敵航空部隊をはね除けた紀伊は、続いての脅威に直面する。水雷戦隊を差し向けられた紀伊、電、響の3人は真正面から構える。
「さすが凄地……凄い数」
「あれでも向こうの持つ戦力の半分にも満たないらしい」
「恐るべしだな。だが数の違いが戦力の決定的差じゃない。いかに立ち回るかが肝だ」
「どうする?水雷戦なら私達の出番だけど」
「分かった。俺に良い案がある」
「どんな?」
「俺が敵水雷戦隊を砲撃して奴らの隊列を乱す、そこを2人が雷撃戦と砲戦で引っ掻き回してくれ。後は俺が各個撃破する」
「良いアイデア!任せたわ!」
2人は紀伊の後ろに下がり何時でも突撃できるように備える。
「対水上戦闘!主砲砲戦、弾種3式改!時限信管に変更、装填!」
そうてんされたのは対砲戦用の徹甲弾でも徹甲榴弾でもなく、先程使用した3式改の時限信管弾頭であった。
「各砲は散布界を広げ。砲撃用意……撃て!」
9門の主砲から3式改が放たれ、弧を描きながら左右に大きく広がるように飛翔する9発の3式改。敵水雷戦隊の真上に差し掛かった瞬間、時限信管が作動し9発が同時に爆発、大量の酸化マグネシウムと発火したゴムの塊が雨の如く敵水雷戦隊に降り注ぐ。
約1000度を越える熱の雨を浴びた敵のイ級やロ級などの主力艦は次々と被弾して燃え広がり、運悪く弾薬に燃え移った個体は爆散、炎上した個体ものた打ち回るように隊列から離れていく。
「今だ!」
「行くわよ響!」
「了解!」
電と響は速度を上げて敵水雷戦隊へ向けて突撃に入った。魚雷発射管を真正面に向けて、射程距離に入るのを待つ。
「まだよ……もうちょっと………もう少し…………今っ!」
射程距離に入った瞬間、2人は魚雷発射管から全ての魚雷を放った。着水した魚雷は隊列が乱れた敵水雷戦隊に襲い掛かる。
魚雷が直撃したイ級とロ級、軽巡級の個体は次々と撃破され沈んでいく。
「やった!このまま砲戦行くわよ!」
魚雷の次は砲戦である。2人が連装砲で敵を狙い砲撃を開始する。
「惜しいっ!でも良い感じじゃない?」
「不死鳥の名、今こそ見せる時だ」
2人は敵の砲撃を受けながらも、回避しつつ砲戦を仕掛け一進一退の攻防を繰り広げた。
「やるじゃないか。俺も負けてられんな」
電と響の活躍に紀伊も心を揺さぶられ、副砲とMk42速射砲による砲撃に切り替える。
「撃て!」
隊列から離れた敵に向けて砲撃を開始する紀伊。3連装副砲から放たれる20センチ砲弾が敵の動きを阻害し、FCS-2によるMk42の精密砲撃による狙撃で敵を撃破、纏まって行動している個体達には3式改による砲撃を浴びせ纏めて撃破していく等の戦術を駆使して数で勝る敵水雷戦隊の優位を崩していく。
「頃合いだな。電、響、よく聞いてくれ!敵の迎撃は退けた。敵凄地は俺が単独で突入する」
「危険よ!まだ敵には戦力が…」
「向こうが完全に立て直す前に仕掛ける必要がある。確実に向こうを仕留めるのは今しかない。2人はこのまま戦闘を続けて退路の確保を頼む」
「でも……………」
迷っている電を響が察したのか、紀伊に目配せをしてから電に話し掛ける。
「彼を信じてみよう」
「響…」
「沈みに行く訳じゃないんだ。彼は戦艦、そう簡単には沈みはしないさ」
「…………分かった。けど、絶対に無事で戻ってきなさいよ!」
「無論だ」
「じゃあ行って来なさい!思い切りやっちゃって!」
「任せろ!」
響に向けて少し頭を下げて礼を示すと、その場を2人に任せて紀伊はそのまま敵凄地へ向けて前進を開始する。
「見えた」
水平線上に敵凄地の親玉である凄地姫の姿が見えた。既に第1機動部隊と第2支援艦隊と交戦状態に入っており、こちらには気付いては居ない様子で、護衛役の戦艦級や巡洋艦級、駆逐艦級も背後には注意が回っては居ない様に見えた。
「仕掛けるなら今か。主砲砲戦並びにハープーン発射用意!」
主砲を凄地姫に向け、ハープーンを戦艦級と巡洋艦級に合わせる。
「ハープーン撃て!」
6基の4連装ランチャーから合計16発のハープーンが放たれた。至近距離だったため発射から僅か30秒で戦艦級と巡洋艦級に次々と直撃していく。
「主砲砲戦、用意、撃て!」
続けて主砲を放った。装填されていた徹甲榴弾が凄地姫に降り注ぐ。
「!?」
突然浴びされらた強大な砲撃に凄地姫は後ろを振り返る。
「やっと気付いたか。だがもう襲い」
続けて砲撃し、9発のうち2発が凄地姫に直撃した。
「命中2、良いぞ!」
直撃弾を受けた凄地姫は命中した箇所を抑えながら後ずさる。しかし正面に展開している第2支援機能からも砲撃を浴びせられ、第1機動部隊の航空部隊も畳み掛けるかの如く凄地姫に攻撃を集中する。
しかし…………
「効いてない?」
凄地姫はその場で立ち上がる。しかしその姿を見ると、あまりダメージを受けている様には見えなかった。
「あれは………バリアか」
目を凝らして見てみると、凄地姫を囲むようにバリアのようなものが見える。砲撃が命中した瞬間に透明の壁のようなものが見え隠れしており、それが凄地姫の事を守っている様である。
「ん?」
その時、凄地姫のバリアにヒビが入り凄地姫の周りを浮かんでいる球体がまるで口のように割れ、そこから砲撃を繰り出した。
だがそれを見ても紀伊は特に慌てる様子はなく、むしろもう決着が付いたかのような佇まいだ。
「決まったな」
凄地姫の真正面には弓を構える赤城の姿があった。砲撃された瞬間、赤城は弓を放ち矢を打ち出した。
矢はまっすぐ凄地姫に向けて飛翔し97式艦攻の飛行隊に変化、凄地姫に向けて魚雷を投下した。
しかし、凄地は環礁で浅瀬が多く海面の岩に直撃して命中して派手な水柱が上がる。
「っ!?」
水柱の衝撃により防御姿勢をとる凄地姫。
その直後、凄地姫の真上から爆弾を携えた99艦爆の攻撃隊が急降下で迫り抱えていた対地用爆弾を投下した。
「!?」
真上を見上げる凄地姫は、まるで全てを悟り諦めたかのように、避ける事も防御姿勢に入る様子もなく、投下された10数発の爆弾の直撃を受けた。
「アァァァァァァァァァァァァ!!!!!」
ヒビが入っていたバリアを突き破った爆弾は凄地姫に直撃し爆発。凄地姫は耳をつんざくような断末魔をあげながら、光と共に大爆発、その場にキノコ雲があがった。
「流石だ。1航戦の名は伊達じゃない訳か」
戦闘に終止符を打った赤城の姿に感心する紀伊。それと同時に張っていた気を少し緩め深呼吸する。
「終わったな」
ふと周りを見渡すと、生き残っていた深海棲艦達は撤退しており水平線の彼方へと去っていく。
「帰るか……」
紀伊はその場で反転し電、響、暁、龍驤と合流するとその場を第1機動部隊と第2支援艦隊に任せて、先に鎮守府への帰路に就いた。
「任務ご苦労だった」
司令室に長門の低い声が響く。
彼女の目線の先には紀伊がおり、帰還して直ぐに長門に報告に来ていた。
「どうだった?深海棲艦との初めての本格的な戦闘は?」
「中々に手強かった。確かに厄介な存在だなアイツらは」
「今回は相手か上級個体が守っていたエリアだからな。だが今後はもっと過酷な戦いが待っているに違いない。覚悟はしておいた方が良いぞ」
「分かってる。で、提督はどう評価してるんだ?今回の戦いについて」
「本格的な反攻作戦の足掛かりか出来た事に取りあえず安心している様子だ。紀伊にも感謝していたぞ」
「感謝なら他の連中にしてやってくれ。俺は作戦通りに戦っただけに過ぎない」
そう話す紀伊に、陸奥が呟いた。
「謙虚なのね」
「そうか?俺は当然の事を言ったつもりだが……変な事でも言ったか?」
「ごめんなさい。最近の軍内部で貴方みたいな人は近頃は珍しくなったからつい」
「此処の連中はそうじゃないだろ?」
「当然。軍内部って言うのは上の連中の事を言ってるの」
「国防省か?」
「えぇ。私達の成果を自分の成果のように政府に報告するものだから。上の私達に対する扱いにはまだ思う処はあるから愚痴も言いたくなるのよ」
「成る程。俺も舐められない様にしないとだな」
陸奥の愚痴を聞いて紀伊はこの鎮守府の上の組織である国防省の人間については少し注意を払う必要があると感じた。
「まぁ、そんな人ばかりじゃないって言うのも忘れないで。飽く迄も私個人の意見だから」
「陸奥、話の腰を折らないでくれ。脱線したが話を戻そう。紀伊、今後ともよろしく頼む」
「あぁ」
「次の作戦についても追って伝える。話は以上だ、下がれ」
「了解」
紀伊が司令室から退出、残された長門と陸奥は今回の作戦の後処理と国防省への報告のための報告書の作成に入った。
続く
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