星になったヒーロー 作:日暮 蛍
三回戦目が始まる直前、会場の雰囲気が変わったのをジェノスとアズマは感じ取った。
観客のほとんどが期待に満ちた目である選手の入場を心待ちにしている。
『この男の試合が再び観れる日が来るとは! 会場中が喜びに打ち震えている! スイリュー選手の入場です!』
スイリューが入場した瞬間観客達は歓声を上げて場を沸かせる。
「すごい熱気だな。」
「だね。」
ジェノスとアズマは場の空気に臆する事なくじっと闘技場にいるスイリューと対戦相手であるイナズマックスの方を見る。
『始め!!』
試合開始の合図とほぼ同時にイナズマックスはスイリューに向かって駆け出し渾身の技を繰り出すが、その前にスイリューの蹴りによってイナズマックスは倒されてしまった。
あっという間の決着に司会者も観客も呆けて会場内は一瞬静寂になるが、すぐに割れんばかりの歓声が辺りに響いた。
「A級ヒーローを一撃で倒したな。一般人の中にもあれだけの実力者がいるんだな。」
「結構多いよ。実力があってもヒーロー協会に対して不信感を持ってたり、命懸けの戦いはしたくないとか、色々と理由があって協会に入らない人がいるみたい。スイリューもそうなんじゃないかな?」
「あの男はかなりやる方だ。これならサイタマ先生を満足させられるかもしれない。」
「だね。次は、ごめんジェノス君。協会からメールが来た。」
「俺もだ。」
突然のヒーロー協会から緊急のメッセージが届いた事に気がついたアズマとジェノスが携帯端末を取り出して確認すると、数多くの救援信号や怪人発生情報が届いていた。
「えっ!? こんなに!」
「C市にも発生してるな。」
「この町じゃないか! この歓声で外のサイレンが聞こえないんだ。どうする? サイタマ様にも伝える?」
「いや、今は試合に集中させるべきだ。雑魚は俺達で排除すればいい。」
「そうだね。すぐに行こう。」
ジェノスとアズマは客席から立ち上がり急いでスタジアムの外に出るとすぐそばに怪人がいた。
「焼却。」
すぐさまジェノスが焼却砲で怪人を消し炭にする。
「鬼サイボーグだ!」
「怪人を一瞬で倒したぜ!?」
「凶人もいるぞ!」
「ヒーローが来てくれた!」
市民達は怪人が倒されるのを確認するとすぐにジェノスといつの間にか凶人の姿に着替えたアズマに縋るように近づく。
「鬼サイボーグさん! あっちの方でも怪人が。」
「私はあっちから逃げてきました!」
「向こうの方でも怪物が暴れてます!」
「警察官が何人も倒れてました。きっとあそこに怪人が!」
「建物を破壊して回ってる奴を誰も止められないみたいで!」
「笑いながら刃物を振り回しているヤバいのがいます!」
「でかいゴキブリが!」
「いやあっちに狂暴なのが! 頼む凶人! 倒してくれ!」
混乱している市民達を前に凶人は仮面の下で口元を歪める。
「私に頼るなんて、相当切羽詰まってるよ。」
「すぐに協会から情報を得る。少し待て。」
「分かった。お願いね。皆さーん! 怪人はすぐに私とS級ヒーローの鬼サイボーグが倒します! まずは落ち着いてシェルターに避難してください!」
すぐさまジェノスは携帯電話を取り出してヒーロー協会C市支部に連絡を取ってる間、凶人は市民の混乱を少しでも抑えようと声をかける。
「凶人。C市に発生している怪人の居場所が分かった。」
「分担しよう。残りは何体だった?」
「6体だ。」
「じゃあ私4体もらうね。」
「いいのか?」
「うん。その代わりと言ってはなんだけど、倒したら私他の町に発生してる怪人を倒しに行くけど、いい?」
「もちろんだ。ここは任せろ。」
「ありがとう! 場所は、これか。じゃあこいつとこいつとこいつとこいつをもらうね。」
「分かった。」
ジェノスが凶人も共にいると話してくれたおかげで凶人の携帯端末にも協会からC市に発生している怪人の新たな情報が入ってきた。
凶人はジェノスに自身が倒す怪人を差し見せる。
「じゃあ私行くね!」
「凶人! 死ぬなよ。」
「...うん! 鬼サイボーグも! ご武運を!」
ジェノスと凶人は二手に分かれてC市の怪人を討伐する事になった。
◆◇◆◇◆
「1体目。」
ジェノスと別れた後、凶人は情報を元に怪人を次々と討伐していった。
「2体目。」
いつも通りの派手な格好に厚底のヒールレスの靴を履いているにも関わらず凶人は軽やかに跳びながら移動して怪人を討伐する。
「3体目。」
4体目を探し、すぐに見つかった。
怪人が包丁を振り回し市民の顔を削ごうとしているところだった。
凶人は槍を取り出して怪人に向かって投擲したが、怪人に槍は弾かれてしまった。
「すぐに逃げてください!」
しかし市民が逃げる隙は与えられた。襲われかけていた人が逃げていくのを確認しながら懐から鉈を取り出す。
「あれれ。有名人じゃん。凶人。お前の顔面はどんなのかな? 剥ぐのが楽しみだ。」
怪人、カオハギは不気味な笑みを浮かべ鋭利で巨大な包丁を凶人に向ける。
「そんなに面白い顔ではありませんよ。でも、どうしても見たいのであれば、殺してみてください。」
仮面の下で凶人は笑う。
カオハギが急速に接近し、包丁を振るう。
凶人は避けれず、顔面に包丁が当たる。仮面が切り飛ばされ、凶人の顔が晒される。
「おいおい! どうしたんだよその目! 誰かにやられたのかぁ!?」
「自分で抉りました。」
「ひぇー! 噂通りイカれてんなぁ!!」
凶人の眼帯を見て嘲笑を浮かべるカオハギは包丁を振おうとして、ようやく自分の腕が斬り落とされている事に気がついた。
「...あれ?」
「4体目。」
首もすぐに斬り落とされた。
「よし! 次に行こう。」
鉈をしまい、カオハギが持ってた包丁も回収し、新たな仮面を取り出して装着した凶人は急いで他の町に急行した。