無事に接触を果たした紀伊は第3水雷戦隊と共に日本本土へ向けて航行していた。
結果的に言えば、紀伊は"一応は賓客"として第3水雷戦隊が所属する横須賀鎮守府への入港が認められた。
接触直後、紀伊は自身の所属と艦名を偽る事なく全て明かした。無論その時は第3水雷戦隊の面々『神通』『川内』『那珂』の軽巡洋艦3人と『夕立』『睦月』の駆逐艦2人は驚きと驚愕の表情を浮かべた。何せ、自分たちが所属している鎮守府や他の鎮守府に紀伊と言う名前の艦娘など居らず、ましてや海上自衛隊なんて組織は存在すらしないからであるから当然である。
しかし紀伊はそんな彼女達の反応に構う事なく自身の事を力説、何とか上の人間に報告してもらうよう説得を続け、現在に至っていた。
「しかしまぁ、紀伊って名前の艦娘が現れるなんてねぇ。都市伝説は本当だったのかって思ったよ」
紀伊の右隣を並んで航行していた川内がそう話す。
「都市伝説?」
「うん。私達艦娘の間じゃ都市伝説的な存在なんだよ。えぇと確か……艦娘が誕生して間も無い頃に建造されたとかされてないとか言われてる艦娘の名前が紀伊なんだって」
紀伊は確か自身にこの名前が名付けられる前に初代の紀伊が存在した事を思い出す。
(確か初代の紀伊は八八艦隊で計画された戦艦の名前だったな)
自信が建造されるより以前に計画された八八艦隊計画で建造予定だった戦艦のネームシップにつけられる筈だった名前で結局は計画中止となったと知識としては彼の頭に入っていた。何の因果でこの名前が自信につけられたのかは彼自信は知る由はない。
(と言う事は、この世界の艦娘は俺を知らない可能性が出てくるな)
この時の彼女達反応から紀伊は他の艦娘達も自分とは面識は無い事可能性がある。そう考えると少し寂しい思いになった。
「まぁそんな話は置いておいて紀伊って、どうして此処に?」
「どうしてって………」
単刀直入な質問に少し返答に困った。何せ自信が突然目の前に現れた謎の羽織を纏った存在から使命を授けられやって来たなんて説明できる筈がない。
「さぁ。俺もよく分からないんだ。気が付いたらあの無人島に居たからさ」
「よく分からないって………なんで?」
左隣に居た那珂が近寄って疑問を投げ掛ける。
「よく分からないから分からないんだ。何て説明するべきか」
「少なくとも貴方は私達の事を知っていて、その上で私達の前に現れた……味方である事に変わりはないのでは?」
第3水雷戦隊の長『神通』の言葉に、那珂は「そうだね!助けてくれたんだから私達の仲間なんだね」と納得してくれた様子である。紀伊は目線で神通にフォローしてくれた事を感謝した。
「ねぇ紀伊さん」
後ろから声を掛けられて振り替えると、金髪ヘアーの夕立が居た。
「ん?」
「紀伊さんて戦艦っぽい?」
「そうだが、それが?」
「もしかして強いっぽい?」
純粋な問いに紀伊は夕立からの質問に自身の51センチ砲を撫でる。
「大きい主砲っぽい」
「51センチ砲9門の火力は伊達じゃないぞ」
「「「「「51センチ!!」」」」」
主砲の口径を聞いて皆が驚いた。
「マジで!」
「51センチ砲なんて名前しか聞いた事が無いのに、その実物を持ってるなんて」
「あの深海棲艦の旗艦を一撃で沈めたの見たら納得だね」
「やはりあの人と関係があるのでは……」
神通の言葉に紀伊は反応を示す。
「あの人?あの人って誰の事だ?」
「申し訳ありません。私の口からは」
「?」
何か言いたげな神通は口を噤む。
「そろそろ鎮守府に到着します」
そうしている間に浦賀水道を越えて東京湾に入る。
(妙だな、東京湾はこんなに閑散としていたか?)
この世界の東京湾は前の世界の東京湾とは少し雰囲気が違っていた。東京湾アクアラインは無く、航行している船舶は非常に少なく、何よりも東京湾要塞が現役で稼働しているのを見て、此処が自分の知る世界ではないと改めて痛感した。
「鎮守府に入ります。付いてきてください」
「了解」
東京湾に入った第3水雷戦隊と紀伊はそのまま横須賀鎮守府へと入港、そのまま工廠へと向かう。
「此処で装備を預けてください」
工廠に入ると、そのまま装備を降ろす。
「損傷している者は直ちに入渠し、紀伊さんは私と共に司令代行の処へ」
神通に言われるがまま、紀伊は彼女の後ろを着いていく。
「神通、今司令代行って言っていたが」
「えぇ。この鎮守府の責任者である提督は現在は北部戦線での作戦に就いていて、その間は提督の秘書艦が司令代行を勤めているのです」
「その司令代行ってのはどんな奴なんだ?」
「はい。第1艦隊旗艦兼連合艦隊旗艦である長門秘書艦が今は司令代行を勤めています」
「長門…」
久し振りに聞く名前に紀伊は心が少し踊った。
(沖縄での最終決戦で共闘したのが昨日の事みたいだ)
太平洋戦争時代の思い出が脳裏に甦ってきた。もしかしたら自分の事は知らないかもしれないが紀伊とっては戦友の1人のため今から会えるのかと内心ワクワクしている。
思い出を懐かしんでいると、いつの間にか司令官室前にたどり着いていた。
「第3水雷戦隊旗艦神通以下1名、入ります」
「入れ」
ドアを開けて中に入る。
部家の中には、凛とした表情にただならぬ雰囲気を醸し出している艦娘が椅子に腰かけており、その隣を年上の女性と思わせる艦娘、そして部屋の墨で無線機と向き合っている眼鏡を掛けた艦娘の3人が居た。
「報告します。第3水雷戦隊、威力偵察任務より帰還しました」
「ご苦労だった。先ずは疲れを癒せ。報告はその後で聞こう」
「はい」
「ところで、そこに居るのが連絡のあった……」
椅子に座っていた長門が紀伊に視線を向け、紀伊は海上自衛隊式の敬礼をする。
「海上自衛隊第4護衛隊群所属の紀伊型護衛艦1番艦の紀伊だ」
「横須賀鎮守府司令代行の長門だ。先ずははじめましてかな?」
長門は紀伊に手を差し出し、紀伊は彼女の手を握って握手する。
「神通、下がってくれ」
「はい。失礼します」
神通は部屋を退室した。
「さて、先ずは何を何処から聞いたものか?」
「先ずはお互いの置かれた状況を話そう」
「そうだな。大淀、此処での会話の記録を頼む」
「了解しました」
無線機と向き合っていた艦娘『大淀』が立ち上がり、ペンと用紙を用意する。そして部家の真ん中にあるソファに腰かけ、改めて聴取と言う形での対談が始まった。紀伊と対面する形で向かいのソファに座った長門は紀伊に問いかけた。
「単刀直入に聞かせて欲しい。お前は何者だ?」
その問いに紀伊は長門の目を見据えて答える。
「何者ねぇ………今の俺は海上自衛隊の所属だが元は大日本帝国海軍所属だった。つまりはお宅らと同じ穴の狢って処かな」
「私達艦娘はかつての戦争に使われた軍艦の魂が具現化した存在だ。私を含めた艦娘もかつては軍艦として数多の戦いを繰り広げそして海へ散っていった。産まれてから沈むまでの間の記憶は勿論持ち合わせているが、少なくとも私は貴様の事は知らない」
(やっぱりか………どうやら俺を知る奴は此処には居ないらしい)
「応えてくれ」
長門の視線が紀伊を捉える。
「長門、あんたは可能性は信じるかい?」
「どう言う事だ?」
「例えばの話をしよう」
そう言うと紀伊はポケットからボールペンとメモ帳を取り出し、一枚だけ破りとると机においてペンで点を書く。
「この点は朝食を摂る前のあんただとする。此処では2つの選択肢がある。長門は朝食を食べる選択肢と食べない選択肢とどっちを選ぶ?」
「無論、食べる選択肢を取るな」
「分かった。朝食を摂る事を選んだ長門をAの線だとする」
点から2つの線を画く。
「そして朝食を摂らない選択肢をしたのがBの線だ。朝食を撮る摂らないでその日のコンディションが違ってくる。Aの線を選んだ長門はその日を無事に過ごせたが、Bの選択肢を取っていたらどうなる?」
「完全な指揮と業務に支障が出る可能性があるが……」
「そうだ。2つの選択肢のどちらかを選べばその日の自分の行動と言動も違ってくるし、その日に起きる出来事も自ずと違ってくる。それが徐々に大きくなり、やがては自身の命運を左右する事になるかもしれない。これは飽くまでも極論だが、1つの選択肢の違いが歴史に大きな影響を及ぼす事も俺はあり得ると思う」
「歴史…選択…つまりお前は、私達の記憶にある歴史とは違う存在だと言うのか?」
「話が早くて助かる。つまり此処に居る艦娘は俺の事は知らないが俺は皆を知っている。何が言いたいかと言うと、俺はあんた達が知っている歴史上には存在しないって事になるんだよ」
司令官室に衝撃が走った。
紀伊が放ったその言葉は、自身が存在しない筈の歴史からやって来た明らかなイレギュラーである事を示していたからである。
「そんな事って…」
「あり得ません。科学的に言っても…」
「だったら俺の存在はどう説明する?強調して言っておくが今話した事は俺が経験した紛れもない真実なんだ。証明しろと言われても証明出来る手立ては無いがね」
「…………………2つだけ質問させてくれないか?」
「どうぞ」
「紀伊が歩んだ可能性で私達の運命はどうなった?」
「聞きたいか?」
「聞きたくもあり聞きたくもないと言うのが心情だ。聞けば後戻りが出来そうになく思えてくる」
「なら聞かなくても良いと思う。無理に聞いて精神的に悪影響が出ても責任はとれないからな」
「そうだな。2つの目だが、お前は我々の味方なのか?」
「それは愚問だぜ。俺は端からアンタらの味方だ。そのために俺は此処に居るんだ」
それを聞いた長門は立ち上がる。
「それを聞けて安心した。紀伊、我々は貴艦の参戦を歓迎しよう」
「感謝する」
続く
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