星になったヒーロー 作:日暮 蛍
怪人協会に囚われた人質を救う為に突入したヒーロー達。
その内の3人、イアイアン、オカマイタチ、ブシドリルが戦闘体制に入っていた。
相手は怪人ではなく、人間だ。人数は7人。全員武装している。
「彼らはナリンキ氏が息子を助けようと先んじて投入した私設救出部隊だ。どうやら洗脳されている。傷付けずに制圧するぞ!!」
「おっけーい!」
イアイアンの言う通り彼らは怪人の手によって洗脳されている。
「ウッフフフフフ。これまた型にハメやすいアマちゃん達が来てくれたわね。」
そして、洗脳されている彼らの背後に洗脳した怪人、弩Sが鞭を携えて立っていた。
「さあ私のために働くときだよ!! ヤってきなお前達!!」
弩Sの号令で傭兵達が襲いかかる。
イアイアン達は彼らを弩Sから解放する為にまずは武器破壊、そしてバトルスーツの無力化を図る。
しかし、バトルスーツは丈夫であり洗脳されている彼ら自身の技量もあっめなかなか思うようにはいかない。
「隙だらけでカワイイわねー。」
イアイアン達が傭兵達の相手をして弩Sへの注意を怠りその隙を狙われる。
「まずは一匹♡ 新しい恋奴隷ゲット!!!」
弩Sがブシドリルに向けて鞭を振るう。
しかし、当たる前に誰かが鞭を掴んで止めた。
「素手で!!? んなッ!?? あの男は!?」
弩Sの鞭を止めたのはイアイアン達と同じ突入メンバーの1人、アマイマスクだった。
「指揮棒のようにこの鞭で配下を操っているようだ。おそらく痛覚による催眠。打たれたら自我を奪われるかもね。」
弩Sの能力を冷静に分析し、イアイアン達では倒せないと判断したアマイマスクは弩S達を自分の手で始末しようと考え弩Sを見据えた時、背後に誰かがいる事に気がついた。
「へぇ。貴女、そんな事が出来るんですね。」
背後から至近距離で声をかけられた弩Sは心臓を跳ね上げ、即座に声の主から距離を取る。
「今度は誰だい!?」
後ろにいる相手の姿を見て弩Sはまず、怪人だと思った。
しかし、身につけている星座の刺繍が入った派手なマントを見て、正体に気がついた。
「凶人!!?」
弩Sの叫びにイアイアン達も凶人の存在に気がつけた。
「え!?」
「あいつ、いつの間にいたんだ!?」
すぐ近くにいたはずなのに誰もがすぐに凶人がいる事に気が付かなかったのには訳がある。
希薄なのだ。
派手な格好をした人物が目の前にいるはずなのに、見失ってしまう。それほどまでに凶人の存在感が薄くなっているのだ。
「...どうなっているんだ。」
「考えるのは後にしろ!」
作戦のメンバーに居なかったはずの凶人がいる事に疑問を感じたイアイアン達だったが、襲いかかってくる傭兵達の相手をせねばならない為、ひとまず凶人がいる理由を考えるのは後回しにする事にした。
「凶人。何故君がここにいる。」
「んー? ゴーストタウンは私の担当エリアですよ。騒音がしたから来て、入り口を見つけたから入りました。」
本当はキングが作戦の事を知らせてくれたおかげなのだが、それはばらしてはいけない為凶人は誤魔化した。
「そしたらたくさん怪人がいて、道がとっても入り組んでて! もっと早く来たかったです!」
そして凶人は首と視線を弩Sの方へと向ける。
「で? 貴女は何もしないのですか?」
弩Sは焦った。
いつの間にかA級ヒーローが5人も集まってきた。
その内の1人はS級ヒーローに引けを取らないほど多くの怪人を討伐しているという凶人が弩Sの背後に立っていた。
人質兼奴隷の傭兵達がいたとしても下手をすればやられると考えた弩Sは、鞭を振るった。
「お前達! まずはアイツからだ!」
傭兵達を全員、凶人に差し向けた。
凶人もヒーロー。傭兵達を殺さずに抑えようとするに違いない。その隙を狙って鞭を打ち洗脳し奴隷にしてこの状況を好転させようと考えた。
傭兵達が襲いかかってくる間に凶人は懐から短鞭を取り出し、それを傭兵達に向けて振るい、鞭が体に当たる音を響かせる。
「そんな事したって無駄さ!」
バトルスーツの前ではそんな攻撃意味など無いと笑う弩Sは傭兵達を凶人に組みつかせる。
「凶人!」
イアイアンが慌てて凶人を助けようとするが、それよりも早く鞭が凶人に当たってしまう。
「おすわり。」
そして凶人が弩Sが鞭を振るよりも早くそう言った途端、傭兵達が手を離しその場で座り込んでしまった。
「...は?」
目の前で起きた事に、弩Sは信じたくなかった。
「便利ですね、これ。」
主導権を奪われた。自分の奴隷があっさりと奪われた。弩Sのプライドがズタズタに傷付けられる。
そんな弩Sの心情を全く知らない凶人は短鞭からナイフに持ち替えて弩Sに迫る。
「クソッ!!」
弩Sは鞭を何度も振るい凶人に当たるが、洗脳されている様子は無くまっすぐと弩Sにナイフを向ける。
このままでは殺される。
後ろには4人のヒーロー。逃げられない。
「ちょ、ちょっと待って! 降参!」
「...は?」
弩Sが鞭を捨てて両手を上げて降伏した途端、凶人は足を止めた。
「え、は? ...降参?」
弩Sが何度も頷くと、凶人はため息を吐いて仮面に手を当てる。
「えー。どうしよ。萎えた。」
凶人が弩Sから視線を外し、
「おい! さっさと始末し」
アマイマスクが苛立った様子で声を出した瞬間、
「シャアッ!」
弩Sの足が伸び凶人の体に絡めて身動きを封じ、舌を伸ばして凶人の目の辺りを貫いた。舌は伸ばした際に硬質化したのか、仮面を易々と貫き破壊する。
「ああッ!!」
凶人がやられた。
誰もがそう思った。
「ハッハァ! 油断した、な...」
勝ち誇っていた弩Sは、仮面が割れて晒された凶人の姿を見て絶句した。
舌による攻撃で眼帯も破損して外れ、地面に落ちる。
「...酷いじゃないですか。」
「おま、え。なにそれ。」
「ただの古傷ですよ。」
「ヒッ。」
震えがあるほどの冷たい声が凶人の口から出る。
「恥ずかしいから見られたくなかったのに。」
声と同様冷え切った目で弩Sを睨みつけた凶人は弩Sの髪を掴み、壁に叩きつけた。
弩Sの体はしばらく痙攣した後、動かなくなる。
凶人は深くため息を吐いた後、後ろにいるイアイアン達に見られる前に予備の眼帯を取り出して身につけ、新しい仮面をつける。
「...凶人。大丈夫、か?」
イアイアンが心配そうに声をかけてきた。
「大丈夫ですよ。」
それに応えるようにいつも通りの声音で凶人は振り返り返事を返した。
「ところで、どうして皆さんここにいるんですか?」
本当は事情を知っているのだが、何も知らないふりをしている為事情を聞かないのは不自然と思い凶人はイアイアン達に向き直り、ここにいる理由を聞く事にした。
「それは、その。」
イアイアンは気まずそうにし、オカマイタチとブシドリルもどう答えようかと悩んでいる様子だ。
その様子でイアイアン達は自分には作戦の事を伝えてはならないと誰かに命じられたのだと凶人は察した。
「あ。その前に洗脳されている人達を戻さないとですね。」
だから凶人は自分から話を逸らし、そのまま先ほどの質問をうやむやにしようと考えた。
「はぁい皆さん。私が手を叩いたら正気に戻ってくださいね。さん、はい。」
そう言って凶人は1回、大きく手を叩いた。
すると傭兵達の目に光が戻り、意識がはっきりと浮かび上がってきた。
「ヒ、ヒーロー!?」
「おっ。正気に戻ったか。」
傭兵の1人が周囲を見まわし、イアイアン達の姿が目に入ると大層驚く。
「助けに来てくれたのか!」
「ああ。もう大丈夫だ。」
イアイアンは彼らを安心させるようにしゃがんで目線を合わせて肩に手を置く。
ヒーローが助けに来てくれた事で傭兵達の恐怖心と緊張感が和らぎ、安心感から涙を流す。
「よかった!!」
「死ぬかと思った!!」
「ありがとう!! ありがとう!!」
その様子を眺めていた凶人は彼らをイアイアン達に任せて自分は奥に進もうと思いつきすぐさま実行に移した。
「それじゃあ後はお任せしますね。」
「待て。」
しかし、アマイマスクは許さなかった。
「君も彼らと共に地上を目指せ。」
「でも」
「どうせ君、ここが怪人協会のアジトである事も僕達が人質の救出にここに来たという事にも気がついているんだろ。」
「う。」
「勝手に動くな。まずは作戦に参加する旨を伝えてこい。」
「...はい。分かりました。」
言い負かされた凶人はおとなしくイアイアン達と共に地上に戻る事になった。
「というわけで、よろしくお願いします。」
「...分かった。こちらこそよろしく頼む。」