吹雪、紀伊、尾張の近代化改修が終わり、破壊された鎮守府の機能も戻り始めた頃、作戦室では長門が『凄地MI攻略作戦』の内容について悩んでいた。
「………………」
「どうするの?いい加減決めないと、皆浮き足立ってるわよ?」
「判っているんだが………どうも決め手に欠けるんだ。これで良いと言う確証が得られないのもあるんだが、あの2人に関しては性能が性能だから特にな。元からこの作戦はあの2人が来る前に計画されてたものだから、どう配置すれば良いものか」
「大和を越える超弩級戦艦……使い処は限られるわね」
「近代化改修内容は報告を受けている。2人とも想像以上の能力を備えているだけに未知数なところがある」
「あれだけの能力があるなら、1航戦と2航戦の機動部隊に追加戦力として就けてみる?」
「いや、それだと敵にMIが本命だと勘づかれる。やはり陽動として凄地ALへ向かわせるか、今からトラック島に戻して大和と共に行動させるか……」
長門は頭をフル回転させ、戦力配置と作戦のシュミレーションを繰り返す。
「彼女に意見を聞いてみるか」
そう言って内線電話を取ろうとした時、ドアがノックされた。
「1航戦、赤城です」
「入れ」
ドアが開かれ赤城が入ってきた。
「丁度良かった。次の凄地MI攻略作戦の機動部隊編成について意見を聞きたかったんだ」
「奇遇ですね。私も機動部隊の編成について意見具申をと思いまして。現段階の編成を伺っても?」
「あぁ」
赤城は自身が率いる凄地MI攻略のための機動部隊編成が記された編成表を見る。
(やはり………)
赤城は編成をみて脳内にある光景がフラッシュバックし、頭痛を覚える。
「どうした?」
「いえ。編成に関してお願いがあります」
その頃、復旧されたばかりの食堂では………
「吹雪は張り切ってるな」
食堂の一角に紀伊と尾張、吹雪、睦月、夕立が座っており、向かいに座っている吹雪がジョッキに入った牛乳を飲み干している。
「これで3杯目だ。1日でその量飲むのは赤城か加賀くらいかと思ってたんだが」
「そんなに飲んで大丈夫か?もうすぐ作戦だって言うのによ」
「大丈夫です!改になってから食べる量も飲む量も増えましたから!」
「赤城の護衛に任命されたからって、張り切り過ぎっぽい」
夕立の言う通り、今から数日前に吹雪は赤城からの直々の指名で赤城の護衛艦を命じられており、改になって能力が上がったのもあり、彼女は相当に張り切っている。
その直後、鎮守府全体に全館放送が鳴り響く。
『秘書艦の長門だ。皆、そのままで聞いてほしい。これより明日実施されるMI作戦の艦隊編成が決まったため此処で発表する』
一呼吸置いて、編成が発表された。
『まずは作戦の要となる第1機動部隊から、1航戦 赤城、加賀。2航戦 飛龍、蒼龍。護衛として戦艦金剛、比叡。重巡利根、筑摩。雷巡北上、駆逐艦夕立』
「ぽい!?」
第1機動部隊へ組み込まれた事に一瞬だけ夕立だが、直ぐに表情を元に戻す。
『また、攻略の主力艦隊には戦艦霧島、榛名に加えて戦艦紀伊、尾張がトラック島から出撃する大和を旗艦とした艦隊と合流する手筈になっている』
「やっぱりか……」
「大和も出撃か。大和と俺達紀伊型2隻揃えば怖いもの無しだ!」
『本作戦に於いて攻略目標がMIだと敵に悟られない様に陽動部隊を編成し凄地ALに出撃させる事となっている。陽動作戦は他の鎮守府から空母隼鷹が参加し、本鎮守府からは龍驤が参加する。2艦の護衛には重巡 那智、球磨、多摩。駆逐艦 暁、響、雷、電。以上が作戦部隊の編成となる。他の者は国防軍と共に鎮守府及び近海域の哨戒に当たってもらう。尚、ガルム隊は鎮守府に待機、AWACSには引き続き空中作戦指揮を執ってもらう』
放送が終わり鎮守府全体が明日の作戦に備えての準備に入った。
その日の夜、鎮守府の波止場に紀伊と尾張の姿があった。
「凄地MI…ミッドウェー作戦か」
「やっぱり気になるのか兄貴?」
「あぁ。歴史の転換点と言える戦いだ。俺が知ってる歴史だと1航戦と2航戦が壊滅して、そこから坂を転げ落ちる様に日本は負け続けとなった」
「だけどそれがこの世界でも起きるとは限らねぇぜ」
「確かに……だが、妙に胸騒ぎがして堪らないんだ」
「考え過ぎだぜ。だったら俺達がその歴史を変えてやれば良いんだよ!歴史が分かってるなら、変える事なんてそう難しくは無い筈だ!」
尾張の言う通り、紀伊もミッドウェー海戦の結果がどうなったかは知っている。2人が居た世界ではミッドウェー敗北後の日本は各地で敗北を続け戦力や兵力を次々と失ったが、戦争終盤に紀伊と尾張が産まれた事による再度の歴史の転換により日本は無条件降伏と言う最悪の結果は避けられたが、この世界は紀伊と尾張は本来は存在しない世界であり、そうなれば結果がどうなるかの予測が付けにくい。
「兄貴、腹括る時が来たんじゃねぇか?」
「尾張…」
「いざとなれば、俺達が汚れ役を買ってでもミッドウェーの敗北を阻止して、この世界が俺達が歩んだ様な悲惨な歴史を歩かせないようにする。そのためには今からでも動くべきなんじゃないのか?だから俺達はあの謎の存在によって此処に飛ばされて来たんじゃないのかと俺は思う」
「しかし、俺達だけで何が出来るんだ?」
「長門に訴えて作戦の見直しをさせれば良いと思う。たとえ作戦全体が変わらなくても、少しだけ作戦を変えてでもあの敗北だけは」
「今からそれをやるのか?」
「やらないよりはマシだぜ」
「………………………………ダメ元でやってみるか」
その足で2人は作戦室へと直行した。
「やはり来たか」
しかし作戦室では予め知っていたかのように長門が待っていた。
「その口振りから俺達がやって来るのを分かってたな?」
「あぁ。凄地MI……ミッドウェー海戦の結果は私と陸奥は知っている。2人もそれを知っているのは分かっていたから、こうして待っていたんだ」
「話が早くて助かる。長門、作戦について意見だけでも良いから言わせてくれ」
「分かった」
「この作戦、俺達に自由行動を許可してくれないか?」
「自由行動だと?」
「あぁ。ただこれは独断行動するって訳じゃない。勿論、当初の作戦に従って行動するが万が一が起きた場合に備えての保険と言う認識で構わない」
「保険………その万が一が起きた場合に現場で独自に判断し行動するために私から言質を取ろうと言う訳か?」
「そうだ」
紀伊の迷いなき返答に長門は少々面喰らった。彼女の予想では機動部隊が狙われないように紀伊と尾張が被害担当艦を買って出るとか、或いは自身の配置を変更させろとでも言うのかと身構えていただけに、予想外の提案をされた事でどうすべきか考える。
「………………作戦は当初の予定通り行う。予定変更のつもりはない」
「…………」
やはり無駄だったかと紀伊と尾張の表情は曇った。
「だが」
しかし、長門は更に続けた。
「この作戦では無線封鎖を実施する。万が一に予定を変更せざるを得ない状況に陥った際はこの限りではない」
「!?」
「長門っ!」
それは"万が一の際"は2人の判断で独自判断で行動が許されたと取れる発言であった。
「分かった。ありがとう長門」
紀伊は頭を下げて礼を述べる。
「よせ。私は飽くまで万が一が起きない前提で話をしているだけだ」
長門は後ろを向く。
「そうだな。だが万が一が起きた場合に備えて、念のためにこれを渡しておく」
そう言うと紀伊はズボンの後ろポケットからある物を取り出して、机に置く。
「これは……携帯無線機か?」
紀伊が取り出したのは、地球世界でアメリカの軍事企業が開発したトランシーバーだ。周波数と出力をランダムで常に変調させるため敵に傍受される心配がない軍用規格の優れ物である。
「それは短波通信だがAWACSを介して送受信が出来るように改造してあるし、周波数は常に変調してあるから通信内容が敵味方に傍受される心配はない。万が一が起きた場合は俺が持ってるもう片方の奴で知らせる。勿論、当初の作戦中では使用しないし、それが鳴ったら万が一が起きたと思ってくれ」
「分かった。預かっておく」
長門はトランシーバーを預かり、2人を退出させた。
「万が一が起きない事を願うが…」
トランシーバーを手に長門は作戦成功を祈る。
続く
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