新任の吹雪と共に食堂にやって来た紀伊。吹雪の付き添いでやって来た夕立と睦月と共にお互いの話をしながら少し盛り上がっていた。
「魚雷60本!?」
「それに80センチ列車砲の直撃弾も浴びたっぽい!?」
「流石に参ったねあの時は。窮鼠猫を噛むとはああ言う事を言うんだろうな」
紀伊がかつて受けた敵の攻撃の中で一には争う程の被害を受けた1945年の沖縄伊平屋島沖での戦いを語る。この戦いで紀伊は米軍の戦艦10隻、魚雷60本、80センチ列車砲の至近弾1発と直撃弾1発を受けたがそれらも持ち前の耐久力と火力で押しきっている。
「凄いですね……戦艦の人ってそんなに強いんですね!」
「吹雪ちゃん、普通は無理だよ」
「この人が強すぎるっぽい」
「まぁ、そう言われるのは仕方無いさ。何せ俺は普通とは違う艦らしい」
紀伊自身はこの話について長門を含めて既に何人かに話してはいるが、皆が揃って言うのは『異常』『普通じゃない』『常識破り』の3点である。当の紀伊本人は全く意に介さず、そうなって産まれたのだから仕方無いと割り切っているため、何を言われようと全く気にはしなかった。むしろ自分の頑丈さを誇りとしているくらいである。
「まぁ兎に角、誰にだって初めてはあるもんだ。いきなり完璧にこなすって言うのは不可能なんだよ。先ずは戦いに備えて訓練や知識を鍛えて、そこから戦場の空気に慣れていく事を意識すればいい。それが今のお前の課題だ」
「成る程。でも私、この前の戦いじゃ皆の役に……」
「役に立つだけを考えたって戦う事は出来ない。それにお前は駆逐艦であって、速度も機動性も他の艦の追随を許さない立派な能力を持ち合わせている。今はまだそれを使いこなせていないだけさ」
「私の……能力………」
吹雪は自身の掌を見つめる。
「駆逐艦は一見すると小さい船だが、ある意味では戦艦に匹敵かそれ以上の火力を発揮できる。戦艦には無くて駆逐艦にはある。何だと思う?」
「戦艦になくて駆逐艦にはある………魚雷ですか?」
「魚雷もそうだが、もう二つある」
「…………………速度と機動性ですか?」
「そうだ。魚雷は駆逐艦や巡洋艦のような高速の船でないと運用が難しい兵器だ。お前にはその魚雷の機動性と速度性が備わっている。要するに、戦艦や巡洋艦や駆逐艦にはそれぞれ与えられた役割がある。その役割を突き詰めて行けば、戦いにだって皆に遅れを取る事は無いんだ」
「私の役割……………」
掌を見ていた吹雪の目の色が変わる。
「そう……ですよね。私だって頑張れば出来るんですよね!」
「そうだ。努力は決して裏切らないのは太古からの心理だ。お前が尊敬してる赤城や加賀の1航戦だって努力を積み重ねてあれだけの能力と実力を持っている。決して驕る事なく自身の役割を理解出来れば大きな一歩だ」
「はい!ありがとうございます!」
「頑張れよ」
少し自信が無い様子だった吹雪は紀伊のアドバイスに元気が出た様子である。
「さぁ食え。食って力をつけろ」
1時間後、食事を終えて食堂を後にする4人
「今日はありがとうございました!失礼します!」
吹雪は紀伊にお辞儀をして講堂に向けて走っていき、その後を睦月と夕立も追い掛けて行った。
「若いな………俺も昔はあんなだったな」
「以外だな」
そこへ、長門が木の陰から姿を表した。
「盗み聞きとは、あんまり良い趣味とは言えないな」
「人聞きが悪い。偶然だ」
「どうだか。で、何だ?」
「いや、お前は教えるのも向いてるなと思ってな」
「馬鹿言うな。俺は戦う事しか能がない戦艦だよ」
「にしては、中々的確なアドバイスだったように聞こえたが」
「よせやい、あんなの方弁さ。聞く人が聞けば何言ってんだって笑われる」
「謙虚なのは結構だが、過ぎると嫌味にしか聞こえんぞ」
「嫌味なんて言った事なんか無い」
「全く………まぁこれで、彼女の自信にも繋がる事だろう」
走り去っていく吹雪を見送る長門。
「次の戦い……激しくなるぞ」
「分かってる」
それから3週間後………
通信室で無線機と繋がっているヘッドホン越しに、向こうの人物と会話をする長門。
「分かりました。では次の作戦にも彼を?………………分かりました。ではそのように進めます」
無線交信を終えてヘッドホンを外す長門。
「次なる作戦はW島か」
彼女の手元の作戦資料には『第2次反攻作作戦計画書(仮)』と書かれている。
続く
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