星になったヒーロー 作:日暮 蛍
これは凶人がイケメン仮面アマイマスクと偶然出会した時の話。
「理解に苦しむ。」
「はい?」
アマイマスクはしゃがみ込んで怪人の死体をスケッチする凶人を見下ろしてそう言った。
振り返った凶人はアマイマスクの不機嫌そうな顔と対面する。
事の発端は通報にあった怪人を倒し、協会の者にその場で待機を命じられた凶人は時間潰しに倒した怪人の死体をスケッチしていたのだが、同じく現場にやって来ていて少し離れた場所で待機してたはずのアマイマスクがいつの間にか凶人のスケッチバックを覗き見て先ほどの発言をしたのだ。
「何が分からないんですか?」
面倒な事になりそうな予感はしたが何故そんな事を言われたのか少し気になった凶人が聞けばアマイマスクは視線を今度は怪人の死体に移し憎たらしい目つきに変える。
「いい機会だ凶人。君は何故怪人の絵を描く。怪人は悪だ。何故そんな存在の姿を描き、それをネット上に公開するのかその理由を聞かせてもらおうか。」
凶人はSNSで自身のアカウントを通して生前の怪人の姿を描いた絵を世間に公開している。
「んー。理由は、2つですかね。」
凶人はアマイマスクから怪人の死体へと視線を移してスケッチを続けながらアマイマスクの質問に答えようとする。
「1つ目は練習台ですね。怪人ってそれぞれ結構個性があって、描きごたえっていうのがあるんですよね。」
スケッチを終えて立ち上がり改めて凶人はアマイマスクに向き直る。
「2つ目は、寂しいから、ですかね。」
「...寂しい?」
「はい。怪人は様々な理由で生まれてくるのはご存知ですよね。ストレスで人間が怪人化したり、環境の影響とかでまったく別の存在になったりと、まぁ色々と。」
「知ってるよ。それが何だというんだ。」
「生まれて、暴れて、ヒーローに倒される。それが怪人です。でも、死んだ後は誰も話題にしません。ヒーローばかりが注目されます。」
そう言って凶人は先ほど描いた怪人の絵を見直している。生前の凶悪で荒々しい姿が見事に描かれている。
「街を壊して、人に危害を加えて、死んだらはいおしまい。そう考えたら、何だか寂しくて。だったら記録に残そうとSNSに上げているのです。結構需要あるんですよ。特に、雌型の怪人や顔立ちの整った怪人が人気です。」
凶人の言い分を聞いてアマイマスクはしばし黙った後、深い溜息を吐いた。
「理解出来ないな。」
「かまいませんよ。私がしたいだけなので。趣味ってそんなものでしょう。明白な理由なんていらないのです。」
「記録に残すべきなのは怪人よりもヒーローの方だ。何故ヒーローは描かない。彼らにだって個性はあるだろう。」
「いちいち許可を取るのが面倒だからです。」
凶人からヒーローを描かない理由を聞いたアマイマスクはしばし考え込んだ後
「...よし。ならば僕を描け。」
「なんで?」
とんでもない提案をしてきた。
「許可があれば描くんだろう。」
「え? そんな話、してましたっけ?」
「この後時間があるな。早速スケジュールを決めるよ。」
「え? あれ? やる事になってる??」
なんやかんやでアマイマスクの絵を描く事になった凶人。
アマイマスクの審査は厳しく何十回もやり直す事になったが、そこは全く苦に感じなかった。
アマイマスクの監修のもとに出来上がった絵は凶人自身も納得のいく大作となった。
問題はこの後に起きた。
まず、凶人が描いた絵を元に作られたポストカードやミニキャンバスなどがあっという間に売れ切れて問い合わせが殺到した。
それに飛び火して凶人のSNSを通して商品はいつ再入荷するのかという問い合わせが殺到した。何度もこちらでは対応していないとメッセージを投稿しても問い合わせは止まらない。運営側も何とかしようとしたが、圧倒的な数の差に対応が間に合わなかった。
それに加えて原画を買い取らせて欲しいという連絡も殺到した。絵はアマイマスクに譲ったと投稿したら新しいのを描けと要求されてしまった。
その上他のヒーローの絵を描け、怪人の絵を描くな消せ、など要望や誹謗中傷のメッセージが大量に来て、それを止めようと前々から凶人の絵を見ていた人達の投稿や面白半分で参加する人達のせいで炎上した。
『すまない凶人。まさか、ここまでの騒動になるとは。』
「アマイマスクは悪くありません。気にしないでください。でも、まさか、こんなに酷くなるとは。とりあえず、面倒な対応はすべてそちらでお願いします。」
『分かった。...本当にすまない。』
ひとまずアマイマスクや運営の方々に全て丸投げしたアズマは連絡を終えた後、疲れた様子でベッドの上にダイブした。
「...欲望、恐ろし。」
とりあえず、ヒーローの絵は今後SNSにはもう上げないと固く誓ったアズマだった。