艦娘との接触のため無人島から出撃する紀伊は砂浜から海上へ一気に飛び出し、海上を力強く進み始める。
「弾倉よし、薬室よし、装填」
手にしている64式小銃に弾倉を装着、槓桿(ボルトハンドル)を引いて手を放し初弾を薬室に送り込む。9㎜拳銃も同様に弾倉を装填しスライドを引いて初弾を薬室に送る。扱うのは始めての筈なのに扱い方は何故か身に染みているのは何故かと言う疑問には目を閉じ、自身の艤装(仮)に目を向ける。
すると、主砲塔と副砲と速射砲が旋回・仰角の動作を取り、CIWSも左右上方に銃身を向ける。動作に関しては問題は無いだろうが、発射はまだやっていないためどうなるかは不明だが、新世界での実戦で散々使ってきているため問題は無いだろうと判断する。
「やっぱりIFFは反応無しか」
彼が着けているシューティンググラスタイプのHUDにはヘリからのリアルタイム情報が送られてくる。既にトマホークの射程には入っているが、生憎向こうは双方ともIFF(敵味方識別装置)を持っていないため紀伊のデータリンクシステム上には艦娘と深海棲艦を味方か敵かの判断が出来ない事からトマホークによるアウトレンジ攻撃は不可能である。
そのため紀伊はヘリからの誘導で主砲によるロングレンジ攻撃を加える事を選択する。
それをやる前に先ず、やっておかなければならない事がある。
「通信を開け」
「了解」
通信妖精が周波数を調整して艦娘達にコールを送る。
「来ました。どうぞ」
「北緯〇〇度〇〇分、東経〇〇〇度〇分で戦闘中の艦隊に告げる。これより10分後、深海棲艦の艦隊へ向け艦砲射撃による攻撃を実行する。至急退避されたし」
無線のプレストークボタンを離すと直ぐに向こうから返信が返ってきた。
『こちら横須賀鎮守府第1艦隊第3水雷戦隊旗艦の神通です。貴艦の艦名と所属を述べられたし』
所属と名前を聞かれる事は紀伊は始めから想定しており、無線マイクのプレストークボタンを連打しながら返信する。
「こちらガガッ艦隊所属、ガガガガッ。これより10分後ガガガガッ隊へ向け艦ガッガッカ射撃を実行する。至急退避されたし」
プレストークボタンを連打する事で無線の不調を装い肝心な部分を雑音で聞こえなくして自身の名前と所属を話している様で話していない作戦に出た。子供だましような手であるが、自身を味方だとアピールしながら敵へ砲撃するにはこの手しかないのである。
『申し訳ありません。上手く聞き取れませんでした、もう一度お願いします』
「繰り返す。こちはガッ艦隊所属ガガガガッ。これより10分後に敵ガガッ隊へ向けて艦砲射撃を実行する。至急退避されたし!」
さあどう返してくるかと反応を待った。
「子供だましだったかな?」
無視されたと思ったが、直ぐに返事が返ってくる。
『了解しました。こちらの状況は切迫しています、至急艦砲射撃を要請します!』
掛かった!と思った紀伊は直ぐに返信する。
「了解した!当方は間も無く射程距離に入るが、ガガガガッ当方の哨戒機が飛行してガガッため誤射に注意されたし。退避完了後、無線で合図を送られたし」
『了解しました』
無線交信を終えて早速砲撃準備を開始する。紀伊に装備されている9門の51センチ砲に砲弾が装填され、待機中の哨戒ヘリ着弾観測のため移動を開始する。
「本来なら18式を使えばこんな距離からの砲撃なんて簡単なんだがな」
そうぼやく紀伊の現在の艤装(仮)の状態は1980年代の再就役時の装備で、ヘリはSH-60Kではなく旧式のHSS-2Bで、トマホークやCIWSに電子装備は80年代当時の物であり新世界での再々就役時よりも古い形態である。何故そんな状態なのかは分からないが、紀伊はそれらの性能を熟知しているため古かろうが新しかろうが関係はなかった。
「間も無く、射程距離に入ります」
哨戒ヘリHSS-2Bが敵を視認可能な距離にまで接近、紀伊も主砲の射程距離に入り、射撃準備を整えた。
『こちら第3水雷戦隊、退避完了』
「了解。これより艦砲射撃へ移る」
HSS-2Bが位置に付き砲撃準備が整った。
「砲撃用意よし、攻撃準備よし、主砲撃ち方始め!」
9門の51センチ砲が暗闇の中、砲撃を開始した。
海上に灯りを灯し衝撃波が海面を叩き、砲声が響く。
『だんちゃーく………今っ!』
9発の砲弾が第3水雷戦隊に襲いかかっていた深海棲艦の艦隊に降り注ぎ、巨大な水柱が上がった。
『第1弾、全弾遠。修正〇〇〇〇』
「了解。次弾射撃用意!」
ヘリからの着弾修正指示を元に再度射撃態勢に入る。
「撃ち方始め!」
次弾が撃ち出され、今度は着弾点が初弾より収まった。
『第2弾、全弾近。修正〇〇〇〇』
「了解。第3弾、撃て!」
3回目の砲撃が行われると、先ほどよりも着弾点が纏まっている。命中精度が上がっている証拠である。
『修正〇〇〇〇』
「次で決める。撃てぇ!」
4回目の砲撃が行われ、遂に敵へ砲弾が直撃した。
『主砲全弾命中!続けて効力射!』
「了解!」
そのまま諸元修正を行いながら砲撃を続行し、深海棲艦の部隊に対して確実にダメージを与えていく。降り注ぐ51センチ砲弾は深海棲艦の様々な個体に直撃、確実に破壊していく。
「良いぞ。このまま砲撃を続ければ」
砲撃開始から1時間が経過する頃、深海棲艦の動きは停止、最後に放たれた砲撃が旗艦らしき個体に3発が命中し派手な爆発が起きた。
『敵旗艦へ直撃確認!』
「決まったな」
砲撃を終えて砲身の冷却が始まる。ヘリからの報告は続き、深海棲艦は徐々にではあるが後退を開始する。
「終わったか………さて、此処からが問題だな」
撤退していく深海棲艦を見届けながら、先程の無線交信の相手である第3水雷戦隊の艦娘達が近づいてくる。
紀伊は手にしている64式小銃のセレクターをタに移動させ銃口を下に向けた状態で木製のグリップを右手で握る。
「艦長」
「一応な。撃つ事にはならないさ」
続く
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