゃと思っちゃうの。

「……勧めはしないわ」

「やっぱり」

「でも、リリィに相応(ふさわ)しくないとも思わない。力不足は私も志乃も同じよ。1人でHUGE(ヒュージ)と戦える完璧さなんて求めてないし」

 グリ子ちゃんの言葉は、少し自嘲(じちょう)気味にも聞こえる。

「それに、麻莉歌が居てくれると…その、私も嬉しいし」

 仏頂面(ぶっちょうづら)で明後日の方向を向いているグリ子ちゃんの顔には、少しだけ赤色が(にじ)んでいた。

「ほら、くっちゃべってないで、他のHUGE(ヒュージ)を倒しに行くわよ」

「……私も、2人と出会えて幸せだと思えるよ」

 照れ隠しのために早足のグリ子ちゃんには、私の言葉は届かなかったかもしれない。

「ちょっと暑くなってきたわね…麻莉歌、早く」

 ……聞こえてたみたいだね。

 

(3)へ続く

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