さんけつのオリリィ物語〈トレインズ編/Buds of Dystopia〉   作:3次元に見放された決闘者(略:さんけつ)

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第3話 結成トレインズ(4) ~届けたいのは笑顔~

【志乃side】

「もうそろそろ降参してもらえないかね」

 赤髪のリリィが本気を出してからは一方的だった。たまに優位に立てるときもあるが、コートの男性がアドバイスやサポートをするから、戦いの流れをこちらに向けられない。

「一方的に襲ってきたくせに、今更説得? 順序が違うくない?」

 私は壁に追い詰められ、左手から流れる血を止血しながら座り込んでいる。傷は大したことないが、赤髪のリリィにCHARM(チャーム)を首元に突き付けられているので下手に動けない。

「私たちにとって、他の施設の武力はハッキリ言って邪魔なのでね。少し痛い目を見せておきたいのだよ」

 考え方が野蛮すぎる! マッドサイエンティストか!

 どうにかして赤髪のリリィの気を()らせないか……

「……なるほど、あの動きは鷹の目を使ってたんだね」

 彼女の目は、鷹の目が持つ真紅の輝きを放っていた。

 レアスキル/鷹の目は、空間把握系のスキル。コンピュータゲームの、見下ろし方アクションゲームをプレイしている感覚に近いって刹那さんが言ってたっけ。でも、一対一になったとき、ここまで脅威になるとは知らなかった。

「まさに、野獣の様だろう。ここまでこの()を仕上げるのに、どれほどの費用と研究・実験が行われたかと思うと頭が下がるよ」

「なんのこと? ……!!」

 赤髪のリリィの目、よく見ると瞳孔が人間のそれとは違う……異様に縦に伸びていて、まるで猫や蛇のそれだ。

「……そうか、貴女(あなた)も肉体に施術を受けたんだね」

 私やグリ子と同じ、普通ではない存在……

「……貴女、今生きていて楽しい?」

「がぅ?」

「私は楽しいよ。アニメ見て、漫画読んで、食べて、寝て、知らない場所に行って、仲間とバカやって」

「わうぅ? ……ううぅ……」

 赤髪のリリィは返答に悩んでいるのか、または私の言葉の意味が分からないのか、少し困った表情を見せてきた。

「何を言いたいのか分からないな、君は」

 なんでだろう……気になっちゃった、のかな? 境遇が似てる気がして。

「が……わ、たし、の」

「志乃!! 大丈夫!?」

 リリィのCHARM(チャーム)が私から離れたと同時に、グリ子の声が近づいてきた。

 良かった、無事だったんだね。

 グリ子はアルケミートレースで作った盾を構えて、私と赤髪のリリィの間に割って入った。

「見た目はボロボロだけど、大した怪我はしてないみたいね」

 グリ子の方こそコートがボロボロに……というか、裾へのダメージだけ大きいけど何があったんだろ?

「お前たち、何者か知らないが引いておけ」

 鶴紗様……まだ、近くに居てくれたんですね。助かりましたけど、CHARM(チャーム)を人に向けるのはどうかと思います。

「おやおや、形勢逆転か。まぁ私も、百合ヶ丘女学院のリリィと事を構えるのは不本意だ。夢月(むつき)、ヴォルフィを回収して帰ろうか」

「了、解、です」

 コートの男性と赤髪のリリィは、余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)といった感じにその場を去った。

 夢月(むつき)……それが貴女の名前なんだね。

 

【グリ子side】

 男と犬とリリィを退(しりぞ)けた後、私たちは鶴紗様が見つけたという少女と合流した。少女は鉄麻莉歌(くろがね・まりか)本人で間違いないとのことだった。鶴紗様(いわ)く、上手い具合に物陰に隠れていて、鷹の目でも発見しにくかったのだろうとのこと。

 

 すぐにその場を離れたかったが、私と麻莉歌は満身創痍(まんしんそうい)だったので、少し休んでから帰ることになった。

 今は、志乃がお昼ご飯の追加を買いに行くと言い出したので、落ち着けそうな物陰で志乃が戻るのを待っている。

 なんであんなに元気が有り余ってるのよ。

「お待たせしました~。美濃川急便で~す。昼食4人前お届けに参りました!」

「ひうっ」

「このおバカ。せっかく落ち着いたところだったのに、怖がらせちゃったでしょうが」

 志乃が駆け足で帰ってきたと思ったら、バカでかい声でそれを主張するから、麻莉歌が驚いて涙目になってしまった。

「お~~よしよし、これでも見て元気を出して」

「…………何よ、これは?」

 志乃が取り出したのは“でんでん太鼓”。幼児をあやすために使うあれだ。

「電話で刹那さんに、泣いてる子を泣き止ませるにはどうすればいい? って聞いたらこれだって」

 あの親にしてこの娘ありね………いつまで鳴らしてるの! でんでんでんでん(うるさ)いわよ!

「こんなのもあるよ」

 次に出してきたのは、シャボン玉。

 余計なものまで買って、レシートで経費が落ちなかったらどうするのよ。

「アンタは……そんな物でJCが(なぐさ)められるわけないでしょ」

「けど、私はこれを聞いてると楽しくなってくるよ。でんでんで~ん」

 感性の成長が止まってるのかしら。

「ぷっ」

「「ぷ?」」

「あはははははは!!」

 私と志乃がいつものようにコントをしていると、今まで脅えて落ち着かない様子だった麻莉歌が笑い出した。

「あっ、ご、ごめんなさい。私」

「良いよ、良いよ。私、美濃川志乃。こっちは閑林グリ子」

「人をあだ名で紹介するなって言ってるでしょ。閑林グウェンドリンよ」

 志乃がこの調子で私を紹介するから、施設の職員どころか、食堂や売店の店員にいたるまで私をグリ子って呼んでくるのよね。グリ子呼びはいいけど、本名がグウェンドリンだってことは知っててほしいわ。

「大丈夫。グリ子が居ないときはグウェンドリンで紹介してるよ。グリ子って可愛いから、みんなに覚えてほしくって、ついね」

 ……あだ名がよね? 素でこれを言うんだから……もう。

「私はもう行くぞ」

 声がした方を見ると、昼食を食べ終えた鶴紗様が耳打ちしてきた。

「この娘はもうHUGE(ヒュージ)GEHENA(ゲヘナ)に関わらせるべきじゃないと私は思う」

「私もそう思うわ。とりあえず、施設に帰ってから考えるつもりよ」

「そうか。もし、何かあったら百合ヶ丘女学院を頼るんだぞ」

 鶴紗様、優しい表情もちゃんとできるのね……私はできないけど。

 

 (5)に続く

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