1時間に及んだ長門との会談と言う名の聴取を終え、紀伊は司令室を退室した。
(取り敢えず置いてくれる事にはなったが……)
今回の会談では自身の今後について若干の不安を残す結果となった。此処に居る艦娘達の直属の上司である提督が居るとの事だが生憎その提督本人は別の戦域で目下作戦中のため直接会う事は現状出来ないらしく、長門から紀伊の事については極秘事項として報告される事となった。
提督の人柄について長門や陸奥と大淀は口を揃えて「悪い人ではない」「話せば分かってくれる」「悪いようになる事は無い」と保証はしていたが生憎、見た事も話した事も無い人間の回りからの評価を鵜呑みにする程、紀伊はお人好しではなかった。
(最悪の場合も考えておくべきか?)
最悪な事態の事も考えて、何時でも行動できるように準備だけはしておこうと警戒は続ける事にした。そのまま駆け足で工廠への帰路についた。
「何処から触るべきかしらね?」
工廠へ戻ると其処では紀伊の艤装を前にして困っているかのように立ち尽くしているオレンジ色の繋ぎ服を着た人物が立っている。
「俺の艤装に用か?」
その人物に対して声を掛ける。
するとその人物は驚いた様子で振り向いた。
「えぇと……もしかしてこの艤装は貴方の?」
「そうだ。君は誰だ?」
「私は夕張。此処の責任者よ」
「君も艦娘なのか?」
「そうよ。でも普段は此処で技術者をしてるの。貴方は長門秘書艦から連絡のあったニューフェイスね?」
「紀伊型戦艦1番艦の紀伊だ。よろしく頼む」
「こちらこそ。早速なんだけど、貴方の艤装の整備と点検をしたいんだけど、貴方はニューフェイスだから艤装の整備マニュアルを作りたいの。少し調べさせてくれる?」
「分かった。俺も手伝おう」
「ありがとう。じゃあ早速」
夕張は早速調査を開始した。流石にエンジニアなだけあり紀伊の艤装を観察を始め、それを手早く終えるや否や紀伊の監督と元で艤装内部へアクセスしたりしながらメモ書きを始める。
「成る程。全体的に防御力と火力に振っている設計ね。主機関は大型艦用のボイラー式の拡大発展型みたいだけど出力は大和型の倍はありそうだから速力はそれなりに発揮できそう。それにこの装甲板の間にあるのは……スポンジとゴム?」
「それは対魚雷防御用と浸水対策用だ。魚雷直撃のエネルギーをゴムが吸収して、スポンジが海水を吸い込む事で内部への浸水をある程度は防いでくれる。しかも副次的効果で追加の浮力としても機能してるんだ」
「面白い発想じゃない!この技術とアイデアは使えそうね!」
(何だか、ムーのあの技術士官の事を思い出すな)
紀伊は新世界で日本の同盟国であったムーの某技術士官を思い浮かべた。彼の飽くなき探究心が結果的にラヴァーナル帝国との戦いに於いて新世界側の勝利に貢献する事になり、彼はその後に世界的に知られる存在となったのである。
今の夕張の姿がまさにその技術士官と重なって見える。
「さて、次は武装ね」
続けて武装の解析に取り掛かった。
「報告通りね。主砲は51センチ砲が3基9門、20センチ副砲が2基9門、配置は大和型と同じ。構造的に大和型の拡大発展型みたいだから大和型の整備マニュアルで流用出来そうね。でも問題はコレよ」
夕張が目をつけたのはハープーンとトマホークのミサイルランチャーとMk45速射砲にCIWS、シースパローランチャーだ。どれも第2次世界大戦基準の艦娘の艤装には使われていないモノで、何故それを紀伊が持っているのかが純粋に気になった夕張は紀伊に問いかける。
「ねぇ、こんな武装を何処で?」
「それは秘密だ。少なくともこれらは俺が生まれた時点では装備されてなかったものばかりだ」
「どういう言う事?」
「此処から先はノーコメント。好奇心は猫も……だ」
「了解」
その後もレーダーや通信機器等の電子装備やその他の装備に関して一通り分析が終わると、夕張はその場でマニュアルが作りあげる。
「出来たわ!」
「早いな」
「技術者を舐めないでちょうだい。データーが揃ってればマニュアル作成なんて書類仕事と変わらないわ」
「それは頼もしいな。今後ともよろしく頼むよ」
「えぇ。任せて!」
堂々と自信を見せつける夕張に頼もしさを感じる紀伊であった。
しかし此処で紀伊はある事を思い出した。
「そう言えば俺の寝床は何処にあるんだ?」
「そう言えばそうね。一応長門秘書艦からの指示で貴方の部家については用意してあるわ。着いてきて」
言われるがまま夕張に案内されたのは、工廠の端にある畳が敷かれた四畳半程の小さな小部屋だった。
「ここなら日当たりも良いし、滅多に人も来ないから暫くは安心して。食事は私が届けてあげるし、お風呂は其処にあるから自由に使って構わないから」
「すまない」
「じゃあ私、まだ仕事あるから戻るわね。用があったら其処の内線電話で呼んでね」
そう言い残して夕張は工廠へと戻っていく。紀伊は部家に上がると、そのまま横になる。
「寝るには早いが、少し疲れたな」
そのまま彼の意識は暗転し少しだけ深い眠りについた。
続く
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