星になったヒーロー 作:日暮 蛍
アズマは幼い頃から絵を描いたり作品を作ったりするのが大好きだった。
成長し大人になった時に芸術家を目指し日々精進をした。
描いて描いて描いて描き続けて。
寝る間も惜しんで書き続けて、評価はされなかった。
絵は上手かった。しかし生きてはいない。それがアズマの絵に与えられた評価。
本人もその通りだと納得した。
絵を描くのは好きだったが、才能があるかどうかは別の話だった。
それでも諦めきれず、バイトをして食い繋ぎながらアズマは絵を描き続けた。
バイトの帰り道、アズマは死にかけた。
通り魔に背中にナイフで刺され、出血多量で死にかけたが一命を取り留めた。
そしてアズマは刺されたその日の内に絵を描き始めた。医者の制止をものともせずにアズマは自身の中の情熱に身を任せて絵を描き、とうとう完成させた。
その絵はアズマ自身でも納得のいくものであり、周囲も絶賛した。なんと素晴らしい。今にも動き出しそうだ。それがアズマの絵に与えられた評価。
その評価にアズマはとても喜んだ。
だからアズマは積極的に死に近づいた。
アズマ自身が考えつく危険な行為や自傷行為を何度も何十回と行って来た。
その度に死にかけた。
そしてその度に素晴らしい絵を描きあげた。
しかし、アズマには物足りなかった。
初めて死にかけた時に感じた時に比べて薄い。それがアズマが思った感想だった。
そんなある日、アズマはまた死にかけた。
今度はたまたま出会してしまった怪人によって殺されかけたのだ。
これだ。
薄れゆく意識の中、アズマは確信したのだ。これこそが自分の求めていたものだと。
生還したアズマはそれからも怪人や殺人鬼が出没する場所や時間帯を割り出し、現場に向かってその身を危険に晒した。
殺される恐怖、緊張、そして絶望感。
これこそがアズマが求めていたものだった。
アズマがヒーロー協会に所属した理由はより強く残酷な怪人に出会えるという期待があってのものだった。
そうしてアズマがヒーローとして活動を始めてしばらく経った後、大きな事件が起きた。
環境汚染の影響で変異、そして大量発生した怪物が街中に現れ地下鉄に侵入。そこを本拠地にしてさらに繁殖し人類を根絶やしにし自分達が地上を支配してやろうと目論んでいた。
それを阻止しようとヒーロー達は対抗したが、圧倒的な数の差に倒しきれず一時撤退を余儀なくされた。
ヒーローや関係者、警察達の尽力があって地下鉄内の出入り口を封鎖して被害の拡大を阻止し、外の出入り口も封鎖していった。
しかしここで問題が起きた。
最後の出入り口を塞ごうとした時、アズマが単独で封鎖直前の出入り口に入り込んでしまった。連れ戻す前に多くの怪物が出入り口から出ようとしていたため他のヒーロー達は苦渋の決断でアズマを見捨てて他の所と同様に出入り口を厳重に封鎖した。
数日後。
入念な準備を終えたヒーロー達は怪物の討伐に向かい地下鉄に入ろうと出入り口の前に立ったその時、内部から大きな音が聞こえてきた。何回も内部から叩くような、壊すような音が聞こえてきた。怪物達が外に出るために遮蔽物を破壊しようとしているつもりだと思ったヒーロー達はいつ怪物達が飛び出してきてもいいよう臨戦体制に入る。
だが、出てきたのは怪物達でなくアズマだけだった。全身生物の返り血を浴びているが五体満足で生きていた。
「中にいたのは全部殺しました。確認をお願いしますね。」
呆然としているヒーロー達に構わずそれだけ伝えるとアズマはそのまま帰っていった。
我に帰ったヒーロー達は急いで地下鉄内部を調べるとそこにあったのは怪物の死体、死体、死体、死体だらけ。床にも壁にも怪物達の返り血がべったりとついて凄惨な様子だった。
アズマの言う通り、怪物達はすべて殺された。アズマがたった一人で殺した。
ヒーロー達と関係者達はゾッとした。
多くの者達の尽力があって生物達の地下鉄侵略拡大を防いだが、それでも怪物達に侵略されたエリアはかなりの広さだ。
さらに怪物達は明かりを嫌ったのか内部の照明がすべて破壊されてしまっていたため当時の内部は真っ暗闇だった。
その後調べたら地下鉄内にあった店にあった飲食物が怪物達にほとんど食い荒らされていた事が判明した。
つまりアズマは数日間たった一人で真っ暗闇の中飲まず食わずで他の者達が一時撤退を判断したほどうじゃうじゃいた怪物を殺したのだ。
それだけならまだマシだった。
他にも強いヒーローはいる。今回起きた騒動を単独で解決する事ができる実力を持つヒーローは他にもいる。
しかし、アズマは他のヒーローとは決定的に違う事があった。
「どうして単独で怪物を殺そうと? あなたのした事は自殺に等しい行動でした。今回は倒せたから良かったものの、もし死んだらどうするつもりだったのですか?」
後に行われた事情聴取の時、アズマは非難混じりの質問に対して
「願ったり叶ったりです。」
笑顔でそう答えた。
「そうされたくてあそこに行きました。他の皆さんに悪いなとは思ってはいるんですよ。でも、封鎖された空間で蠢く怪物達になす術なく食い殺されたり玩具扱いされて殺される事を想像してしまったら居ても立っても居られなくて、つい飛び込んでしまいました。」
楽しそうに話すアズマの笑顔を見て事情聴取を行なっている人は恐怖を感じた。
「なぜ、そんな事を。」
しかし恐怖よりも好奇心が勝ってしまい質問をしてしまった。
「殺されたいんです。抵抗して、それでも怪物や怪人。人でもいいんです。性格が悪ければもっと素敵。そいつらに無惨に殺されたいんです。できればなぶられたい。痛いのは好きじゃないんですよ。だからこそいいんですけど。絶望しながら死にたいんです。原型が無いくらい悲惨な死に方をしたいんです。圧倒的な力を感じて意味もなく殺されたいんです。」
恍惚とした表情で話すアズマにさらなる恐怖を感じ、それ以上質問は行われなかった。
強さは頼もしいが人格にかなりの問題があると判断されて対応をどうするか協議が行われた。ヒーローにふさわしくないから除籍すべきだという声もあったが、怪人や犯罪者の増加と圧倒的なヒーロー不足のせいでアズマにも頼らざるをえなかったため、様子見をする事になった。
飲まず食わずでも戦い続けられるほどタフな体と精神。
強い他殺願望。
恐怖と畏怖を込めてアズマにヒーローネームが与えられた。
凶人と。