星になったヒーロー 作:日暮 蛍
「凶人とはあまり関わるな。」
かつてイアイアン達は師であるアトミック侍にそう言われた事がある。
「以前、俺はアイツが刀を振るう姿を近くで見た事がある。...初めての事だ。悍ましさと吐き気を感じたのは。」
アトミック侍にはある特技がある。
手相を見るかのように相手が刀で物を斬る様子を見るとその人間がどんな人生送ってきたのか分かるのだ。
「アイツがヒーローとして、人としてやれているのはもはや奇跡だ。」
アトミック侍にここまで言わせるほど、凶人はとんでもない生き方をしてきたのかとイアイアン達は背筋を凍らせる。
「とはいえ、お前らもアイツも同じヒーローだ。どうしても関わる事もあるだろう。だから今のうちに忠告しておく。...アイツに呑まれるなよ。」
◆◇◆◇◆
「もしもし。」
集団で固まっている怪人達に近づき声をかけてきた者を怪人達は不審に思わなかった。同じ怪人だと思ったから。
「あ? なんだよ。」
「実は近くにヒーローが来ているんですよ。」
「何!?」
ヒーローが近くにいる事を知らされた怪人達は身構える。
「どこにいる!?」
「どんなヒーローだ!」
「誰であれぶち殺して手柄を上げてやるぜ!」
「ヒーローなら」
そう言って隠し持っていた薙刀を取り出し怪人達に向けて振るった。
「目の前にいます。」
怪人達は目の前で薙刀を振るっているのが怪人ではなく凶人である事に全く気がついていない。
「は、はぁ!?」
「何やってるんだよお前!」
動揺する怪人達に凶人は呆れた様子でもう1度薙刀を振るった。
「反撃してきてくださいよ。」
怪人達の命をあっという間に刈り取った凶人は死体を見下ろしてため息を吐いた。
「そんなに私、怪人にしか見えないのですか。...今は有り難いですけど。有難いんですけど。」
持っていたマントを取り出して身につける凶人。
怪人のふりをして怪人の油断を誘う作戦だったのだが、何度も上手く行くため凶人としては複雑な心境だった。
「...凄まじいな。」
「ええ。」
凶人の活躍を少し離れた場所でイアイアンの呟きにオカマイタチも同意する。
すぐ近くには倒した怪人の死体が横たわっている。凶人が打ち損じて逃げ出した怪人達をイアイアン達が斬り伏せたからだ。
「疲れている様子がまるでない。」
ブシドリルも凶人がいる方に視線を向けたが、見失ってしまった。
「様子はどうですか?」
「うぉわぁ!!?」
声をかけられるまで隣に凶人が近づいて来ている事に全く気が付かなかったブシドリルは驚き思わず声が出てしまう。
「どうかしましたか?」
「お、驚かすな!」
実はこのようなやり取りは何度もやっている。
今の気配が希薄な凶人は近くにいてもすぐに見失ってしまい、誰かに近づき声をかけるまで全く気づかない。その度にイアイアン達は驚き、心臓を跳ね上がる。
「ねぇ、ちょっと。出来れば話しかける時は気配を消さないでもらえるとありがたいんだけど。」
「それは、無理ですね。」
さすがに何度もやられると心臓に負担がかかりそうと思いオカマイタチがそうお願いするが、凶人は困った様子で断りを入れる。
「こうやって気配を消さないと何故か瓦礫が降ってくるんですよ。」
「え? どういう事よ。」
「分かりません。以前から私がここに入ると天井が崩れてくるんですよ。最初は老朽化かなっと思ってたんですけど、入るたびにすぐに瓦礫が崩れてくるんです。さっきもそうでした。でもこうして気配を消したら何も起きないんです。不思議ですね。」
「そ、そう。」
にわかに信じられないオカマイタチ。
イアイアンやブシドリル、そばで聞いていた傭兵達も信じられなかった。
「さぁ次に行きましょう。」
そんな皆の心情を全く知らない凶人は明るい声音で地上に向けて歩き出した。
凶人達は今あれこれ工夫をしながら地上へと目指している。
途中で自身の髪の毛を操る強い怪人に遭遇したがイアイアン、オカマイタチ、ブシドリルがどうにか討伐し、それ以降はまだ厄介な怪人に出会していない。
「なぁ、凶人。疲れていないのか?」
「全然平気ですよ。そう言うイアイアンや、他の人達はどうなんですか? 大丈夫ですか?」
「俺達は問題ない。」
「じゃあこのまま行きます? 休憩はまだなし?」
誰も休息を求める声は上げなかった為、凶人は歩き出した。
「じゃあ行きましょうか。疲れたらすぐに言ってくださいね。」
軽い足取りで進む凶人の後ろ姿を見て、イアイアン達は言い知れない奇妙さを感じていた。
怪人の巣窟であるアジト内には怪人が至る所におり、地上を目指す道中どうにか戦闘を避けようとはしているが、どうしても怪人と戦う時があった。
その際、凶人は真っ先に前に出て怪人を討伐していった。
そのおかげでイアイアン達の消耗は少なく、予定よりも早く順調に進めている。
だからこそイアイアン達は凶人の異常さに気がつけた。
凶人は全く疲れていない。
一番怪人を多く討伐しているにも関わらず進む足取りも武器を持つ手にも震えはなく、息切れをしていない。
それどころか楽しげに進んで怪人に向かって行っている。
「噂通りの奴だな。」
「そうだな。気を抜かずに行こう。」
凶人とはあまり関わるな。
アイツに呑まれるなよ
イアイアンはかつて師であるアトミック侍の言葉を忘れずに警戒を怠らず前に進んだ。