星になったヒーロー 作:日暮 蛍
「あ。」
サイタマの住んでいるマンション前でフブキと鉢合わせたジェノスとアズマ。
「今度は何の用だ。そう易々と何度も部屋に上がれると思うな。」
「なによ。あなただってしょっちゅういるじゃないの。文句言われる筋合いないわ。」
「俺には先生の弟子だという正当性がある。間借りするにもちゃんと家賃を払っている。」
「家賃って、サイタマはこのマンションの家主じゃなくて勝手に住んでるだけでしょ。騙されてるわよアナタ。」
ジェノスとフブキは会話しながら階段を昇り、アズマはその後をついて行く。
「それよりアナタの方はまだ協会から何も連絡ないの? 私にはきたのに。重役の息子さんも人質になっている事態だからもう動き出してもいいと思うんだけど。まだアジトが特定できてないのかしら。」
「アジトはおそらくここゴーストタウンの地下だ。」
「え!?」
「これからサイタマ先生と共に乗り込むつもりだ。」
「ちょっ、それならちゃんと作戦を立ててからにしなさい!」
動揺するフブキに構わずジェノスはサイタマの部屋に入る。
「ただいま修理から戻りました。」
「お邪魔しますサイタマ様。」
「サイタマ! 今日こそちゃんとした作戦会議を...あれ?」
しかし、サイタマは部屋にいなかった。
「いませんね。出かけたのでしょうか?」
「コップに水が入ったままよ。急用で飛び出したのかしら。」
「マークしてたスーパーの特売日は明後日のはずだが。」
「何か聞いてる?」
「ヒーロースーツもない。何かあったのか?」
「怪人でも出たのかな?」
「...まさか。」
ジェノスが思案していた時、新たな来訪者が訪れた。
「おいーっす。また邪魔するぜサイタマ君。」
バングとボンブの2人だ。
「先生は不在だ。」
「む? おらんのか。残念じゃのう。これからキングと共に敵の棲み処に突入する予定なんじゃが。」
「何! このゴーストタウンの地下か?!」
「おう。なんだ薄々勘付いてたのか。」
「ジェノス君も行くじゃろ?」
「当然だ。」
その話を聞いてアズマが聞いた噂話は本当だと確信し、そして入り口を開ける手間が省けたと考えるジェノス。
そしてアズマはアジトがある事に全然気がつかなかった自分自身の不甲斐なさにまた落ち込むが、先ほどのジェノスの励ましを思い出しここから挽回しようとやる気を出す。
「おう来たなキング。」
そして、最後に遅れてやって来たキングが部屋に入ってきた。
「皆集まったようだな。」
「サイタマ君は留守にしとるぞ。」
「え!? そんな。もう一斉に突入する時刻まで猶予ないんだが。」
サイタマがいない事に予想外だったキングは動揺する。
「どうするつもりだキング? サイタマ先生の帰りを待つか。」
「ワシらだけで突っ込むか。」
2択を迫られどちらを取るべきか悩むキング。
「サイタマを待つわよ。」
そんなキングに助け舟を出したのはフブキだ。
「流石よキング。私が段取り組まなくても裏でちゃんと手回ししてくれてたのね。総力戦になるならサイタマの戦力は欠かせないわ。行くなら全員の方がいい。この新フブキ組のメンバー全員でね。」
「...で、どうする?」
「全員でサイタマ様の帰りを待つわけにはいかないよね。」
「そこ! 無視してんじゃないわよ!!」
しれっとフブキの発言をスルーするジェノス達。
「キングの突入が遅れた分だけ他のS級に負担が傾くだろう。お前達は先に行け。俺は先生を待つ。先生と合流したら追って突入する。」
「...それがよさそうじゃな。」
「うん分かった。」
ジェノスはサイタマの帰りを待つ為に部屋に待機し、他の者達は怪人協会のアジトに乗り込む事になった。
「よっしゃ行こう。」
「日が暮れる前に終わらせようぜ。」
「私についてきなさい! 新フブキ組出動!!」
部屋から出たフブキ達はキングの案内で怪人協会のアジトに向かう為にしばらく歩いた後、違和感に気がついた。
「...いやちょっと待ちなさい!」
「どうかしました? 忘れ物ですか?」
「いやアナタの事よ! なにしれっとついてきてるの!」
フブキはアズマを指差す。
「そーいや自然についてきてたな。」
「ここから先は怪人の巣窟だから危ねぇぞ。」
「そうだよ。アズマ氏は帰った方がいいよ。」
皆がアズマの身の心配をし、帰るよう促している。
その事にアズマは疑問に感じる。
「もしかして、私の心配をしているのですか? 何故?」
「いや何故って、アナタは...そういえばアナタ何者なの? やけにヒーロー協会の事に詳しいようだけど。」
フブキの発言にアズマはようやく納得した。
「...あー。そういえば、言ってませんでしたね。すみませんうっかりしてました。」
そう言ってアズマは数歩ほど後ろに下がり、いつも身につけているマントを取り出してそれを頭からかぶる。
そして、マントを取り払い着替えを済ませる。
「あらためて、自己紹介をさせていただきます。」
その姿を見て、ボンブ以外の者達が驚愕から目を見開く。
リボンとぬいぐるみがたくさんついた派手な服。
ヒールレスの厚底の靴。
裏地に星座の刺繍が入った黒いマント。
そして手元にある怪人の仮面。
「おいおい。アンタ手品師か何かか?」
この場でその姿に見覚えのないボンブはアズマの芸当を見てそんな感想を漏らす。
「いいえ。一応ヒーローです。」
そう言ってアズマは仮面を装着し、恭しく礼をする。
「こんにちは皆様方。私はヒーロー協会に所属しておりますA級2位、凶人と申します。以後お見知りおきを。」
凶人は口をあんぐり開けて声が出せないほど驚いているバング達に構わず自信の正体を明かした。
「この私なら、怪人の巣窟に行っても問題ないでしょう。ね?」
仮面の下で凶人は微笑んだ。