星になったヒーロー 作:日暮 蛍
相対する
「お、わかる。わかる! おめー強えなあ。」
「ガッカリさせんなよ? お前ここの最終兵器なんだろ。今朝の奴等と明らかに違う。自信に満ちた表情してっからな。」
先に動いたのは阿修羅カブトだ。
瞬きすれば見逃すほどの速さでサイタマの後ろに回り込み拳を振りかざそうとした。
しかしすぐに攻撃を止め急速にサイタマから距離を取る。
「...今、逃げた?」
阿修羅カブトの行動にジーナスは呆然とした様子で呟く。自身が作り上げた史上最強の悪魔がたった1人の人間に対して恐れ逃げた事が信じられなかった。
「正しい判断ですよ。あのまま攻撃すればやられてました。」
思わずこぼれたジーナスの言葉を拾ったアズマは自身の予想を口にする。それが事実である事を一切疑わずに。
「阿修羅カブトでしたっけ? 随分とかしこい。」
アズマが嘘をついているとは思えなかった。そして何より、サイタマを見て怯えている阿修羅カブトの姿でジーナスはサイタマの強さが自身の予想を遥かに超えている事をジーナスは嫌でも察してしまった。
「貴様ァァァ! それほどまでの力!! いったいどうやって手に入れたんだよォォォ!!」
実際に対峙して、戦う前からサイタマの強さを認識してしまった阿修羅カブトは本能のままに叫んだ。
阿修羅カブトの叫びにジェノスが、ジーナスが、アズマが。自分も知りたい、聞かせてくれと考えてしまった。
「お前も知りたいのか。」
全員に注目されているサイタマは表情を引き締める。
「いいだろう。ジェノスもよく聞いておけ。」
ジェノスは危険だと思った。
確かにジェノスもサイタマの強さを知りたい。しかし凶悪な思想を持つ敵にまで教えるのはリスクが高い。
「あの、サイタマ様。その話私とこの人も聞いて大丈夫でしょうか?」
アズマもリスクの高さに気がついたのか申し出る。
「いいけど、そいつ誰?」
ここでサイタマはジーナスに気がつく。
「進化の家の親玉、ジーナスです。どうしますか? 聞かれたくなければ席を外しますが。」
「んー。別にいいぞ。」
しかしサイタマは特に気にした様子は無い。
阿修羅カブトも話を聞く体制に入っているので戦いは一時中断され、アズマ達はサイタマの話を聞く為に近づいた。
「いいか。大切なのはこのハードなトレーニングメニューを続けられるかどうかだ。」
トレーニング。
特別な才能や生い立ちなど無い、ただそれだけ。
「いいかジェノス。続ける事だ。どんなに辛くてもな。俺は3年でここまで強くなった。」
全員、絶対に聞き逃さないよう、絶対に覚えようと神経を尖らせサイタマの話に集中して聞く。きっと想像を絶するような過酷なものだと全員思っていた。
「腕立て伏せ100回。上体起こし100回。スクワット100回。そしてランニング100km。これを毎日やる!!!」
しかし明かされた特訓メニューとやらは拍子抜けするものだった。
「もちろん1日3食キチンと食べろ。朝はバナナでもいい。きわめつけは精神を鍛えるために夏も冬もエアコンを使わないことだ。」
確かに、毎日やるにはキツイだろう。しかしそれは一般人にとってだ。
皆それは分かっている。しかし大真面目に話をしているサイタマの話を遮る事はしなかった。呆れてものが言えないから。
「最初は死ぬほどキツイ。1日くらい休もうかとつい考えてしまう。だが俺は強いヒーローになるためにどんなに苦しくても、血反吐ぶちまけても毎日続けた。足が重く動かなくなってもスクワットをやり、腕がプチプチと変な音を立てても腕立て伏せを断行した。」
皆の反応に一切気が付かないままサイタマは話し続ける。
「変化に気がついたのは1年半後だった。俺はハゲていた。そして強くなっていた。つまりハゲるくらい死に物狂いで己を鍛えこむのだ。それが強くなる唯一の方法だ。」
サイタマが話し終え、少し間が空き
「...あの、サイタマ様。質問、いいでしょうか?」
話を聞いていたもの達の中で最初に口を開いたのはアズマだ。
「いいぞ。」
「えっと。トレーニングメニューなんですけど、途中で回数を増やしたり重りをつけたりしましたか?」
アズマはサイタマがトレーニングのみで強くなったと言う点は信じた。
ストー、遠くで見守っていた時にトレーニングをしている姿を目撃した事があるのだ。それに、他にもそういうヒーローがいる事をアズマは知っていた。そしてそのヒーロー達がこなしているトレーニングメニューはサイタマのとは比較にならないほど過酷なものである事も知っている。だからアズマはサイタマが言っていたトレーニングメニューは最初に行ったものであり、徐々に回数や負荷を増やしたと考えたが
「いや。ずっと同じやつ。」
「...そう、ですか。」
そんな考えはあっさりと否定されてしまった。