さんけつのオリリィ物語〈トレインズ編/Buds of Dystopia〉   作:3次元に見放された決闘者(略:さんけつ)

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第5話 明日嘉来訪(1) ~あの時の少女~

志乃(しの)side】

麻莉歌(まりか)、お客さんだ」

 今日は待ちに待った休日。いつもの自主トレを済ませた私が、自室のクッションに体を埋めてアニメを見ていると、刹那(せつな)さんが部屋に入ってきた。

「ちょっと。乙女の園に入ってこないでよ」

「何が、乙女の園(・・・・)だよ。昼間っから妙な実験して……このパソコン、どこから持ってきたんだ?」

 グリ子が刹那さんを軽く睨むと、簡易実験セットを体で隠した。

 10回くらい説明してくれたけど、なんの実験なのかてんで(・・・)分からないんだよね。

「良いじゃない、古いPCは余ってるんだから」

「ちゃんと、局長に許可とったのか?」

「……あ゛」

「とってないんだな」

「むぅ……いちいち申請を出すのが面倒くさいのよ」

「俺だって面倒だけど、データが入る系の物は紛失すると大騒ぎになるからな」

「私は困らないわよ」

「困るんだよ! 主にうちの部署が!」

「あの~、私にお客さんって」

 グリ子と刹那さんが言い合ってると、麻莉歌が会話の途切れたタイミングで割って入った。

「おっ、そうだった。入って良いよ。」

「…お姉ちゃ~ん!!」

「うわっと……明日嘉(あすか)ちゃん!」

 刹那さんに促されて誰かが部屋に入ってきたと思ったら、金髪の少女が麻莉歌に向かって飛び込んできた。

 あれ? この()、見たことがあるような。

「志乃、私たちこの娘とどこかで会ったかしら?」

 グリ子も見覚えがあるようで、私に耳打ちをしてきた。

「どうしてここに? 1人で来たの?」

「うんとね。最近、お姉ちゃんと遊べないから、シスターに内緒でお姉ちゃんに付いてきたの」

 麻莉歌の質問に笑顔で答える少女。

「それで、入口のおじさんにお姉ちゃんの名前を言ったら、このおじさんが――」

「刹那さん」

「……刹那さんが来て、ここに連れてきてもらったの」

 少女の説明を強引に訂正する刹那さん。

 小さい子供にとっては、20歳を超えたらおじさんだよ。まあ、刹那さんは30歳くらいだから、おじさんなんだけどね。

「あっ、貴女(あなた)、前に猫と一緒に迷子になってた娘ね」

「……? ……あの時のお姉ちゃんたち!」

 少女の顔をまじまじと見ていたグリ子が声をかけると、少女の方から私たちに近づいてきた。

「明日嘉ちゃん、2人のこと知ってるの?」

「前にね、一緒にみっちゃんを探してくれたの」

 思い出した。グリ子と初めて出撃した日に、一緒に猫のみっちゃんを探した女の子だ。

 

 少女の名前は藤黄明日嘉(とうおう・あすか)。麻莉歌と同じ孤児院に住んでいる小学2年生で、麻莉歌に会えないのが寂しくて、単身で麻莉歌の後をつけてきたらしい。

 そう言えば、私も小さいころに無断で施設を抜け出したりしたっけ。

「ここが食堂だよ。お金がないときは、時々ここでアルバイトもしてるんだ」

(うち)の食堂より大きいね」

 今は、明日嘉に研究所の中を案内している。とは言っても、広場、売店を回ってここに来たから、あとは冗談の通じそうな職員のいる部署にでも行こうかな。

「ちょっと、志乃」

 次の行き先を考えていると、グリ子が手招きをしてきた。

「あんまり部外者を歩き回らせない方が良いんじゃない?」

「だからコッソリ隠密してるんだよ」

「そうじゃなくて……それに、何かの間違いでエグいものでも目に入ったら」

「そういう場所はかわしながら歩いてるから大丈夫だよ」

「……それで、次はどこに行くのかしら?」

「そうだなぁ……事務室は今忙しいだろうし、薬品倉庫は鍵がかかってるし、図書室には難しい本しかないし、実験室は怖いおじさんもいるし」

 

【麻莉歌side】

「秘儀・瞬間移動!」

「志乃ちゃん凄ぉい!?」

 明日嘉ちゃんを案内する場所に困った私たちは、演習場で遊ぶことになった。

 演習場とは言っても、体育館みたいな大きな施設じゃなくて、ダンス教室で使うくらいの大きさの部屋だけどね。私たちのいる施設はあくまで研究所だから。

「あれって、縮地で目にもとまらぬ速さで動いてるだけよね。たしかに凄いけど、瞬間移動とは違うんじゃない?」

「まぁ、本人が満足なら良いんじゃないかな。どっちでも」

「……あっ、転んだ」

 グリ子ちゃんと志乃ちゃんの動きについて感想を話していると、志乃ちゃんが足をもつれさせて転倒した。

「志乃ちゃん大丈夫~?」

明日嘉ちゃんが、繋いでいた私の手を離して志乃ちゃんに駆け寄る。

「いや~、失敗、失敗。今度は、グリ子が何か見せてよ」

 明日嘉ちゃんの頭をなでながら、志乃ちゃんがリクエストを出す。

 良かった、全然大丈夫そうだね。

「嫌よ。宴会芸じゃないんだから、そんなおいそれと見せたく――」

「グリちゃんも凄いこと出来るの! 見たい! 見たい!」

 グリ子ちゃんの反論を遮って、明日嘉ちゃんが期待の眼差しを向ける。

「……こんなことくらいしか出来ないわよ」

 渋々とアルケミートレースを発動するグリ子ちゃん。その手には、野球ボール大の赤銅色(しゃくどういろ)の丸い球が乗っている。

「わぁ~、可愛い!」

「これってグリ子ちゃん?」

 グリ子ちゃんの作った球体には、左右に分かれたおさげが付いている。よく見ると、目や口も凹凸(おうとつ)で表現してある。

「麻莉歌や志乃も作れるわよ」

 スキルの発動と解除を繰り返して、私や志乃ちゃんの顔も作ってくれるグリ子ちゃん。

 ……十分宴会芸だよね。

「さぁ、今度は麻莉歌の番よ、射撃場に行きましょうか」

 グリ子ちゃんはそう言って自分のターンを終わらせると、志乃ちゃんの頭を模した球体を握りつぶした。

「あぁ、私が~」

 

 次に来たのは、射撃場……という名の裏庭。

 志乃ちゃんもグリ子ちゃんもシューティングモードのCHARM(チャーム)を使わないから、今までは必要なかったけど、私が研究所に来た時に2人と刹那さんが用意してくれた。

「ふぅ~……どうだったかな?」

 10発撃った後、一息ついてから3人の方を向く。結果は可もなく不可もなく。

 皆が見てると思ったら、ちょっと緊張しちゃった。

「お姉ちゃんカッコ良い!!」

「ありがとう。でも、2人と比べると地味じゃなかったかな?」

 アステリオンの安全装置を入れたら、明日嘉ちゃんが私に飛び込んできた。

「ううん、CHARM(チャーム)を使うお姉ちゃん素敵だった」

「最近、CHARM(チャーム)起動の所作が早くなったよね」

「ええ、操作にだいぶ慣れてきたみたいね。これなら得意技と言っても差し支えないんじゃないかしら」

 志乃ちゃんとグリ子ちゃんも、遅れて私のもとに来て称賛してくれた。私が射撃をしている間は、2人が明日嘉ちゃんの手を握ってくれていた。

「後はどうしよう?」

「お姉ちゃん、お腹すいた~」

 明日嘉ちゃんがお腹をさする。

 そう言えば、もう晩御飯の時間だっけ。ふふっ、なんだか園に居たときみたいだなあ。

 

(2)へ続く

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