「一方的だったわね」
「あぁ」
演習を監督していた長門と陸奥は紀伊の能力に驚いていた。お互いに相手を視認しないまま勝敗がつき、しかもそれが演習開始から1時間と言う驚異的な早さでついてしまったためである。
「提督から頼まれてたんでしょ?彼の能力についての報告」
「なんと報告すべきか………しかし誘導弾持ちだったとはな。夕張からの報告通りだったか」
「私達ですら持ってない兵器を彼は持ち合わせている。やっぱり彼はあの戦後を生きていた船と言うのが証明されたわね」
「だだ引っ掛かるのは、奴の事を我々は知らない事だ。私も終戦まで生きてたが紀伊なんて艦はあの当時の艦艇には存在しなかった……………憶測が確信に迫りつつあるな」
「確信て?」
「私が言うのもあれだが、我々が生きた時代と奴が生きた時代は似て非なるもの。つまり彼は我々とはお互いを認識できない近いようで遠い存在だと言う事だ」
「彼を神だとでも言う気?」
「そうは言っていない。だが少なくとも彼は神などではなく、我々と同じ存在。生きた処が違うだけなのかもしれん」
「つまり、彼は別世界の艦って事?」
「恐らくはな。彼は恐らく我々が生きた歴史とは違う、別の歴史を辿った世界の存在だと思う」
「まるでSFね」
陸奥は終えて帰還してきた艦達を見ながらそう呟く。
「取り敢えず提督には今回の演習の結果と彼について私なりの考察を交えて報告する」
「提督はなんて顔するかしら?」
「提督の気持ちを思うと足が重い」
演習終了後、演習に参加していた艦娘達は午後に予定されている週に1回の射撃訓練に参加するため、空いた時間を利用して準備に取り掛かっていた。
ただ射撃訓練と言っても、自身の艤装を使っての砲撃訓練や魚雷の射撃訓練ではない。
艦娘達は鎮守府の一角にある鉄筋コンクリート製の建物の前に集まり、鋼鉄製の扉で閉ざされた門を開けて建物の中に入り、其処に居る妖精達から"ある物"を受けとる。
「○○○○番、駆逐艦夕立!」
「ぽいっ!」
番号で呼ばれた夕立が妖精から受け取ったのは、彼女達が所属している国防海軍制式小銃の64式小銃であった。木製のストックとグリップ、起倒式のフロントサイトとリアサイトと言う見た目が特徴のライフルを受けとる艦娘達は、20連の箱型弾倉を3つずつ持ち、射撃場へと移動する。
軍艦の能力を持つ艦娘達が何故歩兵用の小銃の射撃訓練を行うかと言うと、国防海軍将兵には定期の射撃訓練が義務付けられており艦娘達も海軍将兵の扱いになるため海軍将兵に対する教練や訓練が義務付けられている。今回の射撃訓練もその一環である。
「こっちにも64があるのか」
紀伊も64式を手に射撃場に来ており、海上自衛隊のプルーフマークが刻印された64式小銃と艦娘達の持つこの世界の64式に全く違いがない事に驚く。
「これより小銃射撃訓練を行う。1班前へ!」
参加する艦娘達は班毎に射撃を行う。最初のグループの艦娘10人がその場で伏せの姿勢となり、右手にグリップを握り、ストックの左側に頬を乗せて、左手でハンドガードを握り伏せ撃ちの体勢になる。
「装填!」
弾丸20発が装填された弾倉を装着前にボルトハンドルを引いて薬室内や銃身に弾が無い事を確認して、弾倉を装着する。
「槓桿引け」
ボルトハンドルを引いて弾丸を装填する。
「単発。10発単連射」
セレクターレバーの摘まみを引いて単発の位置へ回す。
「射撃用意……撃て!」
辺りに銃声が響いた。
海上に設置された標的に向けて射撃が行われ、標的に穴が開き、外れた弾丸が海面に着衣し小さな水柱が上がる。
その後も射撃を続け、射撃を終えた班に代わり次の班が射撃、それを終えると次の班が射撃を繰り返していく。
やがて全ての班が射撃を終えると最後に紀伊が残された。
「次、紀伊!」
指導員に呼ばれた紀伊は射撃位置に付くと、指示に従い慣れた手付きで弾倉を装着し、ハンドルを引いて弾丸を装填する。
「撃て」
合図と同時に引き金を引き、射撃を開始した。
「正しい見出だし、正しい頬付け、コトリと落ちるように………」
照準を合わせて射撃を行い、発射された弾丸は全て標的に命中し穴を開けていく。
単発から連射に切り替えての射撃もそつなくこなし、用意していた弾数を全て撃ち終わると射撃位置から離れる。
「良い腕だ。少し上級の資格も狙えるんじゃないか?」
「これくらい普通だろ?」
「案外難しいんだぞ。何なら俺が推薦でもしておこうか?」
「冗談はよしてくれよ」
指導員との会話を終えて皆の居る場所へと戻った。
午後のプログラムを終えて皆が小銃を武器庫に返納し後は自由時間である。
「そう言えば俺、この鎮守府の事を何も知らないな」
そう思い立った紀伊は自由時間を使い、鎮守府の地理を覚えるついでに探検で回る事にした。
続く
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