星になったヒーロー 作:日暮 蛍
煮込まれていく食材を黙って見ているサイタマ達。
煮えた、とサイタマが箸を取ると他の面々も箸を手に取り、一斉に鍋の食材を取ろうとし、その勢いで鍋の中身が弾け飛んだ。
「先生の肉に何の用だ? 地獄のフブキ。」
「鬼サイボーグ、ジェノス。その男の手下であなたは満足なの?」
「やめんか。鍋は分け合い楽しく食べるもんじゃろう。」
「オイおめー独りで豆腐とんなよ!」
皆が空中に舞う具材を激しく取り合う中、アズマはクセーノの分を皿によそい差し出した。
「どうぞ。」
「え、あ、うんありがとう。あの、顔に思いっきり鍋の汁がかかったようだが、大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。ご心配なく。ちょっと失礼。」
皆が箸をつけた瞬間に熱々の鍋の汁が飛び散りアズマの顔面に直撃したのだが、本人は特に気にせずハンカチで顔をふき、立ち上がってキッチンへと向かう。
「ちょっと待って。」
サイタマが手を挙げる。
「なんか。一つちょっと気になることがあるんだが。」
「どうかされましたか?」
「何でお前ら当たり前みたいに人んちの鍋を食い始めてんの? 白菜消滅したじゃねーか。帰れ。」
「そうよ帰りなさいよ。狭いじゃない。」
「お前もな。」
「大丈夫ですサイタマ様。薄々こうなるだろうと思い他の食材買ってあります。牛肉も白菜もまだまだありますよ。すぐに追加の分を作りますね。」
「うんありがとう。...おい待て。」
「はい?」
アズマがほとんど空になった鍋にキッチンから持ってきた新しい食材を入れて追加の鍋汁を入れているのをサイタマは一旦止める。
「買った?」
「はい。お肉とかお野菜とか。残りは冷蔵庫に入っていますよ。」
「お前、勝手にそういう事すんなよ。」
「え? ジェノス君の許可は取りましたよ。」
「...あー。まぁいいや。今日はいい。でも次は俺の許可を取ってから買ってくれ。そうしないとお前、際限なく貢ぎそうで怖い。」
「はい分かりました! 肝に銘じます!」
サイタマとアズマのやり取りを見てフブキはため息を吐いた。
「まったく。シルバーファングはともかく一般の方々までこのグループにまざる資格があるのかしら?」
フブキはボンブとアズマを見てはっきりと言った。
「あなた達もこのフブキ組の一員になりたいのなら私に相応の強さを証明しなさい。」
「...え? あれ? サイタマ様、フブキ組の加入は断ったはずでは? いつの間にかジェノス君も入ってる扱い?」
「まずはお前を無に還してやろうか。」
「待てジェノス! 何も壊すな!」
「落ち着いてジェノス君! 殺人は駄目だよ!」
何やら物騒なやりとりはあったが、なんやかんやで皆同じ食卓で鍋をつつく事になった。
「こんなに人がいると落ち着かねーな。鍋食ったらマジで解散しろよ。キングもな。...あれどうした横になって。オイここで寝るなよ。おい。おーい。...死んでる。」
◆◇◆◇◆
サイタマ達が鍋を食べている頃、ヒーロー協会本部では怪人協会に捕らわれた人質の救出と怪人と戦う為の準備が行われていた。
Z市のゴーストタウンに怪人協会のアジトがある事を突き止め、そこに突入するメンバーを決める際にS級ヒーロー、童帝と協会の幹部であり今回の作戦のチームリーダーであるセキンガルが話し合った結果、鬼サイボーグ、ジェノスとシルバーファング、バングが外されてしまった。
S級ヒーローという強い戦力を2人も外してしまった理由。
ジェノスの場合は怪人協会のアジトがあるZ市のゴーストタウンに住んでおり経歴が不明。実績が少なく信頼関係が築けていない為怪人協会の内通者として疑われてしまった為。
バングの場合は人間怪人ガロウを取り逃した事で未だに弟子としての情がありいざという時にトドメを刺せないと判断された為。
S級ヒーローが抜けるのは手痛いが、不安要素は限りなく減らすべきという童帝の意見にセキンガルは賛成した。
そしてもう一つ。
童帝はあるヒーローの存在もどうにかしようとした。
「セキンガルさん。今回の作戦、凶人には伝えましたか?」
「いいや。まだ伝えていないが、...凶人の事も疑っているのか?」
「はい。凶人は実績はありますが、ジェノスと同じようにゴーストタウンに住んでいたり怪人と積極的に話している姿が何度も目撃されています。」
「まさか、凶人が怪人だと疑っているのか?」
「いえ。ただ、怪人と協力関係を築いている可能性は考えています。」
「...確かに怪しいところはあるが凶人は度々ゴーストタウンの近況を報告したり、当時は誰も信じていなかったが怪人協会の存在を知らせていたんだ。決めつける訳にはいかない。」
「そうですね。でも、それが僕達の信用を得る為の演技の可能性だってあります。このまま放置する訳にはいきません。」
「では、どうするつもりだ? Z市は凶人の担当だ。作戦の進行中に気付かれる可能性が高いが。」
「...セキンガルさんにお願いがあります。協会本部に凶人を呼び出してください。緊急事態だと伝えていただければ理由は何でも構いません。」
「そうしてやって来た凶人を理由をつけて本部に待機させれば良いのかな?」
「はい。お願い出来ますか?」
「分かった。明日早速凶人に連絡を入れよう。」
2人だけの作戦会議はひっそりと行われ、怪人協会の掃討と人質救出の為に慎重と準備を重ねていった。
◆◇◆◇◆
翌日。
朝に凶人に連絡を入れたセキンガルがその結果を童帝に報告した。
「靴ならもう作らないと言われたよ。」
「は?」
思わず声が出てしまったが、セキンガルは童帝の反応を予想してたのかあまり気にせず続きを話した。
「何の話だと言ったら、どうやら以前他の者達からスポンサーの為に靴の製作の依頼を何度も受けていたようで。違うと言ったらじゃあ服を作れと言うのか、と言われてしまった。」
「ヒーローに何やらせてるんですか。」
童帝は思わずツッコミを入れ、自分の知らないところで他の幹部達がやらかしている事に頭を抱えるセキンガル。
「どうりで幹部に対してあたりが強いと思ったよ。相当無茶振りの依頼をふっかけられたようで、何度も違うと言っても信じてもらえず、とうとう電話を切られてしまった。」
頭が痛くなるような話を聞かされ、童帝も頭を抱える。
「ヒーローに何やらせてんですか。」
セキンガルも同意見だった。
「...とりあえず、今回の作戦には気がついていない様子だった。不安要素は残るだろうが、予定通りに作戦を行おう。」
「...そうですね。分かりました。」
少し、凶人に同情した2人だった。