「それにしてもいきなりだな」
復旧作業中の工廠に代わって設けられた仮工廠エリアで紀伊と尾張は悩んでいた。
「全くだ。いきなり近代化改修しろだって…」
艦だった時代なら資材と人員と時間を確保すれば後はドックに入って作業を受ければ良いが、この世界にやって来て人間となった2人には改修を受けた経験が無い。
ハッキリ言ってしまえば、必要な手順や手続き等どうすれば良いのかが分からないのである。
それに、改修を受けるには相応の練度に達する事が必要なため、今の2人にその練度があるのかどうかさ2人自身には分からないのである。
「お待たせ2人とも」
そこへ夕張がやって来た。
「改修作業の準備が出来たわ。直ぐにでも受けて」
「受けろって言っても、改修を受けるには練度が必要なんだろ?」
「その点は心配しないで。改修は確かに条件が必要なんだけど、戦艦の人達は実戦経験が数回あれば無条件で受けれるのよ」
「成る程。確かに俺も尾張も実戦経験はあるし、条件は整ってるっと言う訳か?」
「そう。特に2人は艦だった時代に改修受けてるでしょ?」
「そう言えば…………」
紀伊と尾張は太平洋戦争後の2010年代後半に日本が新世界に転移し魔法帝国との戦争まで何度か退役と復帰を繰り返しており、その度に改修は受けている。改修の回数だけで言えば、鎮守府のどの艦娘よりも多い。
「それに改修を受ければ、更に戦闘能力は上がるわ。特に2人は他の娘達には無いミサイルや優秀な電子機器を備えてるから、かなりの戦力強化になる筈よ」
今の2人は80年代の大規模改修を受けた際の状態であり、現状でも1級の戦闘能力を持っている。そこから更に改修を受ければ戦闘能力向上を図る事が出来れば、従来よりも遥かに戦い易くなる。
「命令とは言えいきなり改修だからな……俺達は改修中は何をしてれば良いんだ?」
「2人の場合、改修は主に艤装を中心としたものになる筈だから、それが終わるまでは待機してれば良いわ」
「そうか。夕立の件があったから、人体改造手術でも受けさせられるかと思ったが」
「艦種によって改修内容が違うし、改修されて見た目も性格も変わる娘は居るけど、そんな大袈裟なものじゃないわよ」
「となれば考えは決まった。俺は改修を受けよう」
「俺も受けるぜ」
こうして2人の近代化は決まった。早速、夕張と工廠の妖精達は作業に取り掛かった。
既に改修作業中の吹雪の艤装と平行して2人の艤装の改修作業が始まり工廠の機械はフル稼働状態で作業が行われ、そこから僅か5日後、2人の改修作業は完了した。
「これが俺達の新しい装備か……」
作業を終えて2人にお披露目が行われた。
目の前には2人の艤装が置かれており、見た目は対して代わってはいない様に見えるが、速射砲やシースパロー用の火器管制装置がFCS-2に代わり、ハープーンもSSM-1へ、対水上・航海用レーダはより小型なOPS-20とOPS-28、対空レーダーはOPS-24、衛星通信用アンテナが入ったドームが追加、更にはCIWSもブロック1からブロック1Bとなり一部はSeaRAMに換装されている。
その他にも搭載機がHSS-2BからSH-60Kとなり無人機は従来通りパイオニアのままで据え置きとなっている。
そして衛星通信用アンテナが追加された事で、紀伊と尾張が待ち望んでいた18式艦砲用誘導砲弾の使用が可能となり、アウトレンジからの精密攻撃能力を持ち得た。
目に見えない部分にも手が入っており、新世界に転移した時の改修内容と全くの同一の改修が施されている。
「時間は掛かったけど、気に入ってくれた?」
「あぁ。これで戦い易くなった」
「全くだ。これならどんな敵が来ても怖くないぜ!」
待ち望んでいた改修を受け珍しく2人の心が踊る。
「良かった。今回は吹雪ちゃんの艤装にも相当手を加えての作業だったからやりがいはあったわ」
「ありがとう。礼を言っても言い尽くせない」
紀伊は夕張に握手する。
「早速試してみたいぜ兄貴」
「そうだな。取り敢えず使えるようにはしておくか」
2人は早速、改修されたばかりの艤装を装着しテストのため海へ出た。
「凄いな。機関出力が上がってるみたいだ。速度が早くなった様に感じる」
「俺もだ兄貴。それに主砲や武装の動きも滑らかになってる。夕張は良い仕事してるな」
改修による効果は既に現れており、速度、機動性、安定性、各種装備の反応速度が格段と上がっているのを感じている。
「兄貴、試してみるか?」
「そうだな」
そこで2人は気になっていた18式の性能を試すため、主砲に18式を装填する。
「装填よし!衛星とのリンク接続!」
軌道上に居る国防軍の衛星通信システムとリンクさせ、水平線より向こうの40キロ地点に設置されている標的に照準を合わせる。
「目標捕捉、ロック。砲撃用意よし!」
「主砲、発射!」
目標をロックし砲撃を開始、放たれた18式は上昇しながら小型フィンを展開、推進用ロケットを点火させ加速、目標付近上空に達すると弾頭部のセンサーが目標を捉え小型フィンが砲弾の角度を調整、目標に向けてほぼ垂直に落下していく。
「着弾!」
放たれた18式は全て目標に命中した。
「全弾命中!」
「よしっ!」
18式の命中精度に2人は満足し、テストを終えた。
「テストの結果は良好、後は反抗作戦がどうなるかだな」
敵の鎮守府襲撃から既に5日が経過しているが長門らは未だに仮説の司令部へ籠ったままである。
「そう焦る事は無い。恐らくもうそろそろ皆に呼び出しが掛かるだろう」
紀伊の想像に対して、その瞬間は着々と近づきつつあった。
続く
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