星になったヒーロー 作:日暮 蛍
ヒーロー協会とは大富豪、アゴーニが私財を投じて設立された組織だ。
主な活動内容は怪人や悪党の退治。困っている人達を助けたりパトロールをしたりと様々だ。人気のあるヒーローならばテレビに出演したりグラビア撮影などもしたりする。
人々から人気の職業であり多くの志願者がいるが、ヒーローになる為の試験は難関であり、それを突破したとしても過酷な戦いについていけず引退する者も数多くいる。
それでもヒーローになりたいという者達がいなくなる事はない。
今回もヒーロー認定試験を受ける為に会場には大勢の人がやって来ていた。
その中にはサイタマとジェノスがいる。
筆記テストと体力テストを行い後は結果を待つだけになった2人はアズマと合流する。
「サイタマ様。ジェノス君。手応えはどうでした?」
「余裕余裕。」
「俺もだ。あの程度の難易度とは正直拍子抜けだ。」
「流石ですよ2人共。結果はどのくらいで出ます?」
「1時間は掛かるって言ってたな。」
「じゃあ近くのカフェで時間を潰しましょう。是非とも試験での事を聞かせてください!」
「おう、いいぞ。」
それから1時間後。
再び試験会場に戻ったサイタマ達は結果を確認する事になった。
「どうでした?」
「100点だった。」
「え!? ジェノス君凄い!」
友人の良い結果を聞いて嬉しげにはしゃぐアズマ。
しかしジェノスの方は合格以外の情報あまり興味は無さそうだった。
「大した事じゃない。ただ、このS級ヒーローに認定するとはどういう事だ?」
「え?! ちょっと見てもいい?」
「ああ。」
「...本当だ。凄いよジェノス君! S級はヒーロー協会の中でも特に強いヒーロー達に与えられる称号だよ! 私よりも上だよ! それだけジェノス君の実力が凄いって事だよ!!」
「そうか。しかし、ランク付けに何の意味があるんだ。先生はどう思われますか?」
ジェノスが最高の結果でヒーローになれた事に対して、サイタマは背を向けたまま返事を返さない。自身の合否の結果が書かれている紙をじっと見ている。
「,,.サイタマ様?」
ようやくサイタマは振り返る。
「...あぁ、そうだな。C級でも受かったらこっちのもんだもんな。」
そう言って気まずそうに見せられた紙にはサイタマをC級ヒーローに認定するという事が書かれていた。
「え?!! ちょっと見せてください!!」
アズマが狼狽しているには訳がある。
ヒーロー協会に所属しているヒーローにはランク付けがされている。
上からS級、A級、B級、C級。
サイタマは1番下のランクで、しかもギリギリで合格してしまったのだ。
「あー。筆記試験で点数が取れなかったんですね。」
サイタマの点数は71点。
体力テストの点数は満点だったが、筆記試験はあまり良くない点数だった事もその紙には書かれていた。
「もう、何の為のS級ですか。節穴すぎます。ちょっと待っててくださいねサイタマ様。抗議してきます。」
「俺も行こう。」
「待って! お願いだから止めて恥ずかしいから!!」
憤る2人をどうにか抑えるサイタマ。
そんな時、アナウンスが聞こえてきた。
『ジェノス様、サイタマ様、16時より合格者セミナーを行います。第3ホールまで来てください。」
「よっしゃ行こうぜジェノス。合格しちまえばこっちのもんだ。さっさと済ませて帰ろう。」
アナウンスと声に従って指定された場所に向かう事になったサイタマとジェノス。
「アズマはどうする? 待つか?」
「待ちます。2人にお願いしたい事があるんです。」
「なんだ?」
「セミナーが終わったらお話しします。」
「分かった。じゃあまた後でな。」
「はい。」
アズマはセミナーへと向かう2人を手を振って笑顔で見送った。
「アズマ君。」
2人の姿が見えなくなったあたりで後ろから声をかけられた。聞き覚えのある声にアズマの表情から感情が抜け落ちた。
「なんでしょうか。」
振り返った先にいたのは眼鏡をかけたスーツを着た男性。
「彼らが君が目にかけている者達か。」
「はい。友人と推しです。それが何か?」
「君が特定の人物に入れ込むなんて珍しいなと思ってね。彼らが円滑に試験に参加出来るよう色々と手回しをしていたようだが、随分と仲が良いようだね。」
「世間話をしに来たのですか? お忙しい立場でしょうに。あぁ、そうだ聞きたい事があるんですよ。聞いてくれますよね。」
「もちろん。」
「何故サイタマ様をC級にしたんですか? 試験の責任者はあなたですよね、ジンズレン。」
アズマは目の前に立つ男性、プロヒーロー試験管理官のジンズレンを睨みつける。
ジンズレンは恐怖心を抑え、平静な態度を保ったままアズマの質問を答えた。
「試験は公正なものだ。我々は規則に則って彼らを評価したにすぎない。」
「その規則に則ったせいで実力者の発見が遅れましたよね。」
「その通りだ。しかし、サイタマ君であればかつてのS級ヒーロー達のように必ずその実力が世間に知れ渡る事になる。ほんの一端を見ただけだが、彼ならばすぐに君やアマイマスク君を超えてS級ヒーローになれるだろう。」
「...いいでしょう。その言い分に納得してあげます。」
サイタマの高評価を聞いて幾分か溜飲が下がったのかアズマは睨むのを止めて無機質な片目でジンズレンを見つめる。
「それで? 本題は? まさかただ世間話をしに来た訳じゃありませんよね。」
「そのまさかだよ。」
ジンズレンの答えが予想外だったのかアズマの表情から戸惑いが見えた。
「君の様子が気になってね。話しかけてみて良かったよ。君にも人間らしい一面があったんだね。それじゃあそろそろ仕事に戻るよ。」
そう言ってジンズレンは立ち去って行った。
1人残されたアズマはジンズレンの姿が見えなくなった後、大きく息を吐いた。
「あー。緊張した。わざわざ私と世間話するなんて、意外と物好きな人だなぁ。」
意外と人見知りのするアズマはこれ以上協会の職員に話しかけられないよう気配を殺してサイタマとジェノスが来るのを待つ事にした。
◆◇◆◇◆
「お疲れ様です。セミナーの方はどうでしたか?」
「退屈だった。」
「ですがこれで2人は正式にヒーローになれたんですね。おめでとうございます!」
しばらく経った後、アズマはセミナーを終えた2人と合流し改めてヒーローになれたサイタマとジェノスを祝福する。
「アズマ。お願いとはなんだ?」
セミナーに行く前にアズマからお願いされた事を覚えていたジェノスがそう言うとアズマは恥ずかしそうに目線をずらす。
「その、写真。2人の写真、撮ってもいい、ですか? 合格の記念に。」
「大丈夫でしょうか先生?」
「全然いいぞ。」
「だそうだ。早く撮るぞ。」
「ありがとうございます!」
2人の許可が得られた事でアズマは満面の笑みを浮かべて携帯端末を取り出してカメラのアプリを開く。
「それじゃあ撮りますよ。はい、チーズ。」
シャッター音が鳴り、無事に写真が撮れた事を確認したアズマはすぐに2人にも写真を見せた。
「おお。よく撮れてんな。」
「アズマ。この写真のデータをくれ。」
「もちろんだよ。」
そんなやり取りの後、2人と別れたアズマは買い物をしてから帰宅した。
そしてすぐに今日撮った写真を機械を使ってプリントアウトして雑貨屋で買った写真立てに入れてよく見える場所に飾った。
「んふふふ。」
それを見て抑えきれない喜びで頰が緩む。
推しが正式にヒーローになり、友人がその推しとついに師弟関係になれた日に撮れた記念すべき写真。
アズマにとってそれは見る度に幸せになれる家宝となっていた。
「んふふふふふ。」
それからもアズマは写真を見るたびにだらしなく頰を緩ませた。