星になったヒーロー 作:日暮 蛍
「本当にアズマを1人にして大丈夫だったのか?」
怪人協会のアジトに入ったフブキ達は分かれ道に差し掛かった時に
キング。
凶人。
フブキ、バング、ボンブ。
の三手に分かれた。
「キングはともかく、アズマは危ないんじゃねえか?」
ヒーローには疎いボンブは凶人がどんなヒーローか全く知らない。名前もつい先ほど知ったばかりだ。アズマの事をよく知らないボンブは不安そうにしていたが、2人はそうでもなかった。
「大丈夫よ凶人なら。」
「...そう、だな。むしろ1人にさせた方がいい。」
発言だけならば凶人を信じているものだったが、フブキとバングの表情はかなり固い。
1人にさせて不安、というよりも警戒が見える。
「なんだよ。なんかあったのか?」
つい先日まで共に鍋を食べていた者に対する態度ではない事にボンブは不審に思った。
「...凶人はちと厄介なヒーローでな。まさかアズマ君が凶人だったとは、全然気がつかなかった。」
「厄介? 素行でも悪いのか?」
「いいえ。協会の指示には極力従っているようだし、人命を優先するようだわ。」
「じゃあ何が問題なんだよ。アズマとはまだ知り合ったばっかだけど、いい奴だぜアイツ。」
「それが帳消しになるほどの悪癖を持ってるのよ、凶人は。」
「...なんなんだよ、その悪癖ってやつは。」
ただならぬ事情を察したボンブは心して聞く。
「怪人に殺されたいそうよ。」
◆◇◆◇◆
鼻歌を歌いながら凶人は怪人協会のアジトの中を1人で歩く。
道中、怪人に何度も出会すが持ち込んだものや奪った武器を使って屠っていく。
「もっと早くに知りたかったなぁ。こんなに、こんなに怪人がいるなんて。」
嬉しそうに独り言を呟きながら、新たに襲いかかってきた怪人と応戦する凶人。
奇襲を仕掛けてきた怪人の持つ刃物が凶人の腹に当たる。
「よっしゃぁ! 手柄はもら、た...は?」
しかし、刃物は突き刺さらない。弾力のあるものに当たっている感触は伝わっているが、凶人の服にすら傷をつけられない。
「何をしているのですか。」
凶人は怪人の手ごと刃物を掴み、押し込んでいく。
「え? はっ、ちょっと。」
「駄目じゃないですか。そう簡単に諦めちゃ。怪人はヒーローを殺すんですよ。もっと必死にやらなくちゃ。」
「な、なんだよお前気持ち悪りぃ!!」
咄嗟に手を離してしまった。ヒーローを討ち取ってやるという気持ちよりも凶人から一刻も早く離れたいという気持ちが勝ってしまった。
「じゃあいいです。」
それが気に食わなかった凶人はあっさりと刃物を奪い取り怪人の首を掻き切った。
「何なんだこいつは! 本当にヒーローかよ!」
「お前、知らねぇのか! アイツは凶人って、死にたがりのとんでもねぇヒーローなんだよ!」
「違います!」
怪人の発言に異議を唱えた凶人は一気に怪人との距離を詰めた。
「ひぃ!?」
「よく間違われるですよ。でも違うんですよ。私は、死にたいからヒーローをやってるんじゃないんです。殺されたいからヒーローをやっているんです。」
「な、何がどう違うんだよ。」
「私は! 死にたくないんですよ!」
叫びながら怪人の眉間に刃物を突き刺す。
「ぎゃあああああああ!!」
「死にたくないと必死に抗って抵抗して、だけど虚しく殺されるからこそ絶望的なのです。」
「なんだよこいつ!」
「相手にしてらんねぇ!! ギョロギョロの野郎、凶人が来るなんて聞いてねぇぞ!!」
あまりの惨劇に凶人に背を向けて逃げ出す怪人が多発。
その背中を凶人は冷めた目で見ていた。
「足りなくて足りなくて。」
足に力を込め、跳んだ凶人は逃げ出した怪人を残らず始末した。
「絶望が足りなくて。」
怪人の死骸を見下ろして、自分の両腕を抱く凶人は独り言を続ける。
「...期待、してもいいんですよね。竜レベルの怪人、いますよねぇ。」
仮面の下の瞳は薄暗い欲望で濁っていた。
「んふふ、ふふ。んふふふ。ふふふふふ。」
笑いながら歩き出した凶人。
そんな凶人の頭上の天井が突然崩れ、瓦礫の山が降りかかってきた。
「またかぁ。」
凶人は慣れた様子で降りかかってくる瓦礫の山を避けれずそのまま埋もれた。