星になったヒーロー 作:日暮 蛍
アズマは走るのが遅い。運動不足の一般人よりかは少し速いくらいの速度しか走れない。
そんなアズマの主な移動方法はバッタのように跳ぶ事だ。
「せぇ」
近くのビルを足場にして凶人は
「の!」
跳んだ。
跳弾するゴムボールのように凶人は次々とビルを足場にして跳んで移動する。
凶人が作った靴の細工も加わって高く速く凶人は跳ぶ。
あっという間に別の町に移動した凶人はそこで暴れている数体の怪人の頭を斧でかち割った。
「こちら凶人! そちらで暴れている怪人の情報を教えてください。とりあえず3体は倒しました!」
協会支部に連絡して怪人の討伐報告と共に新たな情報提供を求めた。
だが、この町で出現した怪人は先ほど凶人が倒した奴らだけのようだった。
「よし次!」
壊れた斧を怪人の死体のそばに投げ捨てた凶人はすぐさま別の町へと跳躍した。
◆◇◆◇◆
I市に発生したビルよりも巨大で足や頭部分に目ん玉がいくつもあるタコのような怪物に町は蹂躙されていた。
ヒーロー達が応戦するが、巨体に加えて建物を食べる事に硬化する怪物にまるで歯が立たない。
「くそっ! このままじゃ。」
「やはりここは俺が!」
「早まるな。」
他のヒーローがやられ、打開策が見つからず赤マフと骨が手をこまねいている時、同じくヒーローのデスガトリングが現れた。
「戦場で生き残るために必要なものはどんなピンチや極限状態でも正常に働く思考、判断能力だ。」
「デスガトリングさん!」
「無事だったのか!」
「崩れた瓦礫に身を隠し戦力が集まるのを待っていた。応援要請とともにタコの弱点の情報共有も済んでいる。」
「弱点! やはり、体内から攻撃するとかですか?」
「そんな事あのタコに食われでもしない限り無理だろう。ここは目を狙うべきだ。」
「でもさっき凶人がタコに食われました。」
「...は?!!」
赤マフからとんでもない報告を聞かされたデスガトリングは理解に時間がかかった。
「俺達を助けた後、内側から攻めるとか言って瓦礫と一緒に口の中に飛び込んでいったぞ。」
骨からの追加情報に応援に駆けつけてきた他のヒーロー達も困惑する。
「何をぼんやりと突っ立っている。」
そんな時、デスガトリングの後ろからS級ヒーロー、閃光のフラッシュが現れた。
「戦う気が無いならこの場から去れ。あいつは俺が始末する。」
「待ってくださいフラッシュさん! さっき凶人がタコに食われました。」
「...は?」
早速タコの怪物を仕留めようとしたフラッシュだったが、赤マフから伝えられた情報に動きを止めずにはいられなかった。
「...今回は流石に死んだだろう。」
「でも、あの凶人ですよ。」
フラッシュは押し黙ってしまった。
他のヒーロー達は騒めく。
「俺も死んだと思う。」
「でもなぁ。この前爆弾を喰らってもピンピンしてたぜ。」
「俺はデカいハンマーで殴られてもハンマー奪って余裕で殴り返してたところ見たぞ。」
「俺なんか巨大なダンプカーに轢かれたかと思ったら持ち上げてひっくり返したところ見たぞ。」
「...ワンチャンありそうだな。」
「いやでも、やっぱり今回は無理だろ! 死んでるって!」
再びタコの怪物の方を見れば、変化に気がついた。
「何か、タコ弱ってね?」
タコの怪物の動きが鈍くなり、やがて動かなくなった。
生き絶えた。全身から生気が抜けていく。
「...え?! 死んだ!!?」
「どうなってるんだ!?」
あれだけ猛威を振るっていたタコの怪物が呆気なく死んだ事にヒーロー達は動揺する。
だが、タコの怪物の目が1つ動いた事で身構える。
「まだ生きてるのか!?」
しかし、動くのは目ん玉1つだけ。何度か上下に動き、その後勢い良く目ん玉が飛び出た。目ん玉がなくなった空洞からタコの怪物の体液に塗れた人の形をした何かが出てきた。
「ヒィなんだあれ!?」
「本体とか?」
空洞から何かが姿を現した瞬間、フラッシュは正体の分からないものを斬り捨てようと超高速でそれに近づき刀を抜いてそのまま躊躇いなく斬ろうとして
「...なんだフラッシュか。何するんですか。」
失敗した。
首を狙ったにも関わらずフラッシュは斬る事が出来なかった。
「...凶人か。」
「そうですよ。で、何で斬ろうとしたんですか。危ないじゃないですか。」
「お前が怪人の本体に見えた。すまんな。だが直前に気がつけて本当に良かった。すぐに手加減が出来たからな。」
嘘だ。
本当は首を斬り落とそうとした。
しかし刀から硬いゴムのような弾力が伝わってきただけで傷ひとつつける事が出来なかった。
自分の剣技で斬れなかった。
薄気味悪さを感じたフラッシュの背筋に冷たい汗が流れる。
「勘弁してくださいよもぉ。」
刀を向けられて不愉快だったのだろう。凶人は苛立った声でタコの怪物の体を滑り台のように利用して滑り下りた。
後を追うようにフラッシュも降りる。
「お前がタコを殺したのか。」
「そうですよ。急所を見つけて刺しました。」
ふと、凶人は他にもヒーローが集まっている事に気がついた。
「すげぇ。生きてたよ。」
「でもやっぱ怖ぇ。」
小声で話はしているが凶人には聞こえている。自分を見る恐れの目に慣れてはいるが鬱陶しかった為凶人はすぐにこの場から立ち去ろうとした。
「人手が足りないってときにこんな所で雁首そろえて何遊んでんの!?」
頭上から声がした。
見上げればサイコキネシスで空を飛んでいるタツマキが凶人達を見下ろしていた。
「あっ! タツマキ!! 言いたい事があるんですよあなたには!」
ほとんどのヒーローがタツマキに反論せず穏便に事を済ませようとする中、凶人はタツマキに向かって叫んだ。
「この前はよくもジェノス君を吹っ飛ばしましたね! 許せません! 断固抗議してやります!!」
その場にいたほとんどのヒーローが絶句した。
「はぁ? いきなりなによ。あいつがあたしの事糞餓鬼って言ったのが悪いのよ。」
「ジェノス君から聞きましたけど感情任せに悪口を何回も言う姿を見たらそりゃ子供だって勘違いしますよ!」
「なんですって!!」
凶人がタツマキに喧嘩を売っている。
目の前で起きている事にヒーロー達の血の気が引いた。
「そもそもあなたがサイタ」
「わー!! わー!!!」
「やめてくれ!! 本当にやめてくれぇ!!!」
ヒーロー達は慌てて大声を出すなりしてこれ以上言い争い辞めさせようとする。
「頼むからあんたの自殺願望に俺達を巻き込まないでくれ!!」
「そんな願望持ってません。」
「ん? うわ!」
凶人の頭上から大量の水が落ちてきた。他のヒーロー達は咄嗟に避けられたが凶人はそのままずぶ濡れになる。
「返り血まみれだったから綺麗にしてあげたわ。」
タツマキが近くのビルの屋上にあった貯水槽をサイコキネシスで持ち上げて中の水を凶人にかけたようだ。
「ど! う!! も!!!」
水をかぶって幾分が綺麗なった凶人はマントを絞り水気を切る。
しばらく凶人とタツマキは青筋を立てて睨み合ったが
「「ふん!!」」
揃ってそっぽを向きタツマキは飛んでいき、凶人も跳んでいった。
フラッシュもいつの間にかいなくなっていた。
「い、生きた心地がしなかった。」
「やっぱり怖ぇよ凶人。」
残されたほとんどのヒーロー達は喧嘩が始まらなくてほっとしたが、デスガトリングは実力差を感じて悔しさに顔を歪めていた。