星になったヒーロー 作:日暮 蛍
「大きい。」
墜落した戦艦を凶人は近くでまじまじと眺めている。手元にはスケッチブックと鉛筆。手早く周囲や戦艦をスケッチしている。
凶人のすぐ近くの壁が崩れ、中から何かが倒れ込んだ。
「いてて。まさか墜落するなんて。」
見た事のない人型の生物が何体も戦艦から這い出てきた。
「宇宙人?」
スケッチブックに戦艦から出てきた者達の姿を描きあげていく凶人に気がついたのか出てきたうちの1体が凶人の方へと近づいてきた。
「あっおい。お前大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。皆さんこそよく生きてましたね。」
「あぁ、なんとかな。」
仮面と格好のせいで仲間だと勘違いされているとすぐに気がついた凶人はとりあえず話を合わせる事にした。
「まさかこれが落ちるなんて。原因が何か分かっていますか?」
「実は船に侵入者が来てな。そいつが船の中をめちゃくちゃにしやがったんだ。」
「侵入者ですか。」
S級ヒーローかサイタマがこの戦艦を落としたのだろうと予測し、他にも情報を引き出そうとする。
「あのお方が無事だといいのですが。」
「ボロス様ならきっと大丈夫だ。あのお方は全宇宙の覇者なんだぞ。ところで、おめぇさっきから何してんだ?」
「皆さんの姿を描いているんですよ。ほらこんな感じに。」
「こんな時に何やってるんだよ。早いところ逃げねぇと。」
ここらで止めようと凶人はスケッチブックと鉛筆をしまい
「その前に最後の質問させてください。ここには何しに来たんでしたっけ?」
「あ? 確か、予言があったからだっけ。ボロス様はその予言に従ってここまで来たんだったかな? よく分からないが、まぁここも他の星と同様支配されるだろうな。」
「そうですか。なら」
代わりに出したレイピアでつい先程まで話していた乗組員の脳天を突き掻き回す。
「殺すしかありませんね。」
「...へ?」
これからどうしようかと話し合っていた他の乗組員達は殺された他の乗組員が倒れるところを呆然と眺める事しか出来なかった。
「侵略者を野放しにするわけにはいきません。」
そう言って凶人は生き残っていたその場の乗組員達も1人目と同じ方法で悲鳴を上げる前に殺害した。
「何をしているんだ凶人!?」
後ろから声がした。
振り返れば鍛え上げられ黒光りする肉体を見せつけるかのようにパンツだけを身につけている男が立っていた。
「見てのとおり侵略者を殺したのです。超合金クロビカリ。」
会ったのはこれが初めてだったが名前と姿は知っている凶人は名前を正しく覚えているのを確認する為に目の前のS級ヒーローの名前を呼んだ。
「だからって、降伏とかしなかったのか?」
「しませんでしたよ。そんな事をされたら萎えますから降伏する前に殺しました。」
クロビカリの視線の先はレイピアと乗組員の亡骸。
行為を咎めるようにクロビカリはそう言うが、凶人は臆さずはっきりと言う。
「それにこいつらはA市の人達を殺害したのです。殺す理由はあっても生かす理由はありません。」
「その通りだ。」
クロビカリとは違う声。
「アマイマスク。あなたも来てたんですね。」
先ほどのクロビカリの大声を聞きつけたのか数人が凶人の方へとやって来ていた。
その内の1人、A級1位のイケメン仮面アマイマスクが凶人の発言に同意したのだ。
アマイマスクの姿を確認出来た瞬間、凶人は仮面の下で顔を顰めさせた。
「君の迅速な動きはいつも素晴らしいよ。だけど、その悪趣味な格好は認められない。何度言えば分かるんだ。ヒーローとして相応しい格好をしないと。いいか。君はA級2位のヒーローとして他のヒーローの見本として恥ずかしくない振る舞いをすべきなんだ。格好もそうだが普段の言動も目に余る。いい加減僕の言う事を」
「アマイマスク。お仕事の方はいいんですか? ヒーローとしてではなく、芸能活動の方で。」
詰め寄ってくるアマイマスクの言葉を聞き流しつつ凶人がそう言えばアマイマスクは少し考え込んだ後、ため息を吐いた。
「そうだね。これ以上スタッフのみんなに迷惑をかけるわけにはいかない。今日のところはここまでにさせてもらおう。」
そう言ってアマイマスクはその場から立ち去って行った。
アマイマスクの姿が遠くなった頃に凶人は小さくため息を吐いた。
アマイマスクは凶人と会う度に振る舞いや格好にいちいち小言を言ってくる為、苦手意識を持っていた。
そして今も凶人の事を警戒した目で見ているS級ヒーロー達の事も凶人は苦手だった。
居心地が悪くてサイタマとジェノスを探すが見つからない。レイピアをしまった凶人は2人を探そうと歩き出した。
「おい。止まれ凶人。」
だがS級ヒーローの1人、アトミック侍に声をかけられた為仕方なく足を止めた。
「お前はここには何しに来た?」
「ヒーローとして自分に出来る事をしたまでですよ。」
何故か警戒心むき出しの目で睨まれながらそんな質問をされるかは全く分からない凶人だったが態度や声に感情を出さずに答えるとアトミック侍はそれ以上何も言わず、他のヒーロー達も黙ったままなので凶人は今度こそサイタマとジェノスを探しに歩き出した。
「あー。怖かった。何なのあの人達。」
小声でぼやきながらもサイタマとジェノスを探す凶人。
「...あ!」
すぐ近くでサイタマとジェノスの姿を確認出来た凶人は駆け出した。
「サイタマ様! ジェノ」
が、突然ジェノスが凄い勢いで飛んできた為凶人は咄嗟に受け止める姿勢をとり、ジェノスの安全を第一にそのまま近くの瓦礫の山に叩きつけられた。
「くそっ! これが超能力か。...ん?」
吹っ飛ばされたジェノスは起き上がり自身が無傷である事に違和感を感じて後ろを振り返れば凶人が瓦礫にめり込んでいる姿を目撃した。
「アズマ!? 大丈夫か?!」
「あっ。平気平気。ジェノス君は大丈夫だった?」
「俺は大丈夫だ。」
「良かった。」
瓦礫に叩きつけられた衝撃で仮面は取れたが無傷のアズマは瓦礫から出て落ちた仮面を拾って再びつける。
「それよりもどうしたの? まさか、侵略者の攻撃?」
「違う。タツマキにやられた。」
「え?!」
タツマキとはS級ヒーローの1人であり強力な超能力を行使する事で有名だ。ジェノスが突然吹っ飛んだ理由は分かったがタツマキがジェノスを吹っ飛ばした理由までは分からなかった。
「タツマキと何があったの?」
「奴が先生の悪口を言ったので黙らせようとしたら突然念力で吹っ飛ばされた。」
「なんだと!!?」
推しをバカにされた上に友人を攻撃したタツマキに対して凶人は強い怒りを向ける。
「タツマキはどこ?! どこにいるの!??」
「どっかに飛んで行っちまったぞ。」
「サイタマ様!」
「結構派手にめり込んでたけどアズマ大丈夫か?」
「大丈夫です!」
サイタマの服はボロボロだった為どこか怪我をしているのではと焦ったアズマだったがよく見れば怪我はしておらず服についている血が全て返り血であると気がつきひとまず安心した。
「サイタマ様はお怪我は、無いようですね。良かった。ですがその様子、もしやあの戦艦に突撃されたのでは?」
「そうだぞ。」
「やっぱり! 戦果はどうでしたか?」
「んー。敵の親玉なら倒したぞ。」
「流石ですサイタマ様!」
「終わったから飯でも食いに行こうと思ってるんだけど、アズマも来る?」
「是非! ご一緒させてください!」
こうして突如襲来した宇宙から来た侵略者はサイタマ達ヒーローによって討伐された。
しかしA市は消滅。多くの命が失われてしまった。
ヒーロー協会はメタルナイトに依頼して本部を改築して要塞として強化しA市だった場所に道路も作り上げてヒーローがどの町にも迅速に駆けつけられるようにした。
そしてA級以上のヒーローに本部の居住区へ移住する権利が与えられた。