星になったヒーロー 作:日暮 蛍
黒い精子から逃げてきた凶人は連れてきたアトミック侍と共に怪人達の目の届かない奥まった場所で座り込んでいた。
「先ほど見た怪人、群れで行動するタイプですか? それとも分裂するタイプ? いずれにしろ貴方をここまで追い詰めるとは中々の強さと見受けられます。やっぱり撤退したのは口惜しいです。」
まだ興奮が収まらないのか凶人はうんざりしているアトミック侍に構わず独り喋り続ける。
「あっ、もしかしてアトミック侍も果てるなら死地と決めておりました? すみませんそうとは知らずにお邪魔して」
「お前と一緒にすんな。弟子を残して早々に逝けるわけねーだろ。」
「弟子...弟子。あっ。さっきイアイアンとオカマイタチとブシドリルと会いましたよ私。」
「何!?」
「ここに囚われていた、7人の傭兵達を助けて共に地上を目指しております。」
「そうか、良かった。...お前アイツらに変な事吹き込んでねぇよな。」
「してませんよ。」
会話をしているアトミック侍の心中は黒い精子の強さを見誤った事への反省と凶人に助けられた事への意外さ、そして凶人がここにいる事への疑問があった。
「,,.お前、どうしてここにいる。」
「え。騒ぎを聞いてここに来たんですよ。怪人が大勢いて、もっと早くにここに来たかったです。」
そう答えた凶人をアトミック侍は訝しげな表情を向ける。
「なんですかその顔は。やっぱり邪魔したの怒ってま...何か鳴ってません? 機械?」
ふと、凶人の耳がかすかな機械音を捉えた。音の鳴りどころはアトミック侍の懐からだ。
「機械? これの事か。」
アトミック侍が取り出したのは丸く平たいもの。
「何ですかそれ? ボタン?」
「童帝から支給された通信機器だ。えーっと、ここをいじると...」
アトミック侍が通信機器をいじると、音声が流れる。
『...ジト内に残る他の部外者は、ナリンキが雇った傭兵部隊とヒーロー狩りのガロウ、いぎぎッ、それで全てだ。』
『もしもし誰か通信聞いてる? こっちで出た情報は以上よ。音沙汰ないヒーロー達はどうなの。仕事してるのかしら。』
最初に苦しそうな女性の声が聞こえ、その後にタツマキの声が聞こえてきた。
「おー。ハイテク。」
凶人は自身の持つ携帯端末よりもはるかに小さい通信端末に感心している時、ノイズ音の後に別の声が割り込んできた。
『はぁ、はぁ。こちらアマイマスクだ。傭兵部隊はボクが発見してアトミック侍の弟子達と凶人に地上への護送を任せてある。』
『凶人? ここに来てるの?』
報告の直後、
『あひッ、ひィアアぁあッよるなァアッ!!!!』
「え!? 何何何??」
素っ頓狂な悲鳴が響く。
『アマイマスク!?』
『すっすまないつい。こっちは精神攻撃を得意とする厄介な幹部と交戦中だ! 至急応援を頼む! 場所は』
『厄介な幹部がいたくらいで応援呼ばないでくれない?』
アマイマスクは救援を頼むがタツマキが遮る。
『自力で倒せないなら最初から地上で待機してなさいよ。』
『言い争いをする余裕はない!』
『アンタの救出に人員を割いて作戦失敗したらどーすんのよ。』
『た、タツマキじゃ話にならない。誰か応答してくれ!! 戦う相手を僕と代わってくれないか!? 相性が悪いんだ。はぁ、クソッ! 奴は見つかった!!!』
「私が行きます! アマイマスク場所は」
「放っておけ。」
通信を聞いて助けに行こうとする凶人をアトミック侍は止める。
「タツマキの言う通りだ。大見得切ってここに来たのはソイツの責任だ。」
「えー。でも」
凶人が言いかけた時、通信機器から爆発音が響き、ノイズが続いた。
「あ、あれ!? タツマキ? タツマキ?!」
凶人は呼びかけるが、ノイズ音は止まらない。
「おいおい。大丈夫か?」
「アトミック侍! それって地図とかないのですか?」
「あるが、えーと確か、こうか?」
アトミック侍が通信機器を慣れない手つきで操作して、立体映像が投影された。
「わ、凄いハイテク。」
改めて通信機器の性能に感心する凶人。
立体映像にはアジト内の地図のようで、あちこちにヒーロー名のついた目印がある。恐らくその目印の位置にヒーローがいるだろうと判断した凶人は地図を見て覚え、アマイマスクとタツマキの現在位置を確認すると有無を言わさずに凶人はアトミック侍を背負う。
「お、おい!」
「揺れますよ口閉じててください!」
凶人は脚に力を込めて、天井にぶつからないよう跳んだ。
「お前、助けに行く気か?!」
「はい! まずはアマイマスク! その次にタツマキです! 理由は距離です!」
「お前、」
「きっとどちらも絶望的な状況でしょう! 楽しみです。」
「そっちが本命か!」
あくまで自分の欲望に正直な凶人に呆れ果てるアトミック侍。
「あうっ!??」
そうして意気揚々と跳んでいた凶人は突如出てきた透明な壁に勢いよくぶつかる。
「え? え?? 何ですかこれ???」
困惑する凶人は目の前の透明は壁に触り、通れないと判断して慌てて引き返そうとして
「あうっ!!?」
また見えない壁にぶつかる。
「これは...」
アトミック侍も不思議そうに透明な壁に触る。
うっすらと光っているバリアのようなものが球体状で凶人とアトミック侍を包んでいる。
その直後、地響きが起こる。
周囲の壁や天井が崩れ、瓦礫が降ってくる。
そして、凶人とアトミック侍を囲う球状のバリアが浮き上がり、凶人は激しく動揺する。
「え? 何これ!? 何が起きてるんですか!? 何度も凄く揺れてましたけど、もしかして天変地異?!」
「タツマキだな。」
「え!? 超能力なんですかこれ!?? ...という事は、この地響きも?」
「恐らくな。」
周囲の崩れていく状況と他のヒーロー達を守るバリアをタツマキ1人で作っている事を知った凶人は仮面の下でポカンと口を開ける。
「...すっごい。」
あまりにスケールの大きいものの一端を見せられた凶人はそれしか言えなかった。