「さて、始まったんはエエんやけど。これからどないするん?」
A艦隊から先行した紀伊率いる先導隊は海上を進みながら、龍驤が紀伊に問いかける。
「龍驤、今から俺が哨戒機を出すから戦闘機での護衛を頼む」
「任せとき」
そう言うと龍驤は空母の甲板が描かれた巻物を広げ、航空機の形状を模した式神を呼び出し空に打ち上げると、空中で式神は零戦に変化した。
「まるで陰陽師だな」
「格好エエやろ?」
「あぁ。さて、俺も行くか。哨戒機発艦!」
その命令で、紀伊の艤装にある飛行甲板のエレベーターからHSS-2Bが格納庫から運び出される。エンジンが始動するとメインローター、テイルローターが回り始め甲板に風圧を叩きつけながら発艦した。
「成る程な。アレに護衛は当然欲しいわな」
「頼むぜ陰陽師」
「あぁ!しっかり守ったるわ!」
発艦した2機のHSS-2Bは龍驤の零戦に護衛されながらB艦隊が居ると思われるエリアへと向かった。
「さて、俺も準備するか」
「何するんや?」
「鋼鉄の魚を突き刺せる銛の準備さ」
目線の先には4本の筒を纏めて一組にした構造物がある。数は全部で4基16本ある。
「何なのそれ?」
並走していた暁が尋ねた。
「文明の利器さ。向こうの出鼻をへし折るためのな」
その頃、偵察に出ているHSS-2B(1号機)は…
「現在、高度050、速度130ノット。周囲に敵艦影なし」
「了解。レーダーは?」
「反応なし。海面が近すぎる。高度を上げて捜索範囲を少し広げるか?」
「向こうも警戒している。一応護衛は居るが向こうにこちらの存在を知られたくはない」
海面を低空飛行しているHSS-2B 1号機と3機の零戦は周囲の捜索を行っているが未だにB艦隊の反応を捉える事は出来ていない。
「こう言うのって本来は対潜哨戒機の仕事なんだがな」
「無い物ねだりしてもしょうがない。このまま捜索を続けよう」
オレンジ色の飛行服に白色のヘルメットを被るヘリ妖精らは、限られた能力をフルに活用しながらB艦隊の捜索に全力を尽くす。
「そろそろ折り返し地点だな。次のエリアに行こう」
「了か……これは?」
レーダー担当妖精がスクリーンに光点を捉えた。
「レーダーコンタクト。複数の反応を認める」
「向こうか?」
「高度を50上げてください」
「了解」
1号機がその場でホバリングしながら高度を上げた。
「反応は艦船と思われる。それと航空機と思われる反応もある」
「数は?」
「大型艦は4、中型艦が6、小型艦多数。纏まって行動している事から艦隊と思われる」
「航空機の反応は?」
「艦隊周辺に集中している」
「間違いないな。敵発見を艦に連絡」
「了解」
ヘリからの報告は直ちに紀伊へ伝えられた。
「来たぞ。哨戒機がB艦隊を見つけた」
「早いやん」
「向こうの偵察機は目視、こちらはレーダー。見つける速度はこちらが上だ」
「やるんか?」
「あぁ。向こうに航空機は1機も飛ばさせん」
紀伊は早速切り札を使う。
「データ、諸元入力完了。ハープーン発射始め!撃て!」
瞬間、ランチャーからハープーンミサイル16発が打ち上がった。搭載している分全てを発射し向こうの航空戦力と打撃力を完全に無力化するために敢えて全弾発射を行ったのだ。
「なんやアレ!まさか、此処から向こうへ!?」
「あぁ。これが俺のやり方さ」
B艦隊へ向けて飛び去っていくハープーンを見送る紀伊。
そして、標的となったB艦隊では…
「蒼龍、そっちの偵察機から報告は?」
「偵察機からはまだ敵発見の報告は無いよ」
艦隊旗艦の第2航空戦隊の空母『飛龍』と僚艦『蒼龍』はA艦隊への攻撃に備えての偵察活動を行っていた。
「向こうには鳳翔さんと龍驤ちゃんが居るから油断しないでよ。特に鳳翔さんは」
「分かってる。前の演習の時もギリギリ勝てたようなものだし」
2人とも、A艦隊に居る鳳翔の事を警戒している。鳳翔は空母の中でも最古参のような存在で、練度も実力も鎮守府ではトップを誇る。無論、他の空母達の練度や実力は向こうは把握しているため彼女達には心理的に少なくない圧を掛けていた。
「どうする?そろそろ仕掛けようか?」
「偵察機からの報告を待とう。慌てても良い事ないよ」
「うん。でも何だか嫌な予感がするんだよね……なんだかこう………ナイフを突き付けられてるような」
「今日はやけに心配性だね飛龍」
「うん。こう言う時、多聞丸ならどう判断するんだろう?」
彼女の心配性はこの直後現実となる。
「直掩機より緊急入電!<<艦隊前方ヨリ低空飛行する多数ノ目標を視認!我、追尾不能!艦隊ハ至急警戒サレタシ!>>」
「全艦対空戦闘!!」
飛龍は直ちに全艦へ向けて対空戦闘の指示を出した。円形陣を組み飛龍と蒼龍を守るように展開した護衛艦隊は向かってくるA艦隊からの刺客を待ち構える。
「目標視認!何なのアレ!?」
艦隊の外縁に居た、駆逐艦『曙』が素っ頓狂な声を上げた。
「対空戦闘、撃ち方始め!」
合図と共に駆逐艦、巡洋艦らが攻撃を仕掛ける。しかし艦隊に迫ってきた16発のハープーンは海面ギリギリを這うシースキーミング飛行により、艦隊の射線の下にいるため俯角が取れない上に速度も彼女達が知っているどの航空機よりも早いため照準が合わせられないのである。
「早い!当たらない!」
「どんどん撃って!飛龍さんと蒼龍さんには近づけさせないで!」
物凄い勢いで迫るハープーン目掛けて対空砲を撃つが、あっという間に距離が縮まって照準が追い付かない。
「当たる!?」
曙は咄嗟に身構えた。
「ん?」
衝撃が来ない事に閉じていた目を開けると、ハープーンは曙ら駆逐艦達を通過していき、その方向へ振り向くと、ハープーンは高雄ら巡洋艦達に目掛けて直撃コースに入っていた。
「高雄さん!避けなさい!!」
その声も虚しく、ハープーンは巡洋艦達に次々と命中していく。
「ぐっ!」
「痛っ!」
高雄と摩耶は直撃を受けたが受け身をとったため転倒はせず、愛宕と鳥海は衝撃と魚雷の誘爆によりその場に膝をついた。その他の軽巡洋艦達も軒並み直撃を受けて大破判定を受けた。
しかし、B艦隊の不幸は止まらなかった。
巡洋艦らに直撃したハープーンは12発、残りの4発は紀伊がトップアタックモードに設定していたため、高雄達の目の前で急上昇、弾頭部が真下を向くと蒼龍と飛龍に向かって落下するように迫ってくる。
「敵弾直上!急降下!」
蒼龍と飛龍には自己防衛用に対空機銃と高角砲は装備されているが、明らかに仰角が足りない。妖精達も何とか照準に入れようと機銃を旋回させるが間に合う筈はない。
「衝撃に備え!」
直後、4発のハープーンが蒼龍と飛龍の2人に直撃。
「うわぁっ!」
「熱っ!消火急いで!」
命中したハープーンは2人の手にしていた弓と矢筒を破壊した。
使用されたのは訓練弾とは言えハープーンの直撃は2人にとっては想像以上の衝撃だった。今まで爆弾の直撃を受けた事はあったが、まだ多少はゆっくりと落ちてくるので身構える猶予は多少はあるし自身の艤装を守る事も難しくない。しかしハープーンはターボジェットエンジン推進のため爆弾よりも遥かに早く命中する。本当に身を守るのが精一杯であり自身の艤装まで守る猶予は無かった。
案の定、2人は大破判定となった。
「やられちゃったね~」
「前の時よりも酷いけど……まぁ、まだ鳳翔さんとの訓練に比べればマシかな」
しかし当の2人はあまり気に病んでいる様子はない。激しい訓練や実戦経験豊富な艦娘ならではの強力なメンタルの賜物だろうか。
『演習終了!』
続く
皆様からのご感想お待ちしております。