星になったヒーロー 作:日暮 蛍
「あぁもう腹立つ!!」
携帯端末をテーブルに置き、身支度を始めるアズマ。
「何が緊急事態だまったくもう!!」
アズマがここまで苛立っているのは先ほど来た連絡が原因だ。
通話相手はヒーロー協会の幹部の1人であるセキンガル。
話の内容は緊急事態が発生し、作戦を伝える為に本部に来るようにというもの。何があったのかと聞けば、情報漏洩を防ぐ為に電話では言えない。直接話すと返されてしまった。
あ、嘘ついてるなこの人。
アズマは真っ先にそう思った。
緊急事態、ここでは言えない、本部または支部に来てくれ。
過去にそう言われて凶人としてやって来たアズマに待っていたのは怪人の討伐でも凶悪な犯罪者の捕縛でもなく、服飾の仕事だった。
凶人の服や装飾品、靴など全てアズマの手製だ。アズマは自身の作ったものを素人の横好きが作ったものとしか捉えていないか、他者から見ればプロが作ったものと全く遜色ない高品質なものだった。
そこに目をつけたスポンサーの奥方が凶人の作ったものを欲しがり、協会の一部幹部達はスポンサーのご機嫌を取るために凶人に依頼を出した。
最初のうちは凶人は快く依頼を引き受けた。
レースが欲しい。
布が欲しい。
そのくらいならばと依頼を出した幹部に品物を渡した。
が、評判を聞きつけたのか服飾の仕事が増え、どんどん依頼の難易度が上がり、要望も増えた。
靴が欲しい。
やっぱり青じゃなくて赤にして。
服が欲しい。
ウエストが10㎝増えたから仕立て直して。
我儘な依頼にだんだんと鬱陶しくなり新しい依頼が来てもヒーローとしての仕事ではないからと断るようになった。
そしたら今度は依頼の詳細を伏せてあたかも怪人が出現したかのような言いまわしで凶人を本部か支部に呼び寄せて、強制的に服飾の仕事をさせようとしてきた。
それ以来、アズマは詳細の分からない依頼は全て断るようにした。
「どうせまた服とか靴とか作らせる気だよまったく! もしくはアマイマスクの絵!!」
アズマの苛立ちは収まらず、気晴らしに怪人を探そうと外に出た。
しばらくゴーストタウンをぶらついていると、ジェノスとばったり会った。
「あっ。ジェノス君。新しいパーツに変えたんだ。かっこいい!」
「あぁ。今回はパワー特化型だ。これから先生の所に戻るのだが、お前も一緒に来るか?」
「行く! ありがとう!」
こうしてサイタマの家に向かう為に2人で並んで歩いているとジェノスは昨日の会話を思い出し、アズマに問いただした。
「そういえばアズマ。昨日ある噂を聞いたと言っていたが、もう一度言ってくれないか?」
「え。えっと。怪人から聞いた話で信憑性は低いんだけど、ここゴーストタウンには怪人達が結託して組織を作り、人間社会を転覆させて世界征服をしようと、企んで...」
喋りながら、ある事に気がついてしまった事でアズマの言葉は勢いを失っていく。
そして気まずそうに気がついた事を言葉にした。
「...もしかして、噂は本当で、それが、怪人協会、だったり?」
「その可能性が高いな。」
「うわぁぁぁぁ!! そうだよ絶対そうだよ! 何で今まで気がつかなかったんだぁ?!」
アズマは頭を抱えて酷く落ち込む。
「地下に続いてそうな道っぽいのはいくつも見つけてたのに!」
「何!? 調べてたのか。お前ならすぐにでも突入しててもおかしくないのに。」
「でも途中で瓦礫とか土で塞がっちゃうし、協会の人達に報告したら勝手に行くなって言われたし、噂だって信じてもらえなくて私も怪人が組織を作るなんてあり得ないと思っててあんまり真剣に調べてなくて、言い訳だぁぁぁぁぁうわぁぁぁぁ失敗したぁぁぁぁ!!」
自身の失態に気がついてしまったアズマは思わずその場にうずくまってしまう。
「落ち着け。今ここであれこれ言ってても何も変わらない。お前がするべき事はこの事をサイタマ先生に報告し、共に怪人協会を殲滅する事だ。」
「...でも、私が見つけた道はもう全部塞がってるんだよ。行けるかなぁ?」
「そんなもの俺がこじ開ける。」
ジェノスはしゃがみアズマの肩に手を置き目線を合わせる。
「ここから挽回すればいい。」
「...ジェノス君。」
友人の励ましにアズマの胸がジンとし、目を潤ませる。
「ほら行くぞ。」
「うん。ありがとうジェノス君。」
アズマは立ち上がり、目を拭って前を向いた。