「……………と、まぁこれが大和との出会いだったな」
一通り話終えた尾張。
「それから俺は此処で居候。働かざる者喰うべからずで大和やトラック島基地の国防軍の連中の手伝いをする日々さ」
「成る程。お前もお前で大変だったんだな」
「案外楽しいもんだぜ。そのお陰か、こうして兄貴にも会えたんだ。また兄貴と戦えるのが楽しみだ」
「俺もだ。今日は兎に角、皆で食べよう」
そう言って2人は食事を進め、吹雪達も2人の話を側で聞きつつ各々の会話で盛り上がる。
「しかし、至れり尽くせりだな。こんな南の島で美味い食事に個室、風呂に暇潰しが出来る娯楽施設。まるでホテルだな」
「あ……兄貴それは…」
「ホテルじゃありませんっ!!」
いきなり大和が怒鳴り声を挙げた。
「あ………いえ…………その。失礼しました。ではごゆっくり」
しかし直ぐに正気となり大和は部屋から退出した。
部家の中が凍りついた状態となり、一斉に静まり返る中、全く状況が分からない紀伊は尾張に話し掛ける。
「尾張、どう言う事なんだ?」
「すまない兄貴、それに皆。実は大和は此処ではあまり自由な事が出来ない立場なんだ」
尾張曰く、大和は史上最大の戦艦として産まれた艦娘であり、その攻撃力と防御力は紀伊と尾張には一歩譲るものの艦娘の中で最大級の性能を持っている。しかしそれ故に来る決戦のための存在として秘匿されており、極端に言えば軟禁生活に近い状態なのである。
その反動なのか、大和は料理や家事等の技術ばかりが向上し、一部の国防軍上層部や関係者からは『大和ホテル』と揶揄されており、戦艦である大和にとっては誇りを傷つけられ、存在すらも否定されているように感じるのであった。
「そうだったのか………迂闊だった」
「いや、それを教えるのを忘れてた俺の責任だ。兄貴が気にする事じゃないと思う。大和だって兄貴が悪いなんて思ってないぜ」
「そうかな………」
「それよか、折角の飯なんだ。冷めないうちに食べちまおうぜ」
「そうですね。皆さんも食べましょう」
吹雪もこの空気を何とかしようと皆に食事を促した。
それから1日が経った日の午前……
「暑い」
この日、前進基地所属の艦娘達は次の作戦に備えて一時の休息を楽しむべく、砂浜に集まって海水浴を楽しんでいた。
「南の島の太陽がこんなにも暑いとは思わなかったな」
「そりゃ赤道近くに位置してるから暑いの当然だ。本土の夏に比べれば湿気が少ない分、マシだと思うぜ」
「同感だ。しかし汗が止まらんな」
「目の前に海があるんだ。そこで涼めば良いさ」
尾張はそう言うと、羽織っていた迷彩作業服を脱ぎ、トランクス型の海パン姿となり海へと走っていく。
「俺も涼むか」
紀伊もトランクス型海パン姿となり海へと歩く。
「ん?」
ふと砂浜の奥を見ると、水着姿の吹雪、睦月、夕立に大和の4人が居た。
「よぉ、皆も海水浴か?」
紀伊は4人に声を掛ける。
「あ、紀伊さん」
「紀伊さんも泳ぐっぽい?」
「そのつもりだ。此処は暑くてしょうがない」
そう言うと紀伊は大和に向き直ると頭を下げた。
「すまない大和、尾張から全部聞いた。迂闊だっとは言え悪い事を言ってしまった。勿論許してくれとは言わない」
「あ……あの、頭を上げてください。私もつい熱くなってあんな事を」
「いや、知らなかったとはいえお前の誇りを傷つけてしまった。どう詫びれば」
「本当に私は気にしていませんから、頭を上げてください!」
それから数分間、2人は謝り続け、もう気にしない事として手打ちとなった。
「しかし、辛いものだな。戦いたくても、他の皆の様に自由になれないのは」
「仕方ありません。それが私の宿命なのですから」
紀伊には大和は何処か寂しそうな目をしているように見える。
「何のフォローにもならんが、じきに大和も自由な行動が出来るだろう。何せ俺と兄貴って言う最強コンビが来たんだからな」
そこへ尾張がやって来た。
「それに聞いた所によると、兄貴は深海棲艦の機動部隊を2個に凄地姫とか言う上位個体を追い詰めたって聞いてるぜ。兄貴と俺と大和に今本土で訓練中の武蔵と合わせればもう怖いもん無しだ」
「フフっ。そうですね、もしそうなれば私も戦艦としての誇りを取り戻せるかもしれません」
「ちょっとは元気が出たかい大和?」
「はい、少し自信が着きました。私、気は長いですからその時が来るのをゆっくり待ちましょう」
「そうだ。兄貴も待とうぜ!その時を」
「あぁ」
尾張の言葉に少し落ち込んでいた大和も多少は元気になった様子である。
「よし!辛気臭い話は此処まで!2人も泳ごうぜ!」
「よし、何時までも太陽の下で焼かれるのは御免だ!」
「私もお付き合いします」
3人はその場から走り出し、吹雪、睦月、夕立が居る浅瀬へと飛び込んでいく。
その様子を奥から見守っている視線があった……
「…………」
「注意しに行くんじゃないの?」
其処に居たのは、つい先程このトラック島に到着した長門と陸奥だった。
到着早々、大和の姿が無い事に気付いた長門が大和を探しにやって来たのである。
「上は空軍、周辺海域は海軍の哨戒機と警戒艦が居るから敵に発見される心配は無い」
「フフッ。相変わらず不器用なんだから。本当はあの空気の中を注意しに行くのは無粋だと思ったんでしょ?」
「…………………」
陸奥の指摘に長門は何も言わず踵を返し、陸奥と共に司令部庁舎へと戻っていった。
続く
皆様からのご感想お待ちしております。