星になったヒーロー 作:日暮 蛍
大富豪ナリンキに雇われた傭兵達の隊長であるトンガラも凶人の事は知っていた。こうして会うまで凶人にまつわる話は尾鰭がついたものだと思っていたのだが、目の前で戦う凶人の姿を見て誇張の無い真実であった事を思い知らされる。
3日3晩戦い続けられる体力。
怪人の攻撃をいくら喰らっても傷つかない強靭な身体。
目の前にいても見失ってしまうほどの気配遮断を行える技術。
そして、怪人に殺されたいという欲望。
生き残る為に何でもやってきたトンガラにはその考えが一切理解が出来なかった。
イアイアン達と共に自分達を助けようとしている事は理解出来るが、それでも生物の生存要求を無視した欲望を持つ凶人の事を信用出来なかった。
戦いの余波を喰らわない為にコイツにだけは背中を見せないようにとトンガラは凶人を警戒した。
◆◇◆◇◆
「一匹逃げたぞ! 追え!」
地上を目指す道中また怪人に出会したイアイアン達は進む為に怪人を討伐していると、怪人が1体逃げ出した。負傷していた為そう遠くには逃げられずすぐに倒す事が出来ると判断しイアイアン達は追いかけた。
が、逃げた先がまずかった。
逃げた怪人がヒーロー達を倒す為にそこに封印されていた怪物が解き放ってしまったのだ。
それは怪人協会の設立者であり参謀であるギョロギョロの実験によって偶然生まれてしまったもので、その生みの親であるギョロギョロでさえも制御出来ず、幹部の座を与えられながらもその危険性から特殊な水槽に閉じ込められていた。
その名前はエビル天然水。
人の殺意や恐怖を察知して金属をも貫くほどの超高圧の水鉄砲で無差別に攻撃する最悪の怪水が今、イアイアン達に襲いかかる。
加えて、エビル天然水と共生している魚の怪物も襲いかかってくる為イアイアン達は防戦一方を強いられていた。
「クソッ! 師匠からまだ水の斬り方は教わってないぞ。攻めの糸口が見えない。皆、冷静に対処しろ!」
斬撃は効かず、なす術なく壁に隠れて攻撃を凌ぐ事しか出来ない。
呼吸を整え、どうやってこの場を切り抜けるべきかイアイアン達が考えている時、トンガラが銃を構え壁から身を出した。
「あの目玉を狙え!」
「よせ!」
イアイアンは静止をかけたが、もう遅い。
弾丸は怪水には全く効かず、トンガラの殺気に反応して水鉄砲を放った。てそのままトンガラの身体に穴を開ける、はずだった。
遅れてやって来た凶人が水鉄砲を受け止めたのだ。
金属に穴を開けるほどの威力のある水鉄砲をまともに受けてもなお凶人は無傷だった。
「凶人!?」
「走って! 走って!!」
「あ、あぁ!」
必死にトンガラ達に逃げるよう促す凶人。
叫んでいる間もエビル天然水の超高圧の水鉄砲を受け止め、魚の怪物に噛みつかれている。
イアイアン達を逃す為に攻撃を一身で受け止めていた。
「すまない!」
自分達ではエビル天然水には勝てない。それが分かっているイアイアン達は不本意ではあるが凶人を殿にしてその場から撤退する。
トンガラは後ろを振り返り、凶人にも早く逃げるよう声を出そうとして、凶人を中心に地面が崩れ落ちる瞬間を目撃してしまった。
「後はお願い!!」
落ちる瞬間、イアイアン達にトンガラ達の事を託した凶人はエビル天然水と共に落ちていった。
「アイツ、俺を庇って...」
トンガラは呆然と穴の底を見ていた。暗くて何も見えない。
イアイアンはトンガラの肩に手を当てる。
「行こう。」
イアイアン達も凶人が落ちていった事に大きなショックを受けていたが、ここで立ち止まるわけにはいかない。身を挺して自分達を守ってくれた凶人に報いる為に、後を託された者として、イアイアン達は任務をこなさなければならない。
「...あぁ。すまない。」
トンガラもそれは分かっていた。
凶人が落ちていった穴の底から目を逸らし、やるせない気持ちを抱えながら出口に向かう為に足を動かした。