星になったヒーロー 作:日暮 蛍
ガロウは人間怪人として指名手配された。
当初はすぐに倒されると予想されていたが、事態は悪化した。
C級ヒーロー無免ライダー、S級ヒーロータンクトップマスター及びその舎弟であるタンクトッパーのヒーロー達全員がガロウにやられてしまった。
名だたるヒーローがやられた事でヒーロー協会の幹部達も他のヒーロー達もようやくガロウが危険な存在である事に気がつき警戒を強めた。
アズマもその情報を知る直前までサイタマとジェノスのヒーロー名が決まって一喜一憂していたが、タンクトップマスター達がやられた事を知るとすぐに自粛し気を引き締めた。
話を聞いたアズマは現在、お見舞いにとサイタマと共に病院にやって来ていた。
「君がわざわざお見舞いにきてくれるなんて、嬉しいよサイタマ君。」
「...おう。バナナ、ここ置いていいか。」
「ああ。えっと、君は?」
「こんにちは。私はアズマといいます。ちょっとしたご縁で私もお見舞いにやって来ました。リンゴ、食べますか?」
「わざわざありがとう。いただくよ。」
「バナナもやるよ。」
首にギプスをつけるほどの重傷。痛々しい姿にアズマは悲しい気持ちを表に出さないようグッと抑えて果物ナイフを手に取り見舞いの品として持ってきたリンゴを切る。
「新聞だと怪人にやられたって書いてあったんだけど、ガロウって奴は人間だよな?」
「人間だった。怪人を名乗る人間だ。...あるいはまだ人間と表現するべきか。」
「ただの不良か?」
「いや。ただし強い。恐ろしく強い人間だよ。」
ガロウと出会った時の事を思い出しているのか無免ライダーの表情が強張っていた。
「あぁそう。」
「リンゴどうぞ。」
「ありがとう。」
「サイタマ様もどうぞ。」
「おう。サンキュ。」
アズマが切り爪楊枝に刺して差し出されたリンゴを一口食べる無免ライダーとサイタマ。
飲み込んだのを見てサイタマはもう1つ無免ライダーに質問をした。
「魚類の怪人とどっちが強いかわかるか?」
「うーん。深海王もとんでもなかったけれど、今回は何か違うんだ。」
「違う、とは?」
「一方的にやられただけの僕でも感じた違和感。強さの種類が違う。なんて言えばいいのか。」
「技だ。奴は高度な武術を使う。」
隣から声が聞こえてきた。
アズマが隣のベッドの壁代わりとなっているカーテンを開けるとそこにいたのは無免ライダーと同じく満身創痍の姿でベッドに半身を起こしていたタンクトップマスターだった。
「シルバーファングは厄介な魔物を育ててしまった様だな。」
「あなたは、S級ヒーローのタンクトップマスター! 同じ部屋だったんですね。」
「あ〜! そういや新聞に載ってたな!! 一番ボコボコにされた人だって。」
「せめて一番食い下がったと言え!」
「まぁまぁ落ち着いてください。」
思わず大声を出すタンクトップマスターを宥めるアズマ。
サイタマ達の会話でタンクトップマスターもガロウにやられた時の事を思い出し悔しそうに顔を歪める。
「くそッ! 情けない話だ。この俺としたことが。まさかあんな若造に不覚を取ろうとは。まったく武術とは厄介なものだ。これまで、どんな怪物が相手だろうとほとんど一撃で退治してきた俺が。」
その発言を聞いて興味が湧いたサイタマはタンクトップマスターに近づいてバナナを渡す。
「バナナやる。」
「リンゴもありますよ。」
「ん? ああ、ありがとう。」
「で、その話詳しく聞かせてくれ。」
◆◇◆◇◆
「武術に興味がおありで?」
「まぁな。」
タンクトップマスターから話を聞いたサイタマとアズマは病室を後にしてとある人物の見舞いに向かう。
「タンクトップマスターを倒した手腕ですからね。話を聞いただけでも末恐ろしい。」
タンクトップマスターから聞かされた体験談。
全ての攻撃をいなされ流され、こちらの攻撃を読んでカウンターや投げ技といった相手の力を利用して倍にして返したり相手の関節や急所を狙う技術。
人間を壊す技術、すなわちヒーローを倒す方法を人間怪人ガロウは習得してしまっている。
このままではヒーロー達が狩られ甚大な被害が出ると危惧したタンクトップマスターが一刻も早い復帰を宣言するまでにガロウは危険な人物だ。
「ガロウと戦う気ですね。」
「おう。でもその前に、武術を体験しようと思う。」
話している間に目的の病室についた。
「よぉー。爺さんところの...チャンポンだっけ?」
「チャランコですサイタマ様。」
「見舞いに来たぞー。元気か?」
「元気に見えるか!!?」
病室に入り、真っ先に目に入ったチャランコの姿はひどい有様だった。顔まで包帯でぐるぐる巻きにされ、首や腕に足までギプスがはめられている。
「何でアンタ達が俺の見舞いになんか。気持ち悪いな。」
「まぁそう言うなって。バナナやるよ。」
「リンゴもどうぞ。今食べます?」
「...食べる。」
サイタマはチャランコの足のギプスの上にバナナを乗せ、アズマは果物ナイフで切っていく。
「ヒーロー狩りの巻き添え喰らったんだってな。気の毒に。」
「いや、一応正面から挑んだつもりなんだけど。」
「ところで話は変わるんだけど。」
「もう話変わるの!!?」
チャランコのツッコミを特に気にせずサイタマはある事を聞いた。
「強い武術家と試合がしたい?」
「うん。」
「アンタ、さんざんバング先生の勧誘をシカトしておいて今更何を。」
「どうぞ。」
「あ、ありがとう。」
チャランコの呆れた様子に気にせずサイタマはバナナをむき食べる。
チャランコもアズマが差し出した皿に乗せられたリンゴを爪楊枝に刺して食べる。
「ちょっと興味が沸いたんだよ。何かツテとかない?」
「だったらバング先生だって最高峰なんだから胸を借りればいいだろ。アンタのこと気に入ってるみたいだし。」
「バングは今手が離せませんよ。なにせあなたがやられてからますますガロウの捜索に力を入れてるみたいですから。きっとあなたの敵討もするつもりですよ。」
「え!? そうなのか。」
「憶測ですが、一番弟子がやられたのですから師範として黙っているわけにはいかないでしょう。」
アズマからの情報にチャランコは申し訳なさと嬉しさが混じった表情でうつむく。
「だからサイタマ様の相手は他の方にお願いしようかと考えているのですが、心当たりはありませんか?」
「と言ってもなぁ。ド素人が武術家といきなり試合なんて非常識なんだよ。まずは基本の型を死ぬほど練習して、いや、その前に体力作りだ。何百段もある石階段を往復、何なら道場の雑巾掛けから」
「ああ、お前もまだ白帯の素人だったな。」
「素人って言うな!」
「まぁツテが無いんじゃ諦めるか。」
「それではチャランコ。お大事に。」
「ちょっと待った!」
サイタマとアズマが病室から立ち去ろうとした時、チャランコが待ったをかけベッドの横に置いてあった自分の鞄からシワの多い1枚のチケットを取り出した。
チケットには大きくスーパーファイトと書かれており、その下にはチャランコの名前と参加券という文字も書かれている。
「出場選手として登録したんだけど棄権するつもりだ。でも入場チケットにはなるから試合を観察して参考にしてみるといい。色んな流派の技が見れると思うぞ。」
「ありがとう。」
「ありがとうございますチャランコ。良かったですねサイタマ様。」
サイタマはじっとチケットを読んでいる。
「チャランコ、棄権するのか。」
「まぁこの怪我だからな。」
「...賞金300万って書いてある。」
「まぁそれなりの規模の大会だからな。」
「...優勝で日給300万。」
アズマとチャランコは嫌な予感がした。
「あの、サイタマ様。一応言っておきますけど、それはチャランコの参加券ですから、サイタマ様は出られませんよ。」
「替え玉出場なんてできないからな。...聞いてる?」