死柄木虚の原罪   作:エンペラーペンギン

1 / 2
1. 死柄木虚 : オリジン

この施設は死の匂いに満ちている。

 

薄暗く、何らかの機械の駆動音が絶えず鳴り響いている。

 

ここは、最新鋭の医療機器が充実している施設であるのと同時に、有用な”個性”を持つ者たちの遺体がホルマリン水槽に浸けられ、人間標本として保存される。

 

この空間に、人権は存在しない。

 

人の尊厳を弄ぶ悪魔たちの巣窟である。

 

施設の一角には、悪魔たちによって、より厳重に管理された巨大な培養槽が存在する。

 

——

 

オレは生まれてからほとんどの時間をこの培養槽の中で生きてきた。

 

中で、よくわからん薬剤を身体に投与されるだけの日々を送っている。

 

「この実験体、えらく気に入ったようじゃな?先生。」

 

「あぁ。弟によく似ているからね。」

 

「この子には将来、ドクター、君に並んで僕の腹心として働いてもらうよ。」

 

投与された薬物の影響か、意識が曖昧で、思考がまとまらない。

 

そんな中、水槽の外ではオレの創造者たちが話をしているようだ。

 

オレは頭に取り付けられた学習装置から、言語や社会活動を行うための知識に加えて、脳無という改造人間たちの戦闘経験、戦術などが脳内に直接刻みまこれている。

 

学習装置のおかげで、いつのまにかに、培養槽越しに男たちの会話を聞き取り、理解することが出来るようになっていた。

 

男たちの会話を盗み聞いているとオレの核心に迫る情報が聞き取れた。

 

というのもオレはまだ生後数ヶ月も経っていないというのに、既に10歳前後の肉体まで成長させられているらしい。

 

どうやら自分は普通の人間とは違うということだけは理解できた。

 

「先生。この実験体、腹心として動いてもらうからには名前は付けないのか?」

 

「それなら決めてあるよ…..彼の名は死柄木虚。」

 

培養槽越しに男がこちらに語りかけてきた。

 

「僕は君の父親だ。」

 

遺伝的な意味合いか、創造者としての意味合いかどちらかは伺い知れないな。

 

一見すると、男の瞳はこちらに対する慈愛が込められたものに見えたが、すぐにそんなものは無いのだと悟った。

 

本能が告げていたんだ。

 

コイツは人を人とも思わないロクでなしだと。

 

オレのことも息子とは言っているが、邪魔になれば躊躇なく殺せるだろう。

 

しかし、それより重要なことがあった。

 

オレの名は死柄木(うつろ)というらしい。

 

歴史に照らせば、名付けには様々な意義が含まれている。

 

現代では音の良さや親しみやすさも踏まえた上で、子が持って生まれた”個性”に準えた名前がが一般的らしい。

 

オレの場合は「(うつろ)」。

 

空っぽ?何も持たない存在?って意味ならオレにピッタリだ。

 

文字通りオレは何も持たない、空虚な存在だからな。

 

名にどういった意味が込められているのか、無性に気になったので、男にそれを尋ねようとする。

 

正確に言えば答え合わせだな。

 

自分の考えが合っているのか、確認したくなった。

 

しかし培養槽の中ではこちらから発話することができなかった。

 

投与される薬の濃度が上がってきたのか、頭がぼんやりし、視界が霞み始めた。

 

抗っても無駄だと分かっているので、そのまま眠気に身を任せると、一瞬で意識は薄れていった。

 

 

——

 

オールマイトによる、オール・フォー・ワン討伐。

 

それはヒーロー公安委員会にとってもかねてからの本懐であった。

 

超常黎明期より暗躍し、一時は裏社会から日本を支配するにまで至った「巨悪」は常にこの国の国内安全保障を脅かしてきたからだ。

 

オール・フォー・ワンのアジトの一つ。

 

表向きは製薬会社に偽装されていた研究施設が押収されたが、ある一つのモノを除けば、研究の証拠は何一つとして見つからなかった。

 

まるで押収されることを見越していたかのように、巨大な研究施設一帯がもぬけの殻となっていたのだ。

 

だが、公安にとって気がかりだったのは唯一の発見物。

 

培養槽の中で発見された謎の少年。

 

オール・フォー・ワンの遺した置き土産であり、いまだに身元がわかっていない「協力者」に繋がる唯一の手がかりであった。

 

施設内にて、公安による大規模捜査が行われる中、少年は培養槽の中から救出されたが、衰弱しきった様子だった。

 

しかし少年の意識が明確になるにつれて、気が動転し、暴れ出しのだ。

 

その結果、見習いも含めた公安お抱えのヒーロー7人を動員し、死闘の末に少年の無力化に成功した。

 

少年は衰弱しきった状態でヒーロー7人を相手取る脅威的な戦闘能力を有しており、複数の”個性”を戦闘で用いていたことが確認されている。

 

公安委員会は協議の末、少年の対”個性”最高警備特殊拘置所、通称タルタロスへの勾留を決定する。

 

これはオール・フォー・ワンとの繋がりや少年の危険性を鑑みた上で成された決定だった。

 

 

オレが目を覚ましてから、4年の時が経つ。

 

オレは今、対”個性”最高うんたらかんたら….

 

タルタロスっていう、日本でも筋金入りの犯罪者だけが勾留される拘置所に閉じ込められている。

 

培養槽にいた頃は知らなかったが、オレの父親は犯罪史に名を刻むレベルの極悪人だったようで、オールマイトとかいうヒーローに殺されたらしい。

 

父の死に対し、特に感じ入ることはなかった。

 

精々数ヶ月間、水槽越しにアイツの話を聞いているだけの関係だったからな。

 

アイツの本名だってオレは知らない。

 

ともあれ、そんな父の死はこの世界に大きな影響を与えたそうだ。

 

父には大量の余罪があるらしく、ここに来てすぐの頃は警察の連中が情報を得ようと血眼になって、何度も取り調べを受ける羽目になった。

 

取り調べと聞くとキツそうだが、オレにとっては楽しいものだった。

 

なんせ人と話したことがなかったからな。

 

父に対しても特に思い入れはないので、話せることは全部話してしまった。

 

まぁ4年経った今では捜査もひと段落したのか、

取り調べの回数もかなり減少してしまったが。

 

暇だな。

 

オレが閉じ込められている独房は、タルタロスを6つに区分した内の最深部。

 

最も危険性の高い犯罪者が閉じ込められるエリアだ。

 

その監視は囚人の脳波やバイタルサインまで行き届いているらしく、危険を察知した瞬間に、部屋中に備え付けられた機関銃が囚人を撃ち抜く仕組みになっている。

 

しかし、なんでオレがこんな目に遭わなきゃならないんだ!!!!

 

そりゃ目を覚ましてヒーローたちを攻撃してしまったのは申し訳ないけどさ…

 

ここまでする必要あるかね?

 

毎日、何をするわけでもなく、一日が過ぎるのを待つだけ。

 

気が狂いそうだ。

 

いや、もう狂ってるのかもしれない。

 

最後に人と話したのはいつだ?

 

このまま一生死ぬまでここで過ごすのか?

 

途方に暮れていると、プツプツと部屋に備え付けられた音響装置が音を立て始めた。

 

こういう時は大体、看守がスピーカーを通して伝達事項を伝えてくるんだよな。

 

「913666番、来客だ。」

 

やっぱりな..

取り調べだろうか?

 

ともあれ、久々に人と話せるぜ。

 

高揚感に駆られた状態で独房から面会室へ向かうと、アクリル板越しに2人の男女が座っていた。

 

女の方は50代後半から60代ほどか?

 

金髪をオールバックに束ねており、歳相応の皺こそあるが、凛々しい顔つきをしている。

 

なんというか、只者ではない気迫みたいなものをこの女からは感じる。

 

一方で男の方は背中から大きな翼を携えており、それが男の”個性”なのだと一目で分かった。

 

男は女より一回り、二回り以上は若い上に、所作の一つ一つから、女の部下のような立場なのだろうと推測できた。

 

 

「どうも初めまして。アンタらはオレに何のようだ?」

 

「単刀直入に言うわ。私たちの下で働きなさい。」

 

「はい?」

 

話を聞くと、2人はヒーロー公安委員会というこの国のヒーローたちを管轄する組織の人間だと名乗ってきた。

 

その上、この女はそこの会長を務めているそうだ。

 

「なぜオレが?ヒーローはよほどの人材不足にでも陥っているのか?」

 

疑問をそのまま呟くと、女が答えた。

 

「いいえ、あなたほどの子どもたちの大半はヒーローを目指しているわ。」

 

「高校のヒーロー科受験者数は過去最高を記録しているしね」

 

と男の方も続けてきた。

 

なるほど….見当違いだったようだ。

 

有り余るほどヒーローがいる社会ならオレは必要ないんじゃないか?

 

「あなたの父…… オール・フォー・ワンを打ち倒したオールマイト」

 

「彼をはじめとする、真に優秀なヒーローは限られた存在なのよ」

 

なるほど、優秀なヒーロー自体はそんなに多くはないと。

 

完全に見当違いという訳ではなかったのか。

 

「しかし、親父を殺したっていうオールマイトとやらがいれば問題ないんじゃないか?」

 

「彼も人間。」

 

「大衆は気づいていないけれど、加齢やあなたの父親との戦いで負った傷が祟って、弱体化していることは確かなの。」

 

たかが、1人のヒーローが弱体化しているだけだというのに、そんなに心配する必要があるのか?

 

いやオールマイトはそれほどまでに強大な存在ということか。

 

「事情は分かった。それでアンタたちの下で働くことに対する見返りはあるのか?」

 

「ここから出られること。それだけでも見返りとしては破格でしょ?」

 

それもそうか。

 

コイツらにこき使われるというリスクこそあるあるが、こんなチャンスは二度と無いだろう。

 

ここから出られる。

 

ひいては始まってすらなかったオレの人生がやっと始まる。

 

そう考えると、腹の底から笑いが込み上げてきた。

 

「フハハハハハハハッッッッ」

 

ヒーロー。

人助けには微塵も興味はないがここにいるよりはずっとマシだ。

 

「分かった。アンタたちの下で働いてやるよ。」

 

「決まりね。」

 

——

 

この時、これまで感じていた閉塞感が嘘のように消えさったのを覚えている。

 

停滞していた人生が進み始めた。

 

そんなふうに考えていた。

 

でもこの時のオレは知る由もなかったんだ。

 

自由を得るために選んだはずの選択が、却って自由とは程遠い選択だったということ。




名前: 死柄木 虚
出身:不明
誕生日:不明
身長:180cm
血液型:AB型
好きなもの:特になし
個性:『??』

オリ主の容姿は瞳が青いのを除けば、全体的に与一に似てるイメージです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。